幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

77話目 トカゲです(強弁)

「も、もう一度……」
「いやいや、もう駄目だからね」


 あれから何度も何度も吹き飛ばし、転ばせて、その度に立ち上がってきたが流石にお疲れである。毎回全力で俺から勝利をもぎ取ろうと頑張るので、体力もそうだが戦略を組み立てたり負けてすぐ立ち直るのにも相応の気力を消耗してしまう。


 既にリーディアの着ている鎧は泥にまみれているし、直前のやり取りで精根尽き果てたのか、産まれたての小鹿のように足をプルプルと震えさせている。両手を膝について辛うじて立ってはいるが、まともに手合わせなど出来るはずもない。


 すっかりとボロボロにしてしまったが時間はそれ程経ってはいない。試合を始めたのは昼頃だがまだ三時手前といったところだ。これは別にリーディアの体力が少ないというわけではない。むしろ俺を相手にしてよく三時間も全力を出せたと褒めてやりたいくらいだ。


「師匠、おやつの準備出来たよー」


 なんとかリーディアを宥めていると丁度良くシャルが声をかけてきた。シャルお手製のお菓子にジュースをお盆に乗せて持ってきており、運動をした後のためよりおいしそうに見える。ふと見やればリーディアも気になるのかチラチラとシャルの方を見ており、これならば何とか中断を受け入れてくれるだろう。


「ほれ、シャルがおやつを用意してくれたんだし休憩するぞ」
「わ、わかりました」


 今にも涎を垂らしそうになっていたリーディアに声をかけると、彼女はハッとした様子で返事をした。はしたないようにも思えるが、あれ程の料理は貴族とて食べることが出来ない逸品なのだ。ボロスが皇帝になるまでリーディアがどのような食生活をしていたかは知らないが、これ程のものを日常的に食べていたということは無いだろう。


 それがまさか何かの祝いの席というわけでも、更に言えばこんな森の奥という場所で食べることになるとは彼女も想像していなかったのだろう。ふらふらと誘われるように机に近づく彼女の事を微笑ましく思いつつ俺も足早にシャルのもとへ向かう。


「はい師匠、お疲れさまでした」


 シャルがニコニコしながら俺に濡れたタオルと手ぬぐいを手渡す。酷く汗をかいたわけではないが、ひんやりと濡れたタオルで首元や顔をぬぐうのは非常に心地よく、タオルからほんの少しだけ香る柑橘系の匂いが心を落ち着かせる。


「リーディアさんもどうぞ」
「かたじけない」


 リーディアに対しても同様にニコニコとしながら渡しているが、それと対照的にリーディアの表情はやや硬い。別に険悪な雰囲気というわけではなく、単に会って間もないからこのような態度なだけだろう。しかしそれが転じて不仲になると困るのでどうにかして早めに打ち解けて欲しいものだ。


 リーディアはまず受け取ったタオルの白さに驚き、次に柔らかさに驚く。タオル程度でこれ程に驚いていては身が持たないのではないだろうか。


「グアアアアアア」


 そしてリーディアの背後から、匂いに釣られてやってきたドラ助が声をかける。まあさっきから庭の隅っこでこちらをじっと見ていたのでよく耐えた方だろう。その存在を忘れていたのかリーディアはピンと背筋を伸ばして振り返り、そしてドラ助の顔を見上げて完璧に固まってしまった。


「ドラ助の分もちゃんと用意してあるから大丈夫だよ」
「グルアアアアアア!」


 それを聞いたドラ助が尻尾をブンブンと振り回して喜びの声をあげる。その気の抜けるようなやり取りを見て我に返ったリーディアが俺に問いかけてきた。


「リョウ殿、もしやこのドラ助というのはもしやドラゴンなのでは……」


 外の人間からすれば伝説の中でのみ存在するというのに、こんなに近くにいるという状況が信じられないのだろう。その顔は引き攣っており、視線はドラ助に釘付けである。ちなみにそのドラ助はというとシャルに『待て』をされて皿の前で涎を垂らしながら伏せており、尻尾をブンブンと揺らしながらアホ面を晒している。


「あれはでかいトカゲだ」
「いや、あれはどう見てもドラ……」
「違う、誰が何と言おうがあれは断じてドラゴンではない。もしかしたらドラゴンの血が何かの間違いで混じっているかもしれないだけのただのトカゲだ」


 彼女自身もアレがドラゴンであるというのは信じられない……、信じたくないのだろう。大空を舞う空の覇者、永き時を生きる賢者、そういった言い伝えを彼女も聞いて生きてきたはずだ。それなのに今目の前にいるドラゴンモドキはおやつの乗っていた皿をペロペロと舐めながら『キュウウ』と器用にも甘く喉を鳴らしておかわりの催促をしている。


「そう、ですね。わかりました」


 そんな姿を見て彼女も納得してくれたのだろう。ドラ助はドラゴンではないということを彼女も理解したので、俺は大きく頷く。そしてシャルは『そんなに慌てて食べちゃ駄目だからね!』とドラ助を叱り、ゆっくり味わって食べることを条件にお代わりを用意して俺たちの所へ戻ってくる。舌を使ってチマチマとおやつを食べるドラ助を眺めながら新たな住人を歓迎会も兼ねた軽食を俺達も始めるのであった。

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