天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。
第223話 ハッキリと見えた物。
ーーーーーー
「随分、お早いお目覚めですね! 隊長殿......。」
  俺は、キュアリスが支度をしている間にホールの方へ降りると、まだ辺りの薄暗いその場所には相変わらず一人で鍛錬に励むリュイの姿があった。
「おはよう、リュイ。昨日は遅くまで帰還を待っていてくれて、本当にありがとな。俺とキュアリスは、これから王宮で行われる重要な会議に参加する事となったので、早めに出る。それまでは、優花や桜をよろしく頼んだぞ。」
  俺がそう彼女に伝えると、リュイはニコッと笑いながら大きく頷いた。
「了解しました。帰還の儀に際して、彼女らを送り届ける任務、謹んで承ります! 」
  彼女はそう言うと、再び鍛錬を始めたのであった。
  その様子をじっと見た俺は、リュイに向けて、こう問いかけたのであった。
「それにしても、今日くらいはゆっくりとしておいた方が良いんじゃないか......? 」
  少し汗ばんで剣の修行をしているリュイへ、俺はそう身を案じた。
ーーそれに対して、リュイは首を大きく横に振る。
「そういう訳には行きませんよ。私は、『異世界人』の様に強くもなく、頭が回る訳でもありませんから。こうして日々積み重ねて行かない限り、国を守る事は出来ません。」
  リュイがそう言っている姿を見ると、また一つ、俺は彼女の強さを実感した。
「お前は、本当に努力家だな......。」
  俺は、そんな事を呟くと、再び鍛錬を始めた彼女をじっくりと眺めた。
  彼女は、心の底からこの国を愛している。
  それは、余りにも純粋で、真っ直ぐなものである。
  それ程に芯の強い者が、どれ程いるであろうか......。
  俺は、出会った時からずっと、リュイという女性に助けられてばかりであった。
  単純に推し量れる『異能』や『魔法』の強さではない。
  彼女には、俺に備わっていないものを沢山持っている。
  圧倒的な芯の強さに加えて、仲間意識の高さ、皆を纏めるリーダーシップ。
  それに加えて、誰にも負けぬ程の包容力があるのだ。
  確かに、彼女は『異世界人』には敵わない。
ーーだがしかし、この国の人間の中では、トップクラスに強いのもまた、事実である。
  俺は、そう考えると、息を切らしながら剣を振り下ろし続けるリュイに向けて、こう言って見せた。
「これからは、お前がこの国を守るんだ。よろしく頼んだぞ......。」
  それを聞いたリュイは、一度、剣を振る腕を止め、こちらに視線を移して俺にこう問いかけた。
「隊長殿......。もしかして、あなたはもうすぐ......。」
  リュイが少しだけ哀しそうな表情を浮かべてそう言うと、俺は、俯きながらゆっくりと頷いた。
  それを見たリュイは、剣を地面に差し込むと、俺の目の前にやって来て、こう促した。
「ならば、全てを話してください。昨日からずっと、あなたの様子はおかしかった。今にも泣き出しそうな顔をしていた。あなたが『英雄』の資格を持っていると聞いた段階で、ある程度の覚悟が出来ていましたから。佐山雄二隊長は、この場所から去るのだと......。」
  俺はそんなリュイの憶測を聞くと、一つため息をついた。
  彼女は、全て分かっていたんだ。
  それだけ俺を見ていたのかもしれない。
ーーだからこそ、俺は覚悟を決めて、彼女にこれからの話を伝えたのであった。
「全てバレていたか。そうだな、俺達は準備が整い次第、すぐにこの国を去る。『ベリスタ王国』で就いた役職も、全て捨てて......。そして、世界を救う為にもある国を目指すんだ。俺は、神によって運命付けられちゃったんだよ。この世界を救う為の『英雄』として戦う事をな......。だから、俺が世界を救うまでの間、お前達にはこの国を守って欲しいんだ。」
  いよいよはっきりと俺の口から伝えられた『別れ』の言葉に、リュイは目に沢山の涙を溜めて、無理やり笑顔を作り、こう返答した。
「やはり、そうでしたか......。正直なところ、そんなに早くいなくなってしまうとは、考えておりませんでしたので......。私は、あなたによって、強くなれました。だから......。」
  俺は、そんな風に言葉を詰まらせながらゆっくりと話すリュイに対して、心苦しさを感じる。
  彼女から痛い程に感じ取れる悲しみは、俺の心にグサッと音を立てて突き刺さってくるからである。
ーーそれはまるで、永遠の別れのように......。
  すると、そんな風に俯く俺に対し、リュイは空元気でこう言葉を付け加えた。
「あなたが『ベリスタ王国』に帰還するまでの間、私達は全力でこの国を守ります! だから、壊れかけた世界の為に、戦ってください! それまでずっと、待ち続けますから! 」
  俺は、そんな風に哀しみを抑えて励ましてくれるリュイの姿に対して、グッと唇を噛み締めて思い切り涙を堪えた。
  だって、俺は、ずっとずっと彼女らに支えられ続けて来たから。
ーー彼女達を愛していたから。
  でも、おぼろげに感じていた着々と迫る別れは、今この時、俺の背後からはっきりと近づいて来たのが分かった。
  だからこそ、今、目の前で無理に微笑む彼女を見ていると、堪えられない気持ちが再び込み上げてくる。
  仲間であり、親友であり、苦楽を共にした『家族』でもある彼女を見ていると......。
  俺は、そんな衝動を無理やり押さえ込むかのように、ちょうど支度を終えて階段から降りて来たキュアリスを目にすると、リュイに対して、こう伝えたのであった。
「本当にありがとな。お前には、感謝してもしきれない程の恩がある。他の部隊のみんなには、全てが纏まった時、俺の口から話すつもりだ。」
  それを聞いたリュイは、相変わらず無理に微笑むと、そんな俺の発言に対して、こう返答をした。
「分かりました。私は、あなたの下で戦えた事を、誇りに思っています。だから、いつか必ず戻って来てください! その時までに、私達も強くなります! 」
  それを聞いた俺は、少しだけ溢れた涙を隠すようにして背を向けると、キュアリスの方へと歩いて行き、最後にこう告げたのであった。
「まだ、旅立つまで少しだけ時間がある。それまでの間は、宜しくな。では、行ってくる。」
  俺はそう言うと、キュアリスの右腕を掴んで、そそくさと『特殊異能部隊』の施設を後にした。
  キュアリスは、そんな俺の表情を見て、小さく微笑んでいた。
  いつから見ていたのか、彼女も少しだけ涙目になっていた。
  そんな中、視界が定まらない目でふと、背後を振り返ると、リュイは涙を流しながら微笑み、手を振っていた。
ーーごめんな、リュイ。
  でも、いつか、必ず胸を張って帰って来る。
ーーだから、その時までは......。
ーーーーーー
  すっかり施設が見えなくなった早朝で誰もいない茂みの方へ足を進めた俺は、声を大にして泣き崩れた。
  それを見たキュアリスは、俺を優しく抱きしめてくれた。
「大切な仲間との別れは辛いよね......。」
ーーそんな言葉を投げかけながら......。
  俺は、そんな優しさをくれるキュアリスの暖かさを感じながら、少しの間、その場所で泣き続けた。
ーー「別れは辛い」
  俺は、それ以上に感じる言葉では表せない程の気持ちを彼女の胸に委ねながら、王宮へ向かう前に一度立ち止まるのであった。
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