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赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第80話  VS魔王 ユリア

 私の相手は猫耳のベリンダね。あの子、一回も戦ってないから力が分からないのよね。どんな感じなのかしら? ま、相手の力なんて関係ないわね。私はいつも通り戦うだけよ。
 隣を見れば、ノーラがいる。一緒に戦う事ってあまり無いけれど、ノーラと一緒なら何でも出来る気がするわね。絶対勝つ! リーナの為でもあるし。


「ユリア、無理しないでよ」
「分かってるから、安心して? 私も変わったのよ」
「そう? じゃ、頑張ろう」
「ええ!」


 無理なんか、するわけないじゃない。ルージュのみんなと一緒にいて、私の存在にも、価値があるのだと分かった。私が居なくなったら、みんなが悲しむ。そんなこと、私はしないわよ。
 って、誰かが後ろから走ってきた?


「ユリア様! 此処にはあたしも入るにゃ!」
「え、えっと、あ、そうそう、エリュ、よね? なんで……?」
「良いから良いから、戦おう!」


 反論する間もなくエリュは戦闘準備を始めてしまう。もう、なんなのよ……。まぁ、エリュは強いから来て貰った方が助かるのは間違いないわね。
 私は魔力を準備する。剣を構えたベリンダが此方を向く。一度静止。そこから一気に走りだす。
 両手をクロス。手の中にボールの様な魔法を作る。クロスした手を解くようしながた手を上げると、手の中のボールが飛んで行く。一つずつしか持っていなかったけれど、実際飛んで行ったのはもっと。そういう魔法なのよ。
 予想通り、ベリンダは全てのボールを避けてここまで来る。そうこなくっちゃね! ベリンダの剣はバリア魔法を纏わせた杖で受け止める。杖はいつもすぐ取り出せるように異空間に置いておいてるの。
 思っていたより重い。一瞬体勢を崩しかけたけれど、エリュが援護に入ってくれて助かったわ。


 ノーラは後ろから魔法を撃ってくる。呪術以外の魔法は苦手なはずなのに、頑張ってくれている。呪術はこういう戦いでは向かないのよね。
 杖を仕舞い、もう一度手の中にボールを作る。そのボールをくっつけるように両手を合わせ、胸の前で構える。そのまま手を伸ばして投げる!
 ボールは途中でバラバラに割れ、小さな粒となってベリンダに襲い掛かる。ベリンダはそれを全てなにも使わず、ただ避けた。なんて素早さと動体視力……。
 まあ、だからって負けるつもりはないけれど!


 もう一度杖を取り出し、先に付いた魔石に魔力を集める。ベリンダは此方を警戒して向こうに立ったまま。少し距離があるな。魔法、届くかしら?
 と、その時、後ろからエリュが飛び出した。いつの間にか剣を持っている。仕方なく、ベリンダもエリュの方に走る。
 二人の剣が絡み合う。高い金属音がして、二人はひょいと後ろに飛ぶ。それから、また走って、ぶつかり合う。その間に、私の魔力は準備が出来てる。もうすぐにでも魔法が撃てるわ。エリュはそれに気が付くと、上手く、私の方へと誘導を開始する。


 ベリンダがその事に気が付いたのは、ちょっと遅かった。私の炎がベリンダに襲い掛かる。
 絶対に当たる、と思っていた私は、本当に驚いた。火傷一つ負わずに立つ、ベリンダの姿が見えた。あの至近距離での魔法を避けた? 相当近かったのに。これは、甘く見過ぎていたかもしれないわね。
 彼女は私の動揺を感じてか、にやりと笑う。


「あはぁ、甘く見てた感じ? 私、そんなに弱くないよ。魔王と、ミリアムの次に強いんだから」
「へえ。んじゃ、ラザールとリーナで適任ね」
「そんなに強いんだ? ま、とにかく、あんまり甘く見てると、痛い目に遭うよ」
「みたいね。ところで、貴方、ほんとうんジャンケンなんて、どういうつもりなのよ」
「え? ああ、昨日の。本当にお嬢に言われただけ」


 ふぅん? 魔王、そんなにこの子の事が好きなのかしら? まあ、この子たちを死なない様にしてた辺り、嫌いな訳はないわよね。どんな魔法を使ってたのかしら? ちょっと興味はあるわね。


「あ、止めといた方が良いよ。その魔法、お嬢しか使っちゃいけないの、禁忌だよ」
「な、なんでわかったのよ」
「え? なんとなく。それより、早く戦おうよ」


 禁忌、か。一体、魔王って何者なのかしらね? なにが目的で、こんなことをしているのか。不思議だわ。元々、とてもいい人だったらしいのにね。
 とにかく、私はこの子を倒さないとね。この世界を救わなきゃ。それに、リーナの為にも。ずっと、一人で抱え込んでた、本当の事。沢山辛い思いをさせてしまった。だから、責めて、私に出来る最大の事をしてあげたい。リーナの事、大好きだから。


 両手を合わせて、呪文の詠唱。次に使う魔法の威力を上げる為の魔法。こういう変わった魔法、結構好きなの。
 ベリンダは話が終わったので、また剣を構える。それを見て、エリュも剣を構えた。
 猫耳の生えた二人が、剣をぶつけ合っている。私の入る隙がない。せめて援護するくらいかしらね。


「ねえ、ユリア」
「ん? ノーラ、どうしたの?」
「時間を止める。私と、ユリアだけが、動けるようにして」
「え?」
「ちょっと大掛かりな魔法だから、時間掛かるけど。でも、待ってて。お願い。其処で、気持ちを整えて」
「……、分かったわ」


 前を見ると、エリュは剣を持っていなかった。辺りを自由に走り回る。そうして、エリュの通った後に、幾つかのつぼみの様な物が出来ていた。一体、何をするつもりなの?
 エリュは私のところまで来ると、にやぁと笑みを浮かべる。ベリンダは警戒をして、また、私達から離れた。其処で、エリュが叫ぶ。


「紅い花、開花!」


 その瞬間。つぼみが一斉に花開き、炎へと変わっていく。なんて魔法……。見た事がないし、とても美しい。凄い、凄いよ、エリュ! こんな魔法、私も使ってみたい!
 ベリンダの周りを炎が囲んでいる。彼女は小さく溜息を吐くと、上に大きく跳び上がった。其処で、静止。え……。宙に、浮いてる? そんな、一体、どうやって倒すっていうのよ。


 其処で、カチリ、と言う音がした。何事かと振り返ると、後ろに大きな時計が現れていた。秒針が、動いていない。
 前を見ると、全てのものが、止まっている。なにも動いていない。もしかして。


「時間を止めた。ユリア。ちゃんと、決めて」
「な、なにを、かしら?」
「心の中、ぐちゃぐちゃなの、分かってる。魔王を倒したら、リーナは。でしょ?」
「ち、違うわ、そんなこと」
「いいや、違くない。さっきから、魔法の強さが、弱い」


 もう、ノーラには何でもお見通しね。仕方ない。素直になろう。首を縦に振る。
 ちゃんと、ね。そう。心の中では分かっていても、リーナが私の手の届かない所へ行ってしまうと知っては、冷静ではいられない。本当は、冷静でいるつもりだったの。さっきまでは、ね。でも、違ったみたい。やっぱり私、駄目ね。リーナの幸せを思えば、私なんかと一緒に居たって、仕方ないのよ。
 なのに、なんでこんなに苦しいの。どうしてこんなに、ラザールを憎く思ってしまうの? こんな自分が、大嫌いよ!


 キュッと目を瞑る。その時浮かんできたのは、リーナじゃなかった。ノーラだった。気が付く。ノーラだって、私の傍に、居てくれた。寧ろ、リーナより、私の近くに、居てくれた。
 リーナの事で夢中だったけれど。よく考えてみれば、ノーラの行動の一つ一つに、感情が、よくあらわれていた。きっと、私の事……。だから、ノーラは、リーナに、あんな事をしたんだ。そう思えば、全てがかみ合う。
 じゃあ、ノーラは。私の事、好きだったの? それなのに、ずっと、押し殺して、リーナが好きな私を、許してくれていたの? それって、凄く、辛い事よね。今なら、よく分かる。
 そっか、ノーラ……。今すぐ好きになるかって言われたら、そんな事はない。でも、もし、ずっと、一緒にいたら。今までと違う視点で、ノーラを見たら。私の気持ち、変わるかもしれない。
 何より、それが、リーナの為でも、ノーラの為でもある。だったら。


「ノ、ノーラ」
「なぁに、ユリア」
「終わったら、慰めて、くれる?」
「約束、する」
「ほんと?」
「ああ」
「約束だよ? じゃあ、私は、大丈夫」


 息を吐いて、魔力を高める。集中。いつもよりも、感覚が研ぎ澄まされたかのよう。魔力の動きが、手に取るように分かる。
 私はそっと、ノーラに合図を出す。彼女は黙って頷くと、呪文を唱え始めた。
 カチリ、と言う音とともに、時間が動き出す。其処で、私は自分の中の魔力を一気に解放する。円状に波動が広がって行き、強い風が吹き荒れる。
 しっかり前を見て、ちょっとだけ、口角を上げる。私の、渾身の必殺技、受け取りなさい?


「赤薔薇王魔・怒ノ業火」


 さっきの波動のように、円状に炎が広がっていく。全ての敵を焼き払う、私の必殺技。この魔法なら! 誰にも負けない自信がある!
 宙に浮いてるベリンダに、どうやって攻撃を与えるか。簡単よ。円状に広がる炎の高さを高くすればいいの!
 因みに、この魔法。敵にしかダメージを与えない。なかなか難しかったのだけれど、沢山魔法を撃ってるうちに制御の方法はばっちりになった。今ではこんなことまで出来るってわけ。


「ふっ、これで終わりよ?」


 ニヤッと笑みをベリンダに向ける。彼女は経った今、炎に飲みこまれたところだった。


「さて、じゃあ、リーナのところに行きますか!」


 ノーラに視線を送ると、ふるふると首をふられた。え、なんで?


「魔王は。ルージュが、倒さなきゃ」
「! そう、ね!」


 なるほど、確かにそうね。魔王、待ってなさい、私の全力を叩きこんでやるんだから!

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