季節高校生

goro

サバイバル 3







「変だな…………」
「え?」


藪笠の声に振り向く鍵谷。
今、二人は共に茂みの死角を使い、密かに足を進めていた。




「何が変なの、藪笠?」


鍵谷はその言葉の意味に首を傾げながら、辺りを見渡す。


「………いや、さっきまでクラスの奴とかを見かけていたのに、……逆に静かすぎんだよ」
「………そう?」


耳を澄ませ、違和感がないことを確かめる鍵谷。気のせいか、と思いかけたが、しかし、やはりおかしい。
こうも静かすぎるのは不気味すぎだ。


顎に手を当てながら藪笠は冷静にその現状を分析していく。








『消えたクラスメート』
『不自然なまでの静かさ』
『団体』
『チーム分け』
『ルール』




キーワードが次々と浮かんでくる。


頭の中で散らばった数々のキーワードを組み合わせ、さらに一歩。さらに一歩。と、答えに近づけていく。








しかし、……………何が足りない。


現状で浮かんだキーワードでは、さらにその先にある答えに近づけない。
記憶を掘り起こさなくてはならない。


「………………」




今回、三グループに分かれて水鉄砲を手に今、競い合っている。


準備は万端であり、水鉄砲にゼッケン、と浜崎が全て用意した。






開始には絶対の抜かりがないように。


















…………………………………………ん?
………………………………浜崎?




側で首を傾げる鍵谷の姿が見えたが、藪笠は今さっき頭に繊細に浮かんだ言葉をキーワードに、今だ不十分だった組み合わせにはめ込んだ。












そして、答えが導かれたと共に浮かび上がった光景。


それは、夏休み入る前。








剣道で彼女を打ち負かし、泣かしてしまったこと……。










「……………ああ、なるほど」


一人、納得しつつ重い溜め息を吐く藪笠。
と、直後。






ガサッ、という音と共に異物が放たれた。


「!?」


藪笠は間一髪。
片手を地面につき後ろに跳び跳ね、その奇襲を回避した。
視線をさっきまでのいた場所に向けると、何やら緑色の液体が地面に付着している。


「え、えっええ!?」


さらに言えば、直ぐ様で起きた奇襲に驚き跳ねる鍵谷。


だが、奇襲は待ってはくれない。


チッ、と茂みの奥から聞こえる舌打ち。
それに続くように、ガシャリ…、と、




「ッ!? おい、逃げるぞ鍵谷!」
「わわわ、わかった!!」


その場からダッシュで逃亡する藪笠と鍵谷。


背後からは追撃が続く。








さっきの液体。
あれは、白い紙ではなく完璧に藪笠の顔面を狙っていた。
色的に異物だとわかってはいる。
が、






……アイツら、後で覚えてろよ。


余計にイラつきが溜まる。


藪笠は眉間にしわを寄せつつ逃走ルートを探すため辺りを見渡そうとする。
だが、直後。


「くたばれ、藪笠!!」
「ッ、わっ!?」


前方茂みから出てきた男子が叫びと共に、またしても顔面狙いの射撃が行われた。
しかも、今度はバカデカの水鉄砲に加え、赤い液体。






……………………………………………。


…………………………………カチン!!






冷静にしようとしていた。
しかし、さすがに我慢を続けるほど藪笠は優しくない。






「……上等じゃねぇか」
瞬間。
藪笠は行動力を数段に跳ね上げる。


左右巧みに移動しながら攻撃を避ける藪笠。
男子は慌てた様子で無数の赤液を撃つが、バカデカ水鉄砲をいくら撃とう共、一度も掠めることはなく微かな隙を見つけ出した藪笠は、手に持つ水鉄砲で一発撃ち出した。




藪笠が狙ったのは、ルールにそった白いゼッケン。
なわけがなく、狙ったのは男子の見開かれた瞳。


「ぐっあ!?」


直後、瞳に入った事に顔面を服の裾で擦る男子。
その間に藪笠は一気に男子の傍まで近づくと、男子の手に持たれたバカデカ水鉄砲を奪い去る。
そして、その事に驚く男子に向かって藪笠は、


「おい」


ニヤリ。
左右に口元を緩め、藪笠は男子に冥土の土産と言葉を贈った。




「暑いから水分補給してやる」




ブシュッ!!
バカデカに注入してあった赤い液体が男子の口内に撃ち込まれる。


直後。








「がっ、ぎゃああああああああああああ!!」


その場一体に広がる悲鳴と共に男子は即アウトとなった。
……別の意味で。




藪笠は、今だ悲鳴を上げ続ける男子を観察しながら、


「……見た感じ、唐辛子入りみたいだな」


率直な意見を呟き、息を吐く。
そして、バカデカ水鉄砲から水タンクの本体を取り外し、自身の小型水鉄砲の水タンクと中味を入れ換える。


「……や、藪笠」


何をしているの? とやや引きぎみな表情を浮かべる鍵谷。


「ん、どうした?」
「………あーいや、何で水鉄砲、大きいのにしないのかなぁって」
「邪魔だからだ。動きが鈍るし」


藪笠は溜め息を吐き、試し撃ちと一発、唐辛子入り水を打ち出した。




ちなみに、狙ったのは今だ倒れる男子の口の中であり、


「ぐっばッ! ぐぐぐッ!? ぐばぎゃああああああああああああ!?」




バタン!…………………………チーン。


「よし、いけるな」
「………………何も、そこまでやらなくても」


後ずさりそうになる鍵谷。
しかし、この時。
鍵谷は気づいていなかった。






片手に小型水鉄砲を持ち、口元をニヤリと緩める藪笠は、


「……最初はバカらしいとは思ってたんだよ、マジで」
「や、藪笠………?」
「だけど…………まぁ、いい機会だ。散々、学校では追いかけ回されたしな」
「………………」


ガクガクガクガク。
今、凄い怖い顔になっているらしい。
鍵谷が顔が恐怖により涙目になっているが、気にはしない。






「…………全員、まとめて沈めてやる」


その言葉と共に…。
藪笠の逆襲激が始まった。


















携帯からの緊急連絡が来たのは直ぐの事だった。
B班リーダー、泡切水樹はその緊急連絡に耳を疑った。




『た、隊長!! 危険です! そこから離れてください!!』
「ど、どうしたの、何があったの!!……ちょっと、応答し」
『ぎゅわぁぁぁあああああ!!』
「!?」




プープー。
耳元から聞こえる音には顔をひきつらせる。


………敵は確かに一人だった。




浜崎の指示で準備に怠らず、激辛スープを入れた水筒も持ってきた。
今回の目的は藪笠芥木を痛い目に合わせる。
それだけだった。


彼は一人のはず……だった。






なのに……何故、今まさに五人チームで分けた軍隊が全滅しようとしている?




『がが、水、水、みずぅぅぅ!!』


ビクン!?


『ぐぶっ、ッ!? ぎゃああああああああああああ!?』


…………………………………。


離れた所から、奇怪な悲鳴が聞こえてくる。


敵は近くにいる。


泡切は息を飲み、ドリル状のバカデカ水鉄砲を握り締める。




「…………行くしか、ない」


茂みに近づき、そっと足を踏み出そうとする泡切。
緊張が全身を固まらせる。
















だが、その時。


「お前ら、いくらなんでも準備が良すぎだろ」


背後からは聞こえてきた声。泡切は目を見開き後ろに振り返る。
瞬間。




ブシュゥ。
と、口に入れられた液体。
泡切は、ゴックンと呑み込む。
















………………………………………………………………呑み込む?


ダラダラ。
血流の流れが速くなり、大量の汗が吹き出ているのがわかる。


視線を目の前に向けると、そこには小型水鉄砲を手に持つ藪笠の姿がある。
しかも、口元が笑っている。










そして、気づかなければ良かった。
藪笠の持つ水鉄砲につけられた水タンク。


その中の液体が……。




どす黒い、赤と緑を混ぜた色に変色している…………こと…………に………。


















「にゃあああああああああああああああああ!!!!」


















B班、泡切水樹……脱落。







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