幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

80話目 親善試合

 歓迎会とは言ってもそれ程大げさなことをするつもりは無い。例によってピクニックをするのもアリではあるが、リーディアを楽しませるのは重要とはいえ今回の目的はどちらかと言えばドラ助を釣り出す方が主である。何度かドラ助をピクニックに連れて行ったことはあるので、それだけで釣り出せるかどうかは微妙なところだ。


「ピクニックじゃないなら何をするの、師匠?」
「それはだな、サッカーだ!」
「サッカー?」


 催し事といえばピクニックというイメージがあるシャルの問いに対して、俺はまたしても元の世界の要素を持ちだすことにした。全く知らない単語を出されたことに対してシャルは『ふーん』といった様子でありあまり驚いた様子は無い。まあ十年も一緒に居れば俺が突拍子もない事を口にするのにもいい加減に慣れたのだろう。それと対照的にリーディアは不思議そうな顔をして、問いかけるように未知の単語を口にする。


 何故サッカーなのかと言われれば、別に俺自身がサッカーを好きなわけではなく、未だに大軍と大軍がぶつかり合いをしているこの世界の軍人と相性が良さそうだと考えたからだ。ただ、知識魔法でサッカーの細かいルールまで調べることは出来るが、いきなり複雑なルールを押し付けても絶対に楽しめるはずがないので多少ルールは弄ることにする。


 ボールを相手のゴールに入れると得点が入る。直接相手を傷つけない。ゴールキーパー以外は手を使わない。コートの外にボールを出してはいけない。最初はコートの中央から先手が蹴り始める。


 一先ずはそれくらいにして後は自由にやらせることにしよう。本気でサッカーをやりたいのではなく、単に楽しむだけならそれくらいのルールで十分なはずだ。


「成程、自身の砦を相手の攻撃から守りつつ相手の砦を攻めるという遊戯ということか」
「いや、うん、違うけど、もうそういうことにしていいよ」


 俺の説明を聞いたリーディアがすんなりと理解してくれたのはいいが若干変な解釈をしてしまっている。なんか段々と不安になってきたけどとりあえずやらせてみましょ。


 流石にサッカーをやるには家の庭では狭すぎるので森を切り開きサッカー用に整地を行う。視界に入る木を剣の一振りで根こそぎ消し飛ばし、でこぼこな地面を魔法で平らにならす。ここまでやっても明日になれば元に戻っているはずなので、この森の生命力は複雑怪奇そのものである。尚この整地方法を見たリーディアが大興奮してしまい、整地よりも彼女を宥める方に時間がかかってしまった事をここに記す。


「手加減はしないからね、リーディアさん!」
「無論だとも!」


 そうして作ったコートの真ん中に現在シャルとリーディアが対峙して、試合開始の合図を今か今かと待ち構えている。そして異変を察知したドラ助が上空で興味を隠し切れずにこちらを伺っているのを確認した俺はいよいよ試合開始の合図の笛を鳴らした。


「ボール持ちの護衛をしろ! 四人で囲って敵の突撃を許すな!」


 ちなみに彼女ら以外のチームメンバーはお馴染みの魔法生物である。公平さを期すために全部が同じ能力を持っていて反応速度も身体能力も普通の人間並みであり、彼女らの命令に従うように設定してある。そして先攻のリーディアは試合が始まると同時にその内の一匹にボールを運ばせ、その周りを四匹で囲うことでボールを守っている。


 流石は騎士と言うべきか、見事に指示を飛ばすことでボールをゴール前まで運ぶことには成功したが、それでもキーパーの守りを抜くことは容易ではないようで、攻めあぐねている内にとうとうボールを奪われてしまう。


 魔法が使えるシャルはリーディアと違い、魔法生物に対して一々指示を口頭で行う必要が無い。シャルがリーディアの攻めを耐えられたのもリーディアの指示を聞くことが出来たからと言うのも大きいだろう。だがボールを奪ったシャルもまた相手側にボールを運ぼうとするがどうにも上手くいかない。


 こういった集団戦を行ったことが無いことが災いしたか、どう動かせば相手の守りを崩せるかすらわからないといった様子だ。そうしてシャルがまごついている間にもリーディアは着々と防御陣形を整えていく。そうしてやがて痺れを切らしたのか、傍目からは無謀としか思えない突撃をシャルは繰り出した。


 だがシャルはそのようなことを無策で行うような人物ではない。数日だけとはいえ共に生活をしているリーディアもまたそのことを理解しており、怪訝な顔をしつつも迎撃を行うべく数体の魔法生物を向かわせた。


 シャルはコートの端に沿うようにして突撃していたため側面から食らいつくような形になり、そしていざ激突の瞬間となったその時、両者を阻むように地面が大きく盛り上がった。


「なんだと?!」


 意表を突かれたリーディアが驚きの声をあげる。魔法が火や水を操るだけではないことを説明はしていたが、実際に目にするまでは考慮から抜けていたのだろう。そしてリーディアの守りを抜いたシャルはそのままゴールへと突撃してシュートを行うが……、ボールはあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。


 そのことにリーディアは安堵の息を吐くが、その顔は一瞬にして驚愕の色に染まる事となる。空高く飛んで行っていたボールが突如その軌道を変化させてゴールネットへと突き刺さったのだ。やだあの子、風魔法までも動員していらっしゃるざますよ。


――――ピーーーーーーーーッ!!


 甲高い笛の音が響き渡り、それに驚いた鳥たちが羽ばたく音が聞こえる。それにより今の手段が不正と判断されなかったと確信したシャルは、未だ呆然としているリーディアに対してニヤリと不敵に笑ってみせた。それに気づいたのか、リーディアは自身の顔を一度パシンと叩き気合いを入れなおす。


「心のどこかでシャル殿の事を甘く見ていたことを認めましょう。だが! ここからは一切の驕りを捨てて全力で戦わせてもらう!」


 それは正しく宣戦布告であり、およそサッカーとは思えないセリフである。そして最初から色々とおかしかった試合が、その言葉を機に一層サッカーから離れるのであった……!!

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