幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

123話目 忘れ物

 時刻はまだ昼前であるが、考え無しにあんなことをしたせいで帝国に長居すれば面倒事が生じそうなので速やかにわが家へと撤収する必要がある。冒険者の真似事をしていたせいで思っていたよりも長くこちらに居たため、ドラ助に伝えていた予定よりも数日ほど遅れた帰還になるが、そのせいでヤツが何かやらかしてないかが心配だ。


 思えばたかが数日だけとはいえ、ヤツを完全に放置したのは早まったかもしれない。あいつが卵から孵ってこのかた大体五百年間、ほとんど毎日のように顔を突き合わせていたから完全に放置した場合何をしでかすか全く予想もつかない。……よし、ゴタゴタ抜きしにしてもさっさと帰ろう。


 宿泊していた宿――といっても滞在していたのは初日だけだが――からチェックアウトを行い、さて門へと向かおうかとしたその時、シャルが何かを思い出したかのように『あ!』と大きな声を出した。


「どうしたシャル、何か忘れ物でもしたのか?」


 荷物は全て魔法で収納しているのでそれは無いな、と自分でも思いつつ出てきたのがそんな陳腐な言葉なのはご愛敬である。確かにダミー用として手荷物やらを外に出していたことはあるが、それらは誰かに見られても、最悪その場に捨ててしまっても問題のないようなものばかりだ。


「アイラさんとこのアクセサリー! まだ受け取ってないよ!」


 彼女にそう言われて『ああ』と俺も思い出す。そういやドラ助への土産としてヤツの首輪にくっつけるアクセサリーを注文していたのだった。その仕上がりまでに数日かかる、と言われてから十日近くも経っているのだから余裕で完成しているはずだ。


「む? ドワーフの店にでも注文していたのか? では受け取りに行かなければな」


 そう言ってリーディアがくるりと向きを変えてドワーフらのいる工業区へと向かおうとしたが、シャルが素早く彼女の前へと回り込んで押しとどめた。


「わ、私一人で大丈夫だから! リーディアと師匠は先に門に行ってて大丈夫だから!」


 手をわたわたと動かして必死に熱弁する。怪しい。非常に怪しい。『別に三人で行ってもいいんじゃあ……』と俺が口にするも、『ほんとに私一人で大丈夫だから! そ、それにほら、三人でいたらギルドの人とかに見つかっちゃうかもしれないし!』と言って頑として譲ろうとしない。


 しかし明らかに咄嗟に出てきた理由であるとはいえ彼女の言うことも一理無い訳ではない。ギルドでやらかした時、俺とシャルは例の認識阻害の魔法を使っていたのでハッキリと顔を認識はされていないはずだが、魔法をかけていないリーディアを目印にして見つかる可能性もある。それならば先に門を先に抜けておくのも手ではあると思うが、別に俺まで一緒に門から出ておく必要も無いはずだ。でも『ね! ね!』とさっきからシャルが念押ししているし、特に後ろ暗い事をしている様子にも見えないので別に無理に反対する必要も無いか。


「まあ別にそれでいいけど……、気を付けて行くんだぞ?」


 彼女が俺のもとから離れるのを極端に嫌がるように、俺もまた彼女が何かを一人でしようとするのを嫌がるようになってしまったのかもしれない。彼女が一人で街へ向かうと言い、その結果……、いかんいかん、こんな時に考えることじゃない。


 俺がチクリと心を痛めつつもシャルの案を認めると、彼女は『わかった! すぐ行くから!』と言うや否や駆けだしてしまった。何をそんなに急いでいるのやら……、と俺は彼女がそこまで急ぐ理由に全く見当が付かず、隣にいるリーディアもそれは同じなのか二人して顔を見合わせて首を傾げる。


「行くか」
「うむ」


 だが基本的にあまり物を考えない俺と、考えて行動してるのかさっぱり分からない彼女はそれだけ言って大人しく門へと向かうのであった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品