赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第7話  パーティ

「そういえば、ラザールから聞いたけどさ、リーナちゃんって悪魔召喚するんだって?」


 私が頷くと、隣に座る少女ミレさんは、不思議そうに目を見開く。


「悪魔……。普通、白魔族ヴァイスは天使じゃないの?」


 ああ、そう、それなんだけど。
 悪魔を召喚するのは、普通黒魔族シュヴァルツ。私達白魔族ヴァイスは、天使を召喚する事が多いらしい。
 だからだと思うんだけど、悪魔に関しての情報が少ない。今、私が一番困っている事。


 この前読んだ本も、召喚魔術については沢山書かれていたし、天使についても沢山書かれていた。
 けど、悪魔についての記述は極端に少なくて……。まだ何処かに何か書いてあるんじゃ、って、何回読み直した事か。
 自分の使い魔の事なんだから、出来れば、全部知っていたい。けれど、それが出来なくって、凄く困る。
 いっそのこと黒魔族シュヴァルツ国に行きたいくらいだけれど、生憎仲が悪い。白魔族わたしが行ったらどうなる事か……。


 ちなみに、なんでミレさんが居るのかと言うと、パーティについての話をするからだった。
 私が魔法を使える、と言う事で、ラザールお兄様たちのパーティに入れてみないか、って言う話になっていたみたい。それで、同じパーティのミレさんを呼んでみたらしい。


「って、話逸らし過ぎちゃったかな、ごめんごめん」
「じゃ、戻すけど、多分、戦ってるうちに魔力量も増えてくるはずだし、強い魔法が使えるようになるはず。心配はいらないよ。どうかな?」


 私は困っていた。なにせ、魔法はあれ以来、使えていないんだから……。
 きっと、これからも使えないと思う。だったら、期待させちゃ駄目だよね。
 でも、みんなと冒険がしたい。魔法が使えない、なんて言ったら、なかった事にされちゃうかもしれないし……。


 でもでも、嘘をついてまで行きたい? それは、嫌。
 裏切るのは嫌だ。そんな事は、したくない。
 一つだけ深呼吸をして、ペンを握る。


<あの、本当に、悪いのですが>
「ん、なに? どうしたの?」
<私……。あれ以来、召喚魔法以外の魔法が、一切使えていないんです>


 最後、怖くて。文字が震えてたけど、ラザールお兄様もミレさんも、そんな事は目にも止めなかった。


「あ……。じゃあ、あれかな。暴走みたいなものかも。僕を助ける為に……」
「ちょ、ラザール?! ああもう……。でも、召喚魔法は使えるんだよね」
「っと。それでも十分じゃないかな。リーナちゃんの魔力はまだ少ないけれど、その内増えると思うし」
「早い方が良いと思う」
「だね」


 二人の視線が集まり、知っている人とはいえ、ちょっと怖い。視線を合わせないよう、さっと俯く。
 驚かしちゃった、と思ってか、ラザールお兄様が優しく声を掛けてきた。


「あ、や、ごめんね、リーナちゃん。 こっち向いて」


 そっと顔を上げると、ラザールお兄様はにこりと微笑んでから口を開く。


「まあ……。別に、魔法が使えなくたっていいんだよ? そんな事で断るつもりはない。ただ、一緒に冒険がしたいな、なんて……?」
「人数多い方が楽しいし!」
「だから、一緒に来てくれると嬉しいな」


 その言葉が、私を安心させてくれた。
 私だって、冒険がしてみたいんだもん。小さく頷いて、ペンを動かす。


<宜しく、お願いします>






「へえ……。でも、大丈夫なの?」
(え? 何が?)
「ご主人さま、血とか、大丈夫なのかな、って」
(それは……)


 其処は、あんまり自信ないけど、でも、ちょっとずつ慣れて行けば良いかなって。甘い?
 ラザールお兄様もミレさんも優しくしてくれるし、他のメンバーはアンジェラさん。だから、大丈夫。安心できる人たち。
 と、何かを書いていたティアが顔を上げた。私、気付いてたんだけどね。ティアの大きな猫耳が、ずっとこっちを向いてた事。


「では。リーナ様の知らない事、教えて差し上げましょう」
(ほんと? ありがとう。でも……)


 私、結構調べたから、知らない事なんてそんなにないと思うよ?


「ん……、では……」


 探して探して、ようやくティアが見つけた事と言えば、この前教えて貰い損ねた悪魔の階級くらいだった。
 悪魔の階級は、上から順に『帝王』、『魔神』、『公爵』、『魔将』、『魔人』、『魔獣』、『下級悪魔』、『使い魔』ってなってるらしい。
 帝王はその名の通りサタン。その時に、一番強い悪魔のみが名乗る事の出来るくらい。こんなのとまともにやり合っても、勝ち目は絶対ないね。
 魔神はサタンに次ぐ強さの悪魔。こっちも簡単には名乗れなくて、サタンに正式に認められた悪魔だけ。こっちも、まず勝ち目がない。
 公爵はそれには多少劣るとしても、普通の悪魔では太刀打ちできないレベルの力を持つ。大人数で居ても、出合いたくないレベル。
 魔将はそこそこの力を持った悪魔。まあ、普通よりちょっと強い、程度で、会ったとしても、ちょっと頑張れば倒せるかな、ってところ。
 魔人は普通の悪魔。普通だから一番数が多い。町人みたいなイメージらしい。魔神と読みは一緒だけど、全然違う。


 此処までは、『人型になる事が出来る』悪魔。ただし、全部の悪魔が人型になれるわけではなく、当然、そうでない悪魔も居る。
 ちなみに、悪魔はみんな動物の形をしていて、ティアやミアなんかは、人型に『擬態』しているらしい。擬態魔法は結構高度だから、誰でも使えるってわけじゃないとか。
 擬態魔法なら、姿かたちは思いのまま。だから、見た目が老いる事はまずないってことだ。
 で、話は逸れたけれど、人型になれない悪魔について。
 まず魔獣。これは、大型の獣になるらしい。ネージュなんかも此処に入る。魔人より強いこともしばしば。
 次に下級悪魔。猫とか、犬とか、兎とか、そう言った小さい生き物の悪魔。ただ、猫だったとしても、ネージュくらいあるんだったら魔獣に入る。
 最後、使い魔。これは『悪魔に使役される』悪魔。蝙蝠とか、猫とか、悪魔の手助けをする悪魔になる。戦闘能力はほぼ皆無だとか。


(ミア達は?)
「うーん……。一応、公爵」
(ええええっ?!)
「あ、ですが、白いティアラなので、まだ、仮ですけれど」
(仮……?)
「うん。何年か、そのくらいが本当にあってるのか確かめるきかんがあるから」
「悪魔の色と言うと黒なので、正式居認めていただければ、黒いティアラが頂けるのです」


 公爵……。道理であの悪魔たちが、尻尾を巻いて逃げて行ってしまったわけ。
 でも、なんでこんなに強い悪魔を召喚できたんだろう。私に、そんな力はないと思うんだけど。
 ミアの時なんて、召喚しようと思ったわけですらないし。なんでだろ……。
 まあ、それはさておき。階級つながりで、魔物の強さも教えて貰う事になった。


「魔物のくらいは、アルファベットで表しますね」
「上からS、A、B、C、D、E、Fかな」
「場合によっては、+や-を付ける事もあります」
「B-みたいにね。Bよりちょっと弱い、って感じかな」


 なるほど。大体分かった。
 今のところ、他に知りたい事はないけれど、冒険をしているうちに気になる事が出来るかも。その時は訊いてみよう。
 行ってみないと、勝手も分かんないしね。


 ああ、今からもう楽しいなんて。とっても幸せだなぁ。






 次の日。昼食を食べ終わり、準備も終わらせた私は、部屋でラザールお兄様を待っていた。
 今日、初めて冒険に連れてってもらう事になってる。楽しみで、妙に時間が過ぎるのが遅い気がするよ。
 準備が出来たら迎えに行くって言ってたけど、まだかなぁ?


「リーナちゃん、準備、出来てる?」


 コンコン、と言うノックの音に、私はパッと立ち上がった。扉を開けると、笑顔のラザールお兄様。
 でも、その服装に、ちょっとだけ驚かされた。
 ワイシャツの上にベストを着て、上からロングコートを羽織っている。下は細身のズボン。
 流石にワイシャツは白いけれど、後はみんな黒。


(暑く、ない、のかな)


 今、真夏なんだけど……。驚いても、仕方ないよね?
 しかも、それに対する私の格好が薄手のワンピースなんだから、違和感があって余計に戸惑う。
 ラザールお兄様は、そんな私の視線に気が付いたみたい。


「あっ、もしかして、これ、気になる?」


 ちょっと頷くと、小さく笑って説明してくれた。


「これ、魔服なんだよ。だから、全然暑くない。身体能力が上がる様に出来ててね。お父さんから、貰ったんだ……」


 少し悲しげな表情をしたけれど、キュッと目を瞑ると、前を見て、指をさす。


「ほら、みんな集まってるよ」


 確かに、其処にはミレさんとアンジェラさんがいた。
 アンジェラさんは黒いワンピースに、ボリュームのある白いマント。足元は真っ白のオーバーニーに、ショートブーツ。
 で、ミレさんは、金色の線が入った赤が基調の半袖のロングコートで、下はミニスカートをはいているらしい。両手は皮の手袋、足元は皮のブーツ。
 ラザールお兄様だけじゃなくて、みんなも魔服を着ているものだから、やっぱり場違い感があって……。


「あれ? ラザール、リアナちゃんの魔服は? 貸してあげないの?」
「え、だってほら、リアナは魔法剣士だしさ。リーナちゃんには魔法使い用の服が良いでしょ? だから、ね、似合う服、探してあげてよ」
「! 任せて!」


 どうやら、今から一緒に買いに行ってくれるみたい。それなら安心。
 魔服には、みんなプラス効果が付くから、私に合わせた能力の物を選んでくれるんだろう。ちょっと楽しみ。
 服を買いに行くなんて、初めてかも……。前は、お母さんが作ってくれてたし。
 センスには自信がないけれど、みんなが選んでくれるなら安心。任せちゃっていいんだよね?

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