剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第11話  文化祭

「で、どうする?」
「どうすると言われても・・・」


 さて、九月の終わり。十月の中頃にある文化祭の出し物について話し合っているが、生憎案が一切出ない。大体、うちのクラスの人数見ろ。どうやって文化祭やるんだよ。
 あ、四人じゃないぞ。リリィと梓桜、澪桜もいるからな。


「何なら出来るかな。っていうか、話し合い始めるの遅すぎたよね」
「まあ、そうだな。今から準備できるもの・・・」
「Sクラスに相応しいものなんて、よく分からないです・・・」


 うーん・・・。何をやろう。何となくエレナに視線を向けると、エレナはそれに気が付いた。


「えっと・・・。ホムンクルス、三体なら、いけると思いますが・・・」
「あ、そう。いや、別に、そういう意味じゃなかったんだが」
「そうでしたか? あ、でも、もうすぐリリィちゃんの体は出来ます。別行動も出来ると思いますよ」


 あ、そうなのか。それは少し良いな。文化祭中、ずっとくっついているわけにもいかないだろうし。
 じゃなくて、出しものだって。アルファズール武術学院の文化祭は、毎年、沢山の客が訪れる。そこそこのものが出来ないと困る。


「じゃあ、何か私たちの特技を合わせて・・・」
「出来そうもないな」
「ですね」
 何をやればいいっていうんだ? アンジェリカ先生に、ここ数年の出し物を聞いてみる。


「そうですね・・・。やっぱり、Sクラスだと、戦闘能力生かしてショーやったりとかが多いですかね」
「ショー、か」
「どんなの出来るのかな・・・。って、え、何処でやるの?」
「教室か、1年Sクラスの校庭です」
「ああ、あれ・・・」


 あの校庭か・・・。普通の学校の校庭分くらいあるから、相当広い。何かやろうと思った時、面積の問題で・・・、という事はまずないという事か。
 俺たちは話しあって出し物を決め、詳細について話し始めた。




 『アルファズール武術学園文化祭』
 いやぁ、随分派手な看板だな。金とか赤だぞ・・・。
 俺たちは登校するなり、校庭に出て、最終確認を開始する。


「・・・、よし、大丈夫だね」
「だと良いんだが」
「心配しないでください。ほら、まだ少し時間ありますし、模擬店を見に行きましょう」




「さすがアルファズール武術学院というか・・・。定番じゃないな」
「お化け屋敷とかないね。何、戦闘カフェって」
「戦って、勝てたら無料になるとか、半額になるとか、みたいだね」
「でもこれ、3年Sクラスですよ、勝てっこないですよ」
「だな」


 そのほかも見て回る。1、2、3、年のS、A、B、Nクラスだから、十二クラスか。ショーとか、劇をやるクラスもあるからあまり模擬店は多くない・・・、と思うが、どうやらグループに分かれているのか、明らかに数が多い。教室ではない所も使っているしな。


「ご主人様ぁ・・・」
「・・・。よし、好きなもん買って来い」
「わぁい! ご主人様、ありがとう!」
「・・・あ! 御釣返せって言い忘れた」
『・・・』
「まあいいか。もう遅いな」


 五千ネロも渡してしまった。明らかにあまるだろう。が、リリィがどうするかは俺にも想像できない。結構食べるからな・・・。その分動いてるんだろう。
 そう言えば、リリィの肉体は完成した。じゃなかったらあんなに簡単に俺の傍を離れたりはしない。出来は最高。何の違和感もないのだから。
 溜息をつきながら財布の中身を確認。リリィが相当食べるだろうことは想定済み。結構な量を持って着ておいてよかった。休みの日に稼ぎに言ってるから、貯金には余裕があるしな。細かいお金の準備を忘れたのは・・・。まあ仕方ないな。
 魔法使いが居れば火も材料の管理も問題ない。だからか、結構安いところも多いんだよな。衛生面は先生方総出でサポート。滅菌出来る魔法の魔法陣の用意とか。それほど、この文化祭は大きなイベントってわけだ。


「焼きそば、お好み焼きありまぁす!」
「フランクフルト、ホットドックいかがですかぁ」


「おにぎりだって、ちょっと変わってるよな」
「あのカフェ可愛い! 良いなぁ」
「クレープとかワッフルとか、美味しそうです」
「じゃあ、一回目の演技終わったらもう一回来ようか。ユリエルくんも良いでしょ?」
『うん!』
「ああ。リリィがどうせ来たがるだろうしな」


 そんな話をしながら歩いていると、リリィが戻ってきた。手にはアイス。そんなに今日は暑くない。大体十月だ。まあ、リリィにとって季節なんてどうでもいいんだろう。
 よく見れば、ビニール袋にじゃがバター入ってるだろ。アイスと反対の手にはフライドポテト。おい、組み合わせ悪くないか?


「御主人様ぁ。はい」
「ああ、御釣。何買ったんだ?」
「今此処に持ってるもの」
「そうか。じゃあ分かった」


 苦笑いしつつ御釣を財布に戻す。四千ネロ以上残っている。まあ、始まったばかりだしな。そんなにいきなり買う訳無いよな。
 何故かリリィにフライドポテトを一本貰い、俺たちは校庭に戻った。




「皆さん、こんにちは。私たち、1年Sクラスの演技を見に来ていただき、ありがとうございます!」


 マイクを握ったエディナが言う。結構度胸があるから、こういうのは得意なんだよな。何かを喋り続けるエディナ。あんまり聞いていなかったから、きちんと聞きとれたのは、この最後の合図だけ。
「では、お楽しみ下さい!」


 練習を重ねたこのショー・・・。笑っちゃって大変だった。凄く。だって、それ、相当の問題だろ?
 校庭に(魔法で)作ったステージに上る。結構な人がいるのは、Sクラスだからだろう。


「あ、あの・・・」
「・・・ん?」


 次に登場したのはシミオンなんだが・・・。その、衣装がな。ドレスなんだ。ロリィタの。それが抜群に似合うから可笑しくて。いや、もう慣れた。
 シミオンが登場した瞬間、あちこちから「可愛い!」の声。誰も男の子だなんて気づいていないな。


「ユリエルさんですよね?」
「ああ」
「これ!」


 シミオンが渡すのは桃色の手紙。開けて読む。
「ユリエル様へ。
 決闘を申しこみます!


 なんでこんな色の封筒に!」
「それしかないんだもん・・・。良いでしょ、戦って」


 さて、こっからが本番なんだよな。そりゃそうだろ。劇をやるわけじゃない。ただ、ストーリーが欲しいというエディナの要望でこうなっただけだ。


 俺はシュラッと剣を抜く。シミオンは愛用の杖を握る。シャロンちゃんと戦った時に使った杖ではなく、授業で普段使っている、長い杖。
 シミオンはにこっと笑う。これが合図。俺はシミオンに向かって走り出す。


サンダー
 シミオンは杖を両手でキュッと握って可愛らしく振る。女の子にしか見えない、それも、相当可愛い部類に入る。
 と言っている場合ではない。俺に向かって雷が振ってくるんだからな。バック転で避けた。避け方は沢山あるけど、バック転が一番かっこいいってことになったんだ。さて、此処から!


「リリィ!」
「了解、御主人様!」
 いつもよりロングでお洒落なメイド服を着たリリィを召喚。客席からわぁ、と歓声が上がる。
 リリィの魔法にとらわれる前にシミオンが一発。


血の沼ブラッド・マーシュ!
「うわぁっ!」
 業と当たってやった。血が垂れるのは問題ないとの事だから平気。だって、冒険と無関係でも見たこと無い人なんていないし、みんな血は見慣れてるわけだ。何でか? 小学校の授業で絶対見ることになるだろ? ・・・そう考えたら強いよな。
 はい、エディナ登場。


「まあ、ユリエル! 一体どうしたの?! 治癒ヒール
「ありがとう、エディナ」


 大怪我からの一瞬完治。エディナの魔法は相当だ。戦いをやっている人なら、誰でもその位分かる。
 ちなみに、エディナの衣装ふわっと広がるワンピースだ。


「酷いなぁ、仲間が来るなんてぇ。エレナちゃん!」
「はぁい。梓桜ちゃん、澪桜ちゃん」
『了解です』


 いつも通り白衣を着たエレナと、メイド服のホムンクルスの二人。ここでの見せ場は、二人の鏖殺魔法。


「梓桜ちゃん!」
「了解いたしました、エレナお嬢様。鏖殺魔法其ノ壱 紅蓮烈火」
 ステージ上を炎が埋めつくす。のを、リリィが全解除。間髪いれずに澪桜。
「鏖殺魔法其ノ漆 荒天神風」
 澪桜の右目が光る。と同時にステージ上に竜巻の様な突風。エディナがそれを打ち消した。


 さて、魔法はそこそこ出来たな。俺が剣を握ると、ホムンクルスの二人が鞭と槍を持つ。梓桜が鞭で、澪桜が槍だ。
 基本的には俺の見せ場ってことになる。二人の攻撃を掻い潜らなきゃいけないからな。業と大袈裟な動きで避ける。鞭を飛んで避け、槍を弾いて後ろに回り込み、くるっとまわって鞭を避け・・・。
 で、二人同時に吹き飛ばす(やっぱり血は出る)。すぐにエディナが回復させておくが、二人はステージから降りる。




 その後も戦いが続き、俺がシミオンを追い詰めた時、こう訊く。
「最後に訊こう。お前、名前は?」
「シミオン・アディントンっていうの・・・」
「シミオン・・・? え、あ、男の子だったのか」
「うん」
『えぇーっ!』




「ほらやっぱり、誰も男の子だって気付かなかったよ!」
「いやぁ、相当可愛いよな」
「な、なにを・・・! ま、まあ、結構お金もらえたからいいけど・・・」


 特に観賞の料金は決まっていなくて、帰りに気に入ったらお金を箱に入れて貰う形にした。結構重い。
 この、シミオンの衣装が結構するからよかったな。本人は文句がある様だが。
 さて、次の演技までにはまだ時間がある。模擬店を見に行くか。さっきは少ししか見れなかったからな。


 エディナの気に入ったカフェに入る。店員さん役の子の衣装がとっても可愛い。そして、俺たちの注文を受ける子がさらに可愛い。シャロンちゃんに似た感じ。人見知りだけど可愛いからやらされた感があるけれど。顔が真っ赤だし。ちょっと涙目。
「ご注文は・・・?」


 エディナが全部言って(っていうか、全部決めた)、俺たちは出てくるのを待つ間、次のショーの打ち合わせ。


「一応、おんなじものやる事になってるじゃん」
「ああ」
「でも、絶対リピーターが居ると思う」
「だな」
「だから、ちょっと変えたいんだ」


 ノートを取り出し、計画を立てていくエディナ。それに、少し訂正を入れたり、付け加えたりして、次のショーの準備を整える。
 んで、エディナの頼んだものが来た。パフェやらケーキやら。それと人数分カフェオレ。


「んー、美味しい。文化祭のカフェだって言うのに、随分気合入ってるんだね」
「まあ、大陸中からお客さん来るわけだし、気合い入れるんじゃないかな?」
「そうですね。一番有名な文化祭ですし」
「下手なもん出せないわけだ」


 そんな事を言いつつ食べ終え、料金はエディナが支払い(相当気に入ったらしい)、もう一度校庭に戻る。


「これ終わったら、あとは午後一回だけだよね」
「ああ。もうお昼だし、あんまり来ないかもな」


 んなわけなかった。凄い来た。梓桜&澪桜の鏖殺魔法が効いたか? あんな魔法、他じゃ滅多に見れないもんな。エディナの魔法は派手ではないが一発の威力は高い。シミオンのブラッド属性の魔法の迫力のバッチリだ。俺も出来るだけ大袈裟に行動してるし。跳んだりな。


「うわぁ、人、増えてるよ・・・」
「なんか問題あったのか?」
「ううん。でも、僕、あの格好で出るんだよ・・・」


 シミオンが小さな声で言う。まあそうか。女装して出なきゃいけないんだもんな。
 エレナはセリフの暗記中、エディナは衣装の確認中。俺はシミオンと復習中。
 と、エディナが時計を見て言う。
「ん、もう時間だね。ほら、行くよ!」




 いや、凄いな。さっきよりも増えてるし。どんだけ稼げば気が済むんだよ。
 変えたところは幾つかある。まず、梓桜の魔法を毒蔓纏鐃に、澪桜の魔法を轟音霹靂に変える。で、シミオンの血の池ブラッド・マーシュ血の雨ブラッド・レインに変える。
 ストーリーは、捕らえられた姫(エレナ)を巡った物語にする。シミオンは恋人にする為エレナを捕まえる。この時点では、まだシミオンは女の子の格好。で、それを俺が取り返す。
 初めての人は、シミオンの可愛さにキュンキュンしながら最後の告白で驚く(?)。
 二回目の人は、シミオンが男の子であると分かっているから、言葉の節々から目的が見えてくる。
 どっちにしろ楽しめるだろう。


「にしても、エディナは凄いな、よくこんなに上手く仕上げたな」
「えへへ・・・。シミオンの言葉に凝ったんだ。男の子だって分かってれば、結構内容は面白いと思うよ。初めてなら、その技の凄さに圧倒されればいい」
「つまり、ストーリーは二回目の人用か」
「そういうこと」


 もうすぐ一時、か。時計を見ていると、さっき買い物に行った梓桜と澪桜が帰ってくる。
「じゃ、午後もがんばろ!」
『おー!』




 文化祭終了。あちらこちらで片づけを開始する生徒の姿が見える。俺たちは大して片づけるものなんて無いしな。衣装の片づけとステージを壊すだけ。ステージの方は、魔法だから一瞬だ。
 という事で後夜祭まで時間があるから、こうやってふらふらしている。


「私たち、結構儲けちゃったよね」
「これってどうするんだ?」
「一応分配していい事になってますよ」


 アンジェリカ先生の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。


「それは・・・。リリィちゃんや梓桜ちゃん、澪桜ちゃんも含めて?」
『・・・?』


 後夜祭と言っても、大したことはない。優秀な出し物の発表、表彰の後、ちょっとダンスとかをやって騒ぐだけだ。そんなに遅くはならない予定だ。
 そして、結果発表が行われた。


「一位に輝いたのは、3年Sクラスです!」
『・・・、は?』


 その場がしぃんと静まり返る。そりゃあそうだ。さっきまで、俺たちのクラスが一番だろうと、誰もが言っていたのだから。
 ただ・・・。3年Sクラスの四人だけは、違った。ニヤッと笑っていた。
 あまりに静まり返ってしまったので、校長先生はもう一度言う。


「一位は3年Sクラス、出し物は武術カフェ」


 あぁ、そうか・・・。俺は思い出した。俺たちの入ったカフェではないが、一度、前を通りかかった。
 どうやら、品物の仕上げを、武術を演技しながらやってくれるとか、そんなんだったか? 綺麗な演出に、店内の盛り上がりは最高だった。まさに長蛇の列、という込み具合だったしな・・・。


「よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」


 ・・・。ま、まあまあ。俺たちはまだ後二回も残っているんだ、次リベンジ! そう言って、俺たちの初めてのアルファズール武術学院文化祭は幕を閉じた。

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