まるくまるく
第12話
日が傾き、空が赤く染まる頃。
俺たちは商業ギルドの受付横で、かれこれ20分ほど立たされていた。エレナは自然体で魔力を循環させる訓練を、俺は後ろ脚で立たされカミラさんに前足の肉球をぷにぷにされている。何度も「エレナと待遇が違うんだが? 地味にこの体勢はキツいのだが?」と目で訴えてみてもカミラさんはどこ吹く風である。
ちなみに10分ほど前、
「カミラさーん。そろそろ背中と足と首が痛いんだが?」
「ダメよ。エレナが出来るようになるまでそのままよ。」
「……いつ頃終わりそうなんだ?」
「…………エレナならすぐよ。」
「すぐじゃないよな? 目を逸らさず言ってみ?」
「……あーひんやりぷにぷにー。」
と聞いたのだ。取り合ってくれない。
こうなった理由が「戦闘経験のないエレナを危険に晒したから」なだけに甘んじて受けているわけだ。まぁ、体勢が崩れた時は手で支えてくれる辺りカミラさんは優しいのだが。
エレナは俺とカミラさんが気になるのか全く集中できていない。あれは時間がかかるな。さり気なく黒球にもたれ掛かり楽をしつつ、時間をつぶそう。
しばらくするとリーネが図書棟から歩いてきた。
上手く出来ていないエレナに助言して魔力循環が少し上手くなったあたりでカミラさんの手が止まった。
「エレナ、その感覚を忘れないでね。今日は訓練終了よ。」
「はい……あー疲れたぁ。」
「循環もできずに戦闘訓練は出来ないわよ?」
「……はーい。」
「さてと、もうすぐ交代の時間だけど、あなたたちはどうする? 帰るなら送っていくわよ?」
「今日に限って何か……倉庫絡みで、ですか?」
「ええ、そうよ。マスターの指示が出ているし宿舎にも兵士が立っているわ。」
「と言うことは……沐浴はできないですね……。」
どうも外出時は複数で行動する事と残業が増えるらしい。沐浴は宿舎裏の井戸付近で水を浴びるのだとか。夏は良いが冬は寒くて大変だろうな。風呂はないのだろうか。壁にもたれて座ったエレナに聞いてみる。
「エレナ、風呂は無いのか?」
「フロ? フロって何? 食べ物?」
「温めた水を大きな容器に入れたものを言うんだが……。」
「あ~。あるよ、貴族の屋敷では数人がかりで温めて入るみたいだけど。私たちの宿舎には無いかな。入ってみたいけどね。」
どうやら風呂は手間がかかるらしい。薪をくべるのも、水を汲んで温めるのも全て人力なのだと。
自然に湧いている温泉でもあればと聞いてみた。この世界にも温泉で有名な町があると教えてくれた。かなり寒い地域のようだ。雪を見ながらの温泉も良いな。でも行くまでが大変そうだ。片道1か月以上もかかる上に、国交のない国をいくつか越えなければいけないらしい。
「エレナは温泉とか入ってみたいか?」
「そりゃあね。冷たい水を浴びたり、体を拭くのが辛い時期もあるし。」
「カミラさんは温泉に入ったことあります?」
「あるわよ。昨日も入ったもの。」
「へぇーあるん……え? 昨日?」
「どうしたの?」
カミラさんの言葉に固まるエレナは置いておいて。
カミラさんに聞くと、本部の地下には温泉があり資格保有者のみ入ることができるらしい。
エレナに教えなかった理由は「教えたら絶対に駄々をこねるから」だそうだ。案の定というのか、エレナはしばらく駄々をこねてカミラさんにチョップを貰っていた。
カミラさんやリーネがつけている飾りには、色々と優遇される者という意味合いがあるようだ。
エレナは目標を温泉に決め、今まで以上にがんばるのだそうだ。現金な奴だな……。まぁ目標があるのは良いことだな。
カミラさんと俺が生暖かい目でエレナを眺めていると、リーネがエレナに聞く。
「エレナはマスターから、お小遣いもらってるよねー? 職員用なら入れるんじゃないかなー?」
「ぅ……。」
「もしかしてー。」
「ぅぅ……。」
「食べ物にー。」
「ぐぬぬ……。」
「使い切って、誰も貸してくれないから困ってるー?」
「……きゅぅぅ。」
エレナがリーネにいじられ床に指で「の」を書き泣きマネをしている。カミラさんは額に手を当て、ため息をつく。
リーネは一頻り楽しんだ後、受付に歩いて行った。俺はエレナに話しかける。
「とりあえず飯でも食べたらどうだ?」
「……うん、たべるぅ。」
「言っておいてアレだが、良い根性してるよな?」
「お腹は減るんだよぉ。」
はぁ。
俺とカミラさんが同時にため息をつく。エレナが落ち込んだら食べ物で釣ろう。
謎の決意を俺がしているとカミラさんが顔を寄せて言う。
「エレナは食べ物で釣ると、すごく食べるわよ。」
「……ちなみにどのくらい?」
「露店が品切れになるくらい。」
「マジかよ。」
カミラさんに促され、エレナが立ち上がるとケロっとしていた。やっぱウソ泣きだ。
カミラさんと一緒に俺たちは宿舎に戻る。カミラさんがさり気なく露店で串焼きを買ってくれてハラペコエレナは目を輝かせていた。
俺たちは商業ギルドの受付横で、かれこれ20分ほど立たされていた。エレナは自然体で魔力を循環させる訓練を、俺は後ろ脚で立たされカミラさんに前足の肉球をぷにぷにされている。何度も「エレナと待遇が違うんだが? 地味にこの体勢はキツいのだが?」と目で訴えてみてもカミラさんはどこ吹く風である。
ちなみに10分ほど前、
「カミラさーん。そろそろ背中と足と首が痛いんだが?」
「ダメよ。エレナが出来るようになるまでそのままよ。」
「……いつ頃終わりそうなんだ?」
「…………エレナならすぐよ。」
「すぐじゃないよな? 目を逸らさず言ってみ?」
「……あーひんやりぷにぷにー。」
と聞いたのだ。取り合ってくれない。
こうなった理由が「戦闘経験のないエレナを危険に晒したから」なだけに甘んじて受けているわけだ。まぁ、体勢が崩れた時は手で支えてくれる辺りカミラさんは優しいのだが。
エレナは俺とカミラさんが気になるのか全く集中できていない。あれは時間がかかるな。さり気なく黒球にもたれ掛かり楽をしつつ、時間をつぶそう。
しばらくするとリーネが図書棟から歩いてきた。
上手く出来ていないエレナに助言して魔力循環が少し上手くなったあたりでカミラさんの手が止まった。
「エレナ、その感覚を忘れないでね。今日は訓練終了よ。」
「はい……あー疲れたぁ。」
「循環もできずに戦闘訓練は出来ないわよ?」
「……はーい。」
「さてと、もうすぐ交代の時間だけど、あなたたちはどうする? 帰るなら送っていくわよ?」
「今日に限って何か……倉庫絡みで、ですか?」
「ええ、そうよ。マスターの指示が出ているし宿舎にも兵士が立っているわ。」
「と言うことは……沐浴はできないですね……。」
どうも外出時は複数で行動する事と残業が増えるらしい。沐浴は宿舎裏の井戸付近で水を浴びるのだとか。夏は良いが冬は寒くて大変だろうな。風呂はないのだろうか。壁にもたれて座ったエレナに聞いてみる。
「エレナ、風呂は無いのか?」
「フロ? フロって何? 食べ物?」
「温めた水を大きな容器に入れたものを言うんだが……。」
「あ~。あるよ、貴族の屋敷では数人がかりで温めて入るみたいだけど。私たちの宿舎には無いかな。入ってみたいけどね。」
どうやら風呂は手間がかかるらしい。薪をくべるのも、水を汲んで温めるのも全て人力なのだと。
自然に湧いている温泉でもあればと聞いてみた。この世界にも温泉で有名な町があると教えてくれた。かなり寒い地域のようだ。雪を見ながらの温泉も良いな。でも行くまでが大変そうだ。片道1か月以上もかかる上に、国交のない国をいくつか越えなければいけないらしい。
「エレナは温泉とか入ってみたいか?」
「そりゃあね。冷たい水を浴びたり、体を拭くのが辛い時期もあるし。」
「カミラさんは温泉に入ったことあります?」
「あるわよ。昨日も入ったもの。」
「へぇーあるん……え? 昨日?」
「どうしたの?」
カミラさんの言葉に固まるエレナは置いておいて。
カミラさんに聞くと、本部の地下には温泉があり資格保有者のみ入ることができるらしい。
エレナに教えなかった理由は「教えたら絶対に駄々をこねるから」だそうだ。案の定というのか、エレナはしばらく駄々をこねてカミラさんにチョップを貰っていた。
カミラさんやリーネがつけている飾りには、色々と優遇される者という意味合いがあるようだ。
エレナは目標を温泉に決め、今まで以上にがんばるのだそうだ。現金な奴だな……。まぁ目標があるのは良いことだな。
カミラさんと俺が生暖かい目でエレナを眺めていると、リーネがエレナに聞く。
「エレナはマスターから、お小遣いもらってるよねー? 職員用なら入れるんじゃないかなー?」
「ぅ……。」
「もしかしてー。」
「ぅぅ……。」
「食べ物にー。」
「ぐぬぬ……。」
「使い切って、誰も貸してくれないから困ってるー?」
「……きゅぅぅ。」
エレナがリーネにいじられ床に指で「の」を書き泣きマネをしている。カミラさんは額に手を当て、ため息をつく。
リーネは一頻り楽しんだ後、受付に歩いて行った。俺はエレナに話しかける。
「とりあえず飯でも食べたらどうだ?」
「……うん、たべるぅ。」
「言っておいてアレだが、良い根性してるよな?」
「お腹は減るんだよぉ。」
はぁ。
俺とカミラさんが同時にため息をつく。エレナが落ち込んだら食べ物で釣ろう。
謎の決意を俺がしているとカミラさんが顔を寄せて言う。
「エレナは食べ物で釣ると、すごく食べるわよ。」
「……ちなみにどのくらい?」
「露店が品切れになるくらい。」
「マジかよ。」
カミラさんに促され、エレナが立ち上がるとケロっとしていた。やっぱウソ泣きだ。
カミラさんと一緒に俺たちは宿舎に戻る。カミラさんがさり気なく露店で串焼きを買ってくれてハラペコエレナは目を輝かせていた。
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