季節高校生

goro

休憩時間







時刻が昼を回る。
一般客も時間に対し増えてきた。




「……………はぁ」


メイド喫茶の調理担当から外れた鍵谷は校内廊下を歩きながら大きな溜め息を吐く。
文化祭の出し物が面白くないわけではない。


彼女が今、不満なのは自分が着ている衣装。


メイド服のことだ。






教室を出る前に鍵谷は浜崎に最後まで抗議した。しかし、浜崎からは宣伝のためと結局押しきられ渋々この状態なのだ。
藪笠は隣に歩く鍵谷を見ながら、後ろポケットに押し込んだパンフレットを取り出す。




「それにしてもやっぱメイド喫茶って俺たちの所だけだな」
「……当たり前よ。普通に考えてもおかしいのよ」
「まぁ、お前は過剰過ぎるけどな」
「…………」


ムッ、と頬を膨らませる鍵谷。
藪笠はパンフレットを手に何処に回ろうかと考え込む。




顎に手を添え、首を傾げる藪笠の横顔。
それを真横で間近に見続けられる。


「……………」




茫然と視線を向けたまま、鍵谷の頬は徐々に赤く染める。
その時だった。




「おい、剣道部員が全員負けたってマジかよ」


窓際で会話する男子二人の口からその言葉が出る。


ピタッと立ち止まる藪笠の眉がピクッと動く。






「それってあれだろ? 一般客の」
「木刀持ったポニーテールの女。特に胸が凄いって」


尚も会話が続き、鍵谷も気づいたようだ。


「………………」


木刀?
ポニーテール?
女?
胸?


「ま…………まさか…」


口元にひきつらせ、鍵谷はゆっくりと隣に視線を向けた。


「………………」


ピコピコ、と。
無言でどこかに電話をかけ、数秒して電話が繋がり藪笠は耳に当てながら電話の声を聞く。




そして、重々聞き終わった藪笠は静かな口調で言った。








「…………今すぐ校舎裏に来い」


触らぬ神に祟りなし。
横から口を挟まず、鍵谷は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


















そうして校舎裏。
人気の少ない中、笹鶴春香は地面の上にて正座させられている。
というよりも目の前に立つ眉間にシワを寄せながら口元を緩ませる藪笠が怖い。


「……………」
「春香、俺が一昨日言ったこと。覚えてるよな?」
「………あ、あの」
「目立つな。ちゃんと言ったよな?」
「ひゃ、ひゃい………」


一気に膨れ上がった威圧感に怯える笹鶴。
藪笠は一息吐き、片手に持つパンフレットをくるくると丸め…。


バシィ!!


「痛っ!?」


上から一直線に、丸めたパンフレットの一撃が笹鶴の額に直撃する。


「次やったら鍵谷の料理食べさすからな」
「ッ!? わわ、わかったからそれだけは勘弁してッ!!」


繊細に浮かぶ惨劇に、笹鶴は後ずさりながら土下座姿勢に入る。
その直ぐ側では、


「あの………目の前で言われる方も辛いんですが……」
「ちなみにアレの餌食で鼠が十匹沈んだぞ」
「ッ!?」
「笹鶴さんもそんな怖がった顔で見ないでください!!」


十分と反省した笹鶴と抗議し続ける鍵谷。
藪笠は再び溜め息を吐き、




「それじゃ、行くか」
「「え?」」


その言葉に首を傾げる鍵谷と笹鶴。
ポケットから携帯を取り出し、受信メールを鍵谷に見せながら藪笠は言う。




「藍さんと待ち合わせしてるんだ」


















同時刻、三年教室の輪投げ屋。


カラン! カランカラン!! と。


「ひ、百点…………」


三年生男子が苦笑いを浮かべる。
輪投げの範囲は、教室範囲の二分の一を使って作られ、現在それを投げるは数時間前に食事を大量摂取した竜崎だ。




得点に応じ、景品が貰える輪投げ。
範囲の広さから一等がとられる事はまずないと踏み、高価な物が景品に出された。






そして、竜崎はその一等に当たる物品を狙い見事に勝ち取ったのだ。


ちなみに一等賞品は、ハイテクHDDレコーダーである。
























二年生、中華料理を出し物とした教室では、


「ふぅーん」
「……………」


鍵谷 藍の口からそんな声が溢れた。
現在、四つの机を固め上から布を引くことで成り立ったテーブル。
藪笠たちは四人はそれぞれの椅子に座る。


……はっきり言って居心地が悪い。




鍵谷真木は、何で藪笠と待ち合わせしてるの? と母方に当たる鍵谷 藍に不機嫌な表情を見せ、ついでと一緒に来た笹鶴春香は、何この緊迫感…、と横目で藪笠に助け船を出す。


しかし、こちらもこちらで藪笠はその藍からの冷たい視線に硬直しそうになっている。


「あ、藍さん。これはその……違うっていうか」
「藪笠くん。私は何も言ってないわよ?」
「……………あー」
「ただ、こんな美女に囲まれて藪笠くんはどうしたいのかなぁーって」
「……………」


口調は柔らかだが目が笑ってない。
口元をひきつる藪笠から視線を外し、藍は側に座る笹鶴に視線を向けた。


「えっと、笹鶴さんですか?」
「は、はい!?」


ビクッ、と声が飛んで来たことに体を震わせる笹鶴。


「……藪笠くんの知り合いなんですってね?」
「あ、はい!! 色々と藪笠には助けてもらったり、教えて、……あ、違いますよ! その淫乱な話ではなく」
「春香、お前黙ってろ」
「藪笠くんは口を挟まないで?」
「………………」


藍の口止めに固まってしまう藪笠。
パニックから口に出してしまった言葉に笹鶴は顔を赤くさせながら縮こまる。
藍はクスッと笑みを作り、


「笹鶴さん」
「は……はい」
「……………………藪笠くんのこと、実際の所はどうなの?」
「ッ!! なッー!?」


直後、湯が沸騰したように笹鶴の顔が一気に真っ赤に染まる。


「ん? どうした、春香?」
「えっ、なな何もない!! 何もない!!」
「?」


笹鶴の反応に首を傾げる藪笠。
……鈍感とは色々と大変である。










「真木ちゃん」
「ぅ、何よ………」


不機嫌な少女に対し、藍は小さな声で語りかける。




「気を付けないと藪笠くん、取られちゃうよ?」
「っなぁ!? 何言ってんのよ!!」




藪笠と鍵谷。
その時間、休憩を取った気にはなれなかった。











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