赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第49話  VS連合軍

 村に行ってから三ヵ月後、十二月。人間族ニヒツ国に行く事になった。
 というのも、小人族クライン巨人族グロースの連合軍に攻められているそうなので、援護に行かないといけなくなったのだ。
 此処で人間族ニヒツに倒れられたら、全部が駄目になる。一応、黒魔族シュヴァルツに攻められたときの対応は全部決まっているんだ。また考えのすなんてやだ。


人間族ニヒツ国は初めてね」
「そうだね。どんな所だろう」


 戦いに行くというのに楽しそうなのは、緊張しない方が良い結果を残せるから、戦いの前に緊張しない様な練習もして来たから。
 みんなは楽しそうだけど……。私はあんまり。というのも、まだ覚醒してない事に、焦りを感じてるから。気配すらない。
 まあ、焦っても仕方ないのは分かるけどね? でも、やっぱりちょっと不安。間に合うのかな……。


「リーナちゃん、最近暗いけど、どうかした?」
「ふぇ? え、そう、ですか?」
「うん……。体調悪い?」
「そんな事はないですよ。大丈夫です」


 それは大丈夫だけど……。大丈夫じゃない。






 みんなペンダントとイヤリングを付ける。じゃないと、この国の人と喋れない。
 準備をしてから、シルクトレーテから降りる。街は……。普通、って感じ。レンガ造りの家が連なってる。
 でも、みんな大きいなぁ。や、これは此処に限った事じゃないんだけど、白魔族ヴァイスって小さいから、他の国行くとみんな大きく感じる。
 あとは……、あ、髪の色がやけにカラフルで驚いた。青、緑、オレンジ、赤。凄く目に痛い……。


 と、急に体重が掛けられ、私は後ろを振り向いた。えっ、ユリア……?
 ユリアは片方の手で目を隠し、もう片方の手で私の腕を掴んでいた。もしかして、具合悪くなったのかな。


「ユリア? どうしたの?」
「ごめん、ラザール、泊まるのって何処?」
「え? あの大きなホテル。どうかしたの?」
「チェックインの時間は?」
「え? いつ着くか分からないから、結構広くとってる。今すぐでも良いし、もっとあとでも平気」
「じゃあ直行して貰ってもいいかしら?」
「ん、いいよ」


 ユリア……。どうしたの? 私の腕を掴んでいる手が、震えているから。何か、苦手な物、見つけちゃったのかな。






 人がほとんどいないフロントに着くと、ユリアはいつも通りになった。何が駄目だったんだろ。
 今回は二人部屋を三つと、一人部屋が一つとってあるらしい。
 というのも。私達は、襲われるかもしれない立場にある。だから、何かあった時。一人より二人の方が良いという結論になったんだ。例えば剣が効かない、とか、魔法が効かない、とかそういう場合もあるから、魔術師と剣士が居た方が良いって。


「まあ、一人なのは当然僕だね」
「そりゃそうよ。あとは……」
「私、ユリアとが良い!」


 私が言うと、みんな驚いたようだった。こんな風にはっきり主張するの、珍しいから。でも、だからこそというか、誰も反論しなかった。
 あとはエティとアンジェラさん、ミレとベルさんになった。
 決まった部屋割を見て、ラザールお兄様が笑いだす。


「ミレとベル姉とか、誰が勝てるんだ。絶対無理だろ!」
「だろうね~。あたしもミレと組んだら負ける気しない」
「ミレもベルと組んだら誰にも負ける気しない!」
「まあ、侍女メイド同士の方が変に気は使わないかな? エティ、大丈夫?」
「あ、はい。侍女長、いい方ですから」


 そうして部屋に行ってみると、思っていた以上に良い部屋だった。窓から王都が綺麗に見渡せる。しかも広い。
 ただし、ぼうっと眺めているわけにもいかない。何のためにユリアと同じ部屋にして貰ったのか分からない。


「ユリア、此処、座って」
「え?」
「良いから、座って」
「あ、うん」


 さて、どうやって聞こうかな……。


「んー、えっと、あ、そうだ! ユリア、苦手なものあるでしょ。赤に関係するもので」
「苦手な物? 唐突だね。えっと……。赤? うーん……。あ」
「なあに?」
「赤い髪が、あんまり得意じゃないかな」


 ああ、そう言う事。赤い髪、か。だから、さっき。
 詳しく教えて、というと、ちょっと迷ったような素振をしたけれど、リーナだからと言って教えてくれた。


 十一歳、初等科五年の時。ユリアにはノーラじゃない女の子の親友が居たらしい。雰囲気は私に似てるって言うけど、私ってどんなのかな? まあともかく。その子との関係は発展して行って、ついには恋人になっていた。
 けれど、女の子どうしを認める人は、そんなにいる訳じゃない。完璧に、苛めの対象になってしまった。その矛先は、何故かユリアではなく親友の方に向いた。多分、ユリアじゃ強くて負けちゃうかもしれないからだろう。
 苛めをしてた側のリーダーの女の子は。真っ赤な、燃え盛る炎の様な髪をしていたとか。


「それで、赤い髪、苦手なの」
「その子……。殺されちゃった……?」
「え? な、なんで、それを……?」


 やっぱり、これだ。ユリアも保持者か。ってことは、これで私以外はみんな覚醒する事になるのかな?
 って言うか、私の覚醒のキーワードって何? それが分からない事にはどうしようもないって言うのに……。
 分からないのは、何故私たちが選ばれたのかという事。これは、禁忌だから教えられないと言われた。あと、魔法の正体も、禁忌だって。
 そんな風に考えていると、ポケットから強い魔力を感じる。中に入っているのは……。通信用の魔法陣。対の魔法陣は、私の可愛い侍女メイドが持ってる。


「アリス?」
「無事に着きましたか?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかったぁ。途中で遭難したりしてたらどうしよう、って思ってました」
「もう、アリスは心配性だなぁ。御土産買ってくから。寂しいだろうけど、留守番、頼んだよ」
「お任せ下さい!」


 アリスはパーティに入れていない。まだ小さいから、危ない目に合わせるのは嫌だった。そして、彼女自身も侍女メイドとして働く方が好きらしく、一緒に行きたい、とは言わなかった。
 だけど、本音は分からない。置いてかれたら、寂しいよね。御土産、いっぱい買ってあげないと。
 いやまあ、観光に来た訳じゃないんだけどさ。でも、ちょっとくらいは大丈夫そうだから。戦争してるのは広い国土の内の半分にも満たない。王都は至って平和だ。
 じゃあなんで私達が来たのかというと、何かあって王都に攻め込まれでもしたら大変だから、一応さっさと倒しておきたい、という考えから。まあ、私達の練習にもなるし。


「で、ユリア」
「ん?」
「大丈夫? 多分、いっぱいるよ、赤い髪の、人」
「そうだね。でも、さっきは準備してなかっただけ。もう、結構大丈夫になってるんだよ?」
「あ、そうなんだ」


 じゃあ、違うのかな? とにかく、もうちょっと様子見ないと。






 次の日。私達はホテルを出てすぐ、王に準備して貰った馬車に乗り込んで戦争をしているという場所に向かっていた。
 外に目を向けてみると、そこは普通の森の中。ただ、感じる魔力が少ない。人間族ニヒツって魔法を使える人が少ないからな……。国全体の魔力が少ない。って、逆なのかな? 分からないや。


人間族ニヒツの兵はみんな白い鎧を着てる。相手は黒い鎧を着てるから、区別はすぐ出来るはず」
「黒……。そっか、もう黒魔族シュヴァルツ帝国の占領下に入ってるんだったね」


 ラザールお兄様の言葉に、ベルさんが呟く。
 そう、小人族クライン国と巨人族グロース国はもう黒魔族シュヴァルツ帝国に支配されてる。だから、真っ黒な鎧を着てるんだろう。
 対する私達白魔族ヴァイス国と獣人族べスティエ国、人間族ニヒツ国は、私達の色を取って白い鎧で統一してある。
 魔術師や射手も白い服と黒い服を着てるらしいから、区別はすぐできるだろう。なら、間違える事はない。って言うか、大きさで分かりそう。


「私達、こんな格好で良いのかしら?」
「ん、先に伝えて貰ってるから大丈夫。でも、一応これ」


 そう言ってラザールお兄様が配るのは真っ白なブレスレット。着けてみると……。あ、魔力を放ってる。


「これ、味方兵がみんな付けてる。因みに、この魔力はブレスレットを付けてる人しか感じられない。分かった?」
「へえ、便利だね!」


 ミレの言葉に、みんなも頷く。こんな風になってたんだ。これなら、間違えて襲撃される事はないだろう。私は。


「つ、使い魔たちは……」
「ん? ああ、使う前に一言いえば大丈夫だと思うよ」
「分かりました」


 と、大きな爆発の音とともに馬車が大きく揺れる。もう、この辺りだと戦闘の魔法が届いちゃうんだね。
 急いで馬車を降りる。御者も無事だったみたいで良かった。流れて飛んで来る魔法を避けながら進んでいくと、テントの様な物の中に、ひときわ目立つ綺麗な大鎧を着た人。リーダーかな。


「グリフィン、到着いたしました」
「早かったな。早速戦闘に加わって貰っていいか?」
「もちろん」


 私達は武器を構えて戦場へ向かう。なるほど、相手の方が魔術師は多そう。人間族ニヒツは魔法使えない人が多いんだもんね。凄く少ない。
 まずは小手調べ。ミレが敵に向かって走る。……うん、そんなに強くはないみたい。掻き集めただけの兵士みたいな感じ? でも、全員がそうってわけじゃなさそう。ちょっと強い魔力があちこちで感じられる。


「よし、じゃあ行こう。いつも通りで良いよね?」
「うん!」


 こういう戦いは久しぶり。本気の殺し合い。それでも、対人。いや、久しぶりじゃないと困る。そんなに何回も人殺しては堪らない。
 さて、ミレとレア、ネージュを召喚。今日は本気で暴れるの、許してあげる!

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