剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第20話  子供たち

 あれから約一年半経ち二月。メリッサの子供は無事に生まれた。桜の咲く四月だ。名前は『メリリーサ』。愛称はリーサ。瞳が紫色だから、間違いなく魔族だ。つかまり立ちが出来る。
 で、エディナの子も生まれた。六月に。しかも双子だった。二卵生で、男の子と女の子。男の子は『エドワード』でエド、女の子は『エルナーネ』で、ルナだ。もうハイハイが始まっている。
 ついでにリリィの子も。先月生まれた。女の子だ。名前は『エリー』だ。この子は愛称をつけるほど長くないな。


「ユーリ。朝ご飯出来たよ」
「ああ。メリー、リリィ。エディがご飯出来たって」
「うん、今行くね」


 あ、ちなみに、俺の愛称だが、もともと『ユーリー』だった。これなら、ちゃんと男の人の名前なんだが、いつの間にか『ユーリ』になっていた。女の子みたいじゃないか? そうでもない? まあ良いけれど。


「ほら、アナも座りな」
「では」


 そうだ、彼女の事も紹介しておこう。彼女はアナスタシア。家に来ている家政婦さんだ。
 ・・・、あ、いや、人ではない。いや、人、なのかもしれないが。ええと、とにかくエレナの作ったホムンクルスだ。子守として雇った。いや、作って貰った、か。
 髪の色は桃色に似た茶色。目の色はヘーゼル。ホムンクルスなのに、と思ったら、エレナが『失敗した』とか言っていた。
 可愛いんだが、ちょっとおどおどしてるからな。堂々としてれば美少女。・・・そう言えば、ホムンクルスの割に、人間っぽいな。


 メリーがリーサに、エディがエドとルナに離乳食を与えている。大忙しの様だ。特に、エディはエドとルナにあげなくちゃいけない。俺はエディの持っていたエド用の茶わんを掬い取った。エドは俺のすぐ隣に座っている。


「エディ、子育てと家事じゃ、大変じゃないか? しかも双子だし」
「ん、でも、殆どユーリがやってるでしょ?」
「料理は出来ていない」
「知ってる」


 そんな話をしていると、アナが「あ」と声を出した。
「どうしたんだ?」
「そう言えば、二月頃にもう一人来るって言ってたのを思い出しまして」
「そうなの? じゃあ、エディちゃんもちょっとは楽になるかな」


 その時、家中にチャイムが鳴り響いた。




「わたくし、エレナお嬢様から派遣されましたホムンクルス、クリスティアネと申します」
「クリスティアネ・・・。また変わった名前つけたのね、エレナ」
「そう言えば、アナスタシアも変わってるねぇ」
「我がお譲様はそのような名前がお好きなようで」


 ああそう・・・。ともかく、アナとお揃いのメイド服を着たクリスティアネを家に入れる。
 クリスティアネ・・・。クリスタとかが良いだろうか。パーマのかかった長い金髪がお嬢様っぽい。瞳の色がアナと一緒なのがちょっと気になるが・・・。まあ良いか。


「クリスタ、よろしくな」
「クリスタ、ですか。はい、ユリエル様」
「あ、あの、ユリエル様って呼ばないで欲しいの、私と一緒だから」
「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか」
「え、そうだな・・・」
「・・・あ、リリィちゃんがユーリって呼べば?」
「え?! じゃ、じゃあ・・・。ユーリ様」


 あ、様は付けるのか。そう言えば、メリーも他の子にちゃんは付けてるしな。別に何でもいいか。
 それより、ちょっと顔を赤らめたリリィが可愛い。すぐに慣れてしまうだろうけど。残念だな。


「念のため言っておきますが、わたくしは家事・子守専門でございます故、夜の方のお仕事は控えさせていただきます」
「悪いが、俺には三人も嫁が居るもので、其処まで回る余裕が無い」
「念のためと言っておきましたのを、お忘れでしょうか」
『・・・』


 機械かよ。アナとは大違いだな。そう思ってアナを見ると、何を思ったのか顔を真っ赤にしてあたふたし出した。
 まあそれは置いておいて。一人しか子供を作らない、という事で、今は避妊の薬を使っている。魔法薬のエキスパートが作ったこの避妊薬は、百%避妊できる。・・・本当か? まあ、俺たちは信用しているが。


「ねえユーリ。何時になったら魔王を倒す為に冒険始める?」
「そうだな。ある程度手が掛からなくなったら近場から始めるか」
「あ、そっかぁ。ユーリは魔王を倒すって言ってたね」
「最近魔王による事件も増えてるしな・・・。何がしたいんだろうな、町を破壊して」


 そんなのが許せるはずがない。絶対に倒すと決めた以上、本気で鍛えていこうと思う。
 俺は、子供たちには戦いに参加して欲しくないと思っているけれど、この子たちはどうするんだろうな・・・。


「ああ、そうです。わたくし、エレナ様から子守をするように言われておりまして。皆様が冒険に出る事も可能かと」
「でも、まだエリーが小さすぎるな」
「もうちょっと一緒に居たいよ」
「だろ? でも、もう少ししたら近場に行くか」
「そうね」




 さて。朝ご飯が終わったら俺はギルドに行く。結婚式の時に新調した赤い柄のバスタードソードを持って。何故赤いのかというと、魔王の色が青紫らしく、できれば反対の色にしたかったのと、剣神の持つ剣が赤だからだ。ただ、剣神の剣は剣身が赤いが。まるきり同じにするわけにはいかない。


 嫁と子供たちに行ってきますをする。リーサはもう結構大きいから、頭を撫でてあげるとニコッとする。このまま家に居たいのだが、そう言う訳にもいかない。さっさと父さんにこの家のお金を払ってしまいたいのでな。


「じゃ、行ってくる。メリー、エディ、リリィ、頼んだぞ」
「うん、任せて」
「大丈夫よ。出来るだけ早く帰って来てね」
「ユーリ様、行ってらっしゃい」


 さて、今日はどんな依頼を受けようか・・・。




 帰ろうとしていると、公園でエレナを見つけた。ベンチに座っている。その膝の上には奈桜。夕焼けに照らされ、とても優雅だった。
 俺が声を掛けると、エレナはそっと目を細めた。


「ユリエルさん。お久しぶりです」
「奈桜、どうかしたのか?」
「ふふ・・・。熱があるのに、わざわざついて来て酷くなっちゃったみたいです。外は寒いんだから」
「エレナお嬢様と、離れたくなかったもので」


 どうやら、ホムンクルスを遊ばせに来たらしい。カラフルな髪、目をした子たちを梓桜、澪桜が構っていた。エレナは自分のブランドを持っていて、ホムンクルスを売っている。エレナのホムンクルスは見れば分かる。綺麗な、濡れたような黒髪だからな。


「私も悪かったかな。奈桜ちゃんが体調良い時にお出かけしようね」
「それだと滅多に出かけられませんので・・・。次は、家に居ます」
「どっちでもいいけどね。ほら、寝ても良いよ」
「では」


 寝てしまった奈桜を見て、エレナは困った様な顔をした。
「もう・・・。私じゃ奈桜ちゃんを抱っこするの大変なんだからね?」
「大丈夫か?」
「はい。奈桜ちゃんは、私が失敗して・・・。ちょっと、体が弱いんです。だからその分、一緒に居てあげたいんです」
「そうか」
「では、エディのこと、よろしくお願いしますね」


 エレナは片手で奈桜を撫で、片手を俺に向けて振った。俺も手を軽く振り返し、家に向かって歩き出した。梓桜と澪桜が俺に向かって頭を下げたのが少し見えた。




「お帰り、ユーリ」
「ただいま。さっき、エレナに会ったんだ」
「あれ、そうなんだ。あの、えっと、エディちゃんの妹さんだよね」
「そうそう。ホムンクルス作りが得意な」
「・・・。四人目は聞いてないよ」
「そんなつもりはないから」


 メリーと話しながらリビングに行くと、クリスタが「お帰りなさいませ、ユリエル様」と頭を下げた。その声を聞いて、料理中だったアナが慌てて頭を下げる。ああ、フライパンが危ない。


「アナ!」
「あっ! わぁぁ、危なかったぁ・・・」
「火傷してない?」
「はい、大丈夫です。エディ様」


 アナはおっちょこちょいだから・・・。俺はアナの腕を掴み本当に怪我が無いのか確かめた。
「大丈夫だな」
「あ、あの・・・」
「大丈夫と言っても信用できない。確認したかっただけだ」


 アナは顔を赤くして、すぐエディの視線に気がついて料理に戻った。
 俺はその間、エドとルナを見ることにした。エディが料理中だからな。




 半年後。八月。
「パパ! パパ!」
「リーサ、どうしたんだ?」


 リーサは一歳四カ月。そこそこ喋れるようになっていて、言葉の意味も理解できている。だから絵本を一緒に読むのが楽しい。そんな俺を、メリーは優しい目で見ていた。
 は置いておいて。リーサは手に大きな桃色の果実を持っていた。ああ、桃だ。変な意味じゃなくて。


「どうしたんだ、これ?」
「ママ!」
「お帰り~。ああ、これ? 私が買って来たんだけど、リーサ、パパが帰ってくるまで待ってるって言ったんだよねー?」
「そうなのか。じゃあもう少し早く帰ってくればよかったな」
「でも、まだ四時でしょ? パパ帰ってきたし、食べよっか、リーサ」
「ん!」


 そう言っていると、よたよたと歩いてくる二つの影。エドとルナだ。二人は一歳二カ月。喃語がほとんどだが、少し単語が見えるようになってきた。で、わざわざ俺を出迎えてくれたわけだ。
「エド、ルナ、ただいま」


 ああ、もう一人居るな。現在七ヶ月のエリー。悪魔の成長は早いと言っていたのは本当だったらしい。今はリリィの腕に抱かれているが、気が付くとハイハイで消えてしまう。明らかに三人より早い。倍くらいの速度で成長してるんじゃないか?


「お帰り、ユーリ様」
「ただいま、リリィ」
「ごめんごめん、おかえり」
「ああ、ただいま、エディ」


 いつもと変わらない生活。こんなにも幸せだなんて、思いもしなかった。
 大人数のお出迎えに答え、リビングに行くと、クリスタとアナが頭を下げた。アナも最近は慣れてきたな。


「あ、ユリエル様、ユルシュル様から夏野菜のプレゼントです」
「姉さんから? って、凄いな、これ」
「ユルシュル様がルーズヴェルト邸で育てていらっしゃるようです」
「へえ、凄いな・・・」


 そう言えば、姉さんは植物とか好きだしな。魔法も多少使えるようだし、そうなれば少しは楽だ。
 ・・・ああ、それで今日はリーサの機嫌がいいのか。桃もある事だしな。


「リーサ、今日は野菜沢山だぞ?」
「んー」
「リーサはちゃぁんとお野菜食べられるもんね」
「ん!」


 そう。リーサは珍しく野菜が好きだ。人参でもピーマンでも平気。逆に、エドは野菜嫌い。ルナはどっちでもないな。普通って感じだろうか。エリーはまだ離乳食だし。
 にしても、リーサはメリーによく似ている。顔が似てて、髪も黒いし、目も紫だし。あ、俺との接点何処? ・・・エドは結構俺に似てるな。ルナはエディ似だが。二人とも黄色っぽい茶髪に青緑の目をしている。エリーは当然金髪青目。俺もリリィも金髪青目なのに、違ったら何かが間違ってる。


「よし、じゃあ頑張って作るからね。リーサちゃん、楽しみにしててね」
「ん!」
「はい。じゃ、ユーリ、疲れてるとは思うけど、エドとルナ見ててくれる?」
「ああ。エド、ルナ、おいで」


 このまま、暫くは幸せな生活が続くもんだと、ずっと思っていたのに。

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