季節高校生

goro

サバイバル 4







耳に小刻みに聞こえてくる蝉の音。
真夏日中の中、A班リーダーである川皮光夫は茂みに隠れ、迫る恐怖から身を潜めている。
何故、潜めていたのかといえば、




『た、たすけてうえっ!?』
『ま、待て、来るな来るなあああ!!』




辺りから聞こえてくる悲鳴。
これが原因だ。
ガタガタと手が震える。
いつ自身に恐怖が訪れるかわからない。
かといえ、ここも安全とはかぎらない。


よし! と川皮は違う場所に移動するべく、隠れた茂みから少し顔を出した。






カチャ、と。




「え?」




瞬間。
目の前に当てられた銃口。
そして、その数秒後。








「ぎぃやああああああああああああ!!」










A班、川皮光夫脱落。


















カァーカァー、とカラスの声が聞こえ、日は次第に落ちだしてきた。


茂みから少し離れた広場では全リーダー役の浜崎とC班リーダーの厚木拓葉が仁王立ちの状態で辺りを見回している。


「なぁ、浜崎よ。ホントに来るのか?」
「来るわよ、アイツは…」


厚木の疑問に即答え、浜崎は不敵に笑みを浮かべる。


「…えらい自信だな」
「自信ってほどじゃないわよ。ただの推測よ」
「ほお……推測か。…聞くが何に対して」
「決まってるわ…」


浜崎がニヤリと口元を緩ました、直後。


ザッ、と浜崎たちの向かいから草を踏む足音が聞こえてきた。
ハッ! と厚木は緊張を体に走らせ、浜崎は慌てる素振りすら見せず腰に手を当てた。


そして、そのまま浜崎はさっきの質問に答えた。




「アイツの負けず嫌いによ」








ガサッ、と茂みをかき分け現れる人影。


藪笠芥木だ。


後ろには体を縮こませている鍵谷の姿もある。


「…………」
「……来たわね、藪笠」


睨み付ける藪笠の瞳をあしらい、浜崎は軽い調子で口を開く。
しかし、その目には完璧に闘志が灯っている。




「ああ。たまには遊びに混ざってもいいかな、と思ってな」


藪笠も気軽な調子で口を開くが、正直。
……目はマジだ。


「………………」
「………………」




バチバチバチィ!!
まるで目から火花が出ているかのように二人の視線が交わる。




「………鍵谷、お前もつくづく損してるな」
「…ごもっともです」


青ざめる鍵谷は何故か敵である厚木に同情された。
まぁ、実際に言っていることは正しいからだが。


藪笠はポケットから水鉄砲を取り出す。
最初に渡された小型の水鉄砲。
しかしも、また何を入れたのか、さっきより水タンクに入っていた液体がドス黒い。






一方、浜崎は何を出すのかと思いきや、片手を空に向かって上げただけ。


「「?」」


怪訝な表情を浮かべる藪笠と鍵谷。
厚木は顔に手を当て溜め息を吐いた。


















ん?…………………………溜め息を吐いた?














そのことを不審に思った藪笠は辺りを見渡す。




厚木は一体何に彼は溜め息を吐いたのか。


いや、そもそも何故リーダー各である二人がこんな見晴らしのいい場所に?




数秒の考えの上で、疑問がそこにたどり着いた。




直後。






『ザッ!!』






……まるで軍隊のように浜崎の後ろから数十人のクラスメートが現れる。
しかも、ライフルのような本格的な水鉄砲で。




「……………………は」




瞬間。
一斉に藪笠たちに向かって水鉄砲が放たれた。
ちなみに赤緑と変色された水です。




「ッな!!」


藪笠はギリギリ横に飛び退け回避した。
しかし、




「っば!!」


……顔面命中。
赤緑と何か分からない液体が鍵谷の口に直撃し、何の抵抗なく飲み込まされた。


次の瞬間!!






「にゃ、にゃあああああああああああああ!!」


奇声とともに膝が落ちた。
口に手をやり、目からは大量の涙が溜まりつつある。
すると、そんな鍵谷に、






「はい、真木ちゃん。水だよ」
「ッ!?」




誰かも分からない。しかし、一刻を争う鍵谷はその目の前に出された紙コップを奪い取り、口の中に入れた。
そして、感謝とばかり顔を上げた、


「あ、ありがとッ!?」


刹那。
目の前にいた人物に鍵谷の表情は凍りつく。
ついでにいえば、その場の空気も凍った。






何故なら、そこには。




数分前。
逃げるためと身代わりにした、短髪の少女。




ニコリと笑みを浮かべる島秋 花の姿があるからだ。


さらにいえば額に怒りマークがついているように見える。




「は、花……」
「真木ちゃん♪」


島秋は今だ笑顔を浮かべつつ、まるで感情も込めていないように唇を動かし、










「ごめんね、てへ♪」




一言。
その言葉が耳に入った直後、以上事態が発生した。














「ッ! ごほッ痛い!! 痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


















悲鳴を上げ、口に手を当てながら顔中に汗を流す鍵谷。
目からは漏れ出すように涙の滝が出来ている。




はっきりといえば大泣きだ。








……どうやら、さっき勢いよく飲み込んだのは唐辛子やワサビなど、そんなあまっちょろい物ではないらしい。


島秋は泣き続ける鍵谷から藪笠に向き直り、てへ♪ と笑いながら赤い果実を見せた。












………ああ、あれ知ってる。
確かにテレビでやってた、辛いすぎて痛い奴だ。










………………………………………………。












藪笠は素直に目の前に立つ浜崎に質問する。




「…おい、浜崎」
「何?」
「まさかと思うが、あれ水鉄砲に入れてないよな?」




……………………………………。




「………………さぁ♪」


直後。
第二回の射撃が開始した。


冗談じゃない。
あんなヤバイの食らってたまるか!!




藪笠は遠慮なく四季装甲、春を使い予測できないほどの回避力を見せる。
だが、しかし。


「第二陣、射撃!」


浜崎の言葉とともに今度は藪笠を囲むようにクラスメートが現れた。
しかも、その何人もが藪笠の手で地獄を見せてやった奴らばかり。




「ひ、卑怯すぎるだろ!!」
「闘いに卑怯なんて言葉はないわ」
「いや、ただのこじつけだからな!! お前、あの時の仕返しとかしたいだけだから!!」
「第三陣、砲撃開始!」
「卑怯っか鬼だコイツ!!」




藪笠は叫びつつ体を捻らせつつ回避を続ける。


しかし、浜崎が指揮した第三陣は藪笠を狙っていなかった。




………空だ。










藪笠の頭上に落ちるよう計算して水鉄砲を打ち出した。


「なッ!?」


その事に気づき、唖然とする藪笠。


頭上に打ち出された上、四方を囲んでいたクラスメートが計算されたように一斉発射。




正に逃げ場なし。








一瞬。
脳裏に今も泣き続ける鍵谷の姿が浮かんだ。






「って、割りきれるかあああああ!!」




瞬間。
四季装甲。
春に足すように冬を加える。


「!!」


二連季、咲雪桜陣を纏わせる藪笠。
しかし、数秒差で力を完全に出すことはできない。


それでも弾き返すまではいかなくても、体内に入るのだけは防げる。






藪笠は顔に両腕を交差させ力を酷使する。


そして。


















バシャン!! と藪笠の体は真っ赤に染められた。


















日が暮れだしてきた。
クラスメートの男子や女子たちが雑談しながら帰っていく中、


「………………」


髪に続き、服全体がべしょ濡れになった藪笠は広場の座り心地のいい石段に座り込み、茫然と空を見上げていた。
と、そこに鬱憤が晴れた浜崎がやってくる。




「何やってるのよ、藪笠」
「…いや、疲れたと」
「違うわよ。アンタ、着替えとか持ってきてないの?」
「……は?」
「真木から聞いてるでしょ?」


















……………………………………。


しばし、沈黙。






「……ごめん、聞いてなかったのね」
「ああ、多分言い忘れたんだろ」


藪笠自身、怒りをその元凶にぶつけてもよかった。
だが、あれを見ては、














「うぐっ………ひくっ、………ぅぅ」




最初ほどの強烈な痛みはひいたらしい。
ただ、まだ残っているようで、一人しゃがみこみながら泣きじゃくる鍵谷の姿があった。




「……………まぁ、自業自得だっていえばそうだけど」
「………花ね。こっちに入った後、皆の水鉄砲に入ってた奴全部混ぜてたの」
「ああ、だから酷いのか……」






島秋はというと、先に着替えを済ませ帰っていった。
よほど、ムカッときたのだろう。




……心の中で彼女だけは怒らせないようにしようと密かに誓う藪笠。


はぁ、と浜崎は大きな溜め息を吐き、




「藪笠、後のこと頼める?」
「……………ああ」




ありがとう、と浜崎は口元を緩めるとそのまま帰っていった。








「はぁ…………」


浜崎に続いて溜め息を吐く藪笠。
頭を手でかきながら、しゃがみこむ鍵谷に近づき、




「ほら、家まで送ってやるよ」
「っ、っっ………ぅ」
「……それか、俺の家でシャワーでも浴びて帰るか? 家になら少しは口の痛みがひく食べ物もあるぞ?」
「……っ……っ……ぃ」
「ん?」
「ぃ……いく…ぅぅ」
「………はぁ。…じゃ、いくか?」






藪笠は鍵谷の手を掴み、起き上がらせながら駐車していたバイクの元に歩いていく。




















こうして、バタバタとしたサバイバルは終わりを迎えることとなった。









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