幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

番外1

「街に入りたいんだが」


 とある国、とある街の入り口で男がそう言った。警備を任されている兵士は軽く問答を行い、男がどこにでもある寒村からやってきた事を確認すると、通行税として銅貨五枚を受け取り男を街へと招き入れた。


 男は兵士に向けて軽く頭を下げて冒険者ギルドの場所を聞くと右足をずるり、ずるりと引きずりながらその場所へと向かっていった。それを見た兵士は軽く眉を動かしたものの、それ以上どうこうすることは無かった。魔物が跋扈するこの世界で一生残る傷を負う事は大して珍しい事ではなく、また、治療も怪しげな祈祷師頼みが一般的であるため、むしろ片足が不自由になるほどの傷を負いながらも生きている幸運を誇るべきですらある。


 しかしそれはある意味で不幸でもある。このご時世、無駄飯喰らいを養えるほど裕福な家庭はそう多くない。それが寒村であれば尚更のことである。つまり男は食い扶持を減らすために追い出され、男が腰に下げているやや不釣り合いな武器はせめてもの情けとして渡されたものなのだろうと兵士は考えた。


 これがしばらく前に滅んだと噂に聞く王国であったならば容赦無く奴隷として捕まり鉱山にでも送られただろう。とにかく人手が足りずにいると聞く帝国ならば男もまともな職にありつけるだろう。だがここはそのどちらでもない、ごくありふれた国にある、ごくありふれた街でしかない。


「せめて物取りに遭わなけりゃいいがな……」


 恐らく男が持つ唯一の財産であろう武器、それが心無い犯罪者に盗られない事を願う事ぐらいしか兵士に出来ることは無かった。






 果たして男は兵士の推察通りの人物であった。違いがあるとすれば悪いのは足だけでは無く目も悪くしており、武器は唯一の財産ではなく希少な回復薬を一つ持っていることだ。男は片足に傷を負った際に血の流し過ぎで目がほとんど見えなくなり、字を見る際には顔を酷く近づけなければならない程だ。


 その割に、男は街の中を平然と歩いていた。ありふれているとはいえ、腐っても街。人口密度は村などとは比べるべくも無く、それ程に目の悪い人物が何の頼りも無しに歩けば十秒と経たずに誰かとぶつかることは必定である。しかし男は片足を引きずりながらも器用に人波を避け、たまに躓きかけながらも誰かとぶつかることなく無事に目的地へとたどり着いた。


「まだ登録の受付はやっているか」


 ギルドの存在は知っていたが、その詳しい形態までは知らないため、男は入るなりそう尋ねた。すると受付の男は『受付はこっちだ、兄ちゃん』と言いながら気怠そうに手招きを行った。それを聞いた男は指示に従い男の方へと歩み寄り、言われるがままに備え付けの椅子に腰を下ろした。


「兄ちゃん、名前は」


 名前、出身地、特技、その他諸々、簡単な質疑応答が行われるとすぐに冒険者として登録が完了した。本来は冒険者自身にそれらを用紙に書かせるのだが、字を書ける程の教養がある人物が冒険者になる事は稀であり、代筆云々の確認を行う事自体がほとんど無駄であるため受付がその手順を無視して代筆を行ったのだ。


「ほらよ、こいつが登録証だ。無くすんじゃねーぞ」


 そんな、到底受付とは思えないような乱暴な言葉遣いと共に登録証を男に受け渡す。それを手間取りながらも受け取った男は『この辺りの魔物の討伐報酬はいくらぐらいだ』と尋ねた。


「あん? 兄ちゃん討伐するつもりなのか? やめとけやめとけ。目がわりぃ癖にどうやって討伐するつもりなんだ」


 流石に、目の前であれこれとやり取りを行えば男の目が悪いことくらいは受付の男にもすぐに分かった。常識で考えれば、目が悪いのに討伐など出来るはずもない。まず魔物の姿を確認することすら困難なのだから当然の事である。では討伐以外の仕事が目が悪くてもきちんとこなせるかと言えばそうでもないのだが、所詮は他人事であるためそこまで深く考えた発言ではない。しかし男は尚も食い下がりしつこく尋ね、とうとう報酬を聞き出した。そもそもそこまでして守るべき情報でもないため、受付の男が簡単に折れただけとも言えるが。


「スライムなら討伐で銅貨一枚、死体の瓶詰が一個で大体銅貨五枚、暴れどりなら討伐で銅貨五枚、死体の買い取り額が銀貨一枚、ウォーバニーなら討伐で銀貨一枚、死体の買い取り代は無しだ」


 『討伐した証はそこに書いてある部位を切り取ってくるんだな』と受付の男は続けた。この辺りにいるのは比較的弱い魔物ばかりで、一般的な剣士や、対策さえ取れば駆け出しの冒険者でも相手に出来る程度の物でしかない。やや例外なのがウォーバニーと呼ばれる兎のような魔物であり、非常に小柄であるため主に草木に潜んでは不意打ちを行い、その鋭い歯を使って首を刈り取らんばかりの勢いで食いちぎろうとしてくるのだ。


 攻撃を仕掛けてくるまではどれだけ近づこうとも一切動こうとしないため、先に発見して先手さえ取ることが出来れば容易に倒せるのだが、それを意図して行うのはかなり難しく、ほとんどの冒険者達は首の守りを固めて不意打ちを防ぎ、その後すばしっこく動いて逃げようとするのを多人数で囲んで叩くか、完全に無視するかだ。


 有用な部位も存在せず、強さ自体も大したことは無いのだが、街から街へと商人などが移動する際に最も危ないのはウォーバニーであるため討伐の報酬が他よりも高く設定されているのだ。


 男は渡された紙に自身の息がかかるほど顔を近づけて切り取るべき部位を確認し、それが終わるとモタモタと立ち上がり、先程通ったばかりの扉から出て行った。


「ああそれと! 森には絶対に近寄るんじゃねーぞ! 分かったな!」


 ギルドから出ていく男の背に向けて受付の男は忠告を行う。ここは元開拓村、ここで『森』と言えば、子供から大人まで『魔の森』を思い浮かべる、死と隣り合わせの街。

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