剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第10話 フェリシアとシャロン
「こんにちは。私、シミオンの姉、フェリシアですわ」
「私、シャロン」
どうやら、シミオンの姉と妹が来たらしい。 シミオンが嫌そうな顔をする。
シミオンの姉、フェリシアさん。年は姉さんと同じくらいだろう。淡い茶髪に紫の目は変わらない。髪は長く、ポニーテール。背が高くて、御姉様タイプだろうな。
シミオンの妹、シャロンちゃん。うわぁ、すっごく可愛い・・・。年は小学三年生くらい? ぽやっとした、視点の定まっていないこの目がまた何とも言えない。俺の視線に気が付くと、少しだけ首を傾けた。
「シミオンお兄ちゃん、来たの」
「らしいね・・・。一体どうしたの?」
「あの馬鹿兄の事よ。ユリエルくんのお姉さんに迷惑かけたらしいわね・・・。本当にごめんなさい」
「あ、いや・・・」
「フィオンお兄ちゃん、ダメな人」
シャロンちゃんに言われちゃなぁ。フィオンは本当にそんな奴なんだな。この三人が可哀想でならない。
フェリシアさんはシミオンに近づくと、鞄の中から小さなステッキを取り出した。シミオンに押し付ける。
「何で、持って来たんですか? 僕は、此処ではその杖を使わないと決めたんです」
「それがねぇ・・・。シャロンが戦いたいんだって」
「なっ?! もう僕を倒せるって?」
「と思う。学校一番になった」
シャロンちゃんは魔族特有の、刺すような殺気を放つ。さっきまでの笑みは消え去り、ニヤッと笑った顔が不気味。
と、アンジェリカ先生が言う。
「それも良いんですけれどね。そろそろお昼なので、御二人もどうですか?」
『え?』
昼食が終わると、シャロンちゃんは着ていた淡い紫色の上着を脱ぎ去った。下に来ていたのは、真っ黒の半袖ワンピース。何故だか、そのワンピースを見ていると、シャロンちゃんが怖い・・・?
「あれ、魔服なの。見ているものを恐怖に陥れる。だから、普段は隠してるんだけど、シャロン、本気ね」
「え?」
「さあ、この戦い、相当面白いものになるわよ」
フェリシアさんが隣に座ってそう言った。俺はシャロンちゃんに視線を戻し、驚いて声をあげそうになった。何だあれ?!
シャロンちゃんは、大きな斧を持っていた。黒くて、禍々しいオーラを纏っている。シミオンの持つステッキも、同じオーラを放っているな。
「あれは魔法道具。アディントンに代々伝わる立派な、ね。私たちは、あの武器を持っている時、通常の何倍もの力を発揮できるのよ。・・・、いえ、逆ね。あれを持っている時が、本当の私たちよ」
シャロンちゃんはすぅっと息を吸い込んで目を閉じる。数秒すると、シャロンちゃんは目を開く。その瞬間。戦いが始まった。
シャロンちゃんは、眼力のみで魔法を出したらしい。シミオンの立っていた地面が盛り上がる。ただ、シミオンはすでに其処には居ない。シャロンちゃんの後ろに回り込んでいた。が、シャロンちゃんもすぐに気が付き、とっさに後ろに大きく跳んだ。あんなに大きな斧を持っているのに、軽々と。
あの二人と戦って・・・。俺は、勝てるんだろうか。正直、今戦ったら、確実に負けるだろう。そう思えるほど、二人の動きは速く、魔法は強力だった。
「シャロン・・・。腕を上げたじゃないか」
「お兄ちゃんこそ! シャロン、正直あっさり勝てると思ってた!」
「それはなめ過ぎだ! 僕はシャロンのお兄ちゃんなんだからね!」
二人の魔法がぶつかり合い、どちらからとも言わず、そっと距離をとった。シャロンちゃんは、斧を持っているにもかかわらず、さっきから魔法を使っている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。このままじゃダメ」
「だろうね。でも、休む時間は無いよ!」
「もちろん、分かってる」
シミオンは杖の先端に魔力を集める。
「血の沼」
「避けられないと、思ってる?」
黒魔族専用の魔法、血属性の魔法か! 相手の血で戦場を赤く染める、というのが由来だと聞いている。シャロンちゃんの真上にナイフが大量に現れる。シャロンちゃんはそれを軽く一瞥すると、右手は斧を持っているので、左手を天に向ける。ナイフは全て消え去った。
「シャロン、掛かったね?」
「お、お兄ちゃ・・・?!」
「電気」
どんな人でも。魔法を使う時には少しだけ隙が出来る。それは、魔法を打ち消す為の魔法でも変わらない。
シャロンちゃんの体に電流が流れる。それを見て、シミオンはそっとシャロンちゃんから離れた。
「くはっ・・・。な、なんで?」
「ん、どうしたの?」
「どうして、こんな簡単な魔法? もっと強ければ、一発で倒せた」
「・・・ふふ、大掛かりな魔法使ったら、準備の時間に、シャロン、逃げてたでしょ?」
「分かってたの・・・」
シャロンちゃんは両手をパサリと下ろす。目を閉じて、開く。
「じゃあ、シャロンも、本気で戦ってあげるからねぇ!」
髪が重力に逆らって動いている。ここからが、本当の二人の戦い・・・!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・。勝てな、かった」
「まだまだ甘いね。今回は僕の勝ちだ」
「悔しい・・・! 今度は勝つから」
「どうかな? まだご褒美を上げるつもりはないよ」
「永久に、のつもり? シャロン、絶対にお兄ちゃんを倒す」
勝ったのはシミオンだった。戦略勝ち、と言ったところだろう。二人の力は互角だ。細かい作戦でシミオンが勝る、という事だろう。シャロンちゃん、攻撃パターン読みやすいし。ただ、まだ幼いからだろう。すぐ抜かれるんじゃないか?
シミオンはシャロンちゃんを立たせ、フェリシアさんに押し付ける。
「ほら、満足したでしょう、帰って下さい」
「うーん、そういう訳にも行かなくて」
「は?」
「私、今日これから遠くまで行かなくちゃいけない用が出来て。でも、シャロン一人家に置いてくわけにもいかないでしょ? 預かって」
フェリシアさんはシャロンちゃんをシミオンに渡した。
「え、ちょ、そんなっ?!」
「私が許可を出しています。明日、お昼頃迎えに来るそうです」
・・・マジで?!
「シャロンちゃーん、一緒に遊ぶ?」
「いいの・・・。私、勉強しないとだから」
「あ・・・」
エディナの誘いを断り、シャロンちゃんが勉強しはじめるもんだから、否応なしに俺たちも勉強する事になった。なんでそんな事になるかなぁ・・・。
「お兄ちゃん。何か問題出して」
「そうだなぁ・・・。水、電気、風で作る魔法は?」
「嵐」
「泉と泥は?」
「沼」
「魔法の合成はバッチリだね」
「の、つもり」
シャロンちゃんはニヤッと笑った。それを見て、シミオンはちょっと考えたような仕草をして、また問題を作り出す。
「じゃあ、妖孤の使う魔法の総称は?」
「妖術」
「白魔族の得意な魔法二種類は?」
「光と治癒」
「ふふ、凄いじゃないか。じゃあ、魔法を使う前の準備運動として使う魔法は?」
「ウォームアップマジック」
ウォ、ウォー・・・? 何だそれ・・・? 聞いたことが無い。俺が首を傾げているのに気が付いたエディナが微笑んだ。
「そっか、ユリエルは知らないんだっけ」
エディナとシミオンは二人で協力して俺にウォームアップマジックについて教えてくれた。
ウォームアップマジックとは、準備体操という意味の魔法。次に使う魔法の威力を上げられるらしい。
ただし、上げられる魔法の属性が決まっているから、次に使う魔法が予測されやすいうえ、精霊と契約する必要があるので、使える人は少ないとか。
「精霊、か・・・」
「精霊は沢山居るんだよ。でも、精霊が認めた人間しか姿を見る事が出来ないの」
エディナの言葉に、シミオンが続ける。
「で、姿さえ見えれば、魔動語で会話が出来るんだよ」
へぇ・・・。見てみたいな、綺麗なんだろうな・・・。そう思っていると、エディナがジト目で俺を見ていた。
「な、なんだ・・・?」
「何、考えてた? あのね、精霊っていうのは神聖な存在なんだよ! 変なことし・・・」
「ちょっと待ったぁ! なんでそうなる!」
エディナがはっとしたような表情で俺を見て、顔を赤くする。
「あ、いや、そうだね・・・。むぅ・・・」
「エディナは何想像してたんだよ・・・」
「ごめんね、リリィちゃん、えっと・・・」
? エディナがそう言うと、リリィは俺をちらと見た。そのままリリィはトコトコここまで歩いて来て、俺の隣に座った。監視する様な眼が怖い。
ともかく。精霊か。認めてくれれば・・・。見れるん、だよな。
「リリィは、精霊、見えるのか?」
「っていうか、私自体が精霊みたいなものだから。私たち悪魔は、神の配下ってことになってるの。私たちと真逆の存在、天使も、神の配下。ちょっと神の種類が違うんだけど。まあとにかく、その、神の配下の事を精霊っていうんだけどね」
「え、じゃあ、精霊って悪魔と天使?」
「ううん、神の配下は悪魔や天使だけじゃないの。そのほかにも沢山いるの。それらをまとめて精霊と呼ぶんだ。・・・なのに、何故かこの世界の人は悪魔、天使を精霊と区別してるんだよね」
初めて聞いたな。悪魔、天使は精霊の中の一部ってことなのか。
・・・、で、なんでこの世界の人はそれを区別したんだろうな。
「そうなのか。じゃあ、リリィも精霊なのか。何で区別してるんだろうな」
「一応。多分、定義としては精霊は『肉体を持たないもの』。私たちは『肉体は無いが、仮のものを持っている』、かな。この世界の人の言う精霊って、触れないから」
ああ、そういう事か。長くなったが最初の質問。リリィは精霊を見れるってことになるんだろう。
にしても、今まで聞いたことのない情報がどんどん出てくるな。もっと早く色々聞いてみればよかった。
「えっと・・・。精霊って、そこらじゅうに居るから、見えても邪魔だよ? 精霊自体はお互いも触れないから、結構自由みたいだけど」
「じゃあ、重なってたりとか」
「するよ。だから、どれがエディナとシミオンの精霊なのか、私、分からない」
「そんなにいるのか?!」
そりゃ、見えても邪魔だな。困った能力だ。とはいっても、うっすらとしか見えないから問題はないらしいが。
「そう言えば、その、神の種類って?」
「え?」
「さっき、ちょっと種類が違うって言っただろ?」
「ああ、そういうこと」
リリィは何から言おっかなぁ、と呟いて視線を巡らせる。
「えっとね、聖の神と悪の神、って言えば分かるかな。元々、神様って誰かに信仰されてたものでしょ? 神聖な神様として拝まれてたら、聖の神。生贄を捧げて、怒りを鎮めて貰うような、悪い事に関係する様な? そんな神様は、悪の神。あ、でも、どっちかが悪いってわけじゃないんだよ」
「と、いうと?」
「聖の神様は分かると思うんだけど。悪の神様ってね、悪い事を鎮めたりする神様なんだよ。だからね、悪の神様が悪い、ってわけじゃないの」
? なんだかよく分からないが・・・。聖の神様は、神聖な存在として崇められてきた神、だよな。で、配下が天使。悪の神様は悪いことが起こった時に助けを求める神、だよな。配下が悪魔。
「何で悪の神っていうんだ?」
「昔はね、その神が悪い事を起こしてる、って思われてたから。その神が人に対して怒ってるから、悪い事が起きる。どうか怒りを鎮めてください、って。だから、悪の神って呼んでたんだけど、実際は鎮めるための神だった」
「酷いな」
知りたかったことはだいたい分かった。シャロンちゃんの勉強も終わったらしい。っていうか、ずっと聞いてた。勉強熱心だもんな。
そんな事を考えていたら、シャロンちゃんが急に口を開いた。
「ちょっと、違うの・・・」
「え?」
「悪の神、魔族が信仰してた。魔族=悪って印象があったから、悪の神」
「そんな話、聞いたこと無いよ」
「うん。魔族差別だって言って、別の理由がつけられた。本当の理由は、これ」
え、じゃあ、さっきの話全くの嘘?! 作り話で随分細かい設定を作ったもんだな・・・。
あれ、じゃあ、なんてシャロンちゃんは知ってるんだ? その時に気がついたが、シミオンが黙ってシャロンちゃんを見ていた。
「お兄ちゃん?」
「シャロン・・・。僕、言うなって言ったでしょ?」
「でも・・・」
「良いかい? これは秘密だったんだよ。何でもかんでも喋っちゃいけない」
「・・・。ごめんなさい」
シャロンちゃんは俯いた。空気が重くなったところに、全く無視してエレナが入ってきた。まあ、知らなかったもんな。
「ねえ! リリィちゃんの肉体、出来そうだよ! とっても楽しい! ありがとう!」
「あ、ああ・・・」
「あれ? どうかしたの?」
「・・・、ふふ、なんでもないよ」
エレナは首を傾げていたが、みんなは少し助かった、と思っていたのだった。
「私、シャロン」
どうやら、シミオンの姉と妹が来たらしい。 シミオンが嫌そうな顔をする。
シミオンの姉、フェリシアさん。年は姉さんと同じくらいだろう。淡い茶髪に紫の目は変わらない。髪は長く、ポニーテール。背が高くて、御姉様タイプだろうな。
シミオンの妹、シャロンちゃん。うわぁ、すっごく可愛い・・・。年は小学三年生くらい? ぽやっとした、視点の定まっていないこの目がまた何とも言えない。俺の視線に気が付くと、少しだけ首を傾けた。
「シミオンお兄ちゃん、来たの」
「らしいね・・・。一体どうしたの?」
「あの馬鹿兄の事よ。ユリエルくんのお姉さんに迷惑かけたらしいわね・・・。本当にごめんなさい」
「あ、いや・・・」
「フィオンお兄ちゃん、ダメな人」
シャロンちゃんに言われちゃなぁ。フィオンは本当にそんな奴なんだな。この三人が可哀想でならない。
フェリシアさんはシミオンに近づくと、鞄の中から小さなステッキを取り出した。シミオンに押し付ける。
「何で、持って来たんですか? 僕は、此処ではその杖を使わないと決めたんです」
「それがねぇ・・・。シャロンが戦いたいんだって」
「なっ?! もう僕を倒せるって?」
「と思う。学校一番になった」
シャロンちゃんは魔族特有の、刺すような殺気を放つ。さっきまでの笑みは消え去り、ニヤッと笑った顔が不気味。
と、アンジェリカ先生が言う。
「それも良いんですけれどね。そろそろお昼なので、御二人もどうですか?」
『え?』
昼食が終わると、シャロンちゃんは着ていた淡い紫色の上着を脱ぎ去った。下に来ていたのは、真っ黒の半袖ワンピース。何故だか、そのワンピースを見ていると、シャロンちゃんが怖い・・・?
「あれ、魔服なの。見ているものを恐怖に陥れる。だから、普段は隠してるんだけど、シャロン、本気ね」
「え?」
「さあ、この戦い、相当面白いものになるわよ」
フェリシアさんが隣に座ってそう言った。俺はシャロンちゃんに視線を戻し、驚いて声をあげそうになった。何だあれ?!
シャロンちゃんは、大きな斧を持っていた。黒くて、禍々しいオーラを纏っている。シミオンの持つステッキも、同じオーラを放っているな。
「あれは魔法道具。アディントンに代々伝わる立派な、ね。私たちは、あの武器を持っている時、通常の何倍もの力を発揮できるのよ。・・・、いえ、逆ね。あれを持っている時が、本当の私たちよ」
シャロンちゃんはすぅっと息を吸い込んで目を閉じる。数秒すると、シャロンちゃんは目を開く。その瞬間。戦いが始まった。
シャロンちゃんは、眼力のみで魔法を出したらしい。シミオンの立っていた地面が盛り上がる。ただ、シミオンはすでに其処には居ない。シャロンちゃんの後ろに回り込んでいた。が、シャロンちゃんもすぐに気が付き、とっさに後ろに大きく跳んだ。あんなに大きな斧を持っているのに、軽々と。
あの二人と戦って・・・。俺は、勝てるんだろうか。正直、今戦ったら、確実に負けるだろう。そう思えるほど、二人の動きは速く、魔法は強力だった。
「シャロン・・・。腕を上げたじゃないか」
「お兄ちゃんこそ! シャロン、正直あっさり勝てると思ってた!」
「それはなめ過ぎだ! 僕はシャロンのお兄ちゃんなんだからね!」
二人の魔法がぶつかり合い、どちらからとも言わず、そっと距離をとった。シャロンちゃんは、斧を持っているにもかかわらず、さっきから魔法を使っている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。このままじゃダメ」
「だろうね。でも、休む時間は無いよ!」
「もちろん、分かってる」
シミオンは杖の先端に魔力を集める。
「血の沼」
「避けられないと、思ってる?」
黒魔族専用の魔法、血属性の魔法か! 相手の血で戦場を赤く染める、というのが由来だと聞いている。シャロンちゃんの真上にナイフが大量に現れる。シャロンちゃんはそれを軽く一瞥すると、右手は斧を持っているので、左手を天に向ける。ナイフは全て消え去った。
「シャロン、掛かったね?」
「お、お兄ちゃ・・・?!」
「電気」
どんな人でも。魔法を使う時には少しだけ隙が出来る。それは、魔法を打ち消す為の魔法でも変わらない。
シャロンちゃんの体に電流が流れる。それを見て、シミオンはそっとシャロンちゃんから離れた。
「くはっ・・・。な、なんで?」
「ん、どうしたの?」
「どうして、こんな簡単な魔法? もっと強ければ、一発で倒せた」
「・・・ふふ、大掛かりな魔法使ったら、準備の時間に、シャロン、逃げてたでしょ?」
「分かってたの・・・」
シャロンちゃんは両手をパサリと下ろす。目を閉じて、開く。
「じゃあ、シャロンも、本気で戦ってあげるからねぇ!」
髪が重力に逆らって動いている。ここからが、本当の二人の戦い・・・!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・。勝てな、かった」
「まだまだ甘いね。今回は僕の勝ちだ」
「悔しい・・・! 今度は勝つから」
「どうかな? まだご褒美を上げるつもりはないよ」
「永久に、のつもり? シャロン、絶対にお兄ちゃんを倒す」
勝ったのはシミオンだった。戦略勝ち、と言ったところだろう。二人の力は互角だ。細かい作戦でシミオンが勝る、という事だろう。シャロンちゃん、攻撃パターン読みやすいし。ただ、まだ幼いからだろう。すぐ抜かれるんじゃないか?
シミオンはシャロンちゃんを立たせ、フェリシアさんに押し付ける。
「ほら、満足したでしょう、帰って下さい」
「うーん、そういう訳にも行かなくて」
「は?」
「私、今日これから遠くまで行かなくちゃいけない用が出来て。でも、シャロン一人家に置いてくわけにもいかないでしょ? 預かって」
フェリシアさんはシャロンちゃんをシミオンに渡した。
「え、ちょ、そんなっ?!」
「私が許可を出しています。明日、お昼頃迎えに来るそうです」
・・・マジで?!
「シャロンちゃーん、一緒に遊ぶ?」
「いいの・・・。私、勉強しないとだから」
「あ・・・」
エディナの誘いを断り、シャロンちゃんが勉強しはじめるもんだから、否応なしに俺たちも勉強する事になった。なんでそんな事になるかなぁ・・・。
「お兄ちゃん。何か問題出して」
「そうだなぁ・・・。水、電気、風で作る魔法は?」
「嵐」
「泉と泥は?」
「沼」
「魔法の合成はバッチリだね」
「の、つもり」
シャロンちゃんはニヤッと笑った。それを見て、シミオンはちょっと考えたような仕草をして、また問題を作り出す。
「じゃあ、妖孤の使う魔法の総称は?」
「妖術」
「白魔族の得意な魔法二種類は?」
「光と治癒」
「ふふ、凄いじゃないか。じゃあ、魔法を使う前の準備運動として使う魔法は?」
「ウォームアップマジック」
ウォ、ウォー・・・? 何だそれ・・・? 聞いたことが無い。俺が首を傾げているのに気が付いたエディナが微笑んだ。
「そっか、ユリエルは知らないんだっけ」
エディナとシミオンは二人で協力して俺にウォームアップマジックについて教えてくれた。
ウォームアップマジックとは、準備体操という意味の魔法。次に使う魔法の威力を上げられるらしい。
ただし、上げられる魔法の属性が決まっているから、次に使う魔法が予測されやすいうえ、精霊と契約する必要があるので、使える人は少ないとか。
「精霊、か・・・」
「精霊は沢山居るんだよ。でも、精霊が認めた人間しか姿を見る事が出来ないの」
エディナの言葉に、シミオンが続ける。
「で、姿さえ見えれば、魔動語で会話が出来るんだよ」
へぇ・・・。見てみたいな、綺麗なんだろうな・・・。そう思っていると、エディナがジト目で俺を見ていた。
「な、なんだ・・・?」
「何、考えてた? あのね、精霊っていうのは神聖な存在なんだよ! 変なことし・・・」
「ちょっと待ったぁ! なんでそうなる!」
エディナがはっとしたような表情で俺を見て、顔を赤くする。
「あ、いや、そうだね・・・。むぅ・・・」
「エディナは何想像してたんだよ・・・」
「ごめんね、リリィちゃん、えっと・・・」
? エディナがそう言うと、リリィは俺をちらと見た。そのままリリィはトコトコここまで歩いて来て、俺の隣に座った。監視する様な眼が怖い。
ともかく。精霊か。認めてくれれば・・・。見れるん、だよな。
「リリィは、精霊、見えるのか?」
「っていうか、私自体が精霊みたいなものだから。私たち悪魔は、神の配下ってことになってるの。私たちと真逆の存在、天使も、神の配下。ちょっと神の種類が違うんだけど。まあとにかく、その、神の配下の事を精霊っていうんだけどね」
「え、じゃあ、精霊って悪魔と天使?」
「ううん、神の配下は悪魔や天使だけじゃないの。そのほかにも沢山いるの。それらをまとめて精霊と呼ぶんだ。・・・なのに、何故かこの世界の人は悪魔、天使を精霊と区別してるんだよね」
初めて聞いたな。悪魔、天使は精霊の中の一部ってことなのか。
・・・、で、なんでこの世界の人はそれを区別したんだろうな。
「そうなのか。じゃあ、リリィも精霊なのか。何で区別してるんだろうな」
「一応。多分、定義としては精霊は『肉体を持たないもの』。私たちは『肉体は無いが、仮のものを持っている』、かな。この世界の人の言う精霊って、触れないから」
ああ、そういう事か。長くなったが最初の質問。リリィは精霊を見れるってことになるんだろう。
にしても、今まで聞いたことのない情報がどんどん出てくるな。もっと早く色々聞いてみればよかった。
「えっと・・・。精霊って、そこらじゅうに居るから、見えても邪魔だよ? 精霊自体はお互いも触れないから、結構自由みたいだけど」
「じゃあ、重なってたりとか」
「するよ。だから、どれがエディナとシミオンの精霊なのか、私、分からない」
「そんなにいるのか?!」
そりゃ、見えても邪魔だな。困った能力だ。とはいっても、うっすらとしか見えないから問題はないらしいが。
「そう言えば、その、神の種類って?」
「え?」
「さっき、ちょっと種類が違うって言っただろ?」
「ああ、そういうこと」
リリィは何から言おっかなぁ、と呟いて視線を巡らせる。
「えっとね、聖の神と悪の神、って言えば分かるかな。元々、神様って誰かに信仰されてたものでしょ? 神聖な神様として拝まれてたら、聖の神。生贄を捧げて、怒りを鎮めて貰うような、悪い事に関係する様な? そんな神様は、悪の神。あ、でも、どっちかが悪いってわけじゃないんだよ」
「と、いうと?」
「聖の神様は分かると思うんだけど。悪の神様ってね、悪い事を鎮めたりする神様なんだよ。だからね、悪の神様が悪い、ってわけじゃないの」
? なんだかよく分からないが・・・。聖の神様は、神聖な存在として崇められてきた神、だよな。で、配下が天使。悪の神様は悪いことが起こった時に助けを求める神、だよな。配下が悪魔。
「何で悪の神っていうんだ?」
「昔はね、その神が悪い事を起こしてる、って思われてたから。その神が人に対して怒ってるから、悪い事が起きる。どうか怒りを鎮めてください、って。だから、悪の神って呼んでたんだけど、実際は鎮めるための神だった」
「酷いな」
知りたかったことはだいたい分かった。シャロンちゃんの勉強も終わったらしい。っていうか、ずっと聞いてた。勉強熱心だもんな。
そんな事を考えていたら、シャロンちゃんが急に口を開いた。
「ちょっと、違うの・・・」
「え?」
「悪の神、魔族が信仰してた。魔族=悪って印象があったから、悪の神」
「そんな話、聞いたこと無いよ」
「うん。魔族差別だって言って、別の理由がつけられた。本当の理由は、これ」
え、じゃあ、さっきの話全くの嘘?! 作り話で随分細かい設定を作ったもんだな・・・。
あれ、じゃあ、なんてシャロンちゃんは知ってるんだ? その時に気がついたが、シミオンが黙ってシャロンちゃんを見ていた。
「お兄ちゃん?」
「シャロン・・・。僕、言うなって言ったでしょ?」
「でも・・・」
「良いかい? これは秘密だったんだよ。何でもかんでも喋っちゃいけない」
「・・・。ごめんなさい」
シャロンちゃんは俯いた。空気が重くなったところに、全く無視してエレナが入ってきた。まあ、知らなかったもんな。
「ねえ! リリィちゃんの肉体、出来そうだよ! とっても楽しい! ありがとう!」
「あ、ああ・・・」
「あれ? どうかしたの?」
「・・・、ふふ、なんでもないよ」
エレナは首を傾げていたが、みんなは少し助かった、と思っていたのだった。
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