季節高校生
二泊三日の三日目
うっすらと目を開ける鍵谷。
見慣れた部屋。
どうやら籔笠の家らしい。
近くにかけられた時計を見ると時刻は深夜の1時。
「………はぁ…」
遊園地での出来事を思い出し小さく息を吐く。
(もう少し一緒に遊びたかったな…)
小さな切れた口元を抑え鍵谷は体を起こし、辺りを見渡す。豆電だけがついた室内、籔笠の姿はない。
ゆっくりと立ち上がりベランダの窓を開け、ベランダに出た。
するとそこには、
「わぁ…………」
まるで雪のようにたくさんの黄色い光が辺りを飛び回っていた。
ホタルだ。
「きれい………」
鍵谷は茫然と立ったまま、その光景に見とれ同時に励まして貰っている。
そう思った。
深夜2時。
深いため息を吐き、籔笠はドアの前で立ち止まった。
無事大事に至らなかったがそれでも彼女を傷つけてしまった。
嫌な気分になる。
昔の苦々しさが甦る。
歯を噛み締め、だがそれを顔に出さないようにし、ドアを開けた。
「……………」
「え……………」
……………………………………ポトッ。
手に持った買い物袋を落ちる。
二度目はないと、そう思っていたのに。
「え…………」
ふとドアの開いた音に振り返る鍵谷。
開いたドアのそこには固まった籔笠が立っている。
いや、それはいいとしてだ。
ベランダから戻った後、汗ばんだ体を洗うため洗面所に行き、ちょうど風呂から上がった所だった。
だが服を入れたバッグを持って来るのを忘れてしまったのでバスタオルを手にちょうど廊下に出た。そこで今現在にいたる。
つい人がいないと思い、前だけをバスタオルで隠し廊下に出てきてしまった。
そしてそこでバッタリと鉢合わせてしまった。
しかも前しか隠せていなかったため後ろがまる見え。
またしても出遅れ。
「キャアアアアアアアアアアア!!」
「言うことは何かわかってる?」
「……まことにすいませんでした」
現在、時刻が3時にもなる中。
正座の籔笠は半袖短パン姿の鍵谷に説教を受けていた。
「…………確かに、私が悪いっていえば、悪いと思ってる。だけどいくらなんでも女子の裸を見るってどうなのよ」
「……………」
申し訳ないように顔を伏せる籔笠。
鍵谷は無言でしばし視線を送ると、一言。
「…ちゃっかり見たんだ」
「うぐっ!?」
「変態」
「い、いやいや、俺は別に見るつもりはなかったっていうか何て言うか」
顔を赤くさせ、慌てふためく籔笠、そんな彼を睨む鍵谷は一度息を吐いた。
そして、それよりも気になる事。
「ねぇ」
「だ、だからつまり言って」
「何であの時、私に謝ったりしたの?」
「……………」
さっきまでの空気がその一言で一変する。
籔笠の慌てていた顔色がいつしか真剣な表情に変わっていた。
「ねぇ、……何で?」
「……………」
鍵谷は真剣な眼差しで籔笠に問い掛ける。
だが、籔笠は顔を伏せ答えない。
その反応に鍵谷は口を紡ぐ。
真意がわからない。
籔笠芥木がわからない。
「籔笠」
「……………」
黙り混む籔笠に鍵谷は言う。
「籔笠って私の事、どう思ってるの?」
自然と体が動き、いつしか籔笠の直ぐ目の前まで来ていた。
「籔笠にとって、私は何?」
どう答えるのだろう。
何でもないと言われるのだろうか。
もし、そんなことを言われる。
そんなことになるぐらいなら。
無理矢理でも、友達以上の事実を作れば。
「ッ……」
鍵谷は顔を近づけ、自身の胸の鼓動が早くなるのがわかった。
そして、後、数センチ。
誰もいない部屋の中で二人。
その唇と唇とが触れかける。
「…………」
「…………」
だが。
バッ、と籔笠の体を突き放す鍵谷。
「………………ごめんなさい」
「…………」
何も答えてくれない。
籔笠を視線を送ることなく鍵谷は布団へとゆっくりとした動作で歩き、
「……………お休み」
何も解決しないまま。
苦い思い出を作ったまま。
時間は過ぎていくのだった。
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