剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第64話 七つの大罪
次の扉の前に行く。今度は、『Avaritia』と書かれている。隣には、狐と針鼠。
やっぱり、紫色のライトがある。触れる前に、扉は開いた。部屋はさっきと同じだ。
「我は『強欲』の悪魔、マモンだ」
頭には狐の耳が生えている。やっぱり顔は白い仮面に隠れている。紫色のスーツも同じだ。
こいつも美形だろうか・・・。雰囲気は似ているな。
ああもう・・・。怖いじゃないか。また・・・。同じ事に、なるんじゃないかって・・・。
銀髪に紫の目、真っ白の肌。こいつも相当綺麗だ。
でも、ベルゼブブと違うのは、なんだろう、やっぱり劣るし、なんか弱かった。
ベルゼブブの時みたいに、とどめさすのに泣きそうになる、なんてのはなかったな。
次の扉は『Invidia』と書かれていた。動物は蛇と犬だ。
扉を開けて(まあ、勝手に開くのだが)、少し驚いた。雰囲気が変わったのだ。
全体的に緑になった。床は濃い緑と薄い緑のチェック。やっぱり緑色の煙が立ち込めている。なんか、遺跡にある様な瓦礫があるな。鎖はなくなった。
其処に居たのは、右が白、左が黒の仮面を被った人だった。名前はレヴィアタン。
彼もやっぱり綺麗。それと、ベルゼブブには劣るけれど、結構強かった。
次は『Luxuris』。動物は蠍と山羊だ。
やっぱり、さっきと同じ雰囲気。仮面の色が、レヴィアタンとは左右逆だった。
名前はアスモデウスというらしい。羊の角と牛の耳があり、蛇の尻尾が生えていた。
彼は・・・。滅茶苦茶強い。ベルゼブブには劣るだろう。けれど、俺も結構消耗している。正直、結構疲れている。その状態での戦い。やばそうだ。
その時。攻撃を避けようとしたが間に合わず、俺の目の前を鮮血が舞う。肩をやられた。
「あっ・・・!」
「これでお前は魔王に近づけない」
ギュッと目を瞑った時。
「ユーリ!」
「え・・・。エ、ディ・・・?」
レヴィアタンは目の前を転がっていった。視線を動かす。エディが、腕を水平に上げて睨んでいた。
ああ、みんな居るのか。メリーも、リリィも、ティナも、リーサも、エドも、ルナも、エリーも。
メリーが俺を治癒して、リリィが立たせてくれた。
「よかった、無事で」
メリーが優しく微笑む。細まった紫色の瞳が俺をしっかりと見ている。
もう、いっつもいっつも、なんてタイミングで来るんだよ・・・。ああ、どうしよう・・・。泣きそう。
「え、ど、どうしたの?」
「な、何でもないから」
「リリィさん・・・。此処は私たちで」
「そうそう、行くよッ!」
「! うん!」
リリィが右手を俺の方に向ける。と、丈夫なバリアが出現する。そのまま、全員を視界の中に収める。
瞳が光ると同時に。俺の家族全員が青く光る。補助魔法。
続いて、メリー、エディ、ルナ、エリーがティナを囲む。ティナは何か祝詞を唱え始める。
四人の魔力がティナに集まり。太陽のごとく光り輝く。
ティナが詠唱中。エドとリーサが武器を構えて時間稼ぎを行う。アスモデウスは、ティナを邪魔したそうだが、上手くいかなくてイライラしているようだ。
「「稲荷・悪払之術・十種大祓!」
目を開けられないほどの光。俺がうっすらと目を開けると、アスモデウスはボロボロと崩れ落ちていくところだった。
光が消えた時。アスモデウスは消え去っていた。誰も居なかったかのように。何もなかった。
「・・・ふぅ。上手くいったようで良かったです」
「大丈夫、ユーリ?」
「ああ・・・。やっぱダメ」
ああ、なんで一人で来ようなんて、馬鹿なこと思ったんだろうな。みんなと一緒だと、此処まで安心するものなのか。涙が、本当に止まらない。
さっき、もし、来てなかったら。本当に死んでいた。そう思うと、なんでか分からないけど・・・。
「ありがとう、来てくれて」
「本当に慌てたわ。起きたらユーリ、居ないんだもの」
「頑張って探したんだからね~?」
エディが背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。ポケットから綺麗なハンカチを取り出し、目を拭う。
メリーに言われ、その場に座る。リリィが隣に座ってぎゅっと抱きしめてくれた。
「ユーリさん、飲みますか?」
「ありがとう」
ティナがペットボトルを渡してくれた。ああ、ちょっと落ち着いた。
リリィを抱きしめ返して、大きく息を吸う。
「よし! もう大丈夫だ」
「ふふ、よかった」
「みんな、ありがとうな」
みんなは笑って、いつも通り、見上げる形で俺の顔を見る。俺は、みんなを見下ろすようになる。
愛している人が近くに居るって、此処までやる気になるんだな。守るべき人が、此処に居るのだ。俺がしっかりしないといけない。
まあ、みんな、もう、俺が思っている以上に強くて、しっかりしているんだけどな。
「よし、いこっか!」
「ああ! もちろんだ」
「じゃ、進むよ!」
次の扉は『Acedia』。熊と驢馬が描かれている。
二人ずつで変わるんだな。部屋の雰囲気がまた変わる。
タイルは様々な色がある。真ん中に、グレーで円が描かれている。で。青っぽい煙。
そして。円の真ん中に、彼は立っていた。黒い仮面を被って。
「我は『怠惰』の悪魔、ベルフェゴールだ」
魔力から考えるにそんなに強くはない。その上、みんなも居る。大丈夫、勝てる。
ティナはクールタイム的なものに陥っている。暫く妖術が使えない。
その為、ティナを除いた俺たちで戦う事になる。まあ、問題ないだろう。寧ろ多いくらいだ。
ガチャ、ガチャ、とバインドによる音。変わった金属なのか、音がいつもと違う気がする。
あの赤黒い魔力は、リリィが難なく打ち消してくれる。そうして、後ろから大量の魔法。いつも通り。変だけど・・・。凄く落ちつく。
エドが首を跳ね。ベルフェゴールを倒した。エドは、白い布を取り出し、血を綺麗に拭った。なんだか、とても優雅な動き。
俺がベルフェゴートの名前を復唱したその途端、エディが俺を見て問う。
「あっ?! これまでの敵、全部答えて頂戴!」
「えっ? ええと、ベルゼブブ、マモン、レヴィアタン、アスモデウス、で、ベルフェゴールだな」
「やっぱり・・・。七つの大罪」
七つの大罪・・・?
エディは分かっていない様子の俺に、呆れながら教えてくれた。
傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰。
これらが罪とされていて、それぞれ、動物と悪魔が決まっている。
傲慢はルシファー。動物はグリフォンとライオン、孔雀で、『Superdia』と書かれる。
強欲はマモン。動物は狐と針鼠で、『Avaritia』と書かれる。
嫉妬はレヴィアタン。動物は蛇と犬で、『Invidia』と書かれる。
憤怒はサタン。動物はユニコーンとドラゴン、オオカミで、『Ira』と書かれる。
暴食はベルゼブブ。動物は豚と蝿で、『Gula』と書かれる。
色欲はアスモデウス。動物は蠍と山羊で、『Luxuria』と書かれる。
怠惰はベルフェゴール。動物は熊と驢馬で、『Acedia』と書かれる。
うん、心当たり、あるな。扉の模様だ。魔王はそれになぞらえていたのか。
それで、その事に気が付いたエディも凄いな。いや、俺が分からないだけで、みんなすぐ分かるものなのか?
まあともかく。それで行くと、残りはルシファーとサタン。ってことは、きっと、今の魔王はルシファーではないんだな。次に戦うのはルシファーってことか。
で、最後にサタンと称される、魔王。そうか・・・。もうすぐ、だな。
「多分、これまでの悪魔とは比べ物にならないと思うわ」
「じゃあ、油断しないようにしなくちゃいけないってことか」
「ええ。でも、大丈夫よ。いつも通り、頑張りましょう」
『Superdia』、それからグリフォンとライオン、孔雀の書かれた扉を開け(まあ、勝手に開くのだが)、中に入ると、やはり。部屋の感じは変わらない。黒い仮面を被った悪魔、というのも、同じ。立ち位置も、一緒だ。
「我は『傲慢』の悪魔、ルシファーだ」
こいつを倒したら。そうしたら、魔王に会える。ずっと夢見てきた、魔王討伐まで、あと少し。
俺たちは、誰からともなく頷き、武器を構えてルシファーに向かった。
両手に構えた剣は赤く染まっている。俺のではない、ルシファーのだ。
強い。何が強いって、無駄がないのだ。俺たちは距離を取り、危険なので視線を離さず、荒い息を整えようとしていた。
「何だ、もう終わりか?」
「いいや、まだだ!」
ベルゼブブよりも、美しいと思えるその顔は赤く染まり、もはや、何処からどう見ても悪魔だ。
桃色の唇の隙間から出された舌は、滴る血をそっと受け止めた。
此処で勘違いしてはいけないのが・・・。ルシファーは、一滴も血を流していないという事だろう。
その証拠に、俺たちの武器は、全て綺麗なのだ。綺麗だというのに、全く嬉しくない。当然だな。
これは・・・。まさか、此処までとは。本当に強い。魔王って、一体どんな力を持っているんだろう。
俺たちの傷は癒してある。けれど、追い込まれている事に違いはない。大体、傷を塞いだところで。失った血が帰ってくるわけではない。結構やばいかもしれない。
ほら、あの、入院した、あの時の父さんとの練習がフラッシュバック。
「ユーリ・・・。無茶、しないで」
「メリー、そんなこと言ってる場合じゃない」
「そのくらい分かってるわよ、メリーも。でも、他に掛ける言葉が無いわ」
眩暈が起こり、戦いに集中できない。けれど、此処で引くわけにはいかない!
其処で、ある事に気が付いた。ティナ。
「はぁ、はぁ・・・。
掛巻も 恐き 稲荷大神の大前に
恐み恐みも白さく
大神の 厚き弘き恩頼に依て 家門を
令起賜ひ 令立栄賜ひ
夜の守日の守に 守幸へ賜へと
恐み恐みも白す」
「この程度の祝詞・・・。我を祓えるとでも?」
「違うんです。まわりの魔力」
「?!」
そうか。青色の煙が晴れていく。この煙、悪魔が魔法を使う時に利用できる魔力で出来ていたのだ。
これがなければ。ルシファーは、自分の魔力を使わなくてはいけない。その内、枯渇する。
「愚かだな・・・。我の魔力量は、並大抵ではない!」
「はい。ですから。
一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 布瑠部 由良由良止 布瑠部」
ティナはそう、三回繰り返して唱えた。
「ひふみ祓い!」
「あ・・・、な・・・」
「魔力を奪わせていただきます」
その時。行動が一番早かったのはリーサだった。
驚いているルシファーの後ろに回り込み、首を斬った。血飛沫が飛び散り、ルシファーはその場に崩れ落ちた。
「ティナさん、お見事です」
「リーサちゃんこそ。反応、良かったです」
美しい顔を、もう一度見たくて。でも、何となく、怖くて。
そんな事をしていると、みんなは休憩しよう、と言って一カ所に集まっていた。もういいや。
次。もう、この扉の奥に。魔王は居る。どうしようもなく緊張してきた。
とりあえずは、この疲れを癒さないと。そうしたら・・・。
みんなで、だ。魔王を倒しに行こう。
やっぱり、紫色のライトがある。触れる前に、扉は開いた。部屋はさっきと同じだ。
「我は『強欲』の悪魔、マモンだ」
頭には狐の耳が生えている。やっぱり顔は白い仮面に隠れている。紫色のスーツも同じだ。
こいつも美形だろうか・・・。雰囲気は似ているな。
ああもう・・・。怖いじゃないか。また・・・。同じ事に、なるんじゃないかって・・・。
銀髪に紫の目、真っ白の肌。こいつも相当綺麗だ。
でも、ベルゼブブと違うのは、なんだろう、やっぱり劣るし、なんか弱かった。
ベルゼブブの時みたいに、とどめさすのに泣きそうになる、なんてのはなかったな。
次の扉は『Invidia』と書かれていた。動物は蛇と犬だ。
扉を開けて(まあ、勝手に開くのだが)、少し驚いた。雰囲気が変わったのだ。
全体的に緑になった。床は濃い緑と薄い緑のチェック。やっぱり緑色の煙が立ち込めている。なんか、遺跡にある様な瓦礫があるな。鎖はなくなった。
其処に居たのは、右が白、左が黒の仮面を被った人だった。名前はレヴィアタン。
彼もやっぱり綺麗。それと、ベルゼブブには劣るけれど、結構強かった。
次は『Luxuris』。動物は蠍と山羊だ。
やっぱり、さっきと同じ雰囲気。仮面の色が、レヴィアタンとは左右逆だった。
名前はアスモデウスというらしい。羊の角と牛の耳があり、蛇の尻尾が生えていた。
彼は・・・。滅茶苦茶強い。ベルゼブブには劣るだろう。けれど、俺も結構消耗している。正直、結構疲れている。その状態での戦い。やばそうだ。
その時。攻撃を避けようとしたが間に合わず、俺の目の前を鮮血が舞う。肩をやられた。
「あっ・・・!」
「これでお前は魔王に近づけない」
ギュッと目を瞑った時。
「ユーリ!」
「え・・・。エ、ディ・・・?」
レヴィアタンは目の前を転がっていった。視線を動かす。エディが、腕を水平に上げて睨んでいた。
ああ、みんな居るのか。メリーも、リリィも、ティナも、リーサも、エドも、ルナも、エリーも。
メリーが俺を治癒して、リリィが立たせてくれた。
「よかった、無事で」
メリーが優しく微笑む。細まった紫色の瞳が俺をしっかりと見ている。
もう、いっつもいっつも、なんてタイミングで来るんだよ・・・。ああ、どうしよう・・・。泣きそう。
「え、ど、どうしたの?」
「な、何でもないから」
「リリィさん・・・。此処は私たちで」
「そうそう、行くよッ!」
「! うん!」
リリィが右手を俺の方に向ける。と、丈夫なバリアが出現する。そのまま、全員を視界の中に収める。
瞳が光ると同時に。俺の家族全員が青く光る。補助魔法。
続いて、メリー、エディ、ルナ、エリーがティナを囲む。ティナは何か祝詞を唱え始める。
四人の魔力がティナに集まり。太陽のごとく光り輝く。
ティナが詠唱中。エドとリーサが武器を構えて時間稼ぎを行う。アスモデウスは、ティナを邪魔したそうだが、上手くいかなくてイライラしているようだ。
「「稲荷・悪払之術・十種大祓!」
目を開けられないほどの光。俺がうっすらと目を開けると、アスモデウスはボロボロと崩れ落ちていくところだった。
光が消えた時。アスモデウスは消え去っていた。誰も居なかったかのように。何もなかった。
「・・・ふぅ。上手くいったようで良かったです」
「大丈夫、ユーリ?」
「ああ・・・。やっぱダメ」
ああ、なんで一人で来ようなんて、馬鹿なこと思ったんだろうな。みんなと一緒だと、此処まで安心するものなのか。涙が、本当に止まらない。
さっき、もし、来てなかったら。本当に死んでいた。そう思うと、なんでか分からないけど・・・。
「ありがとう、来てくれて」
「本当に慌てたわ。起きたらユーリ、居ないんだもの」
「頑張って探したんだからね~?」
エディが背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。ポケットから綺麗なハンカチを取り出し、目を拭う。
メリーに言われ、その場に座る。リリィが隣に座ってぎゅっと抱きしめてくれた。
「ユーリさん、飲みますか?」
「ありがとう」
ティナがペットボトルを渡してくれた。ああ、ちょっと落ち着いた。
リリィを抱きしめ返して、大きく息を吸う。
「よし! もう大丈夫だ」
「ふふ、よかった」
「みんな、ありがとうな」
みんなは笑って、いつも通り、見上げる形で俺の顔を見る。俺は、みんなを見下ろすようになる。
愛している人が近くに居るって、此処までやる気になるんだな。守るべき人が、此処に居るのだ。俺がしっかりしないといけない。
まあ、みんな、もう、俺が思っている以上に強くて、しっかりしているんだけどな。
「よし、いこっか!」
「ああ! もちろんだ」
「じゃ、進むよ!」
次の扉は『Acedia』。熊と驢馬が描かれている。
二人ずつで変わるんだな。部屋の雰囲気がまた変わる。
タイルは様々な色がある。真ん中に、グレーで円が描かれている。で。青っぽい煙。
そして。円の真ん中に、彼は立っていた。黒い仮面を被って。
「我は『怠惰』の悪魔、ベルフェゴールだ」
魔力から考えるにそんなに強くはない。その上、みんなも居る。大丈夫、勝てる。
ティナはクールタイム的なものに陥っている。暫く妖術が使えない。
その為、ティナを除いた俺たちで戦う事になる。まあ、問題ないだろう。寧ろ多いくらいだ。
ガチャ、ガチャ、とバインドによる音。変わった金属なのか、音がいつもと違う気がする。
あの赤黒い魔力は、リリィが難なく打ち消してくれる。そうして、後ろから大量の魔法。いつも通り。変だけど・・・。凄く落ちつく。
エドが首を跳ね。ベルフェゴールを倒した。エドは、白い布を取り出し、血を綺麗に拭った。なんだか、とても優雅な動き。
俺がベルフェゴートの名前を復唱したその途端、エディが俺を見て問う。
「あっ?! これまでの敵、全部答えて頂戴!」
「えっ? ええと、ベルゼブブ、マモン、レヴィアタン、アスモデウス、で、ベルフェゴールだな」
「やっぱり・・・。七つの大罪」
七つの大罪・・・?
エディは分かっていない様子の俺に、呆れながら教えてくれた。
傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰。
これらが罪とされていて、それぞれ、動物と悪魔が決まっている。
傲慢はルシファー。動物はグリフォンとライオン、孔雀で、『Superdia』と書かれる。
強欲はマモン。動物は狐と針鼠で、『Avaritia』と書かれる。
嫉妬はレヴィアタン。動物は蛇と犬で、『Invidia』と書かれる。
憤怒はサタン。動物はユニコーンとドラゴン、オオカミで、『Ira』と書かれる。
暴食はベルゼブブ。動物は豚と蝿で、『Gula』と書かれる。
色欲はアスモデウス。動物は蠍と山羊で、『Luxuria』と書かれる。
怠惰はベルフェゴール。動物は熊と驢馬で、『Acedia』と書かれる。
うん、心当たり、あるな。扉の模様だ。魔王はそれになぞらえていたのか。
それで、その事に気が付いたエディも凄いな。いや、俺が分からないだけで、みんなすぐ分かるものなのか?
まあともかく。それで行くと、残りはルシファーとサタン。ってことは、きっと、今の魔王はルシファーではないんだな。次に戦うのはルシファーってことか。
で、最後にサタンと称される、魔王。そうか・・・。もうすぐ、だな。
「多分、これまでの悪魔とは比べ物にならないと思うわ」
「じゃあ、油断しないようにしなくちゃいけないってことか」
「ええ。でも、大丈夫よ。いつも通り、頑張りましょう」
『Superdia』、それからグリフォンとライオン、孔雀の書かれた扉を開け(まあ、勝手に開くのだが)、中に入ると、やはり。部屋の感じは変わらない。黒い仮面を被った悪魔、というのも、同じ。立ち位置も、一緒だ。
「我は『傲慢』の悪魔、ルシファーだ」
こいつを倒したら。そうしたら、魔王に会える。ずっと夢見てきた、魔王討伐まで、あと少し。
俺たちは、誰からともなく頷き、武器を構えてルシファーに向かった。
両手に構えた剣は赤く染まっている。俺のではない、ルシファーのだ。
強い。何が強いって、無駄がないのだ。俺たちは距離を取り、危険なので視線を離さず、荒い息を整えようとしていた。
「何だ、もう終わりか?」
「いいや、まだだ!」
ベルゼブブよりも、美しいと思えるその顔は赤く染まり、もはや、何処からどう見ても悪魔だ。
桃色の唇の隙間から出された舌は、滴る血をそっと受け止めた。
此処で勘違いしてはいけないのが・・・。ルシファーは、一滴も血を流していないという事だろう。
その証拠に、俺たちの武器は、全て綺麗なのだ。綺麗だというのに、全く嬉しくない。当然だな。
これは・・・。まさか、此処までとは。本当に強い。魔王って、一体どんな力を持っているんだろう。
俺たちの傷は癒してある。けれど、追い込まれている事に違いはない。大体、傷を塞いだところで。失った血が帰ってくるわけではない。結構やばいかもしれない。
ほら、あの、入院した、あの時の父さんとの練習がフラッシュバック。
「ユーリ・・・。無茶、しないで」
「メリー、そんなこと言ってる場合じゃない」
「そのくらい分かってるわよ、メリーも。でも、他に掛ける言葉が無いわ」
眩暈が起こり、戦いに集中できない。けれど、此処で引くわけにはいかない!
其処で、ある事に気が付いた。ティナ。
「はぁ、はぁ・・・。
掛巻も 恐き 稲荷大神の大前に
恐み恐みも白さく
大神の 厚き弘き恩頼に依て 家門を
令起賜ひ 令立栄賜ひ
夜の守日の守に 守幸へ賜へと
恐み恐みも白す」
「この程度の祝詞・・・。我を祓えるとでも?」
「違うんです。まわりの魔力」
「?!」
そうか。青色の煙が晴れていく。この煙、悪魔が魔法を使う時に利用できる魔力で出来ていたのだ。
これがなければ。ルシファーは、自分の魔力を使わなくてはいけない。その内、枯渇する。
「愚かだな・・・。我の魔力量は、並大抵ではない!」
「はい。ですから。
一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 布瑠部 由良由良止 布瑠部」
ティナはそう、三回繰り返して唱えた。
「ひふみ祓い!」
「あ・・・、な・・・」
「魔力を奪わせていただきます」
その時。行動が一番早かったのはリーサだった。
驚いているルシファーの後ろに回り込み、首を斬った。血飛沫が飛び散り、ルシファーはその場に崩れ落ちた。
「ティナさん、お見事です」
「リーサちゃんこそ。反応、良かったです」
美しい顔を、もう一度見たくて。でも、何となく、怖くて。
そんな事をしていると、みんなは休憩しよう、と言って一カ所に集まっていた。もういいや。
次。もう、この扉の奥に。魔王は居る。どうしようもなく緊張してきた。
とりあえずは、この疲れを癒さないと。そうしたら・・・。
みんなで、だ。魔王を倒しに行こう。
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