金髪、青目の美人エルフに転生!

鏡田りりか

第七十一話  婿募集中

 小さなノックの音に、「ソフィ、入るよ!」の声で私は起こされた。
 なんとか体を持ち上げて扉の方を見るとリリアーナ達が笑っていた。


「ジェイドさん、そろそろ、いいかな?」
「あ、なるほど。では、今日は私一人で狩りに行ってきますね」


 止めるまもなくジェイドは行ってしまった。なんのことだかわからないのは私だけらしい。


「ソフィ、早くこれに着替えなさい! 今すぐに!」










 私は自分の姿を眺めて呆然とした。どう見てもゴスロリだろ、これ。
 んな、馬鹿な! この世界にはゴスロリなどない。
 っていうか、動きやすさ重視の服が多いから、こんな服なんて邪魔なだけなんだろう。


 って、ほかの三人の服もおかしい。リリアーナはセーラー服。マリアはパーカーにショートパンツ。エベリナに至っては……着物?!


 まず、リリアーナだが、こっちの制服はスカート、ブラウス、ベスト、といった感じだから、セーラー服はない。だから、異常だ。
 マリアもだ。ショートパンツはこの世界に存在しないようだし。あと、フード付きの服も滅多に見ない。っていうか、性格に合わないんだが?
 エベリナは……。まあ、説明するまでもないな。真っ白な短い着物。白髪も含め、雪女みたいだ。


「これは、勇者の子孫が代々婿募集の意味で使うの」


 ?! なんて言った? 婿?! 早くない?
 私は、まだ、そんなことを気にする余裕は……。


「元はねぇ、無防備な状態でも、とにかく勝てたら! って意味だったみたいねぇ」
「だが、早くしないと私たちに勝てる者はいなくなるぞ」
「ま、気に入った人がいたら手加減するみたいだけど」


 ……。なんで私だけ知らなかったんだろ。不思議だ。
 ってか、今の時点でもうそのへんの人じゃ誰にも負ける気がしないんだが。


「あ、そうだぁ。エルフじゃなくても問題ないのよぉ? 強制的にエルフにできるからぁ」


 えっと、取り敢えず、もうちょっと簡単にしよう。
 もともと、勇者のいた時代は、男の人が女の人に決闘申し込んで勝てたら、などという方法で結婚していたらしい。
 でも、それでは、勇者に勝てるものなんているわけなく、困って、私服で出かけるように(手加減するように)なった、というところから来ているらしい。


「さ、早く行ってみましょう? きっとソフィは可愛いから、すごいよ」


 シナモンの事は、少しだけ、別のとこにおいておこう。だって。
 慰めようとしていることは、わかっているんだもん。










「ねえ、これ、ツインテールじゃないとダメ?」
「へぇ? そっちのほうが可愛いじゃないのぉ。私だって、髪下ろすの初めてよぉ」


 そういうリリアーナは、腰を通り越すくらいの長さの髪。歩くたびにサラサラと揺れる。


「うーん、意外といないのね。声かけてくる人。いそうなものだけれど」
「ソフィ、この前の戦いで目立っちゃったからぁ。あの時だって、杖持ってなかったし」
「もっと言えば、ローブすら着てなかっただろ」


 まあ。そうなのだけれど。
 でもなあ。婿、か。私、そんなこと、考えてもみなかったよ。
 男であるジェイドを追い払う意味がやっとわかったわけだが。


「あの、エベリナ様でいらっしゃいますか?!」
 その声に、エベリナはくすりと笑う。
「ほうら、きたよ。じゃあ、広場に行こうか?」










 エベリナは楽しそうだ。目的忘れてるんじゃないか?
「はわぁ……。人と戦うの初めて。みんな回復役だと思って戦わせてくれないんだもの」


 隣でリリアーナが指で宙に小さな円を描くと、何かの呪文を唱えだした。


「これで、絶対に復活だから、本気で行きなさいよぉ。エベリナ、頑張ってぇ?」
「わかってるって。よろしく、名前は?」
「イグナートです。本気で行かせてもらいますね」


 そのイグナートの友達らしき人、さっき声をかけるときにも一緒にいたのだけれど、その人と、まあ、そのまま言えば野次馬たちも見守っている。


「んじゃ、スタート!」


 エベリナは楽しそうに微笑みながら、吹雪スノウストームを放ち、周りを真っ白にした。まさに雪女。
 そのまま動きの遅くなった彼をじっくり仕留めた。仕事のような早業。


「甘いわね。ちゃんと特訓しなさいね? じゃあ、次! やりたい人は?」










 弱い。
 イグナートの次に、彼の友達がマリアに戦いを挑んだ。残念ながらズメイを召喚した時点で終わったが。
 それから、リリアーナに戦いを挑んだ人もいた。弓も矢も持っていない射手だからだろう。
 が、エルフの射手はそんなやわじゃない。何もないところから魔法で作り出した矢を弓も使わずの連射。
 私だって、挑まれたけど、緑石弾エメラルドブレッド一発撃ったら死んでしまった。復活するが。


「ううん、ソフィは悪くないんだよ。私たちがはじめるのが遅かったんだ」


 私、まだ何も言ってないんですが?










「! ああ! す、素敵です!」


 顔を赤く染めながら、ジェイドがそういう。うーん、そんなに?


「ねぇ? ソフィって、ほんっとに可愛いよねぇ。羨ましいわぁ」
「そうか? リリも可愛いと思うが」
「! そ、そう?」


 私はともかく、みんなは本当に可愛い。アイドルなんてレベルじゃないくらい。
 って、ちがう。それよりも、今聞きたいのは、この服のことだ。


「ねえ、これ、誰がデザインしたの?」
「ソニア様。ずっとそのデザインを引き継いでるみたいね。作り方なんかもとってあるし」


 ! やっぱり、ソニア様って、日本の人なんだ。じゃあ、名前は偽名か。って、そんなのどうでもいいや。


「ソフィ、お疲れ。目立つの嫌いだったよね?」
「ううん、楽しかった。いろんな人と戦えたし」
「それは良かった。ソフィだけが、心配だった」


 ……。本当に、昨日との差はなんだろう。今日はすごい楽しかった。
 だって、トレアの涙見ちゃったし、その時点でもう仕方なかったんだって、思えた。
 それに加えて、ジェイドの言葉も聞いちゃったし、もう、これ以上心配させたくないって思った。
 だから、もう、気にしてちゃダメだって……。
 あぁ、駄目。油断したら、今でも泣いちゃいそう。でも。泣かないって、決めたから。


「大丈夫。私、一応勇者の子孫だから。これから慣れてくからね?」
「うん。あ、でも、気にしなくていいしさ。ゆっくり行こうね」


 ああ、本当にお姉さんみたい。みんなといると、とっても楽しい……。

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