季節高校生
二人の関わり
確かに、高値の電化製品を買わなくて助かった。
だが、それの代償も大きく。
「はぁー、美味しかった」
「…………………」
アメリカンドック。
計五十食。
藪笠自身、数本食べてギブした。しかし、島秋は数十個をペロリと食べ切り、見事優勝したのだ。
景品、最新型炊飯器に加えて一泊二日の旅行券を手に入れて。
「島秋、それどうするつもりなんだ?」
逆流してきそうな気持ち悪さを抑えつつ、藪笠は島秋にそう尋ねる。
対して島秋は顎に手を当てながら、
「うー、一応は五人招待って書いてるから………どうしよう?」
「いや、それを今俺が聞いてるから」
「あ、でも藪笠くんはもう行くことで決定だよ」
「って、勝手に決めてる!?」
何故か強引的な島秋。
藪笠は盛大な溜め息を吐き、不意にある事に気が付いた。
「おい、島秋」
「ん、どうしたの?」
「服、赤いのついてる」
「え?」
慌てて島秋は自身の服を見る。
そこには赤い滲んだ染みが出来ている。大方、アメリカンドックのケチャップが食べている時についたのだろう。
「どうしよう…」
やや困ったように眉を顰め考えこむ島秋。とはいえ、彼女自身そんなに気にしていないようだ。
だが流石に赤い染みをつけたまま移動するのもどうか…。藪笠は溜め息を尽きつつ周りに並ぶ店を見渡した。
そして、ある一店を目に止め、
「行くぞ、島秋」
「え?」
顔を上げる島秋。
そんな彼女の手を藪笠は有無なく掴み、引き連れ行くようにして足を動かした。
一店といっても、そこまで大きな店ではない。
同じように並ぶ店の中で、ちょうど女性物の服専門で売っている店だ。
藪笠はそこで彼女が似合いそうな物をチョイスして店員の女性に島秋を任せた。
正確には、無理やり更衣室に連れて行かれる島秋を見捨てたのだが、
「……………………」
そうして、十分経って島秋が帰ってきた。
ピンクの長袖に中は白のシャツ、下は淡い藍色のジーパンと、似合いそうと選んだ藪笠自身も驚くほど、よく似合っている。
島秋は頬を赤らめながら、上目使いで唇を動かす。
「に、似合うかな?」
「…………あ、ああ。似合ってる」
二人の間に、生温い空気が漂う。
そして、その空気に耐え切れず、藪笠は口を動かし、
「と、とりあえず、い…行こうか」
「………………………うん」
ぎこちない、といった雰囲気で二人の男女は帰りの道を歩きだす。
その後、店を出るまで二人は口を開くことはなかった。
時間が昼の三時を回った頃。
藪笠たちはショッピングモールを出て、島秋家の玄関前に来ていた。
「藪笠くん、今日は……ありがとう」
島秋はそう言いながら、今だ頬に赤みが残っている。
まぁ…気にするな、と藪笠は口元を緩めながら荷物を玄関に上げ、バイクのヘルメットを被ろうしていた。
と、そこで島秋があることを尋ねる。
「あ、そういえば藪笠くんに聞きたいことがあったんだけど」
「ん?」
「藪笠くん………た、誕生日っていつなの、かなぁーって?」
島秋自身、勇気を振り絞った言葉だったらしい。
顔を真っ赤にさせながら、藪笠の返答を待つ。
藪笠も一瞬、目を丸くさせていたが顎に手を当てて小さく唸り、そして一言。
「今日」
「……………………え?」
シーン、とその瞬間、時間が止まった。
んじゃ、と藪笠はヘルメットを被りバイクに跨ろうと、
「んも―っ!!」
「ぐえっ!?」
グン、と襟首を引っ張られ本日二回目の首絞め。
さらに突然のことに態勢を崩し、藪笠の体は地面に落ちた。
「藪笠くんって、いつも思ってたけどタイミングとか悪いよね?」
「痛って、おい何し…………って、島秋。何怒って……あと、その手に持ってる縄とかどこでっ!?」
その直後、夕方に近づく中で、体中縄で縛られた藪笠を傍ら島秋は珍しく怒った表情で電話を掛ける。
その相手とはクラスメートでもあり、友達でもある一人の少女。
「あ、真木ちゃん。今日って時間とか空いてるかな?」
時間は夜の七時を回った。
そして、藪笠は自身に尋ねる。
「どうしてこうなった?」
目の前の居間。
もちろん、藪笠の家ではない。
この前、バイクを走らせて来た鍵谷の家だ。
今だ手足を縛られている藪笠はそこに集まるメンツを見渡す。
鍵谷真木、島秋 花、それから浜崎玲奈。
リーナに鍵谷 藍に、そして、笹鶴春香と竜崎牙血っと、
「牙血」
「ッ!?」
ビクン!! と体をビクつかせる竜崎。
藪笠は四季装甲、春で縄を引きちぎり、ズンズンと竜崎に近づきフルボッコにするべく拳を握りしめる。
竜崎も顔を青くさせつつある。
が、その直後。
「はい、喧嘩しない」
スパン! と何処で作ったのかわからないハリセンで両者の頭を叩く女性。
笹鶴春香は腰に手を当てながら溜め息を吐く。
「春香、お前……」
「まったく、腹いせに当たっても仕方がないでしょ?」
「おい、なんで俺叩かれた!」
理不尽だ! と喚く竜崎の顔面を再び叩く笹鶴。
「大体、藪笠が自分の誕生日のこと教えてくれなかったのが原因なんだから」
「………そんな事言ったって、お前ら聞かなかったし」
「それはそれ」
まったく、と呟きつつ口元を緩める笹鶴。
彼女自身、今回の誕生日の件で電話を貰った時、正直に嬉しさが大きかった。
自分の知っている藪笠が、普通の高校生のように平和な日常を生きていることや、誕生日をしてくれる友達が出来ていたこと、それらが全て嬉しかった。
「ほら、行くわよ」
「ぐえっ。テメェ、笹鶴! 首閉まって!?」
ずるずる、と襟首を引っ張られながら離れていく竜崎と笹鶴。
藪笠はしばしそんな光景を眺めつつ、小さく息を吐いてから窓を見た。
すると、そこには少し降るには早い。
白い雪がちらほらと空から降ってきている。
「……………………………雪か」
藪笠はその雪を見て、同時にあの時の事を思い出す。
赤い服に身を纏い、助ける事が出来なかった一人の少女。
「……………あの時も、こんなふうに降ってたな」
藪笠はその雪を薄らとした瞳で見つめる。
悲しみが、後悔が、藪笠の頭の中に広がり続ける。
「藪笠くん?」
と、そこに島秋がやってきた。
服そうは昼の時のまま、上からエプロンをつけている。そして、体中から甘い匂いがすることから、何かのデザートを作っていたと推測できた。
藪笠はそんな島秋に対し、口元を小さく緩め、
「悪いな、俺なんかのために」
「はい、その続きは却下」
途中、藪笠の言葉を遮る島秋。
少し怒った表情で島秋は口を動かす。
「藪笠くん、ってやっぱり顔に出てるね」
「…な、何が」
「悲しいこと考えている時とか、難しいこと考えてる時とか」
島秋の言葉。
どれも正しいことに驚く藪笠。
「せっかくの誕生日なんだよ? ……今日だけでも、笑って過ごしてもいいと思う」
「……………………………」
「私も一時期、お母さんが亡くなって暗くなってた時があったの。でも、お父さんがそんな中でも私の誕生日だけは祝ってくれた。お母さんがなくなって、自分も辛かったはずなのに」
「……………島秋」
「あ、でも。それとは別に、私も皆にこの服見せびらかしたかったんだよ」
そういって、藪笠に選んでもらった服を見せつける島秋。
その顔はとても嬉しそうで、無邪気な子供のような顔をしている。
そして、島秋が笑っていると厨房から浜崎の声が聞こえてきた。
「花―!」
「あ、うん今行く!」
タタタタ、と手を振りながら去っていく島秋。
藪笠はそんな彼女の後ろ姿を見つめつつ、じっと天井に視線を向けた。
「今日だけ……か」
藪笠はそんな言葉を思いだしつつ、笑い声が聞こえる場所に顔を向ける。
そして、その平和を眺めながら藪笠は口元を緩め、
「ありがとな………………」
日常へ、足を踏みだすのだった。
この日の思い出を心に残すために。
だが、それの代償も大きく。
「はぁー、美味しかった」
「…………………」
アメリカンドック。
計五十食。
藪笠自身、数本食べてギブした。しかし、島秋は数十個をペロリと食べ切り、見事優勝したのだ。
景品、最新型炊飯器に加えて一泊二日の旅行券を手に入れて。
「島秋、それどうするつもりなんだ?」
逆流してきそうな気持ち悪さを抑えつつ、藪笠は島秋にそう尋ねる。
対して島秋は顎に手を当てながら、
「うー、一応は五人招待って書いてるから………どうしよう?」
「いや、それを今俺が聞いてるから」
「あ、でも藪笠くんはもう行くことで決定だよ」
「って、勝手に決めてる!?」
何故か強引的な島秋。
藪笠は盛大な溜め息を吐き、不意にある事に気が付いた。
「おい、島秋」
「ん、どうしたの?」
「服、赤いのついてる」
「え?」
慌てて島秋は自身の服を見る。
そこには赤い滲んだ染みが出来ている。大方、アメリカンドックのケチャップが食べている時についたのだろう。
「どうしよう…」
やや困ったように眉を顰め考えこむ島秋。とはいえ、彼女自身そんなに気にしていないようだ。
だが流石に赤い染みをつけたまま移動するのもどうか…。藪笠は溜め息を尽きつつ周りに並ぶ店を見渡した。
そして、ある一店を目に止め、
「行くぞ、島秋」
「え?」
顔を上げる島秋。
そんな彼女の手を藪笠は有無なく掴み、引き連れ行くようにして足を動かした。
一店といっても、そこまで大きな店ではない。
同じように並ぶ店の中で、ちょうど女性物の服専門で売っている店だ。
藪笠はそこで彼女が似合いそうな物をチョイスして店員の女性に島秋を任せた。
正確には、無理やり更衣室に連れて行かれる島秋を見捨てたのだが、
「……………………」
そうして、十分経って島秋が帰ってきた。
ピンクの長袖に中は白のシャツ、下は淡い藍色のジーパンと、似合いそうと選んだ藪笠自身も驚くほど、よく似合っている。
島秋は頬を赤らめながら、上目使いで唇を動かす。
「に、似合うかな?」
「…………あ、ああ。似合ってる」
二人の間に、生温い空気が漂う。
そして、その空気に耐え切れず、藪笠は口を動かし、
「と、とりあえず、い…行こうか」
「………………………うん」
ぎこちない、といった雰囲気で二人の男女は帰りの道を歩きだす。
その後、店を出るまで二人は口を開くことはなかった。
時間が昼の三時を回った頃。
藪笠たちはショッピングモールを出て、島秋家の玄関前に来ていた。
「藪笠くん、今日は……ありがとう」
島秋はそう言いながら、今だ頬に赤みが残っている。
まぁ…気にするな、と藪笠は口元を緩めながら荷物を玄関に上げ、バイクのヘルメットを被ろうしていた。
と、そこで島秋があることを尋ねる。
「あ、そういえば藪笠くんに聞きたいことがあったんだけど」
「ん?」
「藪笠くん………た、誕生日っていつなの、かなぁーって?」
島秋自身、勇気を振り絞った言葉だったらしい。
顔を真っ赤にさせながら、藪笠の返答を待つ。
藪笠も一瞬、目を丸くさせていたが顎に手を当てて小さく唸り、そして一言。
「今日」
「……………………え?」
シーン、とその瞬間、時間が止まった。
んじゃ、と藪笠はヘルメットを被りバイクに跨ろうと、
「んも―っ!!」
「ぐえっ!?」
グン、と襟首を引っ張られ本日二回目の首絞め。
さらに突然のことに態勢を崩し、藪笠の体は地面に落ちた。
「藪笠くんって、いつも思ってたけどタイミングとか悪いよね?」
「痛って、おい何し…………って、島秋。何怒って……あと、その手に持ってる縄とかどこでっ!?」
その直後、夕方に近づく中で、体中縄で縛られた藪笠を傍ら島秋は珍しく怒った表情で電話を掛ける。
その相手とはクラスメートでもあり、友達でもある一人の少女。
「あ、真木ちゃん。今日って時間とか空いてるかな?」
時間は夜の七時を回った。
そして、藪笠は自身に尋ねる。
「どうしてこうなった?」
目の前の居間。
もちろん、藪笠の家ではない。
この前、バイクを走らせて来た鍵谷の家だ。
今だ手足を縛られている藪笠はそこに集まるメンツを見渡す。
鍵谷真木、島秋 花、それから浜崎玲奈。
リーナに鍵谷 藍に、そして、笹鶴春香と竜崎牙血っと、
「牙血」
「ッ!?」
ビクン!! と体をビクつかせる竜崎。
藪笠は四季装甲、春で縄を引きちぎり、ズンズンと竜崎に近づきフルボッコにするべく拳を握りしめる。
竜崎も顔を青くさせつつある。
が、その直後。
「はい、喧嘩しない」
スパン! と何処で作ったのかわからないハリセンで両者の頭を叩く女性。
笹鶴春香は腰に手を当てながら溜め息を吐く。
「春香、お前……」
「まったく、腹いせに当たっても仕方がないでしょ?」
「おい、なんで俺叩かれた!」
理不尽だ! と喚く竜崎の顔面を再び叩く笹鶴。
「大体、藪笠が自分の誕生日のこと教えてくれなかったのが原因なんだから」
「………そんな事言ったって、お前ら聞かなかったし」
「それはそれ」
まったく、と呟きつつ口元を緩める笹鶴。
彼女自身、今回の誕生日の件で電話を貰った時、正直に嬉しさが大きかった。
自分の知っている藪笠が、普通の高校生のように平和な日常を生きていることや、誕生日をしてくれる友達が出来ていたこと、それらが全て嬉しかった。
「ほら、行くわよ」
「ぐえっ。テメェ、笹鶴! 首閉まって!?」
ずるずる、と襟首を引っ張られながら離れていく竜崎と笹鶴。
藪笠はしばしそんな光景を眺めつつ、小さく息を吐いてから窓を見た。
すると、そこには少し降るには早い。
白い雪がちらほらと空から降ってきている。
「……………………………雪か」
藪笠はその雪を見て、同時にあの時の事を思い出す。
赤い服に身を纏い、助ける事が出来なかった一人の少女。
「……………あの時も、こんなふうに降ってたな」
藪笠はその雪を薄らとした瞳で見つめる。
悲しみが、後悔が、藪笠の頭の中に広がり続ける。
「藪笠くん?」
と、そこに島秋がやってきた。
服そうは昼の時のまま、上からエプロンをつけている。そして、体中から甘い匂いがすることから、何かのデザートを作っていたと推測できた。
藪笠はそんな島秋に対し、口元を小さく緩め、
「悪いな、俺なんかのために」
「はい、その続きは却下」
途中、藪笠の言葉を遮る島秋。
少し怒った表情で島秋は口を動かす。
「藪笠くん、ってやっぱり顔に出てるね」
「…な、何が」
「悲しいこと考えている時とか、難しいこと考えてる時とか」
島秋の言葉。
どれも正しいことに驚く藪笠。
「せっかくの誕生日なんだよ? ……今日だけでも、笑って過ごしてもいいと思う」
「……………………………」
「私も一時期、お母さんが亡くなって暗くなってた時があったの。でも、お父さんがそんな中でも私の誕生日だけは祝ってくれた。お母さんがなくなって、自分も辛かったはずなのに」
「……………島秋」
「あ、でも。それとは別に、私も皆にこの服見せびらかしたかったんだよ」
そういって、藪笠に選んでもらった服を見せつける島秋。
その顔はとても嬉しそうで、無邪気な子供のような顔をしている。
そして、島秋が笑っていると厨房から浜崎の声が聞こえてきた。
「花―!」
「あ、うん今行く!」
タタタタ、と手を振りながら去っていく島秋。
藪笠はそんな彼女の後ろ姿を見つめつつ、じっと天井に視線を向けた。
「今日だけ……か」
藪笠はそんな言葉を思いだしつつ、笑い声が聞こえる場所に顔を向ける。
そして、その平和を眺めながら藪笠は口元を緩め、
「ありがとな………………」
日常へ、足を踏みだすのだった。
この日の思い出を心に残すために。
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