異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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戦炎



第三十四話 戦炎




都市、インデール・フレイムの東門近く。
そこには現在、構造上に問題があるとされ建設真っ只中だった闘技場が存在していた。
円形の空間を観客席が囲んだ戦いための場。
だが、外での戦闘が基本なハンターに何故そんな物が必要なのか。
その理由は、ハンター同士の決闘による各自の実力強化が目的だった。
円形の空間、アリーナ―で数十のハンターたちが戦えるよう広さを多く取り、大勢の実力上げがインデール・フレイムの都市を支える上の者たちの考えだ。
そして、現在の今。
その建設はほぼ完成しているに近かった。
しかし、一見完成されているふうに見える部分の裏で、壁の強度や地面といった様々な問題が発生し、それが理由で今だ建設が真っ只中になっている。
当然、開口も延期となり侵入も禁止になっている。
だから、人の姿はないはず。
だが、そのアリーナの中心に、


「……よく来たな」


筋肉質ではない平凡な体つきをした容姿をした腰に二丁の銃を携帯する男。
銃使いのペシアが不敵な笑みを浮かべ立っている。
彼が見つめるのはアリーナの入場口。
その先からゆっくりとした足取りで真っ直ぐこちらに向かってやってくる少年を見据える。


「………………」


ザッ、と土を踏みしめる音。
戦闘着を着こなし腰には小さな箱と背中には柄の長いハンマーを背負う。普段、かきあげている髪を下ろし細く鋭い瞳を向け、少年といった雰囲気を微塵と表に出さない存在。
衝光使い。
鍛冶師ルーサーは自身の間合いである一定の距離で足を止めペシアを睨みつける。


「へぇ、その恰好からして本気みたいだな。……もしかしたら、怖気づいて逃げたんじゃねえかと思ったよ。いや、ホントに」


殺気めいた瞳を向けられているにも関わらず、ペシアは平然とした態度で笑いながら言葉を続ける。
だが、次の瞬間。


「黙れ」
「!?」


一言。
ルーサーの口から言葉が放たれた直後、その体から殺気と威圧が周囲の空気を一瞬にして変質させる。
まるで上から押さえつけられているような重圧感を醸し出す。普通の人間なら、その重みに耐え兼ね身動き以前に言葉すら口にする事が出来ない。
だが、それでも尚平気でいられるペシアは口元を緩め、


「………こいつは凄ぇな」
「……………」
「ははっ、偉く殺気だってんな。……ここに来る前に何かあったのか?」
「………………」


尋ねた言葉の中、ルーサーの表情に動きがあった。
その反応を見逃さないかったペシアは、さらに軽い調子で言葉を続けようとする。
だが、


「…………………………」


返答する素振りすら見せなかったルーサーは無言のまま背中に背負うハンマーを抜き取り、切れのいい動きで真横に武器を振り払った。
そして、その口は動く。






「衝光、ラストフレイム」






その力は衝光の第二段階。
ルーサーの言葉と共にハンマーは姿を変え柄の長い光炎剣へと変貌を遂げる。
その炎の勢いは力強く、そして荒々しい。
まるで主の心をそのまま現しているかのようにも見え、傍からでもその圧倒的な力の差が分かってしまう。
しかし、そんな力が顕現されたのを前にしてもペシアの口は閉じず、さらに活発的に言葉が続く。


「……何だ、お前も衝光使いだったのか。はっ、この都市は衝光使いだらけか?」
「………そんなにいねえよ。……数えても数人ほどだ」


まるで全員を知っているかのような口ぶりを言葉に出すルーサー。
対して、ペシアは口元を緩めると、




「………なるほど。なら、その中に美野里も入ってるってわけか?」




挑発めいた言葉。
それは予想どおり、大きな動きを見せた。
周囲に広がっていた殺気がさらに鋭く刃のように研ぎ澄まされたのだ。
ルーサーは、炎剣の柄を硬く握り締め、真っ赤な瞳を見開く。対してペシアはそこで小さな笑みを見せる。


(ははっ、……これだよ。これ…)


彼は今までの戦いの中、どこかで物足りない気持ちを心に抱いていた。
それは、どれほどの怪物と対峙しても、またどれほどのハンターと戦ったとしても味わえなかったもの。
強敵との死闘による殺気と殺気がぶつかり合う際の興奮だ。
だが、ウェーイクトにはもう彼を満足させる者はいない。かつて最強とまで言われたフミカが都市を離れてそれがより一層に強くなった。


自分が、まるで獲物を探す獣のように感じた。


しかし、そんな彼は今。
目の前に理想ともいえる存在が立っていることを自覚する。
フミカが勝てないと言うほどの相手。限りなく力を出し戦える好敵手であり、自身が待ち望んでいた心を揺さぶる者。
それは、彼の感情をむき出しにするに値する者。




「面白れぇ…」




自然と口からその言葉が漏れる。
ペシアは凶悪な笑みと共に歯をむき出しにさせ、その顔はまるで悪魔が乗り移ったような表情をしていた。そして、衝光の力で赤く変色させた瞳を持つルーサーもそれに反応するように手に持つ炎剣の炎をさらに強大にさせる。


「……さっさと始めるぞ」
「ああ、そうだな」


ルーサーの言葉を返すペシア。
緊迫とした空間の中、二人の視線が交差する。観客のいない、自分たちしかいない闘技場。微かに、冷たい風が彼らの頬に伝う。
そして、風が一時止んだ。
その瞬間に、




「「!!」」




溜めこまれた火ぶたが切って落とされてた。


「ッ!!」


バン!! と先に地面を蹴飛ばし走り出したのはルーサーだ。
ペシアは腰に納めた一丁の銃を取り出し目の前に迫る敵に向けて銃弾を一発撃ち出す。
空気を無視して、まっすぐと突き進む弾。
ルーサーは当初、何か罠などの仕掛けてくるのではないかと攻撃に警戒していた。赤く変色したことによって強化された瞳を使い、弾の表面まで正確に捉えるほどにだ。
だが、弾には何も仕掛けもない。
至って、平凡な攻撃だった。
しかし、まだ油断はできない。
至近距離からの攻撃はまだ避けたほうがいいと判断したルーサーは、


(……試しだ)


小手調べを含め、迫る弾丸に向かって炎剣を真横から振り下ろした。
ビュッ、と空気を切り裂く音が聞こえ、さらにその剣からは炎の斬撃が放たれる。
剣の大きさとは比較にならないほどの大きさの炎。
宙を進む炎は、弾丸を呑み込むように覆い包むとそのまま一直線に前方へと突き進み、狙いであるペシアに迫る。
方向もなにも間違いはない正確な攻撃だ。
だが、巨大な攻撃は確かに威力はある一方でスピードや死角といったマイナスの面もある。
ペシアは大ざっぱな攻撃を軽い動きで下にしゃがみ込みながら回避すると、それに続けて数弾の銃弾を前へと撃ち出した。
また同じ攻撃を、と舌打ちを打つルーサーは銃弾を今度は対峙するのではなく最小限の動きで全て回避し、その一瞬の隙を利用し手に持つ炎剣に衝光の力を集中させる。
そして、自身の真下に存在する地面に向かって剣先を突き向け、


「衝光、大打現!!」


ドッ!!! と地面に叩きつけるように炎剣を突き刺し小さな地響きがペシアを襲う。短距離での地響きに彼らのいる足場が大きく揺れ動き、さらにはその剣先から割れた裂け目。
そこから、衝光の塊を変質させた炎の槍がペシアに向かって放たれた。
炎の大きさをさっきに比べ小さくなったが、その一方で威力を一点に集中させスピードを重視した攻撃へと変化させる。
威力を衰えることない一点の炎の槍は目の前に立つペシアに向かって突き進み、


「!!?」


次の瞬間。
避ける時間があったんにも関わらず、一閃し炎の槍がペシアの胴体を貫いた。




















都市に建ち並ぶ建物の屋根。
人の目の届かない、その場に美野里は体を縮こませ座り込んでいた。


「……………………」


泣き顔を隠すように前に組んだ腕に顔を埋める美野里。
ここに逃げてきたのはあれから数時間前のことになる。誰にも泣き顔を見せたくない、人に会いたくない、と屋根上に跳び移ってから無言のままに後悔を続けていた。
本当にみっともない、と自分でも思ってしまう。


「(私、何であんなこと言っちゃたんだろ……)」


あの時、ルーサーの言葉を冷たく感じた事は事実だ。
たが、真剣に聞いて考えればその言葉の裏にあるものを理解するのは簡単だった。
何故、彼が美野里に対しあんなことを言ったのか。
それは、この都市に美野里が初めて来て何をどうすればいいのか悩んでいた時や自分が何かに失敗して落ち込んでいた時。
いつも陰で助けてくれたのは、彼だった。




(何も知らない…。そんなこと当たり前なのに。……ここと違う世界から来たなんて、話したことなんてないのに……)




それなのに、自分はあまりに理不尽なことを言ってしまった。精神ばかり弱く、一時の感情で失敗してしまった。
こんな気持ちで、どう彼に誤ればいいのかわからない。
唇を紡ぐ美野里は、ギュっと膝上に置く手を硬く握り締め、


「嫌われちゃった………かな……」


ボソリ、と小さな声で呟いた。
誰にも聞かれないはずの言葉を一人で……………………………。
だが、その直後だ。






「!?」






ドォン!! と平穏な空気を掻き消す銃音が鳴り響く。
美野里はその音に咄嗟の反応を見せたが数秒の差で避けることができず無防備だった片足に一発の銃弾が命中した。


「っあ!?」


突然の攻撃と撃たれたことによる激痛。
弾は何とか貫通はせず、足をかすめ血がジワリと流れた程度で済んだ。だが、思いのほか立てず、出血と感覚の麻痺で立つこともおろか姿勢を崩し逆に横に倒れてしまった。
神経の損傷が足指の感覚まで次第に消していく。


(まず……い)


歯を噛み締める美野里は鈍い動きで顔を上げた。
そして、そこにいたのは、




「あ……アンタたち」




青と赤の銃を携帯する、ペシアの付き人でもある二人。
不服そうな顔を浮かべるジェルシカと無表情な顔を向け青い銃を手に持つラヴァだ。
冷酷な瞳の彼女の体には数本の包帯が腕や足に巻かれており、頬には小さな火傷のような痕が残っている。
美野里はここまでの至近距離まで近づかれて尚、彼女たちの気配に気づかなかったことに驚きと疑問を抱いた。いくら警戒が怠っていたとしても、そこまでは感じられないはずがないと思っていたからだ。
どうすれば…、美野里は今の状況に歯噛みする。
しかし、その考えは直後に消え失せた。
何故なら次の瞬間、






「ッ!?」






ドォン、と一発の銃声。
無表情のラヴァ。その手に持つ銃から銃弾が撃ち出され、美野里のもう片方の足が今度こそ確実に撃ち抜かれたからだ。
そして、銃音がさらに続き、その場に少女の悲鳴が響き渡った。









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