季節高校生

goro

危険な日





それは夏休みが訪れる数日前の出来事。




あれは気温の暑い日だった。












「それでは、次の授業は調理実習だから。調理室に集合ですよ」


家庭科担当の月美葉子は三時間目の終了チャイム後にそう告げた。
家庭科の授業は三、四、と二時間授業となっている。
一時間目に注意や豆知識を教え、次の時間に調理へと入る。


という訳で調理実習の準備をするべく生徒たちは動き出す。
料理下手だよ……、と呟く男女もいれば。料理とか得意なんだぜ! と自慢げに話す者もいた。




しかし、それ以上に。
意味深いな反応をする三人がいた。


「………………」
「………………」
「………………」




浜崎玲奈と島秋 花、そして藪笠芥木だ。
三人は同じように顔を伏せ、机に乗る小さな紙に書かれた調理実習の班を確認する。




調理実習の班分け。


藪笠芥木。
島秋 花。
浜崎玲奈。




鍵谷真木。






…………………………………………。












絶望という言葉がある。


簡単に説明すれば、何をしようと自身が不幸になることが確定しているということだ。




そしてその絶望という言葉。
ある事をたとえて使われる事がある。












『料理が絶望的にダメ』










四時間目のチャイム。
場所は調理教室。
エプロンに三角きんを着け生徒たちが各班に分かれ、月美の指示を待つ。


「それでは黒板に書いた通りに調理を始めてください」


そして、始めと合図が出され、皆が行動を開始した。
黒板にはハンバーグとご飯、そして味噌汁の作り方がイラストつきで書き出されていた。


「……………」
「……………」


藪笠と島秋、二人はその黒板に書かれたレシピをしばし眺めた。
そして、次に二人は視線を変え、ただ一人。
目をキラキラさせた少女に視線を向ける。




「ハンバーグかー。始めてだけど上手くできるかなー」




<a href="//1659.mitemin.net/i45826/" target="_blank"><img src="//1659.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i45826/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


頑張るぞー、とガッツポーズをとるヤル気満々の少女、鍵谷真木だ。






あれはヤバイ。
なんというか、何か危険な物を作り出そうとしている目だ。




「……どうしよう、藪笠くん」
「………いや、どうするって言われても…」


島秋の問いに苦い表情を浮かべる藪笠。
授業を受けるな! とは言えないし、かといえ身動きを出来なくするわけにもいかない。




……いっそう気絶させようか、とそこまで考えた。
不意に藪笠はあることに気づく。


「あれ、浜崎は?」


辺りを見渡すとそこには授業から背を向け何かを書き込む浜崎の姿があった。


「おい、何やって」
「よし。これで完璧……」
「は?」


フフフ……、と不気味に笑う浜崎。
浜崎は手に掴んだ紙をキッチン台の上に叩きつけ、そして言う。




「藪笠、それに花も。私に任せなさい」


















時間は建ち、生徒たちが下準備をしだした頃。


「うんうん、そこはそうして」


月美は各班を周り、作業を見守りながら手解きをしていた。
何分、どの班も上手くいっているようだ。
上々みたいね、と月美は最後に残った班に向かった。
しかし、そこで月美は首をかしげる。




「あれ? あなたたち何で三人なの?」


班はもちろん四人。なのだが何故か月美には三人で作業している風にしか見えなかった。


「あ、えーと………」


マズイと思ったのか月美の前に立ち誤魔化そうと島秋。


多分だが、性格からして無理だろう。


あたふたする島秋に眉をひそめた月美。ふと台に置かれた紙を気づき、


「何ですか、これ?」
「あっ!? それは………」


止めに入ろうとした島秋だったが、既に間に合わず、


「なっ…………アナタたち、何をやってるんですか!」


月美は目をむき、島秋たち三人に声を上げた。
月美の手に渡った紙には小さな字でこう書かれていた。






ハンバーグ担当、藪笠。味噌汁担当、島秋。
ご飯担当、浜崎。








切る、皿置き、片付け担当、鍵谷真木!!






藪笠たちは視線を月美から外し、チラリ、と部屋の隅に行く。


「ぅぅ…………」


部屋の隅ではしゃがみこみ拗ねる鍵谷の姿があった。




「はぁ…」


月美は重い溜め息を吐き三人を睨み、そして、


「全く、三人でよってたかって、いじめですよ?これは」
「い、いや、違うんです。これは安全に食につけるための」
「安全ってそんなの当たり前の事でしょ! 安全だから調理室で作るんじゃないですか!」


いいからちゃんと均等に分担してやりなさい!! と月美からの言いつける。さらに、外野からは、


「藪笠! 鍵谷さんをいじめてんじゃねえよ!!」
「おい、後で皆で藪笠を潰すぞ。他のクラスにも連絡いれとけ」


……不穏すぎる会話が聞こえてくる。


「おい、何で俺に集中砲火なんだよ」


眉間にシワをうかべ藪笠は小さく呟く。
とはいえ今、問題となるのは目の前にある光景。


「……………ぅぅ」
「……………」




はぁー、と溜め息を吐いく藪笠は島秋たちに振り向き、


「島秋、それに浜崎も」




やけくそ気味に藪笠は言う。








「俺が一緒に作って何とかする。だから後のは任せたぞ」
















あの出来事から調理はやっと再開した。


島秋はご飯を炊きたて、浜崎は具材と味と、味噌汁を出来る限りの美味しいものにしようと努力した。


藪笠も目を光らせ、涙ぐみながら作業を続ける鍵谷に付きっきりで調理は続いた。


そして、ついに……。


















「ハンバーグ、だったわよね?」


生徒の大半が食につく中、浜崎は尋ねる。
普段なら飛び上がるほど大喜びする島秋すら表情を青くしている。


「………ああ」


藪笠は苦笑いを浮かべながら、ちらりとハンバーグ……もどきに視線を向けた。


材料は確かにハンバーグだった。
はずなのに何故かそれは茶色く平べったい、衣が少し黒いがそれははっきり言って。






コロッケもどき。




「………なんだろう、この完璧なコロッケもどき」
「ど、どうすればこうなるわけ?」
「いや、何て言うか…」


ダラダラ、と藪笠は冷や汗を背中に感じながら、苦い表情を浮かべる。
するとその時、






「……もうダメ。私、我慢できない」






ぐりゅるるるる! と盛大な腹の音が鳴る。
誰か、といえばただ一人。


「………島秋」
「藪笠くん。それに玲奈ちゃん。私、もう……」
「………わかったわ、花。一緒に行きましょ。いいわよね、藪笠?」
「………ああ」


藪笠たちは直ぐ側でパクパクとコロッケもどきを食べる鍵谷を見た。
そして、決断したのちに三人は、




……………………………………パクッ。


……………………………………。




「…………ぁー…………な、何て……言うか、うん」


藪笠が一人呟き、直後。










「「「………………………もう無理ッ!!」」」






ダダダダダダ!! と。
三人は素敵な虹を描きに走り去っていった。




「あの子達、後で呼び出しね」


月美は眉間を寄せながら、鍵谷の前に立った。


「あ、先生もどうですか?」
「鍵谷さん。ええ、いただくわ。ってあれ? 何でコロッケ………………まぁいいでしょ」


一瞬、調理内容を頭で確かめつつ、月美はコロッケもどきを何の躊躇なく口に入れた。


「……ぅぐむッ!?」
「ん?」




喉を詰まらせたような声。
直後に事件は起きた。
















バン!! と。


「きゃああああああああ!! 先生ッ!?」
「お、おい担架! 先生が倒れたぞ!!」
「いやああああああ!! 口から泡吹いてるぅぅぅッ!?」












この後、餌食となった四人は保健室で寝込むこととなったのだった。







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