幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

83話目 そうだ、観光に行こう

 それから凡そ数か月が経過した。あの一件以降ドラ助もすっかり元に戻り、むしろ前よりもふてぶてしくなったようにも思えるが、ともかく化けの皮が剥がれたためリーディアがドラ助を見ても動揺することは無くなった。


 それでは彼女もこの家に完全に馴染んだかと言えばそうでもない。いや、違う、彼女に対して壁を作っているのは俺の方だ。シャルはリーディアと良好な仲を築いているし、ドラ助もリーディアに甘え切っている。この前なんかはシャルとリーディアに同時にわしゃわしゃされて悶絶死寸前とかいう意味不明な状態になっていた。


 そうして俺以外がリーディアと仲良くなって行く一方で俺の方は彼女との距離を測りかねていた。別に彼女との仲が悪くなった訳ではない。ただ彼女がこの家にいることが自然と思えずにいるだけなのだ。


 シャルが初めてこの家に来た時は俺自身が彼女を求めていたし、彼女もまた俺の庇護を求めていた。加えて俺が一から彼女の面倒を見ていたし、その成長を見届けることに喜びを感じていた。


 リーディアとも仲良くはなっているし、彼女が自身の技に磨きがかかって喜ぶ様を見るのが楽しくない訳でも無い。だがどうしても『他人』という感覚が拭えないのだ。言うなれば我が家にとても親しい友人を招いているような感覚である。とても親しいのでいつまでいても問題は無いが、それでも『家族』ではない。どこまで行っても友人は友人であり家族ではない。


 この壁を感じているのが俺だけなら問題は無いのだが、彼女もそう感じているとなると問題になる。どんなに親しくなっても『他人』であり、それでも『報酬』なのだから俺が捨てない限りこの家に居続けなければならない。このことが彼女にとって如何ほどのストレスになるか俺には想像も出来ない。


 彼女の父親であるボロスを『家族』と考えるのは色々とアレだが、彼女自身はとても真っすぐな良い娘であるので『家族』と考えることに抵抗は無い。だというのに俺がそれを出来ずにいる。そのことをもどかしく思いながら、時間がいつか解決してくれることを願いながら過ごしていた。


 そんなある日、『そういえば』とふとあることに思い至る。ここ数か月の間全く音沙汰無しだが、『外』は一体どうなっているのだろうか。ボロスの口ぶりからすれば人間の国はおろか、獣人の国まで征服するつもりでいるようだったが、今現在の進行状況はどれ程なのだろうか。


 知識魔法を使えば良いと思うかもしれないが体力と魔力を無駄に消耗する上に、そこまでしてほしい情報では無い。そこで唯一帝国の事を実感として知っているリーディアに予想を聞いてみた所思わぬ提案が返ってきた。


「それならば一度帝都を訪れてみるのはどうだろうか。それに丁度私も見せたい場所があるんだ!」


 そう提案されて俺は逡巡する。手間で言えば直接足を運ぶ方が余程面倒であるが、リーディアの言う見せたい場所というのが気になる。単なる文化や文明の発展具合は高が知れているので然程興味は無いが、彼女が自信ありげにそう言うのであれば一見の価値はあるだろう。


 それにシャルのリハビリになるかもしれない。


 そう考えた俺はリーディアの提案に乗ることを決め、シャルとドラ助に帝都観光の意を告げる。とはいえシャルはともかくドラ助が帝都に行くことは不可能であるためこいつはこの家で留守番である。自分もついて行く気満々だったのか、その事を告げた時のドラ助の反応はまたしても酷い物であった。


 ギャン泣きに加えて手足をバタバタ尻尾もバタバタ、伝家の宝刀『飯を一杯やるから大人しくしろ』を取り出しても泣き止まなかった。結局帝都に出発するまでの数日の間シャルとリーディアが全力で構ってやるという条件でようやく渋々承諾した。


 ほんとにこやつは……。

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