異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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戻りし銃使い



第三十五話 戻りし銃使い




疑問を覚えたのは、二発目の銃弾が撃ち出された時だった。
ルーサーは炎の槍で貫かれたペシア、いや……ペシアだった幻影を見つめる。槍は確かにペシアの胴体を貫いていた。
だが、攻撃が決まった直後。その体は煙のように分散し、そして四散した。
まるで、最初から何もなかったように。
だが、ルーサーは初めのお互いが動く前の会話をしていた時、確かにペシアが幻影ではない本物だったと推測していた。気配だけじゃない、その凶悪な表情から放たれる威圧感は間違いなく偽物ではなかったからだ。
そして、それが本当なら、変わったのは最初の一発目の銃弾が撃たれた時だ。
攻撃の際に生まれた一瞬の隙に姿を幻影と入れ替えた。
ルーサーは数分前の戦い方を脳内で引き戻し、その戦法に思い当たりがあることに気づく。


(あれと同じ原理か……)


今から数時間前で外へと出向き、戦ったラヴァ。
彼女は銃撃とは違う、攻撃と防御を備え持つドラゴンといった攻撃方法を持ち、さらにもう一つの弾を必要としない銃声による攻撃を戦法に取り入れていた。
そして、それが今回も同じように使われたとなれば納得がいく。あの時、平凡な一発を撃った、あれ自体がフェイクであり本命は音による幻影を作り出し、自分の姿を消すことだった。


「………………チッ」


ルーサーは感覚を高め周囲の察知能力を強化するが、全くとして居場所が分からない。
このまま相手を見つけられない上、時間を与えてしまうと反撃の隙を作ってしまう。


「(……使いたくはねぇが、仕方がねぇ)」


これ以上、時間を与えるわけにはいかない。
そう判断したルーサーは炎剣を空に向けて突き上げ、そこから口を動かした。
それも、一言ではなく、


「炎衝…………火・炎」


魔法を唱えるかのような口の動きでルーサーは発する。




「衝光・大炎陣」




瞬間。
地面に向かって、一気に燃え上がる炎剣を再び突き刺し、そこから中心に巨大な炎の円がその地に描かれる。
そして、その直後に円陣から空まで突き上げる炎の柱が吹き出すように放出された。


「………………………」


数秒の時間での火柱。
闘技場の観客を除いた全体が逃げ場なしの炎に包まれ、それは次第の治まっていく。
いままでの二回の攻撃とは比べ物にならない、回避不能の攻撃。観客席に、もし人がいるなら誰もが勝敗は決したと思っただろう。
だが、ルーサーは円の中心で剣を地面から抜き取り、視線を前へと向ける。
そこにいたのは、


「あぶねぇ、あぶねぇ……」


炎の火柱を防ぎきった。
自身の背中に鋼の少女を付き添わせ、不敵な笑みを作るペシア。
そして、その男の口から言葉は発せられる。




「さぁ、……ここからが本番だぜ」














地上では人々が賑いながら道を歩いている。
誰も、その上で残酷な光景が広がっているとも知らずに、


「…………まだ生きているのですか」


数弾の弾を撃ち、舌打ちを打つラヴァ。
彼女の目の前には一人の少女が倒れている。体の四肢、片足と両腕、そして右肩とを全て銃に撃ち抜かれ、大量の血がその体から流れ続ける。
死に近いほどの痛みによる叫びがどれだけその場に響いたかわからない。しかし、それは誰にも伝わる事はなかった。
何故なら、ラヴァが銃声によるその場一体の音を防ぐ結界を張っていたからだ。


「ラヴァ、アンタ……そこまでしなくても」
「コイツは危険なんです」


ジェルシカの言葉を振り切り、ラヴァは真下に横たわる虫の息に近い美野里を見下ろす。
出血による血の不足。既に意識が遠のき始め、口から漏れるは荒い吐息だけとなっている。
だが、それでもラヴァは銃口を彼女から外さない。


「主様の傍に、………いや、この世界に生きている事態が間違いなんです」
「………………………」
「ウェーイクトは最強でなければならない。他の都市に負けて帰ったとなれば、それは都市への冒涜と同じなんです。だから、どんな手を使っても主様に勝ってもらう。……あの男もあなたの事をバラされたくなければと脅迫しました、主様なら戦ったとしてもどうということはないでしょ」
「………………………」
「……最後に、遺言だけは聞いてあげましょう」
「………………………」
「まぁ、数十の弾を撃ったのです。痛みで何も言えないでしょう」


動きたくても動けない。
その場に横たわることしかできない美野里の頭。
ラヴァは銃口をそこ向けて突きつけ、たった一言。




「だから、もう……黙って死になさい」




指に力を込め引き金を引く。
ドォン!! と残酷な銃声がその場に鳴り響いた。


























姿を見せたペシア。
それに対し、動いたのはルーサーだった。
だが、それは攻撃ではなく後ろへの退避。その数秒後に今までいた場所に何発の銃弾が撃ち出される。
そして、回避した彼の目の前に鋼一色の少女が宙を浮き飛ぶようにして迫り、その手を手刀から鋼の短剣へと変化させ、ルーサーの顔目がけて斬りかかってきた。


「ッ!!」


二つの攻撃を重ね合せた、タイミングを狙った攻撃。
ルーサーは何とか腕を動かし、手に持つ炎剣でその鋼の攻撃を防ぐ。
だが、まだ攻撃は終わっていない。
ペシアは銃弾をルーサーではなく鋼の少女に向かって撃ち出し、無防備なその背中に弾が着弾した。


(ッ!! マズいっ!?)


その瞬間、背中から悪寒が一気に走った。
ルーサーは危険を感知し後方に力強く跳び退避を試みる。だが、その回避は、


「ガッ!?」


あまりに無防備だった。
少女の体から細長い棒のような物が突き出され、その一つがルーサーの腹部に突き刺さり、後方へ吹き飛ばした。
ドンドン、と彼の体は地面を数回跳ね跳び、アリーナの壁手前で地面に擦れ横たわる。
口から漏れる血を吐き捨て、ルーサーは痛みに歪んだ表情で歯噛みする。


(ッ、今のは…………銃弾か? いや、それなら弾が飛んでないのはおかしい。……なら…)


普通なら、痛みや怒りを抱く所。しかし、ルーサーはそれよりも先に正確な分析を頭の中で始めた。
弾が突き抜けたと一瞬考えたが、違うとすぐに判断し、今度は特異的な体を持つ鋼の少女を頭の考えに取り入れる。
そして、今の攻撃を瞬時に見抜く。


あれは、その鋼という肉体と変質を利用した、銃が突き抜けようとする力を使った攻撃。
言うなら、口の中で咀嚼されたガムが手により長く伸びる現象だ。


「ぐッ……」
「どうした、さっきまでの芸はもう終わりか?」


ペシアは笑いながら前へと足を動かし、歩み出す。宙を浮く鋼の少女は一度主の元に戻るとそのまま、その肩に手を置いて停止した。


「コイツ、いいだろ。……ここ最近で入手した俺の武器だ。名前はアルグ、伸縮自在、どんな姿にだってなれる」


ペシアがそう言うと、その直後。
鋼の少女は体をスライムのように変質させ、そこからコンパクトな小さな小鳥へと変化する。まさに変身とも言える力。
今まで姿を見なかったのも、そんな自在に体を変化させる力で目に見えない小さなものに変化していたからなのかもしれない。


「自在の変化か……ッ」
「ん、もう諦めたか?」


ペシアがあざ笑うように口を動かす。
その言葉に対して、目を見開くルーサーは両足をつけ、勢いよく立ち上がり、


「ざけんな。まだ、こっからだ!!」


地面を蹴飛ばし、再びルーサーは炎剣を構え走り出した。






















残酷な銃声。
人の死がその場行われ、血が盛大に飛び散るはずだった。
だが、その銃声は……。


ラヴァの手から放たれた物ではない。


「ッ!?」


地面に青い銃が転がり落ち、彼女の手から一筋の血が流れる。
それに続いて、さらに一声が響き渡る。




「アチル! 今よ!!」




直後。
美野里の体がその場から一瞬にして消えた。
一体何が起こったのか、ラヴァたちは理解できなかった。だが、そんな矢先、彼女たちの目の前に一人の女が突然と現れた。


「なっ、お前はっ!?」


怒りと狼狽えを見せるジェルシカ。
その一方でラヴァは冷たい目線を向け、その者の名前を口にする。




「フミカ……、アルバスターッ!」




一切の隙もない。
頭にバンダナを巻き、手には緑の装飾で彩られた銃を持つ。
ハウン・ラピアスの受付人であり、元ウェーイクト・ハリケーン出身でもあるフミカがその場に君臨する。
そして、彼女は口を開く。


「……ガキども、ちょっとおいたがすぎるんじゃない?」


ラヴァとそう変わらない。
冷酷かつ、本気の顔を露わにするフミカ。いつ、その手に持つ銃が撃ち出されてもおかしくない。
だが、そこに続けて一人の少女が突然と現れる。


「待ってください」


トン、と地面に足を着ける少女。
青いコートを身に纏い、腰に杖と剣を携えた魔法使いのアチルだ。
そして、その瞬間。
ラヴァは今、何が起きたかを理解した。


「……そうですか。貴方があの女を転移させたのですね」
「……はい。美野里は今、回復魔法で回復させつつ眠ってもらっています」


アチルはそう返答を返すと、腰に携える魔法剣ルヴィアスを抜き取り、さらに、もう片方の腰からは小さな杖を抜き取った。
その行動は、既に攻撃態勢に近い状態。
ただ、その中でアチルはあえて尋ねる。


「……それで、誰ですか?」
「はい?」


大切な友をあんな目に合わせ、その元凶を許さない。
アチルは怒りかえった瞳を見開き、怒号を上げる。






「美野里を……あんな目に合わせたのは誰かと聞いているんです!!!」






周囲に冷たい冷気が漏れ出す。
怒りによって、アチルの魔力が外へと放出されているのだ。
空気が変化したことに、ジェルシカは警戒の動きを見せる。だが、ラヴァは、




「…………あの女をあんな目に、ですか」
「………………」


今だ表情を変えない、平然とした顔をする彼女は何の躊躇もなく口にする。




「それは、私です」
「!!!!」


次の瞬間。
アチルの剣先から氷の斬撃がラヴァに目がけて放たれた。
強力な魔力で形成された鋭利に尖った氷の刃。それは小さな銃弾では破壊することはできないはずのものだった。
だが、それを真横か突き切った赤い閃光が瞬時にかき消す。


「ッ!?」


アチルは視線をラヴァからその隣にいる女へと向ける。
それは、先程までなにも動きを見せなかった赤い銃を構えるジェルシカだ。


「悪いけど、自分の仲間に対しての危険は見逃せないのよね」
「クッ!!」


アチルは再び魔法を使おうとした。
しかし、そこでフミカの手が彼女の視界を塞ぐ。


「アチル、暑くなりすぎ」
「っ!? で、でも」
「わかってるわよ。でもまずは冷静になること、それは剣だろうと魔法だろうと一緒」


優しい言葉で、アチルの精神を落ち着かせるフミカ。
その姿は彼女がこの都市に来て手に入れた物。そして、以前にいた、ウェーイクトでは手にしていなかった物。
ラヴァは、そんな彼女の姿に不敵な笑みをこぼした。
それは、自分が知っていた彼女でないと、いう意味を含んで…。
だが、その次の瞬間。


ッチ! と、ラヴァの頬に赤い一筋の傷がつけられる。


「!!」
「……何笑ってるかしらないけど。アンタ、まだ理解してないの?」


一瞬の動きで正確な銃弾を撃ち出す。
恐るべき早撃ちを見せたフミカはアチルの手前、その冷酷な目を細め、言葉を続ける。


「私は確かに冷静にって言ったわ。でも、それは感情まで落とせって言ってるわけじゃないのよ」
「……………………………」
「アチルには悪いけど、アンタの相手は私がしてあげる。…………でも、覚悟はしてなさい。その不愉快な顔、直ぐにでも壊してやるから」


言葉を凶器に変える。
背中に刃物が突き付けられた感覚を抱いた、アチルやジェルシカ。




そして、そんな中でフミカの怒りはその場を一瞬にして殺気めいた空間へと変質させた。









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