幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

78話目 予想通り

 軽食中にもリーディアは色々なことに驚いていた。ほとんどの調味料は俺が創造魔法で作ったものだが、材料はこの魔の森から採れたものが中心に使われている。忘れがちだがこの森で採れる食材……、もとい実験材料は森の外では割と良い値段で流通している。加えて言えばその味も知れ渡っているため、薬には使われても食材として用いられることは無いのだ。それ故に味に対する驚きもより一層大きかったはずだ。


「これ一つで一体どれ程の価値があるのか……」


 その上で高級品である砂糖やら何やらの調味料を惜しげも無く使っているので、たったの一口でも下手をすれば小屋が建つ値段がつくだろう。まあどうでもいいことだが。久しぶりに食べるシャルのお菓子に舌鼓を打ちつつジュースで喉を潤す。さっぱりとした風味と炭酸のよく利いたそれはべたついた口内を洗い流し、お菓子を食べたことで乾いた喉に心地よい刺激を与える。


 俺からすれば慣れた日常の一コマであり、非常に心落ち着く時とはいえ特別なものではない。だがそれが外の感性を持つ人間にとっては信じられない程の贅沢なのだろう。極めて栄養が高くて下手な薬よりも心身を整え、その味は甘く、それもただ甘いだけでなくバターの風味や旨味を持ったそれらの余韻は一生に一度あるか無いかというものなのに、それが消えてしまうことを悲しむどころか煩わしいとばかりに飲み物で洗い落とす。そしてそれすらもまた想像もつかない程の美味。もう一言だけ言えば間違ってもトカゲのエサにしていいものではない。


 一口一口大事そうに食べるリーディアを尻目に俺はパクパクと口に運ぶが、彼女はその様子を目を丸くして見ていた。そんな彼女の様子と幼い頃の自分が重なったのか、シャルは終始微笑ましい物を見るような表情であった。


 リーディアは驚き続けていたとはいえ、会話が無かったわけではない。むしろさっきまで行われていた手合わせの反省点や、要所において俺が使った技術の質問など話のタネは尽きることが無かった。離れて観戦していたシャルもそれに混じり、段々と話も弾んでいく。


「それにしてもシャル殿は武技にも精通しているのか。なんとも凄まじいことだ」


 どうやらシャルが前線に立っていた時は本当に魔法を放つだけの砲台となっていたらしく、近接戦を行ったことは無かったそうだ。それに加えて一般的に魔法使いは魔法にのみその才能を注ぎ込んでようやく一人前になれるらしく、シャルが放つ魔法の威力の凄まじさから、当然彼女も魔法にのみ精通しているのだとリーディアは思っていたそうだ。


「剣も魔法も師匠から教わったからね。私なんてまだまだだよ」
「なんと! リョウ殿はシャル殿に魔法でも勝っているのか!」
「当然だよ。魔法だって、師匠の足元にも及ばないんだから」


 シャルはそう言って謙遜しているが表情に暗さは無い。心底そう思っているのだろうし、俺も実際それくらいの開きはあると思う。千年の無茶苦茶な修行は伊達ではないのだ。リーディアがそのことに驚いたのは、恐らく俺がまだ彼女にわかり易く凄い魔法を見せていないからであろう。


 そしてシャルの返しに対してリーディアは『おおぉぉ』と感嘆の声を漏らし、目を輝かせてこちらを見ている。オラ何だかこいつが次に言うセリフがわかっちまったぞ!


「リョウ殿! 厚かましい願いとはわかっているがどうか私も弟子にしてくれないだろうか!」


 やばいよこの子、すっごい予想通り! ちらりとシャルの方を見ると彼女は小さく頷いた。


「言っておくが、俺が教えた技術とか魔法とかを悪用するんじゃねえぞ? それが守れるって言うんなら――」
「ありがとう! リョウ殿! 本当にありがとう!」


 俺がセリフを言い切る前にリーディアは感謝の言葉を何度も述べる。まあ彼女を指導すること自体は考えていたのだ。とにもかくにも、今のままでは彼女に何かさせることなど出来ないのだ。この森の見回りをさせようにも、常識的に人並み外れた程度の力ではすぐに死んでしまう。彼女が魔法を使えるかはまだわからないが、精々が水や火を操る程度だろう。別に何かをさせることなく家で待機させ続けても俺は構わないのだが……、彼女の性格からして彼女自身が自分を追い込んでしまうだろう。どこかの誰かのように。


 そんなわけで彼女に何をさせるにしても常識外れに人並み外れた力を持ってもらう必要があるというわけだ。問題は彼女がプライドの高い人間で、俺のような出自が不明な人間に師事することを拒むかもしれないことだったが、幾度も頭を下げている彼女を見れば取り越し苦労であったとわかる。まあもう一つの問題である、彼女を鍛えてもやらせることが現状では一切無いということは解決してないがな!


 そして俺は彼女に『力を悪用したら罰が与えられる』みたいな魔法を掛けようとしてふと『悪用』の定義とは何ぞやと思い動きを止めてしまう。人に害を与えることだとすれば人助けとして賊を倒すのも引っかかるし、全くの善意で人を陥れる事もあるかもしれない。ま、まあ彼女の様子からして口約束だけでも破らないだろうし、今はただ監視するだけでいいだろ、うん。


 人知れず俺がそう悩んでいる間に一通り感謝の言葉を述べたリーディアはシャルの方に向き直った。


「シャル殿! 改めてよろしくお願いする!」
「うん、よろしくね。でも師匠の一番弟子の座は絶対に譲らないから」
「ははは! そのようなこと心配なさらずとも大丈夫ですとも!」


 その瞬間、ぞくりと俺の背筋が震える。浮かれているリーディアは気付かなかったようだが、シャルは言葉と共に殺気にも似た何かを発していた。シャルの表情は全く変わっていないはずなのに、それは俺すらも動揺させる程である。得体の知れない何かに俺は怯えるが、二人はきゃっきゃと和やかに会話を続けていた。


 ちなみにお代わりをとっくに平らげていたドラ助は能天気にぐーすかといびきを搔いて眠りこけていた。この野郎……。

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