みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです

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73.デート?

 以前たよりの特訓に付き合っていた時にどこかへ遊びに行くかと約束をしていたが、たよりからの誘いで実現する事になった。

 家が近いのになんでわざわざ駅前集合なんだろう、という謎を抱えたまま たよりを待っている。
 土曜日の駅前という事もあり、それなりに人通りも多く、家族連れやカップル、彼女を待っているのかお洒落をしてスマホで時間を気にしている男子高校制生等。一概には言えないが、行きかう人の足取りも軽そうに見える。
 それに反比例するかの様に。僕の心は重さを増していく。

 以前たよりから好きだと伝えられ、その時は彼女の気持ちに答える事が出来なかった。
 そのまま曖昧でうやむやな関係を続けたうえに、僕は二葉を選んでしまった。
 その事を、現時点で伝えるべきか、それとも二葉の言う通り今は伝えるべきではないのか……

 僕は二葉が好きだ。あの小生意気で強がりで、バスケの事しか考えてないくせに僕なんかの事を好きだと言ってくれて。そんな可愛くて愛すべき後輩の事が僕は好きだ。
 たよりの告白から時間は結構経っているから、もうあいつは僕のことなんて好きじゃないかも知れない。ただの自意識過剰かも知れない。と、言うのは自分が楽になりたいがための身勝手な言い訳だろうな。

「僕は一体どうしたらいいんだ……」


「何が?」


 独り言に対しての突然の返答に驚いて顔を上げると、そこには見慣れない格好をした、たよりの姿があった。


「おう。たより。いきなり声をかけたらびっくりするじゃないか」


「いや、何回か声をかけたんだけど……」


 そう答えるたよりは、どことなくしおらしく、いつもより女の子らしく感じた。その原因はいつでもパンツルックを貫いてきたあのたよりが、ワンピースを身にまとっているからなのは明らかだった。それも普段絶対に選びそうにないとびきり可愛らしい物だ。


「あの……変かな?」


「何のことだい?」

 何について質問されているのかは、勿論分かっている。それでも咄嗟にそう答えたのは、幼馴染をほめる事に対する照れ隠し以外の何物でもなかった。


「分からないなら別にいいよ」

 僕の白々しい態度に怒ると思っていたんだけど……たよりの柔らかい表情がとても予想外でなんだか調子が狂う。


「嘘だよ。よく似合ってる。そんな服持ってたんだな」


「今日のために買ったんだ」


 今日のためにわざわざ買ったのか。僕も、もう少し服装に気を使ったほうが良かったかもしれないと少し後悔した。まぁ、センスのいい服を持っているかと言われたら、答えるまでもないんだけど。

「そうなのか。その恰好、寒くないのか?」


「ちょっと足がスースーするけど、制服と大して変わらないし」


 言われてみればそうかもしれないが、確か今日はスポッチュに行くはず……今日のたよりの格好は、お世辞にも適しているとは言い難いけど、そこには敢えて触れないことにした。


「……今、えっちな事考えた?」


「え!? いやいや聖人である僕がそんな事を考えるわけないだろ?」


 いつから廃人から聖人にクラスアップしたの、と笑うたより。やっぱり少し調子が狂うな。

 
「いや、でも本当に似合ってるよ。」


「……ありがと。じゃ行こっか」

 振り返る時にちらっと見えた、たよりの頬は、ほんのりピンク色に紅潮していた。
 スポッチュに移動した僕たちは入店し、まずは肩慣らしにとキャッチボールを始めた。正に肩慣らし。
 少しだけ汚れた野球ボールが僕とたよりの間を行ったり来たりしている。キャッチボールなんて子供の時以来だ。ただ単にボールを投げあっているだけなのに、なんでこんなに楽しいんだろう。
 よく、会話がキャッチボールに例えられる事があるけど、野球のキャッチボールと同じように受け取った物をそのまま相手に返せれば、人間関係は現代ほど複雑にはなっていなかったのではないだろうか。

「なんかさ、キャッチボールしてると、青春って感じしないか?」


「そう? 夕日の沈みかけた河原で友情を深める的な?」


「そうそう。一緒に甲子園目指そうぜみたいな」


「どうかなー。よっと」


「おっと」


「あはは。ごめんごめん」


 たよりは運動神経が良い。と、思っていたけど、案外野球のスローイングのコントロールはなかったようだ。「体も温まってきたことだしそろそろ次に行くか」と促すと、たよりはノリノリでうなずいた。最初はお互い変な緊張感があったのだが、体を動かすことで力が抜けて、自然体で接することができていた。

「次は何やろうか?」


「卓球!」


「じゃあ勝負するか?」


「望むところ」


 カコンカコンと今度はピンポン玉が僕たちの間を行ったり来たりする。僕は決して卓球が得意な方ではないけど、ちょっとした変化球くらいなら打つことができる。対してたよりは……どんな球にも全力で食らいつき、全て直球で返してくる。
 こう言っては何だが、このタイプは少しタイミングをずらしてリズムを崩してやると、簡単に点を取ることができる。
 たよりは「えい」とか「あ!」とかちょっとかわいらしい声を出しながらラケットをぶんぶん振り回している。まるで子供を見ているようで、微笑ましい光景ではあるが、すでに僕はマッチポイント。

「そこだ!」

 コーンと音を立てながら、僕の会心のスマッシュが決まった瞬間僕の勝利が決定した。


「あっ! 負けちゃった」


「ふっ。卓球部をなめるなよ」


「はいはい」


 次はバスケットボールのフリースローで勝負することになったが、結果は言うまでもなくたよりの圧勝。こればかりは何度やっても勝てる気がしない。


「これで一勝一敗だね」


「そうだな。とろこでこれ、罰ゲームとかあるのか?」


 以前、某落ちものゲームで対戦した際に、負けたほうが勝ったほうのいう事を何でも聞くという、王道中の王道な罰ゲームを実行した。その結果、僕はたよりに告白されることとなった訳だけど。
 まあ、今回はそういった展開にはならないだろうけど。



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