赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第62話 戦争 ベル
鼻歌を歌いながら移動する。こんなに沢山戦えるのって、こんな時くらいだからね、楽しまなくっちゃ。リーナちゃんとか、ラザールくんとか、固いんだよ。あたしは戦い、好きだよ。ユリアちゃんくらいがいいと思う。
昔は短刀を良く使ってた。けど、両手に一本づつ持つから、ミレと被るんだよね。それで、素手での戦闘を極めた。今でも練習してるから、やろうと思えばできる。今だってたくさん持ってる。でも、まあ、使わないと思うけど。よし、此処で良いかな。
突然現れた様に見えたでしょ? 後ろから思い切り蹴ってやったら、兵士、向こうの方まで飛ばされて行っちゃった。周りの人たちが驚いたように私を見る。えへへ、そんじゃ、行きますか!
こういう動き方は、得意だった。みんな、人の事を魔力で感知するから、今まで感じていた魔力が急に感じられなくなると、消えたように感じるの。その隙に移動すれば、瞬間移動したように見える。現れる時も、一緒。死角を探したうえで、魔力を消して近づく。別に、透明化とか使ってるわけじゃないよ。
魔力を消すのって、実はとっても難しい。でも、私は昔から得意だった。だから、こういう戦いを極めた。得意な事を生かすのは良い事。ま、苦労も沢山したけどね。
「な、なんだ?!」
「白魔族のパーティ『ルージュ』、暗殺者のベル・ドレイク。……こういう時、なんていうかな、ええと、あ!」
「御命頂戴!」
段取りにミスがあったけど、まあまあ気にしない。すっと息を吸い、魔力を解放! それだけで後ろにいた魔術師の女の子が飛ばされていった。こいつら、あんまり強くなかったか、失敗した。
生き物を殺す事が、好きだった。それは、昔から。こればっかりは、仕方ない。好きなんだから。という事で、冒険者になる事を望んだ。当然親には反対されたよ。だって、結構いい家なんだ。冒険者なんて、あり得ない話。
でも、その程度で引けるような問題じゃない。だから、喧嘩する事にした。その時、うっかりこぼしちゃったんだ。あたしが、戦い、好きだって。
もう、反対されなかった。私は自分で学校を選び、自分でお金を溜めて通う事にした。親は出してくれるって言ったけど、流石に、そんなに迷惑かけられないし。我が儘言ってるって、分かってたから。まさか、シルヴェールまで真似するなんて思わなかったけど。確かに、銃の才能は凄い。おんなじような事、思ってたのかもしれない。
赤い鮮血が舞う。それを見、小さく息を吐く。心地よく感じる。人間としてどうなんだって思うけど。でも、仕方ないじゃん。
走るのは好きだ。戦場を駆け回って、全てを紅く紅く染め上げるの。まあ、素手だと上手く紅くならないけどね? だから、短刀の方が好きなんだ。
じゃあ……。使おうか?
「ふふ……、あはははっ!」
手に持っているのは、食事用のナイフ。急に準備出来るのは、これくらいだった。王城から盗って来ちゃった。ごめんなさい?
投擲もやったけど、自ら攻撃する方が性に合う。リーチは短いけど、相手の反応するより早く近づけばいいんだ。簡単な事。
切れ味悪いけど、だからこそ痛い。悲鳴が響くの、結構好きだ。ナイフに着いた血を静かに舐める。この味、嗚呼、美味しい。
実はこれ、シルヴェールに注意されたの。このままじゃ悪魔になっちゃうんじゃないか、って思ったんだろう。もう、遅い気もするけど。
ま、あたしはあたし。これも個性って事で。大体、普段は隠してるんだから、良いじゃない? そう思うんだけどな。
気づけば、戦場は真っ赤。鉄の香りがふわりと香る。ああ、良い。此処はあたしの世界だ。そう思える。
どうせだったら、悪魔に生まれたかったなぁ。なんて言っても仕方ないけど。レアちゃんみたいな感じになりたかった。
すでにナイフは真っ赤。切れ味も絶対悪くなってる。でも、気にしない。今日は邪魔する人居ないし。まあ、みんなと一緒に戦うの、凄く楽しい。力を合わせて戦うの、好き。でも、一人の方が、あたしらしい戦いが出来て良い。どっちが好き、って言われたら、それは答えられない。
「っ!」
後ろからの気配。飛んで来たのは……。なに、これ?
「うぇっ?!」
小さな……、人? もしかして、妖精? あまりに予想外だったもので、行動が遅れた。額に小さな衝撃を受ける。けど、特に攻撃というほどではなく。ちょっと痛い、くらい。一体何なの?
「え、あ、え……」
飛んできたものは、二十センチほどのピンクの髪をした女の子だった。明らかに動揺しているようで、きょろきょろと周りを見回していた。少しすると、小さな瞳に涙を溜めてぴゅーと後ろに飛び去ってしまう。だ、だからなんなの? ほんといい加減にしてよ。妖精の悪戯にしても、こんな時に来ないでよね……、ん?
「ジュリ! ジューリー!」
え。仲間呼ばないでよ? あたしは黒魔族と戦いたいわけで、別に、ちっぽけな妖精に怪我させないよう気をつけての戦いなんてしたくないよ?
なにせ、妖精っていうのはうっかりすると女神呼んじゃうからね。下手に怪我させられないの。だからって、付き纏われるのはうんざりだし、さっきみたいに地味にダメージ食らってくのはイライラする。
「お前は馬鹿か。私から離れるなと何度言った?」
「だ、だだ、だって、だって……」
「ごめんね、キミの相手は私がするから、気を悪くしないであげて」
「……えと、正直、話についてけてないんだけど?」
現れたのは普通の大きさの女の人。黒い、フリルが沢山付いた服を着てる。ゴスロリって感じかな。紫色の髪に紫の瞳。それと魔力で、この人が黒魔族だってことは分かった。で、このちっちゃい子は?
「私は妖精使い。……本当は白魔族が多いらしい」
「妖精使い……、ああ、なるほど……、ってなると思った?!」
と、彼女は本当に驚いたようで、目をまん丸にしてあたしを見る。なに、その表情。本当に知ってると思ってたの?
「ま、まさか、知らないの?! そ、そんな馬鹿な!」
「知ってるか! なに、妖精使いって。そんなのあったんだ」
「あるの。むー、ま、なんでもいいか。私はジュリエット」
「あたしはベル。暗殺者」
「暗殺者がこんな堂々歩いてていいの?」
「……なんでもいいじゃん!」
ああ、めんどくさい、めんどくさい! これだから、敵との会話は好きじゃない。此処から戦いだ、っていう人も居るけど、私はサクッと戦い始めたいの! ってか、これもう駆け引きですらないし。
使える妖精は、あの子以外にも沢山居るらしい。ジュリエットはちょっとだけ呪文を唱えて小さな妖精たちを召喚した。これは……。倒して、良いんだよね? ま、まさか、これ倒して女神、登場とか言わないよね? まあ、とにかく、行きますか!
あたしの場合。こうやって色々考えていても、戦い始めたら躊躇しない。手加減だってしないから。妖精だってね。こんな小さい敵だって関係ない。……、当たりにくいんじゃない? ああもう、めんどくさいなぁ!
新しいナイフを準備。ついでに数を確認。投擲には持ち数が少な過ぎる。じゃあ、普通に攻撃で!
妖精が向かって来る。魔法を撃ちながらで、とても綺麗……、なんて言ってる場合じゃない! うっかり見惚れちゃったよ。
魔法を弾くのは簡単。ナイフにちょっと魔力纏わせて斬るようにすればいいだけ。そうすれば魔法は全て霧の様になって散っていく。妖精たちは少し驚いたような表情をした。そんな事は関係ない! 止まり切れなかった妖精たちはあたしに見事突っ込んで来てくれる。ナイフを振り回すと、赤い血の代わりに強い光が舞った。なるほど、こんな風になるんだ。
ジュリエットに顔を向けると、また新しい妖精を召喚していた。淡々としたその作業。なるほど、特に妖精に思い入れはないらしい。リーナちゃんとはだいぶ違う。絆ってものがないから。それじゃ、能力を最大限まで引き出してあげられない。
でも……。最初にあたしにぶつかって来た、あの妖精だけは、違うと思う。たぶん、だけどね。今はジュリエットの肩に座ってる。
「エミリア」
「なあに?」
「行ける?」
「……。いいよ」
あ、あの子、エミリアっていうんだ。名前が付いてるってことは、やっぱり、あの子は特別なんだろう。良く見てみれば、洋服はジュリエットとお揃いだ。
エミリアが呪文を唱えると、上から雷が降って来て、下からは炎が現れる。
(ま、まずい!)
逃げ場がない! そう思った時。銃声が鳴り響いた。エミリアの集中力が切れたらしい、魔法が消える。
「! シルヴェール?!」
「べル姉、何やってるの! 早く仕留めて!」
そうだ。折角隙が出来たのだから!
「暗殺秘魔・赤魔の衣」
瞬間移動をする時に必要な魔法の一つ、一番強い、必殺技。効果の続く時間の中なら、何回でも瞬間移動が出来る。あたしはナイフを握り締め、魔力を発動させる。
狙うはエミリアの後ろ。ジュリエットに邪魔されて思う位置に動けなかった。すぐさまもう一度。先にジュリエットを仕留める!
「うっ、あ……っ!」
小さなナイフじゃ、殺すまで至らなかったみたい。でも、動くのは厳しいだろう。なら、ジュリエットは一度置いておいて、今度はエミリアだ。妖精の動きは速い。しかも、この子は特に。何回か良いところまではいくけれど、捕らえるまではいかない。なら。
敢えて走る。急に動きを変えたから驚いたみたい。それを確認するより早く、瞬間移動を!
ナイフが体を貫く感触。当たった!
「ね、ねぇ、ベル……さん」
「何、ジュリエット」
「エミリア、を、殺さ、ない、で……」
「……」
「お願い、私は、殺して。でも、エミリア、は……」
目を瞑る。最善の方法って、何なんだろうね。頭の中、ごちゃごちゃするよ。だって。
「あたしは、逃がしてあげたいよ。でもね」
「? な、に?」
「他の兵に殺されるのがオチだよ」
「あ……」
ジュリエットは悲しそうな顔をする。そう、多分、助けてあげる事はできない。だったら、一緒の方がいいと思うんだけど、あたし、だけ? そうだったら、考えすぎか。
「そう、ね……」
「うん、だから。ごめん」
ジュリエットが、静かに目を閉じる。エミリアが、ジュリエットの胸元に降りる。あたしは、黙ってナイフを振り上げた。
人は、いつ死ぬのかわからない。だったら。
素直に生きた方が、いいのかな。
昔は短刀を良く使ってた。けど、両手に一本づつ持つから、ミレと被るんだよね。それで、素手での戦闘を極めた。今でも練習してるから、やろうと思えばできる。今だってたくさん持ってる。でも、まあ、使わないと思うけど。よし、此処で良いかな。
突然現れた様に見えたでしょ? 後ろから思い切り蹴ってやったら、兵士、向こうの方まで飛ばされて行っちゃった。周りの人たちが驚いたように私を見る。えへへ、そんじゃ、行きますか!
こういう動き方は、得意だった。みんな、人の事を魔力で感知するから、今まで感じていた魔力が急に感じられなくなると、消えたように感じるの。その隙に移動すれば、瞬間移動したように見える。現れる時も、一緒。死角を探したうえで、魔力を消して近づく。別に、透明化とか使ってるわけじゃないよ。
魔力を消すのって、実はとっても難しい。でも、私は昔から得意だった。だから、こういう戦いを極めた。得意な事を生かすのは良い事。ま、苦労も沢山したけどね。
「な、なんだ?!」
「白魔族のパーティ『ルージュ』、暗殺者のベル・ドレイク。……こういう時、なんていうかな、ええと、あ!」
「御命頂戴!」
段取りにミスがあったけど、まあまあ気にしない。すっと息を吸い、魔力を解放! それだけで後ろにいた魔術師の女の子が飛ばされていった。こいつら、あんまり強くなかったか、失敗した。
生き物を殺す事が、好きだった。それは、昔から。こればっかりは、仕方ない。好きなんだから。という事で、冒険者になる事を望んだ。当然親には反対されたよ。だって、結構いい家なんだ。冒険者なんて、あり得ない話。
でも、その程度で引けるような問題じゃない。だから、喧嘩する事にした。その時、うっかりこぼしちゃったんだ。あたしが、戦い、好きだって。
もう、反対されなかった。私は自分で学校を選び、自分でお金を溜めて通う事にした。親は出してくれるって言ったけど、流石に、そんなに迷惑かけられないし。我が儘言ってるって、分かってたから。まさか、シルヴェールまで真似するなんて思わなかったけど。確かに、銃の才能は凄い。おんなじような事、思ってたのかもしれない。
赤い鮮血が舞う。それを見、小さく息を吐く。心地よく感じる。人間としてどうなんだって思うけど。でも、仕方ないじゃん。
走るのは好きだ。戦場を駆け回って、全てを紅く紅く染め上げるの。まあ、素手だと上手く紅くならないけどね? だから、短刀の方が好きなんだ。
じゃあ……。使おうか?
「ふふ……、あはははっ!」
手に持っているのは、食事用のナイフ。急に準備出来るのは、これくらいだった。王城から盗って来ちゃった。ごめんなさい?
投擲もやったけど、自ら攻撃する方が性に合う。リーチは短いけど、相手の反応するより早く近づけばいいんだ。簡単な事。
切れ味悪いけど、だからこそ痛い。悲鳴が響くの、結構好きだ。ナイフに着いた血を静かに舐める。この味、嗚呼、美味しい。
実はこれ、シルヴェールに注意されたの。このままじゃ悪魔になっちゃうんじゃないか、って思ったんだろう。もう、遅い気もするけど。
ま、あたしはあたし。これも個性って事で。大体、普段は隠してるんだから、良いじゃない? そう思うんだけどな。
気づけば、戦場は真っ赤。鉄の香りがふわりと香る。ああ、良い。此処はあたしの世界だ。そう思える。
どうせだったら、悪魔に生まれたかったなぁ。なんて言っても仕方ないけど。レアちゃんみたいな感じになりたかった。
すでにナイフは真っ赤。切れ味も絶対悪くなってる。でも、気にしない。今日は邪魔する人居ないし。まあ、みんなと一緒に戦うの、凄く楽しい。力を合わせて戦うの、好き。でも、一人の方が、あたしらしい戦いが出来て良い。どっちが好き、って言われたら、それは答えられない。
「っ!」
後ろからの気配。飛んで来たのは……。なに、これ?
「うぇっ?!」
小さな……、人? もしかして、妖精? あまりに予想外だったもので、行動が遅れた。額に小さな衝撃を受ける。けど、特に攻撃というほどではなく。ちょっと痛い、くらい。一体何なの?
「え、あ、え……」
飛んできたものは、二十センチほどのピンクの髪をした女の子だった。明らかに動揺しているようで、きょろきょろと周りを見回していた。少しすると、小さな瞳に涙を溜めてぴゅーと後ろに飛び去ってしまう。だ、だからなんなの? ほんといい加減にしてよ。妖精の悪戯にしても、こんな時に来ないでよね……、ん?
「ジュリ! ジューリー!」
え。仲間呼ばないでよ? あたしは黒魔族と戦いたいわけで、別に、ちっぽけな妖精に怪我させないよう気をつけての戦いなんてしたくないよ?
なにせ、妖精っていうのはうっかりすると女神呼んじゃうからね。下手に怪我させられないの。だからって、付き纏われるのはうんざりだし、さっきみたいに地味にダメージ食らってくのはイライラする。
「お前は馬鹿か。私から離れるなと何度言った?」
「だ、だだ、だって、だって……」
「ごめんね、キミの相手は私がするから、気を悪くしないであげて」
「……えと、正直、話についてけてないんだけど?」
現れたのは普通の大きさの女の人。黒い、フリルが沢山付いた服を着てる。ゴスロリって感じかな。紫色の髪に紫の瞳。それと魔力で、この人が黒魔族だってことは分かった。で、このちっちゃい子は?
「私は妖精使い。……本当は白魔族が多いらしい」
「妖精使い……、ああ、なるほど……、ってなると思った?!」
と、彼女は本当に驚いたようで、目をまん丸にしてあたしを見る。なに、その表情。本当に知ってると思ってたの?
「ま、まさか、知らないの?! そ、そんな馬鹿な!」
「知ってるか! なに、妖精使いって。そんなのあったんだ」
「あるの。むー、ま、なんでもいいか。私はジュリエット」
「あたしはベル。暗殺者」
「暗殺者がこんな堂々歩いてていいの?」
「……なんでもいいじゃん!」
ああ、めんどくさい、めんどくさい! これだから、敵との会話は好きじゃない。此処から戦いだ、っていう人も居るけど、私はサクッと戦い始めたいの! ってか、これもう駆け引きですらないし。
使える妖精は、あの子以外にも沢山居るらしい。ジュリエットはちょっとだけ呪文を唱えて小さな妖精たちを召喚した。これは……。倒して、良いんだよね? ま、まさか、これ倒して女神、登場とか言わないよね? まあ、とにかく、行きますか!
あたしの場合。こうやって色々考えていても、戦い始めたら躊躇しない。手加減だってしないから。妖精だってね。こんな小さい敵だって関係ない。……、当たりにくいんじゃない? ああもう、めんどくさいなぁ!
新しいナイフを準備。ついでに数を確認。投擲には持ち数が少な過ぎる。じゃあ、普通に攻撃で!
妖精が向かって来る。魔法を撃ちながらで、とても綺麗……、なんて言ってる場合じゃない! うっかり見惚れちゃったよ。
魔法を弾くのは簡単。ナイフにちょっと魔力纏わせて斬るようにすればいいだけ。そうすれば魔法は全て霧の様になって散っていく。妖精たちは少し驚いたような表情をした。そんな事は関係ない! 止まり切れなかった妖精たちはあたしに見事突っ込んで来てくれる。ナイフを振り回すと、赤い血の代わりに強い光が舞った。なるほど、こんな風になるんだ。
ジュリエットに顔を向けると、また新しい妖精を召喚していた。淡々としたその作業。なるほど、特に妖精に思い入れはないらしい。リーナちゃんとはだいぶ違う。絆ってものがないから。それじゃ、能力を最大限まで引き出してあげられない。
でも……。最初にあたしにぶつかって来た、あの妖精だけは、違うと思う。たぶん、だけどね。今はジュリエットの肩に座ってる。
「エミリア」
「なあに?」
「行ける?」
「……。いいよ」
あ、あの子、エミリアっていうんだ。名前が付いてるってことは、やっぱり、あの子は特別なんだろう。良く見てみれば、洋服はジュリエットとお揃いだ。
エミリアが呪文を唱えると、上から雷が降って来て、下からは炎が現れる。
(ま、まずい!)
逃げ場がない! そう思った時。銃声が鳴り響いた。エミリアの集中力が切れたらしい、魔法が消える。
「! シルヴェール?!」
「べル姉、何やってるの! 早く仕留めて!」
そうだ。折角隙が出来たのだから!
「暗殺秘魔・赤魔の衣」
瞬間移動をする時に必要な魔法の一つ、一番強い、必殺技。効果の続く時間の中なら、何回でも瞬間移動が出来る。あたしはナイフを握り締め、魔力を発動させる。
狙うはエミリアの後ろ。ジュリエットに邪魔されて思う位置に動けなかった。すぐさまもう一度。先にジュリエットを仕留める!
「うっ、あ……っ!」
小さなナイフじゃ、殺すまで至らなかったみたい。でも、動くのは厳しいだろう。なら、ジュリエットは一度置いておいて、今度はエミリアだ。妖精の動きは速い。しかも、この子は特に。何回か良いところまではいくけれど、捕らえるまではいかない。なら。
敢えて走る。急に動きを変えたから驚いたみたい。それを確認するより早く、瞬間移動を!
ナイフが体を貫く感触。当たった!
「ね、ねぇ、ベル……さん」
「何、ジュリエット」
「エミリア、を、殺さ、ない、で……」
「……」
「お願い、私は、殺して。でも、エミリア、は……」
目を瞑る。最善の方法って、何なんだろうね。頭の中、ごちゃごちゃするよ。だって。
「あたしは、逃がしてあげたいよ。でもね」
「? な、に?」
「他の兵に殺されるのがオチだよ」
「あ……」
ジュリエットは悲しそうな顔をする。そう、多分、助けてあげる事はできない。だったら、一緒の方がいいと思うんだけど、あたし、だけ? そうだったら、考えすぎか。
「そう、ね……」
「うん、だから。ごめん」
ジュリエットが、静かに目を閉じる。エミリアが、ジュリエットの胸元に降りる。あたしは、黙ってナイフを振り上げた。
人は、いつ死ぬのかわからない。だったら。
素直に生きた方が、いいのかな。
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