季節高校生

goro

誘拐



文化祭一日目。
各学年の出店や劇は思いのほか繁盛した。
三年の劇も、次の日もやって来れ、と声をかけられるほどだった。








もちろん、藪笠たちのメイド喫茶も繁盛した出店の一つだ。
顔を赤らめながらも鍵谷は受け付けに励み、島秋も最初のトラブルに戸惑っていたが次第に落ち着きを取り戻し難なくその日の仕事は終える事が出来た。










そして、あれから一日が経ち現在文化祭は二日目を迎える。
















「…………悪ガキ集団?」


校舎屋上。
体操服姿の藪笠芥木は携帯を片手に首を傾げた。
通話相手は竜崎だ。


『一応言っときますがアニキもガキで』
「牙血、後でシバき確定な」
『すみませんごめんなさい!』


冗談で言った言葉の返答に即謝る竜崎。
まったく…、と溜め息を吐く藪笠は改めて尋ねる。






「で? 溜まり場とかは見つけたのか?」
『…………………』




………………………………………。


無言の返事。








「牙血、今から場所教えろ。お前のバカな頭治してやる」
『ぶばっ!? いやッダメですダメ!!』


電話の向こうで慌てふためく竜崎。


「だったらさっさと話せ」
『……あー………………いや、後ちょっとでわかると思ってるんですが』
「……知ってる奴がいるならシバき倒してでも聞かせろよ」
『お、鬼ですね………アニキ』


その野蛮的な考えに戦慄を覚える竜崎。
一方、藪笠は携帯を片手に、もう片手に持つ折り目のついたプリント用紙に目線を落とす。


そこには今日から夕方までのスケジュールがビッシリと書き込まれている。
もちろん藪笠の出場するコスプレイベントも。




『あー、アニ』
「まぁ、そっちの件は頼むからな。俺は一時間ぐらい動けないから」


藪笠はそう言って携帯を耳から離そうとした。
直後。






『あ! そう言えばアニキ、イベント出るんですよね!!』
「ッ!?」


キィィィィン!!
耳目掛けた大声が藪笠の鼓膜を刺激する。




『いやぁー俺も見に行きたいと思ってて、笹鶴なんか気にしまくってたし! あ、見に行ってもいいで』
「…………潰すぞ」




瞬殺の一言。
竜崎のテーションは一気に下がる。


『……すみません、冗談です。後の事は任してください』


謝罪を返し通話を切る竜崎。
眉間にシワ真っ最中だった藪笠は無言の携帯を睨みつつも息を吐きながら表示画面の時刻を見る。
時間は昼の一時。




イベント開始まで、後二時間ある。


「………………暇だ」


ボソリ、と呟く藪笠。
回天のいい青空に見上ながら、小さく息をついた。


…………その直後!!






「アンタ、何やってるのよ」


ボコッ!!
藪笠の額。綺麗な軌道で固い本が叩き落とされた。


「ッがー!?」
「まったく」




凶器と変わった固い本を持つ、藪笠の背後に立つ少女。
鍵谷真木。


「どこで油売ってるのかと思えば何、屋上で休んでるのよ」
「っ、おまっ……普通本の角で叩くか?」




…………以前にもこんなシチュエーションがあった気がする。
額を押さえ、若干涙目の藪笠は鍵谷を睨み付ける。


「アンタがサボってるからよ」


しかし、彼女の言っていることは正論なだけに反論しようもない。


「それとも、何? もう一発いく?」
「っ、あーわかったわかった。今、行くから」




溜め息を吐きつつ、藪笠は屋上出口に向かう鍵谷の背中を追うのだった。


















コスプレ・歌姫イベント開始まで後二時間。


「あ、藪笠くん!」


教室に戻った藪笠たちの目の前に、メイド姿から体操服に着替えた島秋が立っていた。


理由は歌姫コンテストの出場にメイド姿は審査基準に関わるとのこと。
明らか別の意味で……だろうが。




「藪笠くん、コンテストがんばってね!」
「いや、それをいうなら島秋の方だろ」


他人の心配をしている場合か、と思う藪笠は苦笑いを浮かべる。と、そんな藪笠の側にいた鍵谷が疑問を尋る。


「そういえば藪笠って何のコスプレするの?」
「ん? 知らん」
「……アンタ、コスプレする気あるの?」
「……勝手に決められたのにあるわけないだろ」


ムスッとした表情で教室隅にいるメイド姿の浜崎を睨む藪笠。
島秋と同様で勝手に決められたのだ。


今でも自分と入れ換えでコスプレに突きだしてやろうか、と思う藪笠。
その思惑は明らか顔に出ており、苦笑いを浮かべる鍵谷と島秋。




そんな時だった。






「あ、島秋さん!」


教室出口、一人の女子が島秋の名前を呼ぶ。


「あ、麻里ちゃん! どうしたの!」


ちょっと行ってくる、と言葉を残し教室出口にいる女子の元に向かう島秋。
藪笠の記憶が正しければ、島秋を呼んだ女子は生徒会の会計係一年、瞳矢麻里だった気が……、


「……………」
「………何だよ」
「別に……」




鍵谷の冷たい視線を気にしつつ、藪笠は島秋たちに視線を戻した。


島秋と瞳矢の会話はあまりよく聞こえない。
瞳矢と話終わった島秋。こっちに戻るかと思いきや、また駆け足で今度は廊下向こうへと走り去ってしまった。




「どうしたんだろ、花?」
「……………」


何か急用ができたのか?


首を傾げる鍵谷。
その隣で藪笠は妙な違和感を感じるのだった。


















イベント開始まで時間は後、三十分。


コスプレコンテスト出場である藪笠は今、舞台近くの更衣室である空き教室で、自身が着る衣装に目を細目ながら見つめていた。




「あ、あのー……」
「?」


更衣室に出口にいた上級生の女子が何故かビクビクとした表情で藪笠に声をかける。


「……その服、嫌でしたか?」
「は?」
「……あ…いやちょっと、怒ってるような気が」


上級生に言われ、そんな顔になっていたのかと驚く藪笠。


「あ……別に怒ってないですよ」


敬語でそう言いながら、藪笠は目の前に出された衣装を手に取る。


(…………結局、過去から逃げられないって事だよな)
「……………」


藪笠の様子を伺う上級生女子の視線がある中、藪笠は衣装を両手で大きく広げ、


「ふぅ…」


バサッ!!
背中に覆い被すかのように衣装を身につけた。






……それは赤い羽織。
何かの番長コスプレなのだろう。


だが、それは藪笠にとっての過去のモノ。
……………思い出す。






昔の自分を……。




「………………?」
「…………………ぁ」


藪笠が、ふと側にいた上級生女子に視線を向けると、何故か頬を赤らめている。


「………あの」
「ッ!? な、ご、ごめんなさい!!」


ビクッ!! と彼女は慌てて更衣室から飛び出ていってしまった。


「…………」


藪笠は息をつき、一先ず更衣室出口へと足を進め、廊下に出た。


その時だった。










「どうしよう、どうしよう!!」


藪笠の目の前で、汗をかきながら慌てる一人の少女。
数時間前に島秋と話していた瞳矢が辺りを見渡していた。


「おい、どうした?」
「えっ!? …………あ、確か島秋さんの」


瞳矢は一瞬、驚いた顔をするも直ぐに表情を変え、険しい表情で藪笠に尋ねる。


「あの、島秋さん見ませんでした?」
「いや、見てない。……何かあったのか?」
「は、はい。………島秋さんが……どこにもいないんです」
「!?」










話によれば、島秋は上級生女子に音楽室前に来て、と呼び出されたらしい。


歌姫イベントの関係者だった瞳矢は先に集合場所に行き、集計を取っていた。
しかし、皆が次々と集まる中、集合時間になっても来ない島秋に嫌な予感を感じ、瞳矢は呼び出しを頼んできた上級生女子、灰崎詩織の元に尋ねに行った。
だが、その灰崎は知らないの一点張り。
仕方なく校内全域を走り回り、ここまで来たのだそうだ。


「……………」


無言を続ける藪笠は、瞳矢から聞いた灰崎詩織の元に向かう。
一度、話を聞く必要があると考えたからでもある。






灰崎がいるのは歌姫コンテストの待機教室。


女子しか集まってないと聞いたが、藪笠にとって今はそれどころではなかった。












歩いて数分。
待機教室に辿り着いた藪笠は、その扉に手をかけようとした。
その時、ポケットから携帯のブザー音が鳴り出す。


携帯を手に取り、画面を見るとその電話は竜崎からだ。




「………牙血か」


藪笠は携帯から聞こえてくる竜崎の声を聞く。
そして、その内容に特定の、


「あ?」


名前が聞き取れた。
その瞬間。


ガァン!!
一瞬で振り放った藪笠の一撃が教室ドアを吹き飛ばした。


「きゃああっ!?」


室内にいた女子たちが悲鳴を上げながら驚愕の表情を浮かべる。


無理もない。
哀れもなく床に落ちたドアは何かに貫かれたように中心をへこませ、その威力は見て取れる。


「……………」




藪笠は無表情のまま足を動かし、教室窓際の椅子に座る三人組の一人。


「な、何よ……」


灰崎詩織の目の前で足を止めた。
ギロリ、と目を動かし藪笠は灰崎を睨み付ける。




「……灰崎詩織だな」
「………そ、そうだけど」


灰崎は自分を見下ろす藪笠の表情に体を震わせ、側にいた女子二人は、いそいそとその場から離れ教室を出て行く。




藪笠は横目で二人を見つつ灰崎に振り返り、口を動かす。




「島秋はどこにいる?」
「ッ、知らないわよ!!」


瞳矢の言った通りの返答。
だが、知らないにしては、やけに反論が度合いが大きい。


藪笠を睨み返す灰崎。




……力で吐かせても別に構わなかった。
だが、藪笠はあえてソレをせず、


「はぁ………」


一言。




「脇山圧尾」




その名前を口にした。
瞬間。


「ッ!!?」


……反応があった。
顔色が一気に青白くなる。


そして、それが藪笠の確信をついた。
しかし、その時だった。






「な、何があった!?」


バタバタ!! と、指導担当の教師、相澤竹氏が教室に駆け付け現状に対し声を上げる。
その後ろにはさっき出ていったはずの女子二人の姿もある。


「…………」


藪笠は後ろに顔を振り返ろうとした。
だが、その時、


「ッ!!」


ガシッ。
灰崎は藪笠の空いた手を掴み、自身の胸ぐらにやるや大声で叫んだ。






「せ、先生!! この子が私に暴力を!!」


皆の視線が藪笠に集まる。




相澤の登場に皆が目を捕らわれ、灰崎がした行動を誰一人知らない。


そして今、藪笠が今にも灰崎の胸ぐらに手をやろうとしている。
その光景が皆の目に移っている。


「おい! お前、今から指導室に来てもらうぞ!!」




相澤が足を動かし藪笠に近づいていく。
藪笠は顔を伏せたまま振り返ろうとはしない。


「フッ………」


灰崎が秘かに笑う。


……まんまと乗せられた。
……調子にのってのが悪いのよ。










静寂の中。
誰一人、藪笠はしていないと思わない。


そんな中で、藪笠は……










「……………………………………笑わせんな」


瞬間。
藪笠の瞳が一瞬、桜色に変わった直後。




ガンッ!! と振り下ろされた藪笠の一撃が、灰崎の直ぐ側にある机を叩き潰した。


「きゃぁッ!!!?」
「!?」


真ん中から弾け飛ぶ木片。


皆の顔が驚愕で染められる。
藪笠の背後にいた相澤は硬直し、灰崎も目の前で起きた事態に全身を震わせる。
藪笠は静かな口調で口を開く。




「……もし、俺が手を出してたんだったら今頃お前の顔なんざ原形を留めてねえよ」
「ぁ…………ぁぁ…」




恐怖が灰崎を完全に支配した。


怖い。
嫌だ。


殺される。




後ろ下がろうとするが、窓際の壁が逃げ場を無くす。




タン……。
藪笠が一歩、足を踏み出す。






灰崎の顔は泣き顔でグシャグシャとなっている。そんな彼女に、藪笠は顔を近づけ尋ねる。




「島秋………どこにいるか答えるよな?」









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