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54.夢

 夢を見た。他愛もない夢だ。

 ここで言う夢とは、将来警察官になりたいとか、宝くじを当てるのが夢なんだ、とかでは無く、文字通り寝ている時に見るあの夢の事だ。

 夢の中で、何故か僕はバスケ部に入部していた。舞台は全国大会の決勝戦。仲間たちと円陣を組み、大声を出して気合を入れる。

 さあ、試合が始まるぞ。おっと、しまった。バッシュを履いていないじゃ無いか。うっかりしていた。急いでバッシュの紐を締め、コートへ向かう。

 僕は活躍を期待されるエースプレーヤーなのだろう。この試合でもきっと得点王になるに違いない。

 そんな事を考えている最中、ある違和感に気付く。あれ?  仲間達は白色のユニフォームを着ているのに、僕だけ赤色のユニフォームを着ているじゃないか。

 これはまたうっかりしていた。赤色のユニフォームはひとつ前の試合で着用したもので、今から始まる試合は、うちのチームは白色のユニフォームだった。ヤバイヤバイ。急いでユニフォームを着替えなければ……

 そしていよいよ試合が始まる。相手はどんなチームだろう…って、ええっ?! 相手はみんな外国人じゃないか。身長も2メートル越えの選手ばかりだ。おいおい冗談だろ?こんなの勝てる訳ないじゃないか……

 そこで目が覚めた。まったく、おかしな夢を見みた。僕は別にバスケがしたい訳ではないのに。

 しかも結局試合は始まる事はなく、僕がスーパープレイで観客を魅了することも無かった。夢の中でさえ、こうも物事がうまくいかないものなのか……と、なんとなく暗い気分になる。

「……って言う夢を見たんだ。」 


「そうなんだ……。文人くんは、バスケで活躍したかったのかな?」


「どうだろうな。別に普段そんな事は考えてはいないんだけど、まあ、どうせ試合に出るなら活躍はしたいだろうな」


「どうせなら……くらいなんだね。しいかは、文人くんなら、きっとそうなれるって思ってたよ。あの事故さえ無ければ……」


「詩歌、僕が昔バスケをやっていて、何らかの事故で怪我をして、泣く泣くバスケを諦めたみたいな雰囲気を出しているけれど、そもそも僕はバスケをしていないし、事故にもあっていない」


「……知ってる」


「おい!  まあ、それはいいとして、僕が言いたいのは、夢の中でくらい、自分の思い描いた理想通りに話が進んでくれないかなって事なんだよ」


「確かにそうかもり今いいところなのにとか、そっちじゃないって分かってるのに、夢の中の私が違う道を選んじゃう……とか結構あるもんね」


「そう、それなんだよ。夢の中なんだから、思い切ってやっちゃえよって頭の何処かで考えているのに、どうしても保身に走っちゃうみたいな感じだ」


「分かる。あれって……寝ていても理性が働いちゃっているって事なのかな」


「理性か。確かにそうかもな。寝たくらいで理性を失っていたんじゃ、人間失格、ゴミ以下だよな」


「……えっと、そこまでは思わないけど」


「いや、待てよ……理性を失うからねるのか?」


「ん?  何の……事?」


「あ、いや。何でもない」


「しいかも、詳しくは知らないんだけど、夢って確か記憶の整理をしているんだったよね? 」   


「そう言う話は聞いたことがあるな」


「前から不思議に思っていたんだけど……もしそれが本当だとして、でも、自分が知るはずがない事とか、自分ではとても思いつきそうにないストーリーだったりするのは……なんでなのかな?」


「それは簡単な事だよ。いいか、詩歌。一つ、良い事を教えてやろう。この世の[新しいもの]は、全て[今あるもの]の組み合わせなんだぜ。何処かで、そうだな…例えば、テレビやラジオで見聞きした事と、自分が実際に体験した出来事を、無意識下でごちゃ混ぜにすれば、あたかも自分が知っているはずがない、新発見の様に感じる内容の夢を見る事が出来るんだよ。ちょっとした科学だな」


「そうなんだぁ」


「まあ、自分で体験した事や、考えた事の方がより強く記憶に残っているだろうけどな」


「なるほど……強く願えば夢は叶うってこの事だったんだね」


「いや、それは普通に違う……」


「あと、夢と言えば、なんだかとてもいい夢だった気がするけど、内容が全然思い出せない……って時もあるよね」


「あるある。良い夢でいい気分になれる時は良いけど、内容はよく覚えてないのに、凄く怖かったって時はタチが悪いよな」


「そうだね。怖い夢かあ……私はたまに凄く高いところから落ちる夢を見る事があるよ」 


「ああ、あれは結構怖いよな。ちなみに、高いところから落ちる夢は、現状に不安を感じている時に見る事が多いらしいぞ」


「そうなの? 不安……かあ」


「でも、高いところから自発的に飛びおりる夢だと、それは空を飛ぶ夢に近いから、何かに挑戦したいって言う、前向きな気持ちの表れって話も聞いた事があるな。詩歌が見るのはどっちの夢なんだ?」


「さあ……どっちだろうね」


詩歌は、はぐらかしているつもりだろうけど、彼女の顔を見ていれば、どちらの夢なのか一目瞭然だった。


「ま、何に挑戦したいのかは知らないけど、頑張れよ」


「えっ?!  う、うん……」


「そう言えば、ノートに見たい夢の内容を書いたり、枕の下に関連する物を敷いて寝れば自分の見たい夢を見れるっていうのも昔流行ったな」


「そうだね。文人くんは試したことある?」


「ああ、枕の下にエロほn……いや、一度もないな。生まれてこの方一度もない。神に誓ってもいい」


「そこまで言われると逆に怪しいよ……」


「詩歌はあるのか?」


「……しいかも、神に誓ってないよ」


「怪しい」


「でも、もし好きな人の夢を見れたらきっと幸せだろうね」


「詩歌、好きな奴いるのか?」 


「……何が?」


「え?  な、何がって……好きな人がいるのかって話たけど」


「ちょっと……なんの話か分からないんだよ」


 おかしい。詩歌から言い出したはずなんだけど、急に様子がおかしくなったな。

 まあ、触れて欲しくないならそうするけど。でもちょっと意外だったな。詩歌はそういう浮いた話は得意じゃないと勝手に思い込んでいたけど、詩歌にも好きな奴いるんだな。

 そっかそっか。そりゃ、高校生なんだから、好きな奴の一人や二人いてもなんの不思議もない。不思議もない、どころかそういう奴がいない方がおかしいかもしれないな。

 別に僕がどうこう言う様な事でもないし、むしろめでたいくらいじゃなないか。人見知りの詩歌にもし彼氏ができたら、この子の人生において、きっとそれはプラスの方向に働くに違いない。

 でもちょっと待てよ。人付き合いのあまり得意でない詩歌に漬け込んで、騙そうとする奴がいるかもしれない。 

 取り敢えず、相手がどんな奴かを確認する必要があるな。話はそれからだ。

「まず、お父さんに紹介しなさい。」


「へっ?  ……文人くんをお父さんと呼ぶ筋合いはありません……」


「……。」


 暫しの沈黙。なんか変な空気になってしまったけど、夢の話はそれでお終い。結局、人が見る夢に深い意味なんてないんだろうな。

 悪夢は処理しきれなかったストレスのオーバーフローなんて話も聞くけど、溜め込んで破裂するよりは、溢れて外に出した方がいいに決まっている。そういう意味では悪夢もそう、捨てたもんじゃないのかも知れない。

 そんな事を考えながら、今日は眠りにつく事にした。どうか今日は夢を見ませんように……

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