幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

93話目 衛生観念

 翌朝、宿の周りを少しだけ散歩してきた俺のテンションはだだ下がりであった。昨日この宿へ向かう途中や工業地区からの帰り道で屋台が出ていたり飲食店がある事は確認していたので、昨日帝国の料理を楽しめなかった俺はそれを目的にしていたのだが……。


「味云々の前にあれはちょっとなあ……」


 日本の祭りなんかでは屋台から漂う醤油の焦げる匂いや甘い香りが絶えず食欲を刺激されたものだが、調味料も香辛料も高級品であるこの世界の屋台でそれを望むべくもない。こちらの屋台では主に肉を焼く音だったり冒険者ギルドの近くという立地の有利さを利用する等で客を呼び寄せていた。


 味付けはほとんど塩だけのようであるものの、それでも何らかの工夫がなされているかもしれないと最初は興味を持っていたのだが、とある光景を目にしたことにより俺の食欲は一気に失せてしまった。


 さて俺も料理を買おうと思い屋台に近づこうとしたのだが、屋台の店主が取り出した食材に虫がたかっていたのだ。日本の執念とでも言うべき衛生観念をまだ保ったままの俺はまずその事で食欲が引っ込んでしまい、そして店主が虫を取り払っただけで料理に利用するのを見てある種の衝撃に襲われた。


 今まで気にした事は無かったが、この世界の文明レベルの低さを舐めていたという事か。そういえば俺がこの世界でまともにした食事は俺を助けてくれたおっちゃんの作った料理かシャルが作った料理くらいだ。そしておっちゃんが料理を作るのは俺が手伝っていた事もあって俺の目に見える範囲では衛生的に問題は無かったし、シャルには俺が料理を一から教えたので衛生的に問題が出るはずもない。


 日本の屋台も衛生的とは言い難いが、それでも虫は抵抗が大きすぎる。そして『もしかしたらこの屋台だけが特別なのかも』と一縷の望みをかけて他の屋台も覗いたりしてみたのだが、結果は言わぬが花というものだ。


 そしてそれは即ち本当の意味で初めてこの世界の衛生観念を目の当たりにしたわけでありまして、下手をすればあいつら・・・・に裏切られた時以上の衝撃を受けたかもしれない。食材があんな扱いであるならば、宿のベッドシーツなんかの衛生状態も推して知るべしだ。それ以上考えるのは恐ろしく思えた俺は出来る事ならば今すぐにでも家に帰る事を、最悪でも宿を借りるのはカモフラージュに留めて寝泊りは家ですることを決意して宿に戻った。


 そして宿の食堂で宿泊客達が食べている朝食を見て、俺はこの世界の、少なくとも帝国での料理には期待しないことにした。先程の屋台では肉がメインであったので気付かなかったが、客が食べているのは硬そうな黒パンと、恐らくは茹でただけの野菜と少量の肉のスープ。客たちは各々が持ち込んだ塩を振りかけていたり、黒パンをスープに浸して食べている。


 ああ、そういえば俺もおっちゃんの店では黒パンをああして食べていたなあ。


 そんな風にある種のノスタルジーを覚え、それと共に黒パンの硬さと時折混じっている石を誤って飲み込んで日本食を切実に欲した事を思い出す。そのせいで初めて創造魔法で日本食を食べた時は涙を滝の如く流したんだっけ……。


 俺はここではないどこか遠くを眺め、そして千年前から一歩も進歩していない現状にある種の納得をして、『うん』と一回頷いてから部屋に戻った。


「シャル、リーディア、もう帰ろう」


 扉を開けると同時に俺はそう告げた。部屋で雑談をしていた二人にそう声をかけると二人は『ええ?!』と驚愕の声をあげる。それもそうだろう。機嫌良く朝から散歩をへと出かけたのに、帰ってくるなりそう言われれば誰だって驚く。俺だって驚く。


「師匠、ドラ助へのお土産もあるから出来ればあと何日かはここにいたいなーって……」
「リョウ殿! まだ見せたい場所も見せていないのにそれはあんまりではないか?!」


 あ、うん、ごめん、忘れてた。


 わざわざこうして帝国までやってきた理由の半分の『リーディアが見せたい場所がある』をすっかりと忘れてしまっていた。一先ず俺はリーディアに対して平謝りをして事なきを得たが、正直ドラ助のお土産はもういいんじゃないかなーって思ったりしてなくもない。


 それからリーディアに何処か見たい場所はないかと聞かれたが、元々インドア派な俺がやる気を失った状態で何か思いつくはずも無く、シャルはシャルで昨日俺がガンダスに捕まっている内に粗方見てしまったらしく意見を出すことは無かった。


 俺達が何も意見を出さないのでリーディアは皇帝が居るお城に招待をしてくれたのだが、俺がそんな場所に行けば兵士にどんな対応をされるか考えるだけでも疲れるため丁重にお断りさせてもらった。結局、彼女が俺達に見せたいと言っていた場所に向かう事となり、本来であればもう少し後になってから紹介するつもりだったのだろうか、彼女は少しだけ不機嫌そうにしていた。


 いや、ほんと、ごめんね。

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