幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

100話目 暇潰し

 ボロスはハッキリと俺を見ながらそう言ったわけだが些細な抵抗として『え? 誰の事です?』と言わんばかりに左右をキョキョロと見渡してみる。願わくば先の発言はただのカマかけであって欲しいと思うものの、やはりそう簡単にはいかないらしい。


「簡単な推理だ。リーディアが昨日に続いて今日も、それも見知らぬ二人を連れてやって来たというではないか。しかも訓練を受けているはずの兵士ですら顔の詳細を覚えておらん上に俺が直接目で見てもよくわからないとなると、また妙な魔法を使ったのだろう」


 ボロスは俺がしている小細工を意に介した様子も無くつらつらと自分の推理を述べる。正直自分でも丸わかりだなと思っていたものの、ただの兵士とかなら俺よりもリーディアに気が向くだろうし、藪蛇を恐れて深くは訊ねないと踏んでいた。だからこそそんなもの恐れもしないだろうコイツと顔を合わせたくは無かったんだ。


「そしてこれが決め手だが……、昨日リーディアが二人をこの城に招待したいと言っていたからな」


 おいリーディア、お前のせいじゃないか。


 そう思って彼女の方を向くとサッと顔を背けられた。あ、このヤロ!


 だがこの反応をボロスは待っていたのだろう。ヤツは今正に確信を得たようで満足げに口の端をニヤリと釣り上げた。それを見た俺は『しまった』と思ったものの時既に遅し。これ以上は無意味だろうと観念して俺は自身にかけていた魔法を解除した。


「それで、俺に一体何の用なんだ」


 本当にただ挨拶をしに来ただけな訳は無いだろうと言外にこめて、睨むようにしてそう訊ねる。そういえば次は獣人の国を攻めるとか言っていたし、それを手伝えとでも言うのではなかろうか。だが既に一番気になっていたあの豚の屠殺は終わったからこれ以上手伝う義理も無い。報奨と称して面倒事を押し付けられるのも嫌だから絶対に手伝わんぞ。


 雰囲気に流されないよう、そう自分に言い聞かせるもボロスがしてきたのは『兵士に軽く指導してやってくれないか』というリクエストであった。少々予想外なものではあったもののそれに応える利益が無いのはやはり同じ。故に『駄目だ。今日は魔法のレッスンがあるんだ』と言って断るも『え、そんなのありましたっけ』というシャルの突っ込みにより失敗に終わる。


「名と業績しか知らないから兵も怯えるのだ。直接指導でもされればそれも多少和らぐだろうよ」


 それに続けてボロスは俺が受けるメリットを提示してきた。だがなあ、別にこの魔法使ってれば不便さはそんなに無いんだ。一番の目的は果たせなかったが、別にこの城に住むわけではない以上その事にそれほどの魅力は感じられない。


 ここの兵士はリーディアに剣をちょこちょこ教えていたらしいから、それなりの腕があるのは確かだろうが、彼女ほどの逸材がそうそう居るはずもない。俺の場合教えてて楽しいのは生徒が優秀だからこそでございます。


「それに――」


 まだ何か言うのか、とうんざりしつつ次の断り文句は何というか考えていたが……。


「暇なのだろう?」


 ボロスは俺たちの様子、机を囲んで食べ物をつついているだけの有様をそう言い表した。そして結局俺たちはその弱みに付け込まれ、つまり暇を潰せるという誘惑に負けてしまった俺は二人を連れて、ホイホイと練兵所へと向かうのであった。








「えー、短い付き合いになるとは思うけどどうかよろしく」


 元々練兵所にはそれなりの人数の兵士がいたこともあり、俺達が到着してから程なくして非番の兵士がここに集められた。初めの内は皇帝であるボロスの方に視線が向いていたのだが、そこにガイウスが加わる事で状況は変わっていった。


 練兵所に入るなり彼は俺を目ざとく発見したようで入り口で歩みを止めた。後続の兵士に押されつつなんとか所定の位置につくものの、顔面は蒼白、体は震え今にも倒れそうなその様子に周囲の兵が気づかないはずもない。


 そしてガイウスから聞いて魔法使いが居る事を知った兵達は順に恐怖と絶望に飲まれ、何故自分たちはここに集められたのか、まさか皆殺しにされるのではと言い合って今にも俺に命乞いを始めんばかりの状態になった。


 そんな状況で居心地が良いはずもなく、俺は一つため息を吐いてから彼らの前に立って今回彼らを集めた趣旨を説明したという訳だ。しかし彼らの顔色は今一良くならない。中には冷静さを取り戻した兵士もいるが、大半はどういう目に遭わされるのかと恐怖している。


 もしや巨大ロボと戦わせられるとでも思っているのだろうか。そういえば俺の魔法の事は噂で知っていても剣術についてはあまり知られていないのではないだろうか。ならば指導と聞いても彼らがこうして怯えるのも無理は無い……、と思っていると豚を屠殺した時に俺の後ろに居た兵士たちが周りの兵士よりも顔を一層青くしているのを発見する。


 知っていてもそれなのか……。

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