赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第51話 赤い魔術師
ユリアが、危ない? そんなはず、ない。だって、ユリアは強いんだよ、とっても、とっても……。
「とにかく、向かいましょう」
「っ、うん」
ネージュを呼んで、その上に乗る。ラザールお兄様も、ミレも、アンジェラさんも、レアの相手と同じくらいの強さの敵と戦ってた。まあ、勝てない事はなさそう。
で、ユリアは……。あぁ……。そういう、こと、か。
ユリアの相手は、真っ赤な髪をしている。
でも、なんで? どう見ても相手は人間族だ。こん真っ赤な髪をしてるのは人間族しかあり得ない。それに、ブレスレットの気配と白い服装。おかしい。味方の格好した敵とか、一体どういう事?
赤い髪の女の子。ニタッと笑った顔は、人のそれとは思えない。手の中の斧は真っ赤に染まっている。
「ユリア!」
「リーナ……?」
「あはぁ、援護が来たねぇ? あははぁ、お友達も巻き込んじゃうよ、良いのかな、良いのかなぁ?!」
え…………? これ、どうなってるの? この人、狂ってる。
この人は、間違いなく人間族だけど……。操られてるってわけじゃないな。なんだ?
「多分……。『薬』でしょうね」
(え……)
「もう、どうする事も出来ないでしょうから、本気で殺しちゃって下さい」
レアが囁く。でも……。そんな……。
「ユリア」
「ご、ごめんね、悪いけど、助けて……」
「わかった」
「あはぁ、玩具が増えたぁ。あははははぁ、良いねぇ、一緒にあそぼ?」
……。手加減、しないから。
「アル」
「はい」
アル、アルシエルを召喚。召喚時、愛称で呼んだ時は人型で来るように、という合図だ。
出来ればもう一人くらい呼びたいけど、魔力的には一人じゃないと厳しいか。じゃ、これでいこう。
「ええと、なんで私なのですか?」
(一番使いやすいから。ほら、他の人巻き込む様な魔法使わないから)
「そうですね。わかりました」
ちょっとだけ地面を蹴ると、そのままふわりと宙に浮く。大きな羽をゆっくりと動かす。ヒールの高いパンプスがポトリと落ちた。
その音を合図に、アルは右手を左に持っていくと、掌を正面に向けたまま素早く右まで持っていく。掌から、光の球が沢山現れ、狂った少女に向かっていく。
少女はニタッと笑ったまま、全ての球を持っていた小さな杖で弾いていく。
「……。なるほど、ただ狂ってるだけじゃないんですね」
「あはぁ、もう終わりぃ? まだまだだよぉ!」
ユリアが私の隣に来る。酷く怪我してるし、息も凄く乱れてる。大丈夫、かな。これじゃ、そう長くは持たない。早くしないと。
私の焦りを感じ取ったアルは、私に向かって「落ち着いて」という。一回深呼吸。大丈夫、大丈夫。
アルは黙って魔力を準備。自分の周りに沢山の球を作る。一つずつ少女に向かって飛ばしていく。当たらない。
「魔法は止めます」
そう言うと、何処からともなく槍を取り出す。でも……。あぁ、駄目だ。勝てそうな感じがしない。
隣に座るユリアがキュッと目を瞑る。もう、座る足元は真っ赤になってる。顔が青い。アルもユリアも不安だ……。
「っ! ご主人様ぁっ!」
気付いた時には、もう遅い。
右の横腹に走る激痛。左側に大きく飛ばされる。視界の端に、血の色が映る。
ポケットから本が零れ落ち、手の届かない所に転がる。まずい。何とか顔を上げてみると、アルは消えかかっていた。
「リーナッ!」
「ユリア様、お願い、本をッ! 私を戻して!」
「あ、うん!」
ユリアは私のもとまで来ると、本を広げる。白いページを開けば、何処でも入れる事なら出来る。今は仕方ない。
霞む視界。ちょっとだけ顔を動かしてユリアを見る。怪我して、ボロボロなのに、しっかりと前を見て立っている。さっきまでとは、全然違う。
「あんた……。よくもリーナにこんな怪我を……っ!」
「? 無防備な奴攻撃して何が悪い」
「死ね」
怒りでか、ほぼ零に近かったユリアの魔力は、いつもの二倍近くまで膨れ上がっている。魔力に包まれたユリアは、赤く光っている。
無理して欲しくなんか、ない。だけど、どうしようもないから。今だけは、頼らせて。お願い、助けて。
「必殺業火」
その魔法は、ユリアの使うどの魔法よりも強力だった。
魔力の波動で地面が揺れる。噴き上がる様に炎が出現。空が赤く燃え上がる。
「死ね、リーナを傷付ける奴は、許さない」
くるりと振り返る。微かに見えた。ユリアの瞳は真っ赤だった。
私を見たユリアの顔は、いつも通り優しかった。手を伸ばそうとしたけれど……。
「リ、リーナ……?」
「ユ、リ、ア……」
「リーナああっ!」
目を開けると、ユリアに飛びかかられた。痛い、痛い。
「リーナ、よかった、よかった!」
「ま、待って、ユ、リア、痛……」
「あっ、ごめん……。っていうか、ペンダントしてないのに……」
「これくらいの距離なら、飛ばせるから」
腰にそっと手を当ててみると、包帯でぐるぐるに巻かれていた。まだ痛みが残ってるってことは、結構深い傷だったのかな。治癒魔法で治し切れなかったんだよね?
と、ある事に気が付いて私はポケットに手を入れる。本……。あった。入れてくれたんだ。アルは……。大丈夫。良かった。
「にしても、ほんとびっくりしたよ。ユリアが『リーナが死んじゃった!』って言うから」
「……。勝手に殺さないで」
「だ、だって、本当にパニックになっちゃって……」
まあ、その御蔭でユリアは無事覚醒したみたいだけど。……そろそろ、言っても良いかな。
あんまり派手な怪我する事ないから、この感覚は久しぶり。や、頻繁にあったら困るんだけど。
そっと床に足を置いて立ち上がる。大丈夫そう。ユリア滅茶苦茶過保護。そんなに心配しないでも大丈夫だよ。
此処……。ホテルの部屋か。運んでくれたんだ。みんなは部屋に戻ると言って出てった。ユリアと二人きり。
「あ、あの……。ごめんね。私が助けて、なんて言うから」
「う、ううん、いいの。私の不注意だから。気にしないで」
「でも……」
多分、これは仕組まれたものだ。私達には、どうしようも出来ない様な。もう、いいや。ユリアには、先に教えてあげる。
私はベッドに座って、隣に座るよう言う。首を傾げながらも従ってくれた。
「あのね……。みんなにも、言うよ。だけど、先に教えてあげる」
「え?」
「私達のこと……。ちゃんと聞いてね」
気が付けば、もう三時間以上経っていた。緊張したからか、喉乾いた。久しぶりに速記で話した。話長いって言ったら、ユリアがこのほうが良いでしょ、って。
ユリアは放心状態だった。まさか、こんなこと言うなんて思ってなかったんだろう。口をパクパクと動かしているけれど、声は出てこない。
取り敢えず立ち上がってお茶を入れる。飲み物が欲しい。きっと、ユリアも一緒だと思う。
「あ、ありがと……」
「ごめんね、唐突に」
「う、ううん……。いや、でも、びっくりしたのは間違いない」
「だよね。うん、やっぱ唐突だったか……」
私が俯くと、ユリアは慌てて色々な言葉を並べる。さっきは黙ってたのに、今度はぺらぺらと。こういうとこ、嫌いじゃない。
紙をくしゃくしゃと丸める。みんなに話す時は、文字じゃなくて、言葉が良い。
「で、でも、それ、本当だよね? どうして、そんなこと……」
「それも含めて、もう一度、話すから。ね?」
「……わかった。良いよ、待つ」
「ごめんね……。今日、みんなに話すから」
「うん」
と、此処で、自分の体が震えている事に気が付いた。それに気が付くと、今度は目から涙が零れる。そっか……。
私、怖かったんだ。信じて貰えるか、分からなくて。なんて言われるか、分からなくて。
「ああ、泣かないで……。うん、みんなも信じてくれるから。そんなに緊張しないでね」
「うん」
と、夕食の時間らしい。あ、そう言えば、私、昼食食べ損ねちゃったんだ。お腹空いた。
「よし、じゃ、いこっか」
「うん!」
夕食のあと、私達の部屋に集まる様に言った。其処で、話す。
だから、夕食の味、よく覚えてない。やっぱり、緊張しちゃって。ユリアに笑われちゃった。
「で、急に一体どうしたの?」
「あ、えっと……。ずっと、タイミング、覗ってたんです、私。でも、なくて」
「?」
「それで……。今、丁度良いって思って。驚く事だと思うけど、本当の事だから……。聞いて、ください」
目を閉じる。息を吐いて。大丈夫、怖くない。
みんなは私の友達だから。大丈夫なの。怖い事はない。見られても、大丈夫……。
目を開く。怖くなかった。ユリアが隣で手を握ってくれてるから。みんなが、優しい目で待ってくれてるから。大丈夫。
「じゃあ、聞いて下さい」
本当の、ことを。
「とにかく、向かいましょう」
「っ、うん」
ネージュを呼んで、その上に乗る。ラザールお兄様も、ミレも、アンジェラさんも、レアの相手と同じくらいの強さの敵と戦ってた。まあ、勝てない事はなさそう。
で、ユリアは……。あぁ……。そういう、こと、か。
ユリアの相手は、真っ赤な髪をしている。
でも、なんで? どう見ても相手は人間族だ。こん真っ赤な髪をしてるのは人間族しかあり得ない。それに、ブレスレットの気配と白い服装。おかしい。味方の格好した敵とか、一体どういう事?
赤い髪の女の子。ニタッと笑った顔は、人のそれとは思えない。手の中の斧は真っ赤に染まっている。
「ユリア!」
「リーナ……?」
「あはぁ、援護が来たねぇ? あははぁ、お友達も巻き込んじゃうよ、良いのかな、良いのかなぁ?!」
え…………? これ、どうなってるの? この人、狂ってる。
この人は、間違いなく人間族だけど……。操られてるってわけじゃないな。なんだ?
「多分……。『薬』でしょうね」
(え……)
「もう、どうする事も出来ないでしょうから、本気で殺しちゃって下さい」
レアが囁く。でも……。そんな……。
「ユリア」
「ご、ごめんね、悪いけど、助けて……」
「わかった」
「あはぁ、玩具が増えたぁ。あははははぁ、良いねぇ、一緒にあそぼ?」
……。手加減、しないから。
「アル」
「はい」
アル、アルシエルを召喚。召喚時、愛称で呼んだ時は人型で来るように、という合図だ。
出来ればもう一人くらい呼びたいけど、魔力的には一人じゃないと厳しいか。じゃ、これでいこう。
「ええと、なんで私なのですか?」
(一番使いやすいから。ほら、他の人巻き込む様な魔法使わないから)
「そうですね。わかりました」
ちょっとだけ地面を蹴ると、そのままふわりと宙に浮く。大きな羽をゆっくりと動かす。ヒールの高いパンプスがポトリと落ちた。
その音を合図に、アルは右手を左に持っていくと、掌を正面に向けたまま素早く右まで持っていく。掌から、光の球が沢山現れ、狂った少女に向かっていく。
少女はニタッと笑ったまま、全ての球を持っていた小さな杖で弾いていく。
「……。なるほど、ただ狂ってるだけじゃないんですね」
「あはぁ、もう終わりぃ? まだまだだよぉ!」
ユリアが私の隣に来る。酷く怪我してるし、息も凄く乱れてる。大丈夫、かな。これじゃ、そう長くは持たない。早くしないと。
私の焦りを感じ取ったアルは、私に向かって「落ち着いて」という。一回深呼吸。大丈夫、大丈夫。
アルは黙って魔力を準備。自分の周りに沢山の球を作る。一つずつ少女に向かって飛ばしていく。当たらない。
「魔法は止めます」
そう言うと、何処からともなく槍を取り出す。でも……。あぁ、駄目だ。勝てそうな感じがしない。
隣に座るユリアがキュッと目を瞑る。もう、座る足元は真っ赤になってる。顔が青い。アルもユリアも不安だ……。
「っ! ご主人様ぁっ!」
気付いた時には、もう遅い。
右の横腹に走る激痛。左側に大きく飛ばされる。視界の端に、血の色が映る。
ポケットから本が零れ落ち、手の届かない所に転がる。まずい。何とか顔を上げてみると、アルは消えかかっていた。
「リーナッ!」
「ユリア様、お願い、本をッ! 私を戻して!」
「あ、うん!」
ユリアは私のもとまで来ると、本を広げる。白いページを開けば、何処でも入れる事なら出来る。今は仕方ない。
霞む視界。ちょっとだけ顔を動かしてユリアを見る。怪我して、ボロボロなのに、しっかりと前を見て立っている。さっきまでとは、全然違う。
「あんた……。よくもリーナにこんな怪我を……っ!」
「? 無防備な奴攻撃して何が悪い」
「死ね」
怒りでか、ほぼ零に近かったユリアの魔力は、いつもの二倍近くまで膨れ上がっている。魔力に包まれたユリアは、赤く光っている。
無理して欲しくなんか、ない。だけど、どうしようもないから。今だけは、頼らせて。お願い、助けて。
「必殺業火」
その魔法は、ユリアの使うどの魔法よりも強力だった。
魔力の波動で地面が揺れる。噴き上がる様に炎が出現。空が赤く燃え上がる。
「死ね、リーナを傷付ける奴は、許さない」
くるりと振り返る。微かに見えた。ユリアの瞳は真っ赤だった。
私を見たユリアの顔は、いつも通り優しかった。手を伸ばそうとしたけれど……。
「リ、リーナ……?」
「ユ、リ、ア……」
「リーナああっ!」
目を開けると、ユリアに飛びかかられた。痛い、痛い。
「リーナ、よかった、よかった!」
「ま、待って、ユ、リア、痛……」
「あっ、ごめん……。っていうか、ペンダントしてないのに……」
「これくらいの距離なら、飛ばせるから」
腰にそっと手を当ててみると、包帯でぐるぐるに巻かれていた。まだ痛みが残ってるってことは、結構深い傷だったのかな。治癒魔法で治し切れなかったんだよね?
と、ある事に気が付いて私はポケットに手を入れる。本……。あった。入れてくれたんだ。アルは……。大丈夫。良かった。
「にしても、ほんとびっくりしたよ。ユリアが『リーナが死んじゃった!』って言うから」
「……。勝手に殺さないで」
「だ、だって、本当にパニックになっちゃって……」
まあ、その御蔭でユリアは無事覚醒したみたいだけど。……そろそろ、言っても良いかな。
あんまり派手な怪我する事ないから、この感覚は久しぶり。や、頻繁にあったら困るんだけど。
そっと床に足を置いて立ち上がる。大丈夫そう。ユリア滅茶苦茶過保護。そんなに心配しないでも大丈夫だよ。
此処……。ホテルの部屋か。運んでくれたんだ。みんなは部屋に戻ると言って出てった。ユリアと二人きり。
「あ、あの……。ごめんね。私が助けて、なんて言うから」
「う、ううん、いいの。私の不注意だから。気にしないで」
「でも……」
多分、これは仕組まれたものだ。私達には、どうしようも出来ない様な。もう、いいや。ユリアには、先に教えてあげる。
私はベッドに座って、隣に座るよう言う。首を傾げながらも従ってくれた。
「あのね……。みんなにも、言うよ。だけど、先に教えてあげる」
「え?」
「私達のこと……。ちゃんと聞いてね」
気が付けば、もう三時間以上経っていた。緊張したからか、喉乾いた。久しぶりに速記で話した。話長いって言ったら、ユリアがこのほうが良いでしょ、って。
ユリアは放心状態だった。まさか、こんなこと言うなんて思ってなかったんだろう。口をパクパクと動かしているけれど、声は出てこない。
取り敢えず立ち上がってお茶を入れる。飲み物が欲しい。きっと、ユリアも一緒だと思う。
「あ、ありがと……」
「ごめんね、唐突に」
「う、ううん……。いや、でも、びっくりしたのは間違いない」
「だよね。うん、やっぱ唐突だったか……」
私が俯くと、ユリアは慌てて色々な言葉を並べる。さっきは黙ってたのに、今度はぺらぺらと。こういうとこ、嫌いじゃない。
紙をくしゃくしゃと丸める。みんなに話す時は、文字じゃなくて、言葉が良い。
「で、でも、それ、本当だよね? どうして、そんなこと……」
「それも含めて、もう一度、話すから。ね?」
「……わかった。良いよ、待つ」
「ごめんね……。今日、みんなに話すから」
「うん」
と、此処で、自分の体が震えている事に気が付いた。それに気が付くと、今度は目から涙が零れる。そっか……。
私、怖かったんだ。信じて貰えるか、分からなくて。なんて言われるか、分からなくて。
「ああ、泣かないで……。うん、みんなも信じてくれるから。そんなに緊張しないでね」
「うん」
と、夕食の時間らしい。あ、そう言えば、私、昼食食べ損ねちゃったんだ。お腹空いた。
「よし、じゃ、いこっか」
「うん!」
夕食のあと、私達の部屋に集まる様に言った。其処で、話す。
だから、夕食の味、よく覚えてない。やっぱり、緊張しちゃって。ユリアに笑われちゃった。
「で、急に一体どうしたの?」
「あ、えっと……。ずっと、タイミング、覗ってたんです、私。でも、なくて」
「?」
「それで……。今、丁度良いって思って。驚く事だと思うけど、本当の事だから……。聞いて、ください」
目を閉じる。息を吐いて。大丈夫、怖くない。
みんなは私の友達だから。大丈夫なの。怖い事はない。見られても、大丈夫……。
目を開く。怖くなかった。ユリアが隣で手を握ってくれてるから。みんなが、優しい目で待ってくれてるから。大丈夫。
「じゃあ、聞いて下さい」
本当の、ことを。
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