幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

84話目 門前

「それではドラ助、留守の間の守りは頼むぞ!」
「ちゃんとお土産は買ってくるからねー!」
「変な物食って腹壊すんじゃねーぞー!」
「グウアアアアア!!」


 リーディアの提案に乗ることを決定した翌朝、俺達三人はそれぞれドラ助に言葉を送りつつ帝都へと向かうこととなった。三者三様な言葉に対してドラ助は力強く、そしてやや非難めいた唸り声で答えていた。果たして誰に対して非難の声をあげていたのかは俺にはよく分からない。


 さて、これが一般的な物語の一場面であるならば旅の途中に魔物や盗賊に襲われたり、襲われている貴族や商人を救うことになるのだろうが、こちらには既に姫騎士が居るためそんなイベントが起こることも無く無事に帝都に辿り着いた。というよりもそもそも転移魔法で帝都の近くまで移動するので、五百メートル程歩いて門に近づいただけである。たったそれだけの距離の間でトラブルを引き起こせたとしたらそれは最早一種の才能だろう。


 とにかく今俺達は帝都の唯一の出入り口である門の前に立っている訳であり、帝国にて最も人が多い場所であるが故に当然大勢の人がそこには居る訳である。片や銀髪で長身な騎士然とした美女、片や金髪で小柄なお姉さん風な美少女がそんな場所に現れればそれはもう目立つ目立つ。俺? いや、俺は没個性的だから。髪は黒、目も黒、服装も黒を基調とした非常に無難なスタイル。一度群衆に紛れてしまえば目立ちようも無い程に存在感が薄い。


 近くに居る人たちはざわざわとどよめき、離れた人達も何事かと動き出す。目立たないよう何か魔道具でも用意すれば良かったかなと後悔するが時既に遅し。この国では名が知られているはずのリーディアや、ちょっとでも情報を集めているならば知っているであろうシャルを襲う人物等居ないだろうが、念のためいつもよりも多めに魔法生物を護衛につけるくらいはしておこう。えーっと普段が二体ずつだから……、百体ずつあればいいか。


 そんな感じで俺達三人は周りの人たちをそっちのけでまったりとしていたのだが、俺までも注目の的になっていることに気付く。しかしその意味する所は二人とは全く別。二人に向けられるのが羨望や欲望、憧れや欲情の眼差しであるのに対して、俺に向けられるのは嫉妬や疑念といった負の感情を伴った眼差しである。


 表立って突っかかってくるような事は無いだろうが裏で色々と動かれる可能性もある。動かれたところでどうと言うことも無いだろうが、そう慢心して足元を掬われるかもしれない。この間帝都の情報収集をしたものの、ボロスの言い分の真偽を判断するのに全力だったのと、そもそも数か月以上前のことなど憶えているはずもない。無論再度情報収集すれば大丈夫なのだが、数日の滞在の為に目的地で数日間潰して情報収集するのは本末転倒である。


 どうしたものかと悩んでいると周りでざわついていた人達が左右に分かれ、その向こうから兵士が数名こちらへと歩いてくる。シャルがその場で警戒の色を強めるが、リーディアは逆に警戒することなく彼らへと駆け寄った。


「ガイウス! 久しぶりだな!」
「リーディア様?! 何故ここに?!」


 何か面倒事が生じるかと思われたが、どうやらそうはならずに済みそうだ。クーデターのために色々と動いていた時、自身が強くなるためにリーディアは色々な兵士に世話になっていたそうだ。そのため大体の兵士とは顔馴染みであり、ガイウスと呼ばれた男はその一人ということらしい。


「いやはや、魔法使い殿に仕える事になってからまた会えるとは思いませんでしたぞ」
「お前は俺を何だと思っているんだ」


 聞き流せない言葉が聞こえた気がしたため思わず俺まで近寄ってツッコんでしまう。その言葉でようやく俺の事に気付いたのかガイウスはこちらを向き、初めは俺が誰か分からず不思議そうな顔をしていたが、やがて何かを察したようで途端に顔が青くなっていく。


「リーディア様、もしやこのお方は……」
「ああ、彼がリョウ殿だ」


 彼は恐る恐るリーディアに問いかけ、そして答えを聞いて顔は更に青く……、最早紫と言っても良い色になる。はあはあと息を荒くし、無事に呼吸が出来ているかも怪しい。流石に心配になってきたので『大丈夫か』と声をかけようとしたその時、彼は体をがばりと地に伏した。


「も、申し訳御座いませんでしたぁ! 何卒命だけは、いえ、家族だけは何卒お助けをぉ!」
「ちょ! やめてくれ! そんなことしないから、マジで目立つからやめてくれ!」


 俺の必死の懇願も虚しく、彼はガタガタと震えながら所謂土下座の体勢から動くことなく『何卒、何卒』と繰り返しており、俺の言葉が聞こえていないようだ。当然その様子は周りの人たちからはよく見えているため、彼らのざわめきはより一層大きくなっていく。


 彼の部下と思わしき人達にどうにかして欲しいところだが、彼らもまたガイウスと同じく顔を青くしており、俺が声をかければ同様の結果になることは明白である。リーディアはリーディアでオロオロとしていて役に立たないし、シャルにどうこうさせることでもない。


 結局俺はこれ以上被害が大きくならないよう、彼が正気に戻ることを祈りながら声をかけ続けることしか出来なかった。僕もうお家帰りたい。

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