幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
127話目 けじめ
「ほれ、付けたぞ」
ドラ助がやたらソワソワしていたせいで首輪側の改造とアクセサリーの取り付けにやや手間取ったが、問題なく取り付けることが出来た。するとドラ助はしきりに首を動かし、ぐねぐねと何やら気持ち悪い動きをしたかと思うと今度は地面に体をこすりつけ始めた。
「お前何がしたいんだよ……」
汚したり傷つけたりするのではなかろうかと危惧した途端にこれである。呆れた俺はそう呟くがドラ助の耳には入っていないようで『グアアア、グアアアアア』とむずがる様に鳴きながらうねうねと蠢くばかりである。何がしたいのかさっぱり分からないが動きがとにかく気色悪いので、もうさっさと家の中に入ろうと考えているとシャルが家から姿見を持ってこちらに走ってきた。
「はい、ドラ助!」
呑気な声に似合わない『どすん!』という大きな音と共に姿見が蠢くドラ助の前に鎮座される。そして当のドラ助は何やらハッとした様子でしばらくじぃっと姿見を見ていたかと思うと、おもむろに姿勢を正して首をぐりんぐりんと動かしては姿見で確認をしている。
「うんうん、すっごく似合ってるよ」
「体躯に比べれば流石に小さいが、確かに似合っているぞ」
そのように褒める二人の言葉を聞いて俺はようやく理解した。成程、こいつはアクセサリーを付けた姿を確認したくてぐねぐねしてたのか。それでもやっぱり無理があってじたばたする羽目になった、と……。うーんこのトカゲ。
二人の世辞に気を良くしたのか、トカゲは満足げな様子で高らかに『グオオオオン!』と一鳴きしてその場から飛び立ち、何処かへと向かっていった。
「晩御飯までには戻ってくるんだよー!」
新しい玩具を買ってもらってはじゃぐ子供のようなドラ助を見送りつつ、シャルが正に子供にかける言葉そのものを去り行くドラ助に投げかけた。そしてそれに合わせて遠くからドラ助の返事と取れる鳴き声が聞こえてきた。きちんと返事をする良い子の鏡、ドラゴンの屑。
「うーし、それじゃちょっと遅いけど昼飯にするか」
門から出る手続きをしたり人気のない場所まで移動したりドラ助と一悶着あったり、そんなこんなで時刻は昼過ぎであり、朝食を食べていないため空腹感が割と酷いことになっている。故にさっさと家に入ろうとしたのだが、『ちょっと待って、師匠』とシャルに呼び止められた。
「どうした?」
足を止めて振り返るが、言い出しにくい事なのかシャルは目を閉じて息を整えているばかりだ。『先に入ってるぞ』と言い残してリーディアは行ってしまったが、多分気を使ったのではなくて素である。やがて整理がついたのかシャルは俺に一歩詰め寄ると懐から小箱を取り出してこちらに手渡した。
「これは……」
渡されていた小箱へと向けていた視線を、ちらりとシャルに向ける。彼女は硬い表情のままであるが、俺に箱を開けることを促すように一度頷いた。開けても良い、ということだろう。そう判断して蓋を開けるとそこに剣を模ったシンボルのついたネックレスがあった。
嬉しさよりも『何故?』という思いが頭に浮かぶ。誕生日にプレゼントを貰ったことはあった。クリスマスという日を勝手に設定してプレゼントを交換したりもした。しかし今日という日は特別な日ではなく、プレゼントをシャルが渡してくる理由が思い当たらなかった。
「本当はずっと前に買って、渡す予定だったの。あの日、街に行ったのも師匠にプレゼントを買うためで、師匠をびっくりさせたくて理由も黙ってて」
「そういうことだったのか……」
今になって、どうして彼女があんなに街に行きたがってたのかを知ることとなった。その理由を嬉しく思うことと同時に、それがあんな結果に繋がってしまったことを後悔する気持ちが入り混じり、それ以上の言葉が出てこなくなる。
「師匠、今までありがとう。勝手に出て行って、心配かけて、すいませんでした」
彼女がスッと頭を下げる。咄嗟に『そんなこと』と言いそうになるが、何とか踏みとどまることが出来た。思えば彼女がここに戻ってきてから改めて謝罪の言葉を受け取ったことが無かった。正確には言おうとしても俺が無理に止めて言わせなかったというのもあるが、ようやく状況が一段落したからこそ、こうした場を設けたのだろう。
この謝罪は彼女なりのけじめだ。それを『そんなこと』と言って一蹴するのは彼女の思いを踏みにじる事だろう。しかし、やはり、俺にとっては彼女が戻ってきてくれただけで良いのだ。何とか気の利いた言葉を出せないかと頭を巡らせて、ようやく言葉を絞り出す。
「もう、あんなことはしないでくれ。今度は、俺も手伝うから……」
あの出来事で何が一番悪かったかと言えば、己の不甲斐なさの一言に尽きる。だからこそ、もしもまた彼女に何かあった時は、今度こそ彼女を助けたいと思う。
「――――はいっ」
彼女の、涙交じりの返事。けじめをつけたことで安心したのか、堰を切ったように泣き出した彼女を、彼女が泣き止むまで抱きしめた。
ドラ助がやたらソワソワしていたせいで首輪側の改造とアクセサリーの取り付けにやや手間取ったが、問題なく取り付けることが出来た。するとドラ助はしきりに首を動かし、ぐねぐねと何やら気持ち悪い動きをしたかと思うと今度は地面に体をこすりつけ始めた。
「お前何がしたいんだよ……」
汚したり傷つけたりするのではなかろうかと危惧した途端にこれである。呆れた俺はそう呟くがドラ助の耳には入っていないようで『グアアア、グアアアアア』とむずがる様に鳴きながらうねうねと蠢くばかりである。何がしたいのかさっぱり分からないが動きがとにかく気色悪いので、もうさっさと家の中に入ろうと考えているとシャルが家から姿見を持ってこちらに走ってきた。
「はい、ドラ助!」
呑気な声に似合わない『どすん!』という大きな音と共に姿見が蠢くドラ助の前に鎮座される。そして当のドラ助は何やらハッとした様子でしばらくじぃっと姿見を見ていたかと思うと、おもむろに姿勢を正して首をぐりんぐりんと動かしては姿見で確認をしている。
「うんうん、すっごく似合ってるよ」
「体躯に比べれば流石に小さいが、確かに似合っているぞ」
そのように褒める二人の言葉を聞いて俺はようやく理解した。成程、こいつはアクセサリーを付けた姿を確認したくてぐねぐねしてたのか。それでもやっぱり無理があってじたばたする羽目になった、と……。うーんこのトカゲ。
二人の世辞に気を良くしたのか、トカゲは満足げな様子で高らかに『グオオオオン!』と一鳴きしてその場から飛び立ち、何処かへと向かっていった。
「晩御飯までには戻ってくるんだよー!」
新しい玩具を買ってもらってはじゃぐ子供のようなドラ助を見送りつつ、シャルが正に子供にかける言葉そのものを去り行くドラ助に投げかけた。そしてそれに合わせて遠くからドラ助の返事と取れる鳴き声が聞こえてきた。きちんと返事をする良い子の鏡、ドラゴンの屑。
「うーし、それじゃちょっと遅いけど昼飯にするか」
門から出る手続きをしたり人気のない場所まで移動したりドラ助と一悶着あったり、そんなこんなで時刻は昼過ぎであり、朝食を食べていないため空腹感が割と酷いことになっている。故にさっさと家に入ろうとしたのだが、『ちょっと待って、師匠』とシャルに呼び止められた。
「どうした?」
足を止めて振り返るが、言い出しにくい事なのかシャルは目を閉じて息を整えているばかりだ。『先に入ってるぞ』と言い残してリーディアは行ってしまったが、多分気を使ったのではなくて素である。やがて整理がついたのかシャルは俺に一歩詰め寄ると懐から小箱を取り出してこちらに手渡した。
「これは……」
渡されていた小箱へと向けていた視線を、ちらりとシャルに向ける。彼女は硬い表情のままであるが、俺に箱を開けることを促すように一度頷いた。開けても良い、ということだろう。そう判断して蓋を開けるとそこに剣を模ったシンボルのついたネックレスがあった。
嬉しさよりも『何故?』という思いが頭に浮かぶ。誕生日にプレゼントを貰ったことはあった。クリスマスという日を勝手に設定してプレゼントを交換したりもした。しかし今日という日は特別な日ではなく、プレゼントをシャルが渡してくる理由が思い当たらなかった。
「本当はずっと前に買って、渡す予定だったの。あの日、街に行ったのも師匠にプレゼントを買うためで、師匠をびっくりさせたくて理由も黙ってて」
「そういうことだったのか……」
今になって、どうして彼女があんなに街に行きたがってたのかを知ることとなった。その理由を嬉しく思うことと同時に、それがあんな結果に繋がってしまったことを後悔する気持ちが入り混じり、それ以上の言葉が出てこなくなる。
「師匠、今までありがとう。勝手に出て行って、心配かけて、すいませんでした」
彼女がスッと頭を下げる。咄嗟に『そんなこと』と言いそうになるが、何とか踏みとどまることが出来た。思えば彼女がここに戻ってきてから改めて謝罪の言葉を受け取ったことが無かった。正確には言おうとしても俺が無理に止めて言わせなかったというのもあるが、ようやく状況が一段落したからこそ、こうした場を設けたのだろう。
この謝罪は彼女なりのけじめだ。それを『そんなこと』と言って一蹴するのは彼女の思いを踏みにじる事だろう。しかし、やはり、俺にとっては彼女が戻ってきてくれただけで良いのだ。何とか気の利いた言葉を出せないかと頭を巡らせて、ようやく言葉を絞り出す。
「もう、あんなことはしないでくれ。今度は、俺も手伝うから……」
あの出来事で何が一番悪かったかと言えば、己の不甲斐なさの一言に尽きる。だからこそ、もしもまた彼女に何かあった時は、今度こそ彼女を助けたいと思う。
「――――はいっ」
彼女の、涙交じりの返事。けじめをつけたことで安心したのか、堰を切ったように泣き出した彼女を、彼女が泣き止むまで抱きしめた。
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