幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

86話目 ペット

 宿が立ち並んだ場所からも、人間が経営する一般的な装飾品店がある場所からもやや離れた場所にそれらはあった。もうもうと煙を吐き出す煙突のある工房群に、そこから吐き出された品物を並べていると思われる店舗、そしてそれらの建物の中を忙しなく動き回る人達。


 彼らの大半がドワーフであり、実は肉眼で彼らを見るのは初めてだったりする。また、少数ながら人間と思わしき人達がドワーフに混じって作業を行っている。彼らは他の見習いと思われるドワーフ達と共に怒鳴られ、汗にまみれながらも懸命に鎚を振るっていた。


 やや立地条件の悪い場所にこうしてドワーフ達が固まっているのは作業の効率や騒音も然ることながら、未だに根付いているであろう差別意識による他種族との摩擦も絡んでいると予想していたために、ドワーフに混じって人間が働いているというのはかなり意外な事であった。


 怒声や金属同士がぶつかり合う音、蒸気の吹き出す音等が飛び交う中を目的の店目指してシャルと歩く。とはいえ観光も兼ねているので一直線には向かわずにブラブラと寄り道しながら行くのだが、どうにも武器や防具といった実用品を取り扱う店の割合が多いため観光している気分にはなれなかった。


 一方シャルはこれだけの商品が所狭しと並んでいる光景が珍しく思えたのか、あっちを見たりこっちを見たりと忙しく視線を動かしていた。そんな彼女の反応を観察しながらようやく目的の店に辿り着く。武具店と違い装飾品を取り扱う店はその店以外にこの辺りには無いため、そこだけがかなり浮いているように感じられる。


「おや、人間とエルフの客とは珍しいね」


 それ程広くはない店に入るとそんな声がかけられた。声がした方を向くとそこには非常に小柄な少女、正確には少女と見間違えてしまうような女性が居た。背の低いシャルよりも更に低く、恐らくは夜のシャルと同じくらいの大きさだろう。


「何だいあんた、ドワーフを見るのは初めてかい。これでもあたしゃ立派に成人してんだからね」


 俺の視線に思うところがあったのか彼女は俺をじろりと睨むとそう告げた。いかんな、どうにもそういった気遣いが出来なくなっているようだ。俺は素直に謝罪をして店内の商品を見ても良いかを尋ねると『そりゃ店なんだから見ても良いに決まってんだろ』と呆れられてしまった。いや、ほんとに俺は何を聞いているんだ。


 ともあれシャルはドラ助への土産に丁度良い物を探して、俺はその間の暇つぶしにと置いてある商品を手に取ってみる。シャルにプレゼントをした時に地球でのデザインを見たりしただけなのでそういったことに詳しくはないが、指輪に彫られた細かい細工や首飾りのデザインはそう見劣りしていないように思えた。


 食事事情やら文明の進む速度で地球と大きく差があるこんな世界でこれ程の完成度を誇ることに、また、純粋にそれらの美しさに感嘆して俺は小さく『ほう』と漏らしてまじまじとそれらを色々な角度から見る。そうして俺が感心している様が気に入ったのか、先程の女性は鼻をならしてシャルと同じくらいに平坦な胸を大きく反らした。


 ん? 今寒気が……?


 急に背筋に走った悪寒を気のせいだと思い込むため、俺がより熱心に商品を見て回ると、シャルは何やら納得がいったのか手に取っていた商品を元に戻すと女性に話しかけた。


「えーっと、プレゼント用の物が欲しいんですけど、どういった物がありますか?」
「そうだねぇ、色々とあるけど贈る相手にもよるね。相手は誰なんだい? 家族かい? それともそこの兄ちゃんかい?」


 女性はそう言って俺の方へ顎をしゃくるが、シャルは首を横に振ってそれを否定し、しばらく悩んでから彼女の質問に答えた。


「その……、家族みたいな存在なんだけど……、ペット? っていうか何というか……」
「ペットに贈り物だって? 変な事考えるもんだねぇ。それで、そいつは何なんだい? 犬かい? 猫かい?」
「ドラゴンです……」
「はい?」


 まあドラ助は家族と言えばいいのかペットと言えばいいのか分からんなあ、とか、そういえばこの世界でもペットといえば犬や猫が一般的なんだなあ、とか的外れな事を考えながら彼女らの会話に聞き耳を立てる。伝説でしかないドラゴンが、ましてやそれがペットであるというのは割と頭のおかしい話であり、シャルもおかしな事を言っている自覚があるのか少しだけ顔を赤らめている。


 そして女性はしばらく固まったかと思うと突然大きな笑い声をあげた。


「あっはっはっはっは! ドラゴンがペットかい! 顔に似合わず変な冗談を言うんだねぇ! まあいいさ、それで、そのドラゴンってのはどれくらいの大きさなんだい?!」
「こ、これくらいです!」


 シャルはそう言って背伸びしながら腕を思いっきり上に伸ばし、そこから円を描いてドラ助の大きさを伝えようとするが、それではどうやっても伝わらないだろう。俺はそうやって身振り手振りで必死に伝えようとする彼女の様が可愛らしく思えてにやにやとしている訳だが、恐らく女性も同じなのだろう、先程から笑いが堪えられない様子である。


 もう少しシャルが頑張るのを見ていたいが、そろそろ彼女が泣き出してしまいそうなので助け船を出すことにしよう。


「参考になるかは分からんが、首周りはこれくらいだぞ」
「ぬお! ビックリさせんじゃないよ!」


 俺はどこからともなくドラ助に贈った首輪のレプリカを取り出してから女性にそう告げる。今まで蚊帳の外だった俺がいきなり声をかけ、しかもどこに隠していたのか俺の身長程もある大きな輪が視界に入ったため彼女はビクリと大きく跳ねてからそう怒鳴る。


 あの、俺も一応客なんだからもうちょっと丁寧に対応して欲しいかな、って。

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