未知日々 (ミチヒビ)
衝斡の輪
◇衝斡の輪◇
田中桜は歩いていた。
商店街の本屋で『神秘の秘密』と書かれた小説を買い、家に帰って今日中に読破しよう。と桜はニコニコした表情で家へと向かっていた。
と、その時。
「あれ?」
見間違いかと思ったが、路地裏へと入る道に見慣れた少年が見えた。
何だよあれ…。
男は目の前にいる光夜の体に通った輪を見ている。
輪には小さい円が付いており、その中には、1、2、3、4、5、5、という番号が記されており、不気味にその位置で回転している。
(あれが……あいつのレギア…)
男はこの数時間前に情報を貰っていた。如月光夜のレギアは未だ眠りから覚めていないと。
そして、情報の次に命令も下っていた。
如月光夜の勧誘、もしくは連れてくるということ。
だが、男はそれを無視した。嫉妬したのだ。
何故、こんなガキをアニキが欲しがるのか、と。
男は痛みに歪んだ表情で、光夜の顔に視線を向ける。
まるで別人だった。
いや、別人というよりかさっきまでの甘さが全く感じられない。
だだ目の前の敵を潰す。
そういう目だ。
(に、逃げなくては……じゃないと……殺される)
男はその目から逃げることしか頭に思い浮かべなかった。
体が震える。
全身から脂汗がにじみ出る。
男は直ぐ様右の道に走ろうと、足を右に向けた。
瞬間。
ボギィ!!と強烈な音が響き渡った。
「があああああああああああああああああッ!!」
男はその音が何を示すか理解した。
折れた。
あばら骨が数本。
男はのたうち回りながら、うずくまる。
男は歪んだ表情で怒り狂ったように頭上を見上げる。
そこには、如月光夜いた。
右手には3と番号が付いた輪が回転している。
だが、そんなことはどうでもいい。
こんなガキに見下されたことが何よりも許せない。
怒り狂った表情で歯噛みした。
その直後。
バン!!と何かが弾け飛ぶ音が聞こえた。
そして、場は一瞬にして路地裏から誰もいない公園へと変わる。
光夜はその光景に辺りを見渡した。
その時。バッと男は痛む体を振り絞りながら立ち上がると、後ろ飛び光夜から離れた。
男は鎖鎌を手に叫ぶ。
「地魔赤!!」
その瞬間。
鎖鎌は真っ赤に色を変え、そこからギョロと目が開いた。
さらにボコボコと鎌が生えだし、次第にそれは。
鎖鎌と呼べぬ異様な物へと変わった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
男は泣き叫ぶように鎖鎌を光夜に向かって投げつけた。
触れた物を切り刻む。
まるでそう言っているかのようだった。
だが、光夜は逃げはしない。
目をゆっくりと細めた光夜の右手に全ての輪が集まる。
光夜はその右手を大きく振り上げ。
何の躊躇なく振り落とす。
ガギィン、カガァァン!!
跡形も残さず消えた。
もうそれはヒビが入りながら砕けるというものではなかった。
一瞬だった。
「そんな………」
男は崩れ落ちた。
痛みなど感じる暇がない。
もう、恐怖しか感じない。
そうしているうちに、光夜はただ真っ直ぐこちらに歩いてくる。
「や………やめ………」
男の声など聞きはしない。
光夜はただ右手に1と付いた輪を移動させ、
「ああぁぁぁぁぁ!?」
振るうだけなのだから。
「光夜?」
不意に声が背後から聞こえた。
振り返ると、本が入った袋を抱えた私服姿の桜が立っている。
「…………………桜?」
その瞬間。光夜の瞳が元の黒い瞳に戻った。
バタッ……
「光夜!?」
直後。光夜は地面に倒れた。
そして、その光景を見ていた男は叫びながら、一目散にその場から逃げていく。
だが桜にとって、そんな事はどうでもよかった。
「光夜!!光夜!!」
桜は光夜に駆け寄りながら叫ぶ。
夕焼けが地を照らす中。
これが光夜の、初めての発動だった。
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