異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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連撃のアーツ





第六十三話 連撃のアーツ




その登場は唐突だった。
インデール・フレイムからその姿を消し、二年と消息を絶っていた災厄の剣姫。表立った行動を見せなかった美野里がついに地上に足を踏み出した。
二年前とは打って変わった大人びた風格を纏わせ、昔のような幼い印象とは違う毅然としたその姿。そんな姿になるまでどれほどの困難や試練があったか、それは地上にいるものにとって想像することさえできないだろう。
そして、そんな彼女の前にして弟子であるファルトは地面に座り込みながら膝元で気絶するセリアを抱えることしかできない。
悔しさを押し殺すように奥歯を噛みしめながら悲痛な表情を見せるファルト。


「師匠……なんで」
「まぁ、……言うならレトさんから助けに行けって言われてね。最初は何でって聞いたんだけど。ほら、レトさんっていつも隠し事多いから」


そう言って優しげに笑う美野里。
詳細はともかく、外に出ることがとういうことなのか、彼女自身が一番に理解していた。
その、はずなのに‥。
美野里は頬を緩ませながら、後悔する表情を浮かべるファルトを見つめ、


「でも、来て良かった。無事でよかった」
「…………」
「はいはい、そんな拗ねた顔しないの。また帰ったら美味しい料理でも作ってあげるから」


拗ねた仕草を見せる弟子を宥めるように、師匠の顔を浮かばせる。
その光景は側から見るに、師弟というよりも言うなら親と子を連想させるかのようあり、少年自身はそのことに気づいていない様子でもあった。
とはいえ、とりあえずは弟子へのアフターフォローは終わった。
和やかな会話を終わらせた美野里は今にも飛び出したくてウズウズしている少女に顔を戻す。
集中して観察したからこそわかったことだが、彼女の全身から微かに別種の力を感じる。どうやらそれがいつでもライフィニーモードを出せる体勢を維持しているようだ。


「それで? 見た所、ライフィニーモードを使っているみたいだけど。……やる気十分みたいね」
「ははっ……災厄の剣姫……確か昔にそんなのがいたって聞いたことがあったわ。でも、まさかその本人が出てくるなんて」
「…………」
「さっきの一撃………口だけのハッタリじゃないみたいだし、セルバーストと称号使いとは何回か殺りあったことはあったけど衝光使いとは初めてだわ!」


ギシッと音を立て、歓喜の表情を浮かべ剣の柄を握る少女。強い者との戦いを求める上でこんなイレギュラーと遭遇出来たことは幸運なことだと彼女は思った。
『斬りたい、殺したい、奪いたい!!』
狂喜的感情が心中で渦巻く、そんないつ暴走してもおかしくない感情が少女の顔をニヤつかせる。
そして、それは次の瞬間。






「いいわ。貴方もそっちの子と一緒に私が切り取ってあげるッ!!」




少女は爆ぜるような駆け出しで美野里に襲い掛かった。
美野里の眼前まで接近し、振り上げられた血に染められた大剣は目前にあるその小さな頭蓋骨めがけて強烈な一撃を秘めながら振り下ろされる。
歓喜の声と同時に出た超速接近。普通の人ならその瞬間に命を落としていただろう。だが、美野里は手に握る鉱石剣を使うことはせず軽いステップでひらりと攻撃を交し驚異的な威力を秘めた一撃を回避した。
そして、一歩と後ろに退き距離を取ろうとする。だが、少女がそれを許すはずがない。


「フッ!!」


一撃に続いて二撃、三撃。と連続の攻撃を斬り出す。
超速での至近距離での攻撃。なすすべなく、美野里の体は切り刻まれる。そう少女は確信していた。
だが、その直後で、




「舐めんじゃないわよ」




キンキンキンッン!! と金属の悲鳴がその場に轟く。
それは高速で振るわれた大剣の剣戟を鉱石剣で斬り交わす美野里の剣戟によって放たれた音だ。しかし、驚く所はそこではない。
少女が驚愕したのは高速で振り下ろされる攻撃を美野里がさらにそれらを上回る速さで防いだ、その事実に動揺したのだ。奥歯を噛み、力を込める少女は再び大剣を振り下ろす。だが、それもまた同様に美野里の剣によって防がれてしまう。
まぐれという話ではない。美野里は鉱石剣と回避を加えた最小限の動きで猛攻撃を防いでいくのだ。
心中の確信を壊された少女の顔に余裕がなくなる。だが、直ぐ様その感情を振り払い、一度距離と取るため後ろに飛び退いた。
そして、負け惜しみのように少女は言葉を吐く。


「凄いわ……でも、どうしたの? さっきの力は使わないつもり?」
「そう頻回に大技ってものは使うものじゃないのよ」
「ッ………そう、ならッ!」


近接状態での大技はモーション中に時間を取られる。
なら、どうすればいいか? 目の前に立つ、強敵が持つ真の力をどうすれば見れる?
少女は瞳が周囲の情報を読み取り、視線は美野里からファルトとセリア、……そこから少し離れた場所に倒れるチャトへと注がれ思考は意識へと繋がった。
少女の顔に、小さな笑みが零れる。
次の瞬間、ダン!! と。
砂煙が立つほどに少女は地面を力強く踏み抜いた。それはただ単に地を蹴飛ばしただけにも関わらず、小さな振動がなるほどの力がある。
砂煙によって視界が塞がれ、美野里の視界は隠れる。その隙をつき、駆け出す少女が向かうは地面に今も倒れる一人の少女の元、口元を歪め、手に持つ大剣を振り上げ――、




「ッ!?」




ようとした、その直後だ。
ギン!!! と、強烈な一撃が少女の持つ大剣に振動が走らせる。
思いもよらない攻撃に眼を見開く少女。その視線が向かう矛先には、いつの間に目の前に回り込んでいた美野里が立っていた。
手に持たれた鉱石剣が大剣に強烈な斬撃を与えたのは直ぐにわかった。だが、少女自身を超えるその移動速度。攻撃に続いて速さまでもが魔王の称号を持つ少女を圧倒的に凌駕している。
隠しきれない心の乱れに戸惑いを見せる少女。対して美野里は髪で隠れていないもう一つの左目を鋭い眼光を現すかのように細め、その手からさらに強大な一撃技を放つ。


「衝光、打現」


横一閃。
美野里の振り払った一撃に恐怖を感じた少女は咄嗟に大剣の腹で攻撃を防ぐ。
だが、その攻撃は地面に足をつけていたとしてどうにかなるようなものではなかった。防いだ衝撃は思考を突き抜けるように衝撃を剣から手、そして身体へと大ダメージを与え、脳にまで伝わった一撃は体の力を一瞬と緩ます。
そして、少女の体は強引なまでに後方へと吹き飛ばされ、地面に擦る形で倒れたのだった。


「ふぅ…」


小さく息をつく美野里。
視線の先で倒れる少女を見据え、先の戦闘で彼女が戦いに対して抜け目がないことは理解していた。だから、あの時少女が今にも死にそうになっているチャトに手を出そうとしていることも容易に想像ができたのだ。
とはいえ、当初は目的として武器である大剣をへし折ろうと考えていた。だが、どうにも彼女の持つ剣は中々の業物らしく壊れる兆しが見えない。
しかし、そんな頑丈な武器に対して、ある一つの技がもっとも効果的な衝撃を与える。
それは衝光専用の攻撃技。


『衝光、打現』


元々、美野里の技でない一人の少年が使っていた技なのだが、その力は振動のように攻撃を浸透させ防御を突き抜ける力を持つ。
そのお陰もあり、少女は盾という謝った防ぎ方をした為に効果は覿面だった。
時間を稼ぎたかったこともあって威力を強めに放った分、反動で今も少女は立ち上がれずにいる。
美野里はその僅かな時間を使い、急ぎ地面に倒れるチャトの元へ駆け出そうとした。
守るとして、弟子のいる場所に一カ所にいた方が好都合という意味で…。
だが、そこで彼女は不意にある物に眼を止める。


「カード?」


それは数十枚のカード。
円を描くようにチャトの周りに浮き、彼女を守るように並ぶ。
その中で一つ、人一倍に光を放つカードがあった。その表面に書き記された絵柄は『愚者』――――。




『全く、僕たちの主が勝手に死んでくれるなってわけだよ』




突然、カードが一頻りに声を出した。
一瞬、眼を見開きながら警戒を意識する美野里。だが、カードから全くとして戦う意思が感じられないことに気づき直ぐに思考は落ち着いた。


「……君は?」
『初めまして、シンクロアーツ。いや、この場では災厄の剣姫って呼んだほうがいいのかな?』


シンクロアーツ。
その名が出た瞬間、表情を曇らせる美野里。
二年前にも同じ名を呼ばれ、良い思い出もないのだ。
とはいえ、そんな事情などお構いなしに愚者は悪びれる様子もなく言葉を続ける。


『ごめんね、やっぱり嫌だった? でもこれって僕の性分だから』
「…ううん、大丈夫。それほど、気にしてはいないから。それよりも、その子の傷を」
『ああ、それについては大丈夫。今、幸運がせっせと傷を治してる所だし』


そういう愚者の隣で淡いピンクの光を放つカードがチャトの傷口に近づき、その光を分け与えるように力を注いでいる。
同時に、目に見えていた傷も徐々に癒えていくのが見て取れた。
どうやら、愚者の言う言葉に嘘はないようだ。


「そう、……なら、その子の事は頼める?」
『ああ、大丈夫。そこは僕たちが全力でやるつもりだから心配はいらないよ。…………………ただ』
「?」


今まで平然と喋っていた愚者はその時、どこか歯に噛んだような声を出した。口調からもさっきまでとは一変した雰囲気が感じられる。
神妙な表情を見せる美野里に対し、愚者は静かなほどに声のトーンを落としながら言葉を彼女に伝える。
それは、誰も知らない。
一人の少女が抱え込む、悲痛な思い。




『できるなら、彼女の思いを汲み取って戦ってほしいんだ。それは、この子を今まで見てきた僕たちだから言えることなんだけど』
「……………」




一体、誰のことに対してその言葉を口にしたのだろう。
疑問を抱いた美野里。だが、そこで彼女は気づく。今もカードに守られ地面に倒れるチャトの頬。そこに一筋と流れる涙の痕。
悔しい、悔しい、悔しい、と表情からも読み取れる彼女の思い。
それは一人の少女が抱く、心の声だ。
瞳を細める美野里は、その思いを深く知る為に一度眼を閉じる。
そして、シンクロし、同調が始まった。
それは衝光の力が覚醒したことによって出来るようになった力。
その瞬間―――美野里の脳内に一つの光景が流れ込んだ。
































何もない、ただ親に言われるまま買い出しに出た。
ただ、それだけだった。


『何…これ…』


いつもなら、賑やかな声が聞こえるはずの村。だが、このときは何故かそれがピタリとも聞こえなかった。
人通りも、店の前も……誰もいない。
ただ、それを補うように地面に飛び散る血の痕。


『お父さん、お母さん…ねぇ、皆…どこにいるの!!』


走った。
走った。
転けて、擦りむいて、それでも走った。
そして、やっと、一本の大樹。
そこから、はみ出したように、見覚えのある服を着た腕を見た。


『あ、お父さっ』


そう、喉から声を出し駆け出した。
そして、そこで、見た……。






『……ぇ』














首のない、親の姿。
そこから離れた場所で、地面に倒れる無数の死体。
皆が同じような状態で山積みにされ死んでいた。
ぐしゃっ、と足の力が抜け落ち、地面にへたり込む。
そして、……心が、体が、眼が、耳が、全ての感覚が…………その瞬間に壊れてた。


『いや、いや、……や、ゃ、……嫌あああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』


















ブツン。と視界が元に戻る。
涙を流し続けるチャトの記憶は、そこで途絶えた。
実際に体験したかのように、その記憶は美野里の記憶に残る。
顔を伏せたままの美野里は涙を流す彼女を見下ろし、静かに…、


「…………………そう」


と、だけ呟いた。
数秒の記憶。だが、あまりに衝撃的な記憶。
表情の読めない美野里。そうこうしている間に、魔王の称号を持つ少女は体の痺れを回復させ、立ち上がろうとしている。
その顔は満面。何一つ、恐れも、負の感情も内。
ただ、少女は、笑っていた。
強敵と戦える、その喜びだけを―――――






















「笑うな」




















刹那だった。
美野里の一言が、その場を一瞬で凍り付かせた。
離れていたファルトでさえ、全身の筋肉が力を込め身構えるほどに、言葉から発せられた恐怖はその場を支配する。
美野里は静かに視線を魔王と名乗る少女に移し、冷たい黒色の瞳で見据える。場の空気が一変したことに身構える少女に対し、心の底から彼女へ問う。


「ねぇ、アンタにとって首を切り取るって何? アンタはただゲームの遊びか何かと思ってやってるみたいだけど、それをした後に何が残るのか………アンタ、わかってるの?」


一歩一歩と地面を踏みしめる。
怒りを抑えながら、その感情を動きに出すように。


「アンタがしていくことが、誰かの幸せを壊す。今まで大切に思っていた、全部を無造作に…………。でも、アンタはそんなこと全く気にすることなくやってきたんでしょ? だから、今でも平然とそんな顔が出来るんでしょ?」
「な、なにを」
「アンタの胸くそ悪い正念は理解したわ。でも、…………持ち手が無理いじでやってると思ってたけど、アンタもソイツと同じってわけなのね?」


今、一体誰に対してそんな言葉を言っている?
突然と口にされた言葉に眉間を寄せる少女。一方で美野里は今まで傍観を続けていたファルトに対し口を開く。


「ファルト。悪いんだけど、その子と一緒にそこで待っててくれる?」
「えっ、師匠」
「ごめんね、本当は隙を見て逃げようと思ってたんだけど」


場の空気は完全に変質した。
触れてはならない物が開封されてしまった為に…。
目の前に立つ敵を見据える美野里は空いた左手を動かし、首から下に巻いていた大布を掴み、それを脱ぎ去る。
別に布の下に秘密兵器を隠していたわけでも、まして格好を付けたかった為にしていたわけでもない。
付けていた理由は、ただ簡単に隠したかったためだ。
右肩から伸びた、一つの手。






「ちょっと頭にキタから。ここでアイツら……叩き潰すわ」






黒く、変色した右手。
さらに風によって髪が靡き、ヒラリと明るみに出る光を失った右目。


「黒い手……」
「平然と笑ってるとこ悪いけど……ここで、その剣と一緒にアンタもぶっ壊させてもらうわよ」


美野里は一度、瞳を閉じ意識を集中させる。
彼女の雰囲気に呼応するように、風が揺らぎを見せ、同時にその場の空気も重くのしかかるように重圧を持つ。
ただ、そんな中で美野里は口を動かす。


「衝光」


至って変化のない、言葉。
だが、次に出す言葉は二年前とは違う。ある者たちにとってはその力は自身たちだけが使えると思っている。しかし、それは大きな間違いだ。
そもそも、その力自体がその者たちが始まりではない。
何故ならーーーーー








「ライフィニーモード」








真の意味で、シンクロアーツこそがその力の保有者なのだから。
バチッ!! と甲高い音が美野里を中心に弾け飛ぶ。それはまるで今まで閉じていたスイッチをオンに切り替えたように本来の機能を失っていたものが再び動き始める。
黒い手と黒い瞳、その二つが衝光の光を放ちながら機能を取り戻す。
美野里は光と共に動く右腕を真横に振り上げた、直後。


「ッ!?」


少女の握っていた血に染められた大剣がその瞬間、胎動するかのように動きを見せた。
生きているはずのない鉄で出来た剣。
それが生き物のように鼓動を見せる。何を、と叫びそうになった少女。
だが、それよりも早く美野里は言う。


「アンタみたいな剣、こっちから願い下げよ」


その言葉が告げられた瞬間。
まるで親に見捨てられたように反応は消え、大剣の鼓動が止み、普段と変わらない剣へと戻る。
対して、美野里は視線を動かさないまま後ろにいるファルトに対し、


「借りるわよ、ファルト」


まるでそれが合図だったように、少年のコートに納まっていた六本の短剣が独りでに動きを見せる。宙を浮きながら美野里の突き出した右手に吸い寄せられるように集まり、右腕の周囲に円のように並ぶ短剣たち。
美野里は小さく口元を緩め、


「ごめん、またちょっと協力してね」


短剣はその言葉を聞いた。
瞬間、衝光の光が六本の剣から発せられる。
それはファルトが使用するダークネスセルとは違う、それとは真逆の光。
美野里は宙に浮く六本のうち、二本の剣を両手で掴み取る。クルっと手の調子を確かめるように短剣を手の中で回し、よしっと美野里は小さく頷いた。
そして、視線を少女に向けたその数秒後の―――――刹那。


「!?」


ガキン!! と眼前で美野里は振り下ろした斬撃が少女の持つ大剣に直撃する。
衝光、打現とは違う。大剣一点に集中した極端で強烈な攻撃。それに続いたように高速で近接攻撃が放たれていく。
かろうじで攻撃を防ぐ少女だったが、その防ぐ行動自体が不味いことに気づいた。
何故なら、美野里が始めに壊そうとしているのは少女ではない大剣自体なのだから。


「衝光、ソウルライト」


美野里が呟いた。
それに呼応するように短剣に纏っていた光が膨大に拡大する。
ただ単に光を強くしたわけではない。その中に秘められた力自体すらも強力なものへと強化させたのだ。
ピキッ、と大剣に不気味な音がなった。
二本の剣による連撃が追い打ちを掛けるかのように続く。
振り下ろす際に起こる遠心力を利用し、剣を盛大なまでに振り下ろし、さらにその遠心力を殺さないように手に持つ剣を離し、宙に浮く剣を掴み、攻撃をする。
そして、ついに、


「ぶっ壊れろッ!!」
「!?」


強力な一撃は大剣だけでは防ぐことが出来ず、少女の体を後方に吹き飛ばされた。
防御、回避すら勝てない。
地面に何度も擦られ、倒れる少女。唇の端から血が垂れ落ち、自身の手が震えていることに気づいた。それは、目の前に立つ存在に対して初めて感じた恐怖。
魔王であるにも関わらず、恐怖を感じている。


『この、私が?』


その時――ビキリ、と今まで冷静を突き通していた思考にヒビが入った。
歯噛みし、地を踏み起き立ち上がる少女。
その顔にはさっきまでの笑みはなく、あるのは怒りのみ。


「ッ、ライフィニーモードッ!!!」


地面に向かって叫び、称号の力を解放した。
大剣に伸びた黒い影がさらにその長さを増やしながら触手を生やし、蠢く。
少女の周囲を守るように絡み纏いつき、敵である存在に矛先を向けた。
対して美野里はそんな出来損ないの力を見据えながら、彼女が見せた感情を思い出す。
怒りを感じ、怒っている?
小さく、息を吐く美野里。
次の瞬間。




「アンタはそんなことで怒ってるみたいだけど、……ふざけんじゃないわよッ!!!」




少女がその感情を抱いた。
その事実が美野里の逆鱗に触れた。
バチバッチ!!! と再び力が補充され、美野里は雷のように光を迸る右手を振り上げ、短剣を真上に突き上げる。


「言ったでしょ、ここでぶっ壊すって」


美野里の片目。
光る右目で少女を睨み、


「衝光、ソウルアップ」


その一言が彼女の右手に握られた短剣を巨大の光刀へと進化させる。
巨大な光刀。その光景は二年前に彼女が使っていた技と酷似する。だが、その力自体は『ルーツライト』衝光の二段階目になってこそ使えていた技だった。


「先に言っとくけど、時間を掛けるつもりもないわ。………これで終わりよ」


美野里は敵に対して最後の忠告をする。
だが、怒りで思考の働いていない少女はその一撃に立ち向かうようだ。
冷静でないということに対等でないことを感じる。だが、そんなちっぽけな理由で態々と負けるつもりもない。


「自分の命が欲しければ、‥‥‥‥上手く逃げなさい」
「ッッぎ、があアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!!!」


獣のように駆け出す少女。
触手は臨戦態勢を決めるかのように槍のように鋭さを尖らせ、共に迫り来る。その攻撃には歓喜も冷静もない、ただあるのは怒りのみ。
美野里は静かに呼吸を整え、さらに衝光の力を研ぎ澄ませ、


「衝光」


右手に握られた巨大光刀。
それとは違う、左手に握られたもう一つ短剣が衝光の力によって細く繊細な形に固められた長刀へと姿を変える。
美野里は両手に握られた力たちを眼では見えない、光の線で繋ぐ。そのイメージを脳に刻み混む。
そして、眼前へと迫ろうとする少女を見開いた瞳で見つめ、繰り出す。この二年の間に編み出した、誰にも教えを請わなかった美野里だけのオリジナルアーツ――――――




「ダング・オーバーアーツ」




連撃。
それが昔、美野里が師匠であった男に名付けられた『あだ名』だった。そして、その名が今に繋がるように巨大刀と長刀を巧みに使った連撃が放たれる。
眼で、耳で、それらの感覚では捕らえられない超高速の連撃。
少女の周囲にいた触手は跡形もなく消し飛ばされ、さらには頑丈と思われていた大剣も連続の斬撃に押し負け真っ二つにへし折られる。
そして、少女の視界に迫る二つの刃。
口で息することさえ出来ず、ただ斬られるのを待つだ―――




















ドォン!!! と莫大な音が地面を抉り砂煙を巻き上げる。
煙によって視界は塞がれ状況はわからなかった。だが、次第に煙は晴れ、そこには二本足で立つ美野里の姿だけがあった。
足下には、砕け落ちる大剣。魔王を名乗る少女の姿はどこにもなかった。
目の前で起きた光景に眼を奪われていたファルトは、小さく口を動かし、ながらぼそりと呟く。


「や、やったのか?」
「…うんん、逃げられたみたい」


美野里は肩を落とし、溜め息を吐く。
衝光の光を放っていた剣や右手、瞳はすでにその光を消し元の状態に戻っている。
宙を浮きながら自身の元に戻った短剣を見つめるファルトは、しばし茫然とするも直ぐに事態の状況を思い出す。


「し、師匠! 早いところ」
「うん、そうね」


美野里の存在、災厄の剣姫。
その姿こそ詳細を知るものは世界中に当てはめると少ないだろう。しかし、例えインデールに住んでいた者だけしか知らなくとも、彼女の存在が地上にいる者たちに知られることは不味いことだった。
今回は緊急もあって、魔王を名乗る少女に知られることとなったが…、


「レムさんにはこっちで連絡するんで、師匠はここで待っててくれ!」


ファルトはそう言うと、離れた場所で倒れるチャトの元へと走り出す。このままセリアや彼女を置いていくわけにはいかない。
それは美野里が言わずとも彼自身も同意見だった。
美野里はチャトの元にたどり着くファルトを見つめながら、視線をさっきまでいたはずの少女がいた場所へと向け、そして、あの一瞬の出来事を思い出す。
連続の攻撃で大剣をへし折り、そのまま少女を斬ろうとした直後。美野里の視界に映った、一つの光。
少女の背後に突如現れた魔方陣。赤く、黒い、二年前に見覚えのあった魔方陣。
何かの因縁か、もしかすれば誰かの手の上で踊らされているのかもしれない。
だが、それでも…




「宣戦布告は、取りあえずは出来たってことでいいのかな」




それは始まりにすぎない。
唇を紡ぎ、美野里はどこまでも続く青空を見上げる。
これから先に繋がる戦いを予期しながら……。




















そこは暗い室内だった。
赤黒い光を放つ魔方陣の上で荒い息を吐きながら倒れる少女。
そんな彼女を前に、ローブで顔を隠す男は口を開く。


「随分なやられようだな、クオラ」
「は、ははっ、ハハハッ!! 面白い……面白いわ!」


まるで壊れたオモチャのように笑い続ける少女、クオラ。いつも一緒だった愛剣の大剣はもう手元にはない。
戦う手段がなくなった。にも関わらず彼女は笑い続ける。


「次は、次は絶対に殺してやる!!! …災厄の剣姫ッ!!!」


それは極悪の執念。
波乱の種が、今まさに咲こうとする瞬間でもあった。











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