みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです
87.なんの為に人は頑張るのか
「やーやー、二葉さん。調子はどう?」
練習後のクールダウン中に、いつもの調子で色葉が私の隣に座る。
練習終わりだと言うのに、色葉はケロっとしている。
私でさえ足にきていると言うのに、この子は無限の体力を持っているんだろうか?
「別にいつもと変わらないけど……どうしたの?」
「いやいやいや。もうすぐ、三年生も引退じゃん? そこんとこ、どうなのかなーって!」
「まあ……それはそうだけど。色葉はどうなの? やっぱ寂しいもんなの?」
どこか他人ごとの様に問いかえす。質問に質問で返す形になってしまったけど、私だって何も感じていない訳ではない。
ただ、先輩の引退で涙を流しながら、感動の最後を迎えている自分の姿は、どうしても想像できない。
その辺りの感情が希薄なのだろうか、と自分で心配になる。
「んー、別に寂しくはないかなー? こう言っちゃなんだけど、その分、試合に出れる様になるし! 実際、一年生と三年生って、言ってもそこまで関係を深く築く時間ってないじゃん?」
確かにそういう考え方もある。案外ストイックで、それでいてドライなんだなと感心しつつ、我が道を行くって感じの色葉からの発言だからこそ、余計に納得させられた。それと同時に少し救われた気持ちになる。
色葉とは、こういうデリケートな部分の感覚が近いところがある。全く性格が違う様に見えるけど、一緒にいて気が楽というか、落ち着くのはそれが要因なんだろう。
「でもなー、富田先輩のシュートが見れなくなるのはちょー寂しいな〜! あれはもう芸術だよ芸術! 同じシューターとしてあれは惚れるわ〜」
「シュートフォーム綺麗だもんね」
「私もあんなシュート打ちたいなー!」
「でも……色葉って、シューターとしてのタイプ違くない?」
「そう! そうなんだよなぁ! 理想と現実の違いに苦悩する日々だよー! あぁ、私はどうしたらいいんた……」
わしゃわしゃと自分の頭を散らかしながら、頭を抱えてうずくまる。
本気で悩んでる人はそんな事しないと思うんだけど……
富田先輩が、綺麗なフォームで安定してシュートを決めるスタンダードなシューターだとすれば、色葉はその対極に位置する存在だ。
ボールを持った瞬間に、もうシュートを放っていると勘違いしてしまうほどの、異常なまでのクイックシュートが武器だ。
パスをもらう前からシュートを打つ気満々。思い切りが半端ない。
一口にシューターと言っても色々なタイプがいるけど、色葉みたいなのは結構珍しい。
ただのクイックシューターならそんなに大したことはないんだけど、色葉の場合、入りだしたら止まらない怖さがある。
調子の良い時ほど、連続で自分がシュートを打つのをためらう人も多い。本番の大事なゲームでは猶更だ。
ポンポンシュートを放って、チームのリズムが狂う事と、他のチームメイトの士気が下がるのを恐れるからだ。
実際、シュートが入ればオールオーケイと言うわけではない。一試合通してのゲームの展開をコントロールできなければ、勝利を収める事は出来ない。
そして、調子がよかろうが悪かろうが、自分自身をコントロールできなければ、チーム全体を纏める事はできない。
なのに、この色葉というプレーヤーは、それを全く恐れないどころか、シュートが外れる事すら恐れていない。
入ろうが、入るまいがお構いなし。とにかく打つ。下手をすれば、お前シュート打ちすぎだよ!と怒られても不思議じゃない。
だけど色葉は迷わない。シュートを打つ事に一切躊躇しない。強靭なメンタルといえば聞こえはいいけど……たぶん、やっぱり、空気が読めないだけなんだろうな。
「でもさ、私には私の良さがあると思うんだよね。そこんとこどう思うよ?」
「まあ……そうだね」
「うんうん。やっぱそうだよね!……具体的にはどこ?」
「えっ?」
「具体的にほめて」
な、なんか凄いぐいぐいくる……。
「えっと……ハートが強いとか?」
「二葉……」
ゆらりと体を寄せてきながら、私の肩に手をポンと置く。目に光がない。もしかして、空気が読めないことを気にしていた!?
「それ、あり寄りのありだね!!」
「もう訳わかんない……」
「いやいや、シューターにとってハートの強さって、けっこう重要よ? シュート外れるのいちいち気にしてたら、シューターなんてやってらんないって実際」
「とてもシューターの発言とは思えないね」
「ま、ダメだと思ったら監督が試合に出さないでしょ! その為の監督なんだしー」
……なるほど。その発想はなかった。
普通、監督やコーチに駄目だと思われて、試合のメンバーから外される事をみんな恐れる。誰だって基本的には試合に出たいと思っているし、試合で活躍するために、毎日必死になって練習をしているんだから。
だけど、色葉はその逆だったみたいだ。
自分の実力はこうだ。駄目だと思ったら使わなければいい。いいと思ったら私を使え。その代わり、失敗してもそれは私を出した監督が悪い! と、流石にそこまでは言っていないか。
「これだからバスケは面白いんだよね……」
「え? なんて?」
「なんでもない」
「変な奴だなー二葉は」
「色葉にだけは言われたくない……」
「ま、どっちにしても三年生と一緒に出られる最後の大会なんだし、自分の実力を試すにはもってこいだしね! やってやるぜー!」
うでをぶんぶん振り回しながら体育館を走り回る色葉の背中を見送りながら、あんな風にポジティブに物事を捉えられたら、どんなに楽しい人生になるんだろうと、そんな事を考えている。
別に自分が他者と比べて、極端にネガティブだとは思わない。
だけど、それにしたって、色葉の思考には到底追いつかない。
試合に出るために頑張るのか、試合で結果を残すために頑張るのか、あるいはそのどちらでもないのか……。
考え方はひとそれぞれなんだなと思い知らされた。
「今度、先輩にも聞いてみよ……」
練習後のクールダウン中に、いつもの調子で色葉が私の隣に座る。
練習終わりだと言うのに、色葉はケロっとしている。
私でさえ足にきていると言うのに、この子は無限の体力を持っているんだろうか?
「別にいつもと変わらないけど……どうしたの?」
「いやいやいや。もうすぐ、三年生も引退じゃん? そこんとこ、どうなのかなーって!」
「まあ……それはそうだけど。色葉はどうなの? やっぱ寂しいもんなの?」
どこか他人ごとの様に問いかえす。質問に質問で返す形になってしまったけど、私だって何も感じていない訳ではない。
ただ、先輩の引退で涙を流しながら、感動の最後を迎えている自分の姿は、どうしても想像できない。
その辺りの感情が希薄なのだろうか、と自分で心配になる。
「んー、別に寂しくはないかなー? こう言っちゃなんだけど、その分、試合に出れる様になるし! 実際、一年生と三年生って、言ってもそこまで関係を深く築く時間ってないじゃん?」
確かにそういう考え方もある。案外ストイックで、それでいてドライなんだなと感心しつつ、我が道を行くって感じの色葉からの発言だからこそ、余計に納得させられた。それと同時に少し救われた気持ちになる。
色葉とは、こういうデリケートな部分の感覚が近いところがある。全く性格が違う様に見えるけど、一緒にいて気が楽というか、落ち着くのはそれが要因なんだろう。
「でもなー、富田先輩のシュートが見れなくなるのはちょー寂しいな〜! あれはもう芸術だよ芸術! 同じシューターとしてあれは惚れるわ〜」
「シュートフォーム綺麗だもんね」
「私もあんなシュート打ちたいなー!」
「でも……色葉って、シューターとしてのタイプ違くない?」
「そう! そうなんだよなぁ! 理想と現実の違いに苦悩する日々だよー! あぁ、私はどうしたらいいんた……」
わしゃわしゃと自分の頭を散らかしながら、頭を抱えてうずくまる。
本気で悩んでる人はそんな事しないと思うんだけど……
富田先輩が、綺麗なフォームで安定してシュートを決めるスタンダードなシューターだとすれば、色葉はその対極に位置する存在だ。
ボールを持った瞬間に、もうシュートを放っていると勘違いしてしまうほどの、異常なまでのクイックシュートが武器だ。
パスをもらう前からシュートを打つ気満々。思い切りが半端ない。
一口にシューターと言っても色々なタイプがいるけど、色葉みたいなのは結構珍しい。
ただのクイックシューターならそんなに大したことはないんだけど、色葉の場合、入りだしたら止まらない怖さがある。
調子の良い時ほど、連続で自分がシュートを打つのをためらう人も多い。本番の大事なゲームでは猶更だ。
ポンポンシュートを放って、チームのリズムが狂う事と、他のチームメイトの士気が下がるのを恐れるからだ。
実際、シュートが入ればオールオーケイと言うわけではない。一試合通してのゲームの展開をコントロールできなければ、勝利を収める事は出来ない。
そして、調子がよかろうが悪かろうが、自分自身をコントロールできなければ、チーム全体を纏める事はできない。
なのに、この色葉というプレーヤーは、それを全く恐れないどころか、シュートが外れる事すら恐れていない。
入ろうが、入るまいがお構いなし。とにかく打つ。下手をすれば、お前シュート打ちすぎだよ!と怒られても不思議じゃない。
だけど色葉は迷わない。シュートを打つ事に一切躊躇しない。強靭なメンタルといえば聞こえはいいけど……たぶん、やっぱり、空気が読めないだけなんだろうな。
「でもさ、私には私の良さがあると思うんだよね。そこんとこどう思うよ?」
「まあ……そうだね」
「うんうん。やっぱそうだよね!……具体的にはどこ?」
「えっ?」
「具体的にほめて」
な、なんか凄いぐいぐいくる……。
「えっと……ハートが強いとか?」
「二葉……」
ゆらりと体を寄せてきながら、私の肩に手をポンと置く。目に光がない。もしかして、空気が読めないことを気にしていた!?
「それ、あり寄りのありだね!!」
「もう訳わかんない……」
「いやいや、シューターにとってハートの強さって、けっこう重要よ? シュート外れるのいちいち気にしてたら、シューターなんてやってらんないって実際」
「とてもシューターの発言とは思えないね」
「ま、ダメだと思ったら監督が試合に出さないでしょ! その為の監督なんだしー」
……なるほど。その発想はなかった。
普通、監督やコーチに駄目だと思われて、試合のメンバーから外される事をみんな恐れる。誰だって基本的には試合に出たいと思っているし、試合で活躍するために、毎日必死になって練習をしているんだから。
だけど、色葉はその逆だったみたいだ。
自分の実力はこうだ。駄目だと思ったら使わなければいい。いいと思ったら私を使え。その代わり、失敗してもそれは私を出した監督が悪い! と、流石にそこまでは言っていないか。
「これだからバスケは面白いんだよね……」
「え? なんて?」
「なんでもない」
「変な奴だなー二葉は」
「色葉にだけは言われたくない……」
「ま、どっちにしても三年生と一緒に出られる最後の大会なんだし、自分の実力を試すにはもってこいだしね! やってやるぜー!」
うでをぶんぶん振り回しながら体育館を走り回る色葉の背中を見送りながら、あんな風にポジティブに物事を捉えられたら、どんなに楽しい人生になるんだろうと、そんな事を考えている。
別に自分が他者と比べて、極端にネガティブだとは思わない。
だけど、それにしたって、色葉の思考には到底追いつかない。
試合に出るために頑張るのか、試合で結果を残すために頑張るのか、あるいはそのどちらでもないのか……。
考え方はひとそれぞれなんだなと思い知らされた。
「今度、先輩にも聞いてみよ……」
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