異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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銃撃と衝光



第二十九話 銃撃と衝光




赤い銃。
武器自体、生で見るのは初めてだった。
しかし、美野里が知るそれとはどこかが違う。それもそのはず、数分前に放たれた銃音は聞き間違いでなければ、確かに一回だったはず。
だが、地面に無残に散らばるタイピの大群。普通に考えてもこの数を一発の銃弾で撃ち落とすことは圧倒的に弾数が足りない。
詳細の掴めない赤い銃を構える、赤髪の女。美野里は手に持つダガーの柄を握り締め、警戒した表情で口を開く。


「アンタ、何やってるの…」
「ん、何って煩かったから」


淡々な返事。
女は髪を片手で掻き毟りながら大きく溜め息を吐く。
だが、その瞳は鋭く、美野里の手に持つダガーを見据えていた。


「アンタ、インデールのハンター?」
「………ええ、そうだけど。それが何?」


へえ…、と美野里の言葉に口元を緩める女。
その顔からは、薄黒く殺気の秘めた雰囲気を漂わせている。じりっ、と地面を踏みしめながら後ずさる美野里。
対して、女は手に持つ赤い銃の弾を確認しつつ、そっけなく言った。




「じゃあ、アンタが魔法使いといた女ってことでいいのよね?」




瞬間。
バックリ、と女の瞳孔が見開く。
殺気を表に露わにした女は赤い銃を素早く構え、直後に躊躇なく発砲した。








ラミの草原が広がる中、突如として目の前に現れた黒布の二人。
アチルとそう変わらない顔つきをした金髪の少年。その黒布の隙間からは銀の銃が見え隠れする。
武器が銃。つまり、その少年はウェーイクト・ハリケーン出身の者であると推測できた。


「…………ウェーイクト・ハリケーンの方々ですか?」
「はい」


アチルは目の前で礼儀正しそうな笑顔を見せる少年に眉を顰める。
何故なら、背後から現れた二人。そんな彼らからは今でも全くとして気配が感じられないからだ。視界に入っているにも関わらず、まるでそこにいないように感じてしまいそうになる。
アルヴィアン・ウォーターの魔法にも気配を消すといった魔法がある。もしかすれば、ウェーイクト・ハリケーンにも何かしらの気配を消す術があるのかもしれない。
だが、アチルはその考えは一端思考から外す。
それは一番に気にしないといけない考えがあるからだ。
そう、態々こうしてアチルに会いに来た二人。そこにある、真意を確かめること…。


「私に何か用で?」
「いえいえ、こちらもお初なのでお声をかけてみようと思いまして」
「………………」


わざとらしい言い回しにアチルの静かに警戒の瞳を向ける。
言葉の罠に掛からないよう、思考を冷静にする。
だが、


「それにしても、先日のクラウザメ捕獲はお見事でした」
「!?」


突然と少年が話題に出した言葉の内容。
冷静だったアチルは目が見開き、手が無意識に腰の携える杖に向かう。


「おっと、そう警戒しないでください。いやぁ、あの硬い皮膚を斬るとは流石、魔法使いといいますか」
「お世辞は結構です。……貴方は何を目論んでいるんですか?」
「ははっ、目論みも何も…………ただ、私も少し小耳に挟んだだけで気になっただけで」


アチルの険しい表情。
少年は動じることなく、そう口にする。
そして、目をゆっくりと細め、はっきりと鮮明に聞こえるような声で尋ねた。






「………貴方と同行したというインデールのハンターにね」
















森林の中、何度と銃撃が止むことなく続く。
ガッ、と地面を蹴飛ばし走る美野里は歯を噛み締めながら後方から迫る女を睨む。


「どうしたどうした! その程度なわけ!!」
「っく!」


チャン! と音と共に美野里の真横に生える木の枝が撃ち抜かれた。
それに続き、左右から連続と銃弾が着弾する。美野里は移動速度を緩めることなく走り続ける。
銃弾に打ち抜かれることなく逃げる。
それは危機感知による直感。この世界に生きてきた中で培った術だ。
だが、人間のスピードと銃から放たれる弾の速さは天と地ほどの差で違い過ぎる。
チッ、と次第にその回避の距離は狭まり、コート端を弾が掠れた。


(っ、衝光を……使うしか)


コートに弾が接触したことに顔を歪める美野里。
弾を防ぐことが物理的に可能とするのは超人的な力をその身に発揮することができる、衝光の力だけだ。
しかし、美野里自身。その力の詳細を他の者に教えることも、ましてや見せることもしたくなかった。
何故なら、インデール・フレイムで生きていく中で、衝光の力は………。


「チッ、しゃらくせえ……」


と、その時。
後方からその声が聞こえた。
視線を後ろに向けると銃を持つ女が懐から赤い弾丸を取り出し装填しているのが見えた。そして、その瞬間。


「ッ!!!」


美野里は全身から冷や汗が流れ出すことを認識する。……あれは危険だ。絶対に食らってはならない。そう体がその危険をダイレクトに意識へと伝えてくる。


「……これで死んでも、恨まないでね」
「っあ!?」


だが、女は既に赤い銃身がまっすぐと前に向けていた。
赤い銃の銃口。
そこから漏れる、脅威。
美野里は体を振り返らせ、その口が大きく動いた。
が……、






「終わりな、バーレスト」




女が言葉を発した。
その直後、銃声と共に銃口から人間一人呑み込む大きさの赤い輝きのレーザが放出された。
………それはまさに一瞬の出来事だったと言える。
一直線上の物全てを焼きつくしたレーザー。
威力はそのままだ。
砂煙が巻き上がるだけで、そこに何も残らない。
















何度と聞こえた銃声に続き、その後の巨大な地響き。
ざわつく森林奥にアチルは顔を上げ、何が起きたのかと辺りを見渡しながら視線を飛ばす。
一方でその音に心当たりのある少年は、ボソリと呟く。


「…(あのバカは、何やってやがる)」












赤いレーザーが次第に力を失い消えていく。
女は銃口から出る煙を振り払い、腰に手を当てながらつまらなそうに溜め息を吐く。


「呆気ないわね。全く、だからウェーイクトが最強だって言ってるのに、あのバカは」


誰の事を言っているのか、女はそう言って体の向きを変えるとそのままその場から去ろうとする。
目の前で殺した者。
全くと謝罪も何もない。
平然とした態度で何事もなかったように足を動かした。








「……勝手に殺してるんじゃないわよ」








……そう、その声を聞くまでは。
目を見開かせ、女の顔は驚きに染められる。
急いで、動揺しながらも後ろに振り返り、レーザーによって地面から巻き上がる土煙、その奥を睨む。
一直線上に何も存在することはず。
だが、そこに二本足で立つ一つの陰、一人の少女。




「……衝光、ルーツライト」




光輝く長髪を揺らし、そこに健在する美野里。
光り輝く短剣と長刀を繋ぎ合わせた武器を手に、目の前で驚きに硬直する女を見据える。


「っぐ!」


その姿は異様だった。
女は目の前の存在に顔を歪ませ、腰に納めた銃を抜き取り瞬時に銃弾を乱射する。
確実の四肢を打ち抜くための銃弾。だが、衝光を扱う美野里にとってその弾はゆっくりと動く的だった。
キンキンキン!! と瞬速の光刀による斬撃が弾全てを斬り捨てる。


「ふ、……………ふざけんなあああああ!!」


自身の攻撃をいとも簡単に防がれた。さっきまで逃げていたのは本気をだしていなかったから。
つまりは持て遊んでいたと思っていたのが逆に持て遊ばれていたのだ。
怒りに叫ぶ女は懐から赤い弾を取り出し銃に装填する。
単調的に前へ向け、さっきと同じように構えた。
頭に血が上っているのが、見て理解できる。
美野里はそんな光景を静かに見据え、避けることも一度は考えた。しかし、ここで逃げは逆に女の戦意を高めてしまうかもしれない。
だから、美野里はそこに留まる。
手に持つ、繋ぎ合わせた光剣と光刀を一度離す。


「衝光」


言葉を呟きながら、光剣を腰に納める美野里はもう片方の腰に携える光刀を抜き取り、手に持っていた光刀と今取り出した武器。
右と左。
二つの刀を一つの刀へ合体させた。
そして、


「ルーツライト」


瞬間。
光り輝く長髪から二本の糸のような物が揺れ動き、美野里の手に持つ光刀と繋がる。
さらにその直後、光は輝きを増し、驚異的な力をその場に示す。


「死ねええええええええええええええ!!!!!」


目の前の光景すら認識できていない女。
叫び声と共に銃口から再び赤きレーザーが放出させた。先程とは大きさがケタ違いの赤き攻撃。
美野里は眩い輝きを放つ光刀を真上から振り上げ、


「ッ!!!!」


ブン!! と風を斬る音と共に光の刀は赤きレーザーを一瞬で相殺した。
そして、そのまま銃を構える女の体は余波を真面から受け、後方に吹き飛ばされた。














吹き飛ばされる一直線上に木々がなかったことが、女にとって幸いだった。


「がっあ!?」


黒布に覆われた女の体は森林を抜け、その先にあるラミが広がる草原まで吹き飛ばされた。
ラミの草木がクッションとなり、それほど身体にダメージはなかった。
だが、それでも自身の力を正面から打ち破られたことは精神的にダメージが大きい。女は呻き声を上げ、不意に瞳を開けた。


「!?」


そこにいたのはアチルと会話していた少年とその後ろにつく女。
無様な姿だ。地面に倒れる女は顔を歪ませ、歯噛みする。
と、そこに上空から着地する影が現れた。


長髪を揺らし舞い降りた、美野里だ。


「アチル?」
「え、美野里!? ……どうして」


光武器を携えた美野里。その姿を見れば、ルーツライトを使用しているのは一目瞭然だ。
しかし、あまりにそれはタイミングが悪すぎた。
異様な空気がその場に漂う中、ザッと茂みを踏みしめた目を見開く少年。




「おいおい、何だよそれ……これが衝光使い、なのか」




少年はインデール・フレイム。その都市で噂される衝光について言葉だけを理解していた。
だが、実際に見るのはそれが初めてだった。
あまりの驚きに少年の声からはさっきまでの礼儀正しい言葉使いが消えている。
後ろに使える女は溜め息をつきながら、口を開く。


「主様、喋り方が」
「あっ……………………いや、もうめんどいからいい」


少年は誤魔化すように腰に手を当てながら顔を伏せる。
後ろからの視線を気にする素振りが見えたが、少年はゆっくりとした動きで顔を上げ、腰に携える銃を抜き取り上空に向けた。


「「!?」」
「主様、何をッ!」


怪しい行動に警戒する美野里とアチル。
対して後ろにつく女は口を開くが、その瞬間。
ドォン!!! と銃音が上空に打ち出され掻き消された。


ヴゥン!!! と。
直後、その場一体に突如として重い重圧が支配する。


「ッあ!?」


突然の奇襲。
アチルは膝を落とし、体に圧し掛かる重圧に顔を歪ませる。全く予想していなかったため、魔法を使う隙さえなかった。
しかし、それは彼女だけと限ったわけではない。
少年の後ろについていた女も同じように膝を落としはしなかったが、体を屈ませ重圧に耐えている。
少年は味方すら巻き込んで、今の現象を起こしたのだ。
そして、そんな事をした真意。
それは……、




「……アンタ、何を」




目の前で立つ、その場に構えを解かず健在する美野里を確かめるためだ。


「……………」


ドン! と少年は美野里を見つめながら再び銃弾を空に撃つ。
瞬間、今まで圧し掛かっていた重圧がまるで嘘だったかのように消えた。
一体何がしたかったのか、起き上がったアチルが険しい表情を向ける中、少年は後ろに立つ女に興奮気味な調子で話しかける。


「おい、今の耐えたぞ!! 俺、こんなの初めて何だけど!」
「……主様、いきなりは止めてくださ」
「だって、気になって仕方がなかったし!!」


少年はそう言って、口元を緩ませながら美野里に視線を向ける。


「それに衝光もそうだけど…………よく見たら可愛いいし」
「っえ!?」


不意の言葉。
美野里は目を見開かせ反応を見せるが、頬を染めるまではいかず、逆に警戒を強くした。。
しかし、少年はその反応に対し逆に感情を高まらせ、


「おい、ジェルシカ! お前、バーレストブラット使ったのか?」
「っ、ああ………そうだよ。後でお仕置きでも何でもしたらいいじゃん」


美野里に負け吹き飛ばされ草木に倒れた女、ジェルシカはヤケクソ気味にそう口にする。だが、少年は全くとして気にしておらず体をウズウズとさせると、後ろにつく女に再び話しかけた。


「なぁなぁ、いいよな、ラヴァ! 実力も十分すぎだし、俺も気に入ったしさ!!」
「主様……………はぁ」


今まで少年についていた女、ラヴァは顔を手で覆い深く溜め息を漏らした。
この主様はどうにも抑えが利かない。その性格を知っているからこそつかえることに対し疲れが取れないのだろう。
くるり、と顔を美野里に向ける少年。


「お前、名前は?」
「……………美野里だけど、何か?」
「美野里……そうか、美野里か。……俺はペシア。ウェーイクト・ハリケーン出身のハンターだ」
「……………」


少年、ペシアは足を動かし徐々に美野里に近づいていく。
さっきまで後ろからついていたラヴァは呆れたような表情を見せ、草木に倒れるジェルシカも同じような表情をしている。
あまりにおかしな空気だ。
美野里は一応と警戒した構えを取り、距離を縮めてくる少年を睨む。
だが、次の瞬間。


トン、と片膝をつく。
さらにはもう片方の掌を美野里に向けるペシア。
その口から、出た言葉は……。








「美野里。…………今から俺の妃になれ!!」








…………………………………………………………………………………………………。
瞬間。頭の中が真っ白になったようだった。
その場が一瞬にして固まり、傍にいたアチルは口をパクパクと開き、ペシアにつく二人は呆れように顔を手で覆い溜め息を吐く。


そして、数秒固まった美野里は目を見開き、


「…………え?」








それは………予想すらしていなかった、事態だった。







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