小説を書こうにもネタがない!だが高校生探偵に仕事は舞い込む

Arakikei

【ちょっとしたネタでも。体育祭と休暇と青春の気配】

___俺が退院してから暫く、自宅療養として学校を休業しているうちに
クラスでは体育祭の種目を決めていたらしい。
同じように俺の看病という名目でサボっていた茜里も体育祭のことは
ぽっくり忘れていたらしく、美東からのLINEが来たときに驚いていた。


俺の所にも流侍から連絡がきて、




「お前と東野はペアで二人三脚な。」




唐突に、前置きもなくそういわれた。




「......個人競技は?」
「え......ちょっと待って。真那~!茂の個人競技って何だっけ~?
<えぇ~?確か、400m走だった気がする...>ありがと。茂...。」
「分かった400mね。準備しておくわ。」
「おう。無理すんなよ。」
「分かってるよ。じゃあな。」
「はいはーい。」




ピッ




電話を切った俺は、ソファーに深くもたれる。




「......フゥー......。」




退院してから1週間、度々秋乃さんと護さんの襲撃があったりして
ゆっくりとした時間が取れていなかったためか、
こういったのどかな時間が結構嬉しかったりする。
それは茜里も同じらしく、いつもよりゆったりした様子で台所に立っている。


漂ってくる匂いからして、今日はカレーかな?




「......取り敢えず、執筆でもしますか...。」




夕飯の時間まではしばらくあるし、ネタも一応ある。
ちょっとした暇つぶしにはもってこいだろう。


それから暫く小説を書いていた俺の所へ、茜里がご飯だ、と告げにきた。




「し~げる~!ごは~ん!」
「あいよ~!」




階段を一段一段降りていくにつれ、カレーのいい香りが鼻孔をくすぐる。




「......うん、やっぱカレーだよな...。」




暫く病院食だったことの反動なのか、漂うカレーの匂いだけで涎が止まらない。


今日は俺の大好きな『ジャオカレー』だった。
程よい辛味とその奥にある奥深い旨味、そして食欲をそそるこの香り。


最っ高......!


テーブルに座り、茜里がよそってくれたカレーを食べる。
久々の味に目頭が熱くなるほど美味しかった。


俺がカレーに舌鼓を打っていると、向かいに座っている茜里が
身を乗り出してきた。




「茂。どう?進んだ?」
「...いや、全くとは言えないが、進んだと言えるほどではないね...。」
「そっか...ま、焦らずに頑張りなよ?根詰めすぎるのは体に障るから。
まだ病み上がりなんだから無理しないでよ?」




心配そうな顔が、目の前に広がる。
鼻が触れそうなほど近い距離で茜里は優しく注意してくる。




「わ、分かってるさ!ダイジョブだから!近いって!」
「....今のところはこれくらいにしてあげるけど....倒れたりしたら
......茂が大事にしてるシャーロックホームズの本、全部焼くからね?」
「分かった!分かったから、それだけはやめてくれ!」




口調は優しいが、目が本気だぞと告げている。
これは本っ当に無理は出来ない。


シャーロックホームズを燃やされる訳にはいかない!
まだ全部隅々まで読みこんだ訳じゃないのに!




「それじゃ、約束ね?」
「う、うん......。」




おずおず了解し、取り敢えずその場はやり過ごすことが出来た。


だが、問題はその夜だよ。


ネタが尽きず、夜遅くまで執筆作業をしていた俺の所に、茜里がやってきた。
無理をしないと言った手前、この状況を見られるのは避けたかったのだが、
見事見つかってしまった。




「...茂?こんな遅くまで何してるの?」
「いや、これは、その、えっと......ね、ネタがな?ちょっと湧きすぎちゃってさ、
止まんなくなちゃって、気づいたら、こんな時間に......。」
「......私との約束、忘れちゃったのかなぁ?無理はしないって、言ったよね?」




怖い、笑顔が怖い。なんであんな満面の笑みでこんな冷たい声が出せるの!?




「そ、そうだけど…ネタがあるうちに書かないと、後々面倒になるしさ...」




ネ、ネタは新鮮な方が良いって、偉い人も言ってたし......




「それはお寿司のネタの方でしょ?」




なんで俺の心を読んでんだよ!サトリ妖怪か?サトリ妖怪なのか!?


そんな動揺している俺の心を見透かしたように、茜里は冷たい笑みをこちらに向ける。




「これは、ちょっとした罰でも与えないとダメみたいねぇ?」
「ば、罰って、何するおつもりで...?」
「ふふ......それはヒ・ミ・ツ......ね♡」




チュッ...ミシミシッ!、という音と共に、俺の意識は闇に飲み込まれていった...。





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