金髪、青目の美人エルフに転生!

鏡田りりか

第七十七話  大切な使い魔たち

「それ、本当か?」
 インディゴが聞くと、ジェイドは笑って答えた。


「ええ。私だって、適当に旅してたわけじゃありませんよ」
「それに……。前に、ブランシュちゃんから連絡が来たわ。合ってるはず」
「な?! そうなのか?!」


 スカーレットは小さく「うん」と言った。間違いないらしい。


「じゃあ、できるだけ早くこの街を出発しよ? 明日はギルドに行こっか」










「ソフィ! 頼んだ!」
「はぁい! 大噴火ラーチイラプション!」


 ドン、と飛ばされたヒッポグリフはもう見えない。生きてるのか生きてないのかもわからないな。
 ふと振り向くと、呆然とした様子で私たちを眺めるスカーレットがいた。


「ソフィア様……。もう、私では絶対勝てない……」
「ん? そう? うーん……」


 スカーレットは首をかしげて私に言った。


「だって、私、そんな大きな大噴火ラーチイラプション撃てないですもの」
「あ、そうなの? 小さめに撃ったのに」


 スカーレットは慌てたが、誤魔化すように「そう! 私のご主人様はとても強いんです!」などと言ってみせる。
 いや、今のはちょっと悪かった。お願いだから、そんな顔しないで?
 泣きそうな顔をしたスカーレットは、インディゴに慰めて貰いに行った。あの二人は本当に仲が良い。


 と、マリアが立ち止まり、此方を振り返る。


「ソフィ、湖だ。どうする?」
「ちょっと休憩しよっか。キャラウェイ、アイリス」


 小さなコウモリと、だいぶ大きくなった真っ赤な不死鳥。時間を見ながら遊ばせてやってる。


「リリ! 水、入ろ!」
「おーけぃ! リナ、動かないでね、防水魔法、そぅれ!」


 いつでも楽しそうなふたりはさっさと泳ぎだした。奥まで行くと危ないよ?


「ソフィは、行かないのか?」
「うん。ちょ、アイリス! 悪戯しないで?」


 マリアは目を細めて、それからユニコーンを召喚した。
「ユニ、湖だよ。遊びに行っておいで」


 そう言ったのに、ユニはマリアといたほうがいいようで、正座したマリアの膝に顔を乗せた。
 本当に、ユニはマリアに懐いているな。本当に、可愛……。
 私の目から、ぽたりと雫がたれた。


「……。ソフィ……?」
「あ、あれ? ご、ごめん。いや、そういうわけじゃ……」
「そうか、まだ、シナモンのこと……」


 隣に座った私の頭を、マリアはそっと撫でた。初めて見るような、お姉さんの顔……。
「悪かった。そうだよな。ほら、ユニ、リリと遊んできて」
 ちょっと名残惜しそうだったけど、ちゃんということを聞いた。


「……、大丈夫か?」
「うん、気にしないで。でも、ほんとなら、私も、そうやってたんだろうなって」
「そうだろうな。可愛がってたしな……。私も、ユニだけは失いたくない」


 私はなんて言ったらいいのか分からなかったから、何も言わなかった。
 それを見て、マリアはぽつぽつと喋りだした。


「前に話した、ペリュトンと会った時。リナの母も助けてくれたのだが、実は、ユニが助けてくれた」
「え? どういうこと?」
「あの時。何故だろうな。ユニは、私を守るために、必死に戦ってくれた。主人でも、なかったのに。そのあと、仲間になったから」


 マリアは、ユニコーンに特別な思いがあるようだ。
 確かに、いつも、ユニを見る目は、優しいけれど。その優しさは、なんだか、保護者を見るような目だ。


「私の中で、一番大切なのは、ユニ。ソフィの気持ち、よくわかる」
「へへ、ごめんね? そんなつもり、なかったんだけどね。ふふ、大丈夫。私には、みんながいるから」
 マリアはほっとしたような顔だった。
「そう、か。私たちのこと、信頼してくれているんだな」










「じゃあ、明日、出発しよう。これだけあれば十分だから」
 エベリナが言うと、スカーレットとインディゴは安心したようだった。


「あまり開けると、クララやフェリオスがうるさいからな」
 だ、そうだ。まあ、心配するよね。
「今日はちゃんと休んでねぇ」










 真っ暗な闇が四方八方、ずっと広がっている。何も見えない。この世界に私しか存在していないような、そんな錯覚にとらわれる。


「どうしたんだ? こんなところで」


 ばっと後ろを振り向く。振り向いたところで見えないのだけれど。
 でも、確かにマリアだ。金色の目が光っている。


「危ないぞ、こんな夜に、しかも、もう街は出てるんだからな?」


 そう、今日の朝、街は出発した。だから、私たちは野宿をしている。


「うん。そうだね。そしたら、シナモンにも会えるね」
「! おい、ソフィ……?!」
「嘘。冗談だよ。そんなつもりはないから。ちょっと、一人で外に行きたかっただけ」


 マリアの表情は見えないけれど、随分近くにいるようだ。綺麗な金髪がちらりと見える。


「ソフィなら、まあ、危なくないかもしれないが、私たちは、心配するんだからな」
「うん、わかってるよ。だから、気付かれないうちに戻るつもりだったんだけど」
「私は、ソフィが出て行く時からずっと後をつけていたがな。気づかなかったか?」


 気づかなかった。真っ暗って、危ないな。こんなに暗いなんて、滅多にないし。


「まだ、気にしてるか? 昨日の……」
「そんなんじゃない! ……明日、もう、ブランシュちゃんに会うでしょ? インディゴの子ってどんななんだろう」
「きっと、心配なんかしなくても大丈夫だ。インディゴは、いい人だから」


 そう、だよね。彼の子、しかも、スカーレットをあそこまで素晴らしく育て上げたのなら。
 そっと息を吐く。シナモン。ごめん。すぐに会う事は、出来ないみたい。


「戻ることにするよ。ごめんね。何か色々」
「あ、ソフィ、そっちじゃなくて、こっちだぞ? 付いてきてよかった」
「……」


 もうちょっとで迷子になるところだった……。

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