森姫育ての傭兵さん
傭兵のお話
彼女は、いつも一人だった。
体は未だ発達していない幼少。言葉一つちゃんと喋ることのできない彼女が初めに見た物、それは茨の蔓でつくられた揺り籠のような居場所だった。
そんな場所に、運命にも似た偶然によって、一人の青年が舞い転がったきた。
そして、そんな彼に対し、何も知らない彼女は一歩と足を踏み出した。
それは、一人の少女と一人の青年、いや傭兵との物語。
森の姫と呼ばれ、のちにチルトという名を持つ少女と傭兵トールがおりなす物語だ。
『森姫育ての傭兵さん』
プロローグ。
……………ザザザッ。
……………………ザザザッ。
その音は、大きな雨粒によってなされる曇天からの雨だった。
草木や花はその強烈な勢いに抑えつけられ、その他のモンスターたちでさえ物陰に隠れて避難してしまうほどの豪雨だった。
だが、そんな雨に対して健全にそびえ立つ物があった。
森林、レコンドアークの中央に生える巨大な茨の蔓『レコンド』
何十にも互いを巻き付けながら固められたそれは、この森のシンボルでもあり、またその内部は一種の揺り籠に似た大きな空間を有していた。
しかし、その蔓の一つ一つには大きな茨の棘が何本、いや何全本とある。
例え、人が住めそうな空間があったとして、誰もそこに住もうという者はいない。
それが、普通。
いや、常識だった。
………ペタペタ。
……………ペタペタ。
ただ一人。
たった一つの存在を除けばの話だ。
第一話 傭兵のお話
その世界はかつて存在し、また人類が別の進化を模索した世界。
武器、所属、ハンター、兵士、魔術師、と色々と並べられるものがあるが、そんな職業を人間が持ち、強大なモンスターを倒して金貨を収入にしていた世界だ。
大昔は、魔王や勇者といった分類もいたとされていたが、それは何前年という昔話であり、今となっては子供に聞かせるような話でもある。
だが、そんな脅威とは裏腹に、現在の世界において違った意味での申告な問題が人々を悩ませていた。
それは、モンスターの凶暴化だ。
今まで平穏に生息していたモンスターたちだったのだが、何故かある時期を境に凶暴化という症状が見え始め、人々を襲い始めた。しかも、一体だけの凶暴化とは違って集団での片鱗による数多くの街が潰されたかわからない。
この状況が続くようであれば、いつか全人類は滅び、モンスターだけの世界が出来上がってしまう。
この世界に住む人々を統べる王は、その惨状を目の当たりにして、深々と考え込んだ。
そして、数年という時間を費やし、王は意を決してあるクエストを全都市に向け発注したのだ。
それは、
『モンスター凶暴化に対する調査および都市の防壁強化』
モンスターの殲滅を後回しにした守り一点のクエストだった。
かくして、今までモンスターを退治するクエストは一掃される事となり、また同時に都市の守りやモンスターの生態調査が基本とされる流れが人々の間の中で、着実と広がり始める事となる。
そうして、それからまた数年という歳月が経っていた。
西暦『5000・1・6』
森林、レコンドアーク。
その森は数多くのモンスターたちが生息すると噂され、また人々も滅多に近づかないことからいわゆる危険区域に指定される場所だった。
そんないつモンスターに襲われてもおかしくない場所に、ガツガツと音を立てながら、奥へと進む三人の姿があった。
「ねぇ、トール! 本当にここであってるの? ってかまだつかないの?」
そう疲れた声を漏らす、大きな宝玉のついた杖に加え魔女の容姿をした少女、名前はチタ。
「そう焦るなよ。まだここに入ってそう時間も経ってないんだから」
後ろで騒ぐ彼女をなだめるのは、騎士である証明の鎧とそれ相応の長剣を身につけた青年、ログア。
そして、そんな二人の言い合いを聞きながら、手に持つ地図をワナワナと揺らしている、同じく軽装の鎧に加え、背中に何の装飾もない大剣を背負う存在。
「お前らは……少しは静かに歩くことはできないのか?」
眉間に皺を寄せる青年、傭兵トールだ。
彼らは昔からの腐れ縁という事もあって、よくクエストに同行したりする仲だ。
今回も傭兵トールが受けたとされる都市防壁強化のクエストに対し、ついてきた二人なのだが、
「何に怒ってるんだ?」
「怒りたいのはこっちなんだけど?」
口々に言って、首を傾げる二人に再び眉間の皺を強めるトール。
このやり取りだけでもキツイのだが、そこでふと浮かんが疑問にトールは今一度確認もかね二人に尋ねてみた。
「なぁ、お前ら。ここがどこだかわかってるよな?」
「どこって、森でしょ?」
「ああ、森だ。それで? ここには何がいる?」
「何って、モンスターだろ。いやそんなのわか」
「わかってるなら、もう少し黙って歩けよッ!? 気付かれたらどうすんだよッ!!」
そう、ここは森林。
簡単に言えばいつモンスターに遭遇するかわからない危険地帯なのだ。さっきからモンスターが来ないかとハラハラしていたトールだったが、この二人のせいで、更に胃が締め付けられるように痛い。
「悪かった。冗談だよ」
「そうよ。ちょっとトールがカチコチだったから、少しは緊張をほどいてあげようかなって思っただけだから」
「ああ、ありがとな。緊張は解けたよ。緊張はな? その代わり胃が痛いけどなッ!」
唸り声を漏らしながら、苛立ちを現すように歯をむきだしにさせながら、ズカズカと進んでいくトールに、流石にやりすぎたと思いながら、急ぎそんな彼の後を追いかけるログアとチタであった。
だが、彼らはそこで一度足を止め、もう一度状況を考えるべきだった。
森林レコンドアークに入ってから、一時間ほど経つ。
それなのに、森に入って以降一度としてモンスターに遭遇していない。
その疑問に、気付いてさえいれば、あんな悲劇は起きなかった。
そう、そのはずだったのだ。
森林レコンドアーク、中心部。
まるで草木が自己にて裂けているかのように、開いた道を進んだ先に、目的のそれは存在していた。
森林レコンドアークのそびえたつ巨大蔓『レコンド』
「大きいわね」
「ああ、確かに」
ログアとチタがそう感嘆の声を漏らす。
その一方で、トールは棘の生えた蔓の一本に近づき、懐からナイフとボトル取り出す。
そして、ナイフで棘の表面を削りとり、数個のかずりかすをその容器に入れた。
「それだけでいいのか?」
「ああ、まぁ、今回は事実上この蔓の調査が先決だったから、俺はこれを都市に届けて、金貨をもらえればそれでいい」
「あっけなかったわね」
あまりに拍子抜けのクエストに呆れたような表情を見せるチタにトールは溜息を吐きながら、
「仕方がないだろ、これがクエストの」
と、そこまで言い掛けた。
その時だった。
…………ギャアギャアギャア…。
突然と、その鳴き声が聞こえた。
「「「ッツ!?」」」
その、次の瞬間。さっきまでのダラケタ表情は一変し、三人同時に険しい顔となり、同時に帯刀していた武器を構え始めた。
額から頬へ、いやな脂汗が流れ落ちる。
さっきまでの無音が、今ではよりその場の空気を息苦しいものへと汚染していく。
「ね、ねぇ……さ、さっきの」
「………………」
「気のせいだった、ってことは……ないか」
そう冗談半分で言い掛けるチタ。
しかし、傭兵トールはその言葉を一蹴する。
「んなわけないだろ。お前も、それがわかってるから武器を構えてるんだろ?」
「…っ」
「おい、トール。これってやっぱり」
「ああ……ここに来る前に気付くべきだった。くっそ…」
トールが言うその言葉の意味。
それは、ここまで来るにあたって、一度もほかのモンスターに遭遇していない、という事に対してだった。
「他のモンスターたちに鉢合わなかったわけじゃない。他の奴らはアレの存在に気付いてて、その場所から逃げていたんだッ!」
モンスターたちにおいて、危機感知に対する能力はずば抜けたものがある。
そのため、弱気者は物陰に隠れ、また強者はそれを肴に強敵へと挑もうとする。それが彼らの習性でもある。
だが、今回のケースはその強者のケースではない。
簡単に言うなら、弱者のケースだ。
………ギャアギャアギャア。
また、聞こえてくる。
三人は共に周囲を警戒し合い、いつでも反撃できる態勢を取る。
両手に加え全身からも汗が出始め、気を許せない状況が続く。
…ギャアギャア。
声が大きくなってきた。
ぐっとそれぞれの武器を握りしめ、
………………………………。
………………………………………
そこで、今まで聞こえてきた鳴き声が突然と止まった。
予期せぬ事態にチタは乾いた声を出し、緊張の糸を一瞬ゆるめてしまった。
その、
「ッ!? あぶないッ!!!」
次の瞬間だった。
ログアがチタを突き飛ばした直後。立ち位置が入れ替わったログアに対し、巨大な一角を生やした巨大なモンスターによる突進が直撃した。
鉄によって作り上げられた鎧。
鍛え上げられた長剣。
苦し気な声すら上げることなく、ログアが身に着けていたそれらは一瞬にして粉々に砕け散り、彼の体は大きく地面へと叩き落された。
「ログアッ!!」
トールは叫び声と同時に、標的となるモンスター目掛け大剣を振り下ろそうとする。だが、一角獣のモンスターは自身の尾を振り回し、その直撃をまともに受けてしまう。
「っが!?」
強烈な音と共に、傍に生えた大樹に全身を叩きつけられた。
体の内部で嫌な音が連続して鳴り、トールの口から大量の血が吐き出される。
(っく…そッ…!)
掠れる視界の中で、トールはそのモンスターの存在を睨みつける。
額に一角を生やすモンスター。
その容姿は巨大な翼を生やしたドラゴンのような姿をしており、全身は赤黒とした硬い鱗によって守られている。
そして、凶暴化現象を言い表すように、その瞳は赤く、白目の部分が黒一色で染められていた。
そのモンスターの名前は、ジェノルガドン。
その習性は凶悪かつ、各種のモンスターたちをも敵味方区別せず口殺す凶悪な最悪のモンスターだ。
(ジェルノガドン…っ、なんでコイツがここにッ…!?)
地面に崩れ落ちそうになる体を大剣で支えるトールは荒い息を吐きながら、もう一度立ち向かうべく視線を前へと向けた。
だが、ジェルノガドンにとって、
「ッ!?」
トールやログアは、標的として初めから入れられていなかった。
ジェルノガドンは重い体を動かし、まるで逃げ場をなくすかのように尾を動かしながら、囲う形で、魔術師チタを睨みつけていた。
「ぃゃ……いや…っ!!」
鼻先をチタの顔に近づけ、嗅ぐ仕草をみせる。
そして、その強靭な牙を生やした口を開き、その奥にある舌で、チタの頬を舐めた。
「ぁ…ぁぁ」
もはや声すらでない。
大粒の涙をこぼしながら、恐怖で何もすることができない。仲間に助けてという事も、視線を向けることもできない。
赤子のように全身を小刻みに震わせ、激しい動悸を見せるチタ。
「!!!」
トールは奥歯を強く噛みしめ、痛みを強引に押し殺した。
バキバキと、不気味な音が聞こえる。
だが、それがどうした。
片手で握った大剣の柄を更に強く、傷口から血が噴き出すほどに握りしめながら走り出し、トールは狙う。
チタの姿を弄ぶように楽し気に見つめるジェルノガドン。
その無防備となった瞳に向け、力任せにトールは。
「俺の大切な仲間にッ、さわんじゃねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッツ!!!!」
重量のある大剣をまるで投げ矢のように無理やりに投げ放った。
肩から強烈な音と共に、激痛が稲妻のように頭、神経へと突き進む。
トールの悲鳴と同時にジェルノガドンの瞳に剣は突き刺さり、その巨体は大きくのけぞりながら、強烈な咆哮を上げた。
「…ぉーる……トールッツ!!」
チタは瞳孔を見開きながら、目の前で地面に崩れ落ちたトールのもとに急いで駆け寄ろうとする。
だが、
「来るなッツ!!」
「っ!?」
トールは、そんな彼女の行動を制止した。
そして、片方しか動かない手を動かし、その指が指し示す場所で倒れるもう一人の仲間を見つめながら、
「ログアをつれて……、はやく、にげ、ろ…っ」
「…ぇ、な、なにいっ……そんなの」
「いいからッ早く……テレポー…っとで」
テレポート。
それは魔術師にとっては、基本中の基本とされ習わされる魔法であり、その送る人数によって発動時間は短縮される。
チタとログア。
二人なら一瞬のうちに、都市へとテレポートできる。
だが、
「ぃ、いゃ……いやッツ!! それじゃあ、トールはっ、トールは」
「チタッツ!!!」
「ひっ!?」
それは畏怖か。仲間であるはずの声にチタは恐怖して、悲鳴を上げてしまった。
「早く…しろ」
「ぁ…ぁぁ」
「このままじゃッ、ログアが死ぬぞッツ!!!」
「!?」
トールの放った言葉によって、チタはその瞬間、この状況下の中で一番危険な状態であるのが誰なのかを悟る。
視線を向けた先で、未だ一ミリも動きを見せないログア。
防具や武器、それら全てが粉々に砕け散り、衣服のあちこちから血がにじみ出ている。
どうすればいいのか。
もう彼女自身、考えることができない。
数時間前までの威張っていた自身、そのイメージなどもはや微塵もないほどに彼女の心はズタズタだった。
「ぁ……ぁぁ…っ」
「チタ、行け」
「ぁぁ…ぁ」
「いけッツ! チタッツ!!!」
その一喝は、彼女にとって。
凶器、そのものだった。
「ぁ!? ぅうぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッツ!!!!!」
もう人語すら喋れなくなっていた。
チタはログアのもとに駆け出し、まるでその恐怖から逃げるかのように即座にテレポートの魔法を使った。
それがジェルノガドンに対してなのか、トールに対してなのかわからない。
一瞬にして、その場から姿を消した仲間たち。
トールは荒い呼吸を続けながら、そっと大きく息を吐いた。
そして、ちょうどその時だ。
カラン、という音ともに、足元に血のついた大剣が転がり落ちた。
トールが前を見つめると、そこには片目を潰されたことに対する怒りを露にしたドラゴン、ジェルノガドンが今度こそ正真正銘の意味で標的を青年に定めたのだ。
「っふ…ははっ」
やっとこっちを向いた。
そのことに対し、おかしくなったかのように笑うトール。
地面に落ちた大剣、その柄をもう片方の手で掴み取りながら構える。
「上等だ。………お前は、俺の仲間を傷つけたんだ」
トールは内にため込んだ感情を爆発させるように、大声を上げながら走り出す。
「その分の傷は、その身に受けてもらうぞッツ!!!」
人間とドラゴン。
異なる種族同士の激闘、いや、決められた結末へと繋がる戦いが始まってしまった。
そして、儚き鉄の折れる音が―――――――――――聞こえた。
多くの住民たちが住む都市、レクアタン。
王族が住む特別な場所とされ有名なその場所には、ギルドがあり、その隣に医療塔が建築されていた。
そして、その塔の一室。
ベッドに寝かされていた全身を布で覆われた青年、ログアはゆっくりとしたその瞳を開かせた。
「ぁ……っ…こ、ここは…」
霞んだ瞳、何もない天井を見つめ、自分が生きていることを実感するログア。
未だ首しか動かせない状態のため、顔だけを横に向ける。
すると、そこには、
「…ち、…ちぁ」
椅子に腰かけた、魔術師チタの姿があった。
ログアが目を覚ました。
その事自体、奇跡に近い。
それほどに彼の体は傷ついていたのだ。
本来なら、その事だけで何かしらの反応を示すはずだ。
しかし、チタは、
「……………………………」
何も、話さない。
だが、ログアにとって、彼女が生きていた。それだけでよかったと思えた。
「……ょかった…俺たち、ぃきて…かぇれてんだ…な」
「…………………」
「まさか…ぁれに、……ぁぅとは、思いもしなかっ、たけど……よかっ、た」
「…………………」
以前と何も話さないチタ。
どうしたのか、と尋ねようとしたログアだったが、そこで彼は思い出す。
「そう、ぃえば…」
もう一人の―――――――――親友の事を。
「とぉー……る、は…どこに…ぃるんだ?」
「ッ!!?」
その時。
初めて彼女は反応を示した。
両肩を震わせながら、まるで怯えているかのような仕草。
ログアはその瞬間、何かがおかしいことに気付いた。
ジェルノガドン。
あのドラゴンはモンスターたちの中でも最強に近い種類のモンスターだ。
そんな強敵から逃げるなど、至難の業であることぐらいわかっていた。だが、チタの容姿を見るに、いたって怪我をしているわけでもない。
「ち…たぁ……どぅし」
「…………んなさぃ」
「…………ぇ?」
小さな声が聞こえた。
未だしっかりと視力が戻っていないログアにとって、チタの顔がよく見えない。だからか、いつも以上に聴力は発達し、微かな声でも聞こえるようになっていた。
そして、彼は聞いた。
「…ごめん…なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
その言葉の意味を理解するのに、数秒の遅れがあった。
動く視界が彼女の背後、そこに書き記されていた日付をとらえた。
そこには『5001・1・6』と、そう記されていた。
「………ま……さ…かぁ」
「ごめんなさぃ、ごめんなさぃ…」
そう、あのクエストを出発したのは西暦『5000・1・6』
ログアが目を覚ました時には既に、あれから一年という歳月が過ぎていたのだ。
『5000・1・7』
人間とドラゴン、その戦いの結末は呆気ないものだった。
大剣は粉々に砕き散り、大量の血が地面を赤く染めていた。そして、ある一か所。まるで、その場所目掛けて火炎を放たれたように地面や草、そこにある全てが黒に染めあがり、そこにはもう何も存在していなかった。
たった一つ。
黒くなった地面、その下に存在していた、人ひとり入るぐらいの穴を除いては。
「…………………ぁ」
そこは、青白い光によって照らされた洞窟のような場所だった。
岩々に囲まれた地。その壁には棘の生えた蔓が点々と突き出るように現れている。
ジェルノガドンとの闘いで武器を失い、逃げ場すら失ったトール。
ドラゴンの口から放たれた火炎によって、死を悟ったあの瞬間。地面が足場が崩れ、そのまま流されるようにこの場所へと落ちてきたのだ。
(……たすかった……いや、助かってはいないか…ッ)
全身に流れる大量の血を多く失った。あちこちの骨が何本もへし折れている。
視界が歪み、頭痛がやまない。それに悪寒もする。
死がもうすでにそこまで来ている証拠なのだろう。
(アイツら、……助かったかな…)
こんな状態になってもなお仲間のことを心配する当たり、どうしようもないよな、と思ってしまうトール。
(チタに…怖い思いをさせちまった…な)
あの時の彼女の顔は、もう、一生忘れないだろう。
仲間である存在を恐怖させた。
(でも……いい、か)
それでも、生きていてくれるだけでいい。
(ああ……ねむい…)
トールの呼吸は小さくなり、もう何も見えない。
(……また、アイツらに……会えたら…いい……な)
そして、トールは静かに眠るように。地面に崩れるように倒れていった……
……………ペタペタ。
…………ペタペタ。
……ペタペタ。
もう、生きているかすら定かでない。
そんな彼の頬に、そっと、小さな手が乗せら、その手が緑色の光を灯し始める。
そして、それが数秒と続いた、次の瞬間。
「………ぅ…」
トールの瞳が、再び開いた。
全身の感覚、それらが次第に正常に戻ろうとしている。
節々の傷も、まるで何かで覆われいるかのように……塞がっていく。
(………な…なんだ…これ…)
未知の感覚に戸惑うトール。
だが、そこで彼は自身の頬に何かが乗っていることに気付いた。
それは、見知らぬ手。
(暖かい…)
視線をゆっくりと前へと向けるトール。
すると、そこにいたのは―――――――――――――――――――――――――――――――――――――淡い金髪、緑色の瞳をした幼女だった。
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