幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

76話目 脳筋、増える

 リーディアからの誘いを受け、いつもの訓練のように庭へと向かう。気になったのかシャルもそれについてきて、更には間の悪い事に小屋で寝ていたドラ助まで目を覚まして庭に来る始末。我が家ではいつもの光景だが、ドラゴンが人目にふれることはほとんど無い。ドラ助も一応種別上はドラゴンということになっているため、それを目にしたリーディアは大層驚いていた。


「ド、ドラゴンだと?!」


 驚愕のあまり目が零れ落ちるかと思える程に目を見開き、あんぐりと口を開けて立ち竦んでしまっている。逆にドラ助はそういった反応が新鮮なのか、最初こそリーディアという見知らぬ人物に面食らっていたものの、『どーよ、これがドラゴンの威光というものだ』といった風にドヤ顔でふんぞり返りながらこちらを見ている。


「リーディアをいじめちゃ駄目だよドラ助」


 その姿は傍から見ればドラ助がリーディアを威圧しているようにも見え、事実リーディアは気おされていたため、お姉さん状態のシャルが叱りつける。叱られたドラ助はというとさっきまでの態度は何だったのかと言う程にしょんぼりとしてしまい、背中を丸めてのしのしと庭の隅っこに歩いていく様は叱られた犬のそれである。


 ドラゴンをエルフが叱りつけ、あまつさえドラゴンがそれに従っているという、常識からは考えられない光景を目にしたリーディアはさっきとは別の意味で驚き戸惑い、状況を受け入れられずに呆然としている。


「……よし。それではリョウ殿、手合わせをの程お願い致す」


 そして彼女はどうにか再起動してこちらに向き直したが、ドラ助の事には言及せず無視することに決めたようだ。うん、多分それが正しい対処法だと思うぞ。


「有効打が当たるか、降参したら終了でいいか? ああ、それと武器はこれを使ってくれ」


 そう言いながら俺は長剣、短剣、槌にナイフ、果ては針といった様々な武器を作り出して机の上に置く。リーディアの身長は凡そ百七十センチといったところで、見たところ筋力もそれなりにあるようなので今作った武器ならばどれでも使うことが出来る体格ではある。ちなみにだがお姉さん状態のシャルの身長は僅か百五十センチ程しか無い。それなのに何故か『お姉さん』と認識出来るのが不思議だ。


 リーディアはしばらくの間真剣に武器を眺め、最終的には長剣をその手に取り短剣を脇に差すことにしたようだ。無論それらの武器の刃は潰してあるのだが、潰す刃の無い槌系の武器や潰すことの出来ない針等を選ばれたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていただけに彼女のオーソドックスな選択は割と有りがたかったりする。


「シャルー! 合図を頼むー!」


 リーディアに合わせて長剣と短剣を手にした俺は開始の合図をシャルに頼む。彼女は『わかったー』と元気よく返事を返し、それに合わせてリーディアは俺から距離を取る。そして充分に距離が離れ、リーディアが構えたのを見たシャルは『始めー!』と声を出した。


「ハアアアアア!!」


 様子見など不要だと言わんばかりの勢いでリーディアが駆けてくる。その速さは身体強化を施したシャルにやや劣る程度であり、そのことは俺に少なくない衝撃を与えた。身体能力の劣るエルフが強化された所で大したものではないのだが、その魔法を行使しているのが魔法の才能が人並み外れたシャルであるため、その身体能力もそれに比例して人並み外れたものになる。素の状態でその速さに匹敵するというのだから、それが才能に依るものにしろ、努力の結果にしろ凄まじい物である。


 とはいえそれに対処するのが俺なので、彼女の初撃である薙ぎ払いを屈んで避けることに難なく成功する。そして追撃としてもう一度切りかかってくると思いきや、俺の眼前には既に短剣による一撃が迫っていた。


 どうやら彼女は最初の一撃を避けられることを想定していたようであり、避けられてすぐにではなく、むしろ避けられる前からその右手を長剣から離して短剣へと伸ばしていたようだ。その結果単に長剣で再度切りかかるよりも素早い二撃目が繰り出されたのだ。


 短剣はもうしばらく温存するものだと思っていたので彼女の思い切りの良さに内心で舌を巻く。これを長剣で防ぐのは無駄が大きいため俺も短剣を取り出して対応するが、そこに更に彼女の蹴りが襲い掛かる。俺の体は未だに屈んだ体勢のままである上に右手は短剣で塞がっている。自由になっているのは利き手ではない左手と長剣だけであるため、彼女の蹴りをそれで防ぐのも厳しい。仮に防がれても力の入っていない剣による防御と鎧で守られた足のぶつかり合いならば自分に被害は無いと彼女は判断したのだろう。だが……。


「甘いわぁ!」
「ぐぅ!」


 無理な姿勢からの、左手だけを使っての一撃で彼女は弾き飛ばされる。長剣どころか大剣での二刀流の練習も散々行ってきたし、多少変な体勢で攻撃を行うなど縛りプレイの内にも入らないんだよ! 彼女の足を切り飛ばしてしまわないよう剣の腹で叩くようにして迎撃を行ったが、どうやら結構痛かったようで彼女は足を抑えながら立ち上がると大声で叫んだ。


「もう一度お願いします!」


 これ何回付き合わされるのよ。いやまあ暇だしやるけどさ。

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