まるくまるく
第29話SSハル3
鳥の囀りがうるさい……。
「うるしゃぃ……。」
目は閉じたまま、体に掛けている藁袋に潜り込み、悪あがきをする。狩りから家に戻ったのは夜半だった。もう少し寝かせて欲しい。
「……ハル? 今日はお休みかしら?」
「……。」
「お疲れ様、ハル。」
「……うん。」
私を出迎えたのはお母さんだった。ずっと待っていたのかな。獲物は獲れたから良いけれど、服は汚れていたし、空の矢筒が虚しさを醸し出していた。魔力も欠乏し、視界がぼやけていた。這う這うの体で戻ってきた。
背伸びをし過ぎた。自分が一番良く分かっている。たった1匹だと油断していた。
「落ち込んでいても仕方がないってお母さんも言ってた。」
自問自答し、先の反省点を挙げては自分なりの解決策を模索する。
しばらくして、ある程度振り返った所でお腹が鳴った。そう言えば帰ってきてから何も食べてない。
「昼まで寝て、お母さんに謝ろう。」
「何を謝るの?」
「……いつから?」
「うるしゃぃ、から?」
「……。」
聞かれたぁ……。お母さんが気配を消したら、気づけないし。藁袋の中で体勢を入れ替え、お母さんの近くから顏を出す。怒ってますアピールを忘れない。
「むぅ、気配ダメ。」
「あら、ごめんごめん。ハルの成長が嬉しくて?」
「……ほんとは?」
「娘が面白いことしてるのに、見ない親はいないと思うの。」
「もう、寝る。」
顏の近くに座ってクスクス笑っているお母さんを無視して、その膝に寝転がる。
もっと上手くなりたい。狩りも、料理も。
「細かいキズを治しちゃいましょうか……じっとしてて。」
「うん。」
おかあさんの風に包まれて、傷が癒えていく。少し眠くなってきたから、このまま目を瞑って……。
「ゆっくり休みなさい。」
——————————————————
「……にゃっ!?」
ガバッと音を立てて起き上がる。いつの間にか寝ていたみたい。体の調子を確かめてみる。……うん、完璧。
「ハルー? お昼、食べちゃいなさいよー?」
「……うん。」
お母さんは私が食べなかった朝食を食べている。今、私の前に置かれているスープもサラダも一人分だけ作ったみたい。……お母さんが食べる量を減らす時って。
「ハル、食べながらで良いわ。」
「うん。」(もしゃもしゃ)
「昨日の獲物は、晩御飯にしましょう。」
「うん、たおひい。」(たのしみ)
「それで、弓は?」
「……?」
「……。」
あれれ……どこに置いたっけ。
森の奥で見つけた小さな池? それとも斜面の洞穴? 獲物と鉢合わせした時は、弓に矢を番えたし……。倒した後、弓はどうしたっけ。
「たぶん、倒した時。」
「取りに行くのは、許しません。」
「……何で?」
「武器も無しに、子どもを森の奥に行かせるわけないでしょ?」
「で、でも……。」
「私が帰るまでは家にいなさい。まだ半分も回復してないでしょ?」
「……うん。」
お母さんが怖い顔してる。上目遣いにチラチラ見て、引き下がった方が良いと思った。確かに、自身の得物を狩場に置いてきてしまうなんて……なんて体たらくだろう。
でも森に入る人は少ないし、この村にはくすねちゃう人いない……よね?
……考え出したら不安になってきた。
「ダメよ、家にいなさい。」
「うっ……。」
顔を上げたら、お母さんと目が合った。そして口を開こうとした所で、先んじて言われちゃった。今日は大人しくして、明日探しに行こう。ゴロゴロするなら、摘まめるものを作らないと。
昼食の片づけを終え、芋を薄切りにして焼き始める。辛味のある薬草を刻んでおく。お母さんが、まぶしてくれるシオという名前の白いつぶつぶとの相性が良い。ピリ辛っていう味らしい。おやつ感覚で食べられるから、作る頻度は高いかな。
「……できた。」
「どれどれ、うん、おいし~い。」
「お母さん、取り過ぎ。」
「いっぱい作ったから良いでしょ~?」
「お母さん、太り過ぎ。」
「えっ……マジ?」
もちろんウソだけど。お母さん、食べても食べても太らない。でも、折角作ったのを鷲掴みで取るのは罪深い。わざと無言で顔を背けると、お母さんは腰回りを気にし始めた。見てると面白いけど、困らせるつもりはない。
「間食し過ぎたかしら……たるんでは」
「……わふっ。」
「どうしたの? ハル。」
「おかあさん、大好き……。」
「……ありがと。」
「うん。」
お母さんの腰に抱き着いて止める。見上げた私の頭を撫でてくれた。ゴロゴロする旨を伝え、お菓子を持って藁袋の所へ……。あれ、お芋、減ってる?
「それじゃ、ちょっと出てくるわね!」
「……あ、逃げられた。」
お母さん、ぎるてぃ。髪を梳かしてあげないもん。少なくなってしまったけれど、ちびちび食べながら寝転がる。行儀が悪いかもしれないけれど、一人だし?
お母さん著の基本魔法を読んでいく。最近は魔法を勉強している……まだ使えないけど。読むだけで覚えちゃう、とはお母さんの言だから。足をパタパタさせながら、読み進めていく。
「うしゃんふしゃん……。」(うさんくさいなぁ、もぐもぐ)
3ページほど読んだあたりで、眠くなってきた。お母さんの本には、不思議な魔力がある。食後に読むと、心地よーく……ねむ……。
ある昼下がり、まったりと寝過ごしながら。
……ハルが魔法を覚えるのは、いつになることやら。
「うるしゃぃ……。」
目は閉じたまま、体に掛けている藁袋に潜り込み、悪あがきをする。狩りから家に戻ったのは夜半だった。もう少し寝かせて欲しい。
「……ハル? 今日はお休みかしら?」
「……。」
「お疲れ様、ハル。」
「……うん。」
私を出迎えたのはお母さんだった。ずっと待っていたのかな。獲物は獲れたから良いけれど、服は汚れていたし、空の矢筒が虚しさを醸し出していた。魔力も欠乏し、視界がぼやけていた。這う這うの体で戻ってきた。
背伸びをし過ぎた。自分が一番良く分かっている。たった1匹だと油断していた。
「落ち込んでいても仕方がないってお母さんも言ってた。」
自問自答し、先の反省点を挙げては自分なりの解決策を模索する。
しばらくして、ある程度振り返った所でお腹が鳴った。そう言えば帰ってきてから何も食べてない。
「昼まで寝て、お母さんに謝ろう。」
「何を謝るの?」
「……いつから?」
「うるしゃぃ、から?」
「……。」
聞かれたぁ……。お母さんが気配を消したら、気づけないし。藁袋の中で体勢を入れ替え、お母さんの近くから顏を出す。怒ってますアピールを忘れない。
「むぅ、気配ダメ。」
「あら、ごめんごめん。ハルの成長が嬉しくて?」
「……ほんとは?」
「娘が面白いことしてるのに、見ない親はいないと思うの。」
「もう、寝る。」
顏の近くに座ってクスクス笑っているお母さんを無視して、その膝に寝転がる。
もっと上手くなりたい。狩りも、料理も。
「細かいキズを治しちゃいましょうか……じっとしてて。」
「うん。」
おかあさんの風に包まれて、傷が癒えていく。少し眠くなってきたから、このまま目を瞑って……。
「ゆっくり休みなさい。」
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「……にゃっ!?」
ガバッと音を立てて起き上がる。いつの間にか寝ていたみたい。体の調子を確かめてみる。……うん、完璧。
「ハルー? お昼、食べちゃいなさいよー?」
「……うん。」
お母さんは私が食べなかった朝食を食べている。今、私の前に置かれているスープもサラダも一人分だけ作ったみたい。……お母さんが食べる量を減らす時って。
「ハル、食べながらで良いわ。」
「うん。」(もしゃもしゃ)
「昨日の獲物は、晩御飯にしましょう。」
「うん、たおひい。」(たのしみ)
「それで、弓は?」
「……?」
「……。」
あれれ……どこに置いたっけ。
森の奥で見つけた小さな池? それとも斜面の洞穴? 獲物と鉢合わせした時は、弓に矢を番えたし……。倒した後、弓はどうしたっけ。
「たぶん、倒した時。」
「取りに行くのは、許しません。」
「……何で?」
「武器も無しに、子どもを森の奥に行かせるわけないでしょ?」
「で、でも……。」
「私が帰るまでは家にいなさい。まだ半分も回復してないでしょ?」
「……うん。」
お母さんが怖い顔してる。上目遣いにチラチラ見て、引き下がった方が良いと思った。確かに、自身の得物を狩場に置いてきてしまうなんて……なんて体たらくだろう。
でも森に入る人は少ないし、この村にはくすねちゃう人いない……よね?
……考え出したら不安になってきた。
「ダメよ、家にいなさい。」
「うっ……。」
顔を上げたら、お母さんと目が合った。そして口を開こうとした所で、先んじて言われちゃった。今日は大人しくして、明日探しに行こう。ゴロゴロするなら、摘まめるものを作らないと。
昼食の片づけを終え、芋を薄切りにして焼き始める。辛味のある薬草を刻んでおく。お母さんが、まぶしてくれるシオという名前の白いつぶつぶとの相性が良い。ピリ辛っていう味らしい。おやつ感覚で食べられるから、作る頻度は高いかな。
「……できた。」
「どれどれ、うん、おいし~い。」
「お母さん、取り過ぎ。」
「いっぱい作ったから良いでしょ~?」
「お母さん、太り過ぎ。」
「えっ……マジ?」
もちろんウソだけど。お母さん、食べても食べても太らない。でも、折角作ったのを鷲掴みで取るのは罪深い。わざと無言で顔を背けると、お母さんは腰回りを気にし始めた。見てると面白いけど、困らせるつもりはない。
「間食し過ぎたかしら……たるんでは」
「……わふっ。」
「どうしたの? ハル。」
「おかあさん、大好き……。」
「……ありがと。」
「うん。」
お母さんの腰に抱き着いて止める。見上げた私の頭を撫でてくれた。ゴロゴロする旨を伝え、お菓子を持って藁袋の所へ……。あれ、お芋、減ってる?
「それじゃ、ちょっと出てくるわね!」
「……あ、逃げられた。」
お母さん、ぎるてぃ。髪を梳かしてあげないもん。少なくなってしまったけれど、ちびちび食べながら寝転がる。行儀が悪いかもしれないけれど、一人だし?
お母さん著の基本魔法を読んでいく。最近は魔法を勉強している……まだ使えないけど。読むだけで覚えちゃう、とはお母さんの言だから。足をパタパタさせながら、読み進めていく。
「うしゃんふしゃん……。」(うさんくさいなぁ、もぐもぐ)
3ページほど読んだあたりで、眠くなってきた。お母さんの本には、不思議な魔力がある。食後に読むと、心地よーく……ねむ……。
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……ハルが魔法を覚えるのは、いつになることやら。
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