みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです
78.決して楽ではない道を選ぶのは何故なのか
「……なんで?」
「それは……」
姿勢を正し、たよりの方に体を向ける。
もう逃げていてはダメだ。僕の気持ちを……たよりに伝えなければいけない。
「僕は二葉が好きなんだ」
「……」
「だから、これは受け取れない」
まさか、僕が生きているうちにこんな台詞を口にするとは夢にも思っていなかった。
しかもその相手がたよりだなんて。
「文人は……何か後悔している事とかある?」
後悔している事? そんなのたくさんあるに決まっている。僕の人生なんて後悔の塊みたいなものだ。
人生は選択の連続。二択だろうが三択だろうが、選ぶということは、同時に選ばないという事だ。
幾度となく訪れる人生の分岐点で、正しい選択をし続けるなんて芸当、僕にはとても出来ない。
そもそも、その選択が人生の分岐点であった事に気付くのは、得てして、しばらく先になるのがほとんどなのだから。
「私は後悔してるんだよね」
「何を……?」
「文人の隣にいながら、今まで何もしてこなかった事とか、毎日一緒にいれたのにそうしなかった事とか」
「……」
「あと……好きだって事をもっと早く伝えればよかったなって」
「たより……」
たよりの大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな程、涙が滲んでいた。
時折、鼻をすするのは、涙を堪えているからか、それとも単に寒いからか。
「私に好きでいられるのうざい?」
「そ、そんな事は……」
「だったらさ、プレゼントくらい受け取ってよ」
「でも……それじゃあ、あんまりだろ」
「まだ二葉と付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「まだ付き合っては……いないな」
「じゃあさ、私にもチャンスあるよね?」
「えっと……」
「あるよね?」
「う、うん」
「だったら、細かいことは考えずに、貰っておけばいいんだよ」
「わ、分かった」
「もうちょっと、嬉しそうな顔をしてくれると、私も嬉しいんだけどなー」
冗談っぽくその場を収めてくれたのは、たよりの優しさだ。
たよりはどうして僕のことをそんなに好きでいてくれるのだろう。
自分になんの自身も持てない僕にとってそれは不思議でならない。でも、そんなことをたよりに聞くのは、あまりにも自分勝手だと分かっているので、さすがにやめておいた。
ベンチを後にした僕たちは、寒空の中、帰路についていた。
さっきから、なんとなくお互い言葉を発することなく歩いている。
たよりの鞄を持っている手は、かじかんでいるのか少し赤くなっていた。
そんな手を見ていると、購入したコートを着て、手ぶらになった僕だけど、自分だけポケットの中に手を突っ込むのは少しばかりはばかられた。
「なあ、たより。一つだけ確認しておきたいことがあるんだけどさ、僕が近くにいるのは嫌じゃないか?」
「ん? 別に嫌じゃないけど、なんで?」
たよりの口調がいつも通りに戻っていたことにほんの少し安堵する。
他人が聞けば、ちょっと素っ気ない感じなんだけど、何処と無く安心する。
「僕、バスケ部のマネージャーになろうと思ってるんだ」
「ふーん。……え?!」
「まあ、驚くよな」
「一応、確認なんだけど……男バスのマネージャーじゃないよね?」
「ああ。女子バスケ部、つまりお前達のマネージャーだ」
「ええ?! な、なんでまた急に……」
たよりはとても複雑そうな顔をしている。
理由は聞かなくてもわかる。
「信じる信じないは任せるけど、この件と二葉は全く関係ないからな。あいつにも言っていない事だし」
「……へぇ」
「いや、ジト目やめて」
「じゃあ、なんで?」
「前から色々と思うところはあったんだけどさ。例えば、このまま部活もせずに高校生活を終えてしまっていいんだろうかとか、僕のやりたい事ってなんなんだろうとか、そんな漠然とした不安みたいな。それに小さい頃からバスケをしているお前を見ていて、他の人に比べてバスケってもの自体に興味を持っている」
「確かにルールとかも詳しいもんね」
「とまあ、それは建前だったりするんだけど、本当のきっかけは、お前の特訓に付き合った事なんだ」
「え……?」
「これも前々から思っていた事なんだけど、僕は自分が主役になって活躍するよりも、誰かを応援したりサポートする方が性に合っているんだよな」
「それはなんとなく分かるけど……でもマネージャーって、思ってるほど楽じゃないよ?」
「ああ。分かってるさ。強豪校のマネージャーとなれば尚更だ。で、お前はどう思う?」
「そりゃ個人的には嬉しいし、バスケ部としても助かるけど……。私たちの代にはマネージャーがいないし。ただなあ……」
「ん? なにか気になることでもあるのか?」
「いや……まあ、文人なら大丈夫か……」
やけにふくみのある言い方をする。僕には激務であるマネージャーが務まらないと思っているのかもしれない。
昔、たよりに聞いたことがある。うちの学校の女バスのマネージャーは、全員とまでは言わないが、元々プレーヤーだった人がマネージャーに転向するパターンが殆どだと。
中学の時プレーヤーだったけど、高校の練習についていけなくなった者や、大きな怪我をして選手としての復帰が叶わなかった者。
理由はそれぞれらしいが、みんなバスケが大好きで、バスケに真剣に取り組み、それでも続けることができなくなった人たち。自分がプレーすることができなくても、何らかの形で関わっていたい、バスケを諦めきれない。そんな人たちばかりだったと。
つまりだ……知識や経験、それ以上に気持ちの面で、僕なんかとは比べ物にならない人たちが歴代のマネージャーを務めていたってことだ。
「分かってるさ。僕には少々荷が重いかもしれない。だけどさ、本気で頑張ってる人たちを、本気でサポートしてみたいって思っちゃったんだ」
「そっか。うん。いいと思う」
「本当か?」
「私は賛成」
「たより……ありがとう」
「それは……」
姿勢を正し、たよりの方に体を向ける。
もう逃げていてはダメだ。僕の気持ちを……たよりに伝えなければいけない。
「僕は二葉が好きなんだ」
「……」
「だから、これは受け取れない」
まさか、僕が生きているうちにこんな台詞を口にするとは夢にも思っていなかった。
しかもその相手がたよりだなんて。
「文人は……何か後悔している事とかある?」
後悔している事? そんなのたくさんあるに決まっている。僕の人生なんて後悔の塊みたいなものだ。
人生は選択の連続。二択だろうが三択だろうが、選ぶということは、同時に選ばないという事だ。
幾度となく訪れる人生の分岐点で、正しい選択をし続けるなんて芸当、僕にはとても出来ない。
そもそも、その選択が人生の分岐点であった事に気付くのは、得てして、しばらく先になるのがほとんどなのだから。
「私は後悔してるんだよね」
「何を……?」
「文人の隣にいながら、今まで何もしてこなかった事とか、毎日一緒にいれたのにそうしなかった事とか」
「……」
「あと……好きだって事をもっと早く伝えればよかったなって」
「たより……」
たよりの大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな程、涙が滲んでいた。
時折、鼻をすするのは、涙を堪えているからか、それとも単に寒いからか。
「私に好きでいられるのうざい?」
「そ、そんな事は……」
「だったらさ、プレゼントくらい受け取ってよ」
「でも……それじゃあ、あんまりだろ」
「まだ二葉と付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「まだ付き合っては……いないな」
「じゃあさ、私にもチャンスあるよね?」
「えっと……」
「あるよね?」
「う、うん」
「だったら、細かいことは考えずに、貰っておけばいいんだよ」
「わ、分かった」
「もうちょっと、嬉しそうな顔をしてくれると、私も嬉しいんだけどなー」
冗談っぽくその場を収めてくれたのは、たよりの優しさだ。
たよりはどうして僕のことをそんなに好きでいてくれるのだろう。
自分になんの自身も持てない僕にとってそれは不思議でならない。でも、そんなことをたよりに聞くのは、あまりにも自分勝手だと分かっているので、さすがにやめておいた。
ベンチを後にした僕たちは、寒空の中、帰路についていた。
さっきから、なんとなくお互い言葉を発することなく歩いている。
たよりの鞄を持っている手は、かじかんでいるのか少し赤くなっていた。
そんな手を見ていると、購入したコートを着て、手ぶらになった僕だけど、自分だけポケットの中に手を突っ込むのは少しばかりはばかられた。
「なあ、たより。一つだけ確認しておきたいことがあるんだけどさ、僕が近くにいるのは嫌じゃないか?」
「ん? 別に嫌じゃないけど、なんで?」
たよりの口調がいつも通りに戻っていたことにほんの少し安堵する。
他人が聞けば、ちょっと素っ気ない感じなんだけど、何処と無く安心する。
「僕、バスケ部のマネージャーになろうと思ってるんだ」
「ふーん。……え?!」
「まあ、驚くよな」
「一応、確認なんだけど……男バスのマネージャーじゃないよね?」
「ああ。女子バスケ部、つまりお前達のマネージャーだ」
「ええ?! な、なんでまた急に……」
たよりはとても複雑そうな顔をしている。
理由は聞かなくてもわかる。
「信じる信じないは任せるけど、この件と二葉は全く関係ないからな。あいつにも言っていない事だし」
「……へぇ」
「いや、ジト目やめて」
「じゃあ、なんで?」
「前から色々と思うところはあったんだけどさ。例えば、このまま部活もせずに高校生活を終えてしまっていいんだろうかとか、僕のやりたい事ってなんなんだろうとか、そんな漠然とした不安みたいな。それに小さい頃からバスケをしているお前を見ていて、他の人に比べてバスケってもの自体に興味を持っている」
「確かにルールとかも詳しいもんね」
「とまあ、それは建前だったりするんだけど、本当のきっかけは、お前の特訓に付き合った事なんだ」
「え……?」
「これも前々から思っていた事なんだけど、僕は自分が主役になって活躍するよりも、誰かを応援したりサポートする方が性に合っているんだよな」
「それはなんとなく分かるけど……でもマネージャーって、思ってるほど楽じゃないよ?」
「ああ。分かってるさ。強豪校のマネージャーとなれば尚更だ。で、お前はどう思う?」
「そりゃ個人的には嬉しいし、バスケ部としても助かるけど……。私たちの代にはマネージャーがいないし。ただなあ……」
「ん? なにか気になることでもあるのか?」
「いや……まあ、文人なら大丈夫か……」
やけにふくみのある言い方をする。僕には激務であるマネージャーが務まらないと思っているのかもしれない。
昔、たよりに聞いたことがある。うちの学校の女バスのマネージャーは、全員とまでは言わないが、元々プレーヤーだった人がマネージャーに転向するパターンが殆どだと。
中学の時プレーヤーだったけど、高校の練習についていけなくなった者や、大きな怪我をして選手としての復帰が叶わなかった者。
理由はそれぞれらしいが、みんなバスケが大好きで、バスケに真剣に取り組み、それでも続けることができなくなった人たち。自分がプレーすることができなくても、何らかの形で関わっていたい、バスケを諦めきれない。そんな人たちばかりだったと。
つまりだ……知識や経験、それ以上に気持ちの面で、僕なんかとは比べ物にならない人たちが歴代のマネージャーを務めていたってことだ。
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