幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
67話目 見返り
あまりにも都合の良いタイミングで提示されたその要求に、交換条件を聞かないまま思わず了承してしまいそうになり、その言葉が口から飛び出す直前に何とか堪えることが出来た。よくよく考えずともこれはシャルがさせられたことと同じことをされようとしているわけで。
どれだけ俺が王国に攻め入りたくても、じゃあそれで帝国が丸々得をするというのもそれはそれでむかつく。
「それで、見返りは何だ?」
極力居丈高にそう聞くが、考えていることを見透かされているのではないかと内心ヒヤヒヤして仕様が無い。ボロスはと言えば相変わらず不敵に笑っているばかりで、何を考えているのかちっともわからない。もうプライドとか投げ捨てて魔法で心を読むべきだろうか。
「そうだな、世界が動く様を見せてやる、ってのはどうだ」
「言っている意味が分からないんだが」
意味の分からないことを言い出してきたため、反射的に『はあ?』と言いそうになるのをぐっと抑えて意味のある言葉を言うことに成功する。なんだよもー、こいつ絶対頭おかしいってー。俺もう帰りたいよー。
ボロスはすぐさまには答えようとせず、少し間を取ってから一言ぽつりと呟いた。
「お前、この世界に飽きてるだろ」
一言そう言われて、ぞくりと背筋が寒くなる。
「千年間全く変わらねーこの世界に、人間に、飽き飽きしてんだろ?」
ただの当てずっぽうではなく、確信のある声音でそう言い出すボロスに俺は何も言い返せない。事実、俺はこの世界に飽きているのだから。百年毎にやってくる貴族らはいつも似たような奴ばかりで、世界の営みは変わり映えが無く、違いなんてわかりゃしない。
最近でこそシャルと一緒に生活をすることで生活に彩りが出来たが、それは結局森の中で完結している。俺の中の『世界』にシャルが加わったというだけで、世界に飽きていることに変わりないのだ。
「だから俺が、この世界を変えようというわけだ。元々そのつもりだったんだが、お前について調べる内に余計にそう思ったぜ。この千年間どれだけ世界が変わってないのか、まざまざと見せつけられたんだからな。ああそうだ、この千年でここに来た連中が報告した『魔の森の魔法使い』の容姿が変わらない、いや、変わらなさすぎることからお前が千年生きてるって推測したんだが、合ってるか?」
最後に言われた言葉で俺はハッとする。あまりにも当然のように俺が千年間生きていること前提で話しているので気付かなかったが、こいつらそこまで調べてたのかよ。
「ああ、合っている」
別に隠すことではないので、ボロス側の情報収集能力に驚愕しつつ、ボロスの言葉に混乱しつつだが、一応答える。正直、言っていることが突拍子も無さすぎる。それなのに『こいつなら本当にできるのではないか』と思わされてしまっているところもあり、強く興味を引かれてしまっているのも事実だ。
まず自分が考えるべきことは何なのか、混乱のあまりそれすらもよくわからなくなって頭を抱えたくなる。えーっと、俺が判断しなきゃいけないのはボロス達に協力して王国を攻撃するかどうかで、こいつらにいいように利用されないために対策は考えなきゃいけない訳で、あっちが出してきた報酬は世界を変えてみせるって約束で、俺が世界に飽きているのは事実で、あーーうーーーあーー。
「すまんが、考える時間をくれ」
うん、やっぱいきなりこんなこと言われてもすぐに判断するとか無理ですわ。俺優柔不断だもん。むしろこの場ですぐに答えようとするのは間違いだな。うん、そうだ、だって一国を滅ぼすか滅ぼさないかなんて即決で決めていいような問題じゃないもん。
「まあそうだろうな。今日はひとまずこれで帰らせてもらうとしようか」
ごねることも無く、ボロスはそう言って立ち上がると後ろに控えていた騎士たちを連れて、来た道を引き返していく。俺とシャルは座ったままそれを見送るが、そのまま帰るのかと思いきやボロスは『ああ』と言って立ち止まりこちらに振り返った。
「実はお前がこの提案を受けようが受けまいがどっちでもよくてな」
そこまでボロスが言った時、俺は即座に立ち上がって身構える。ボロスの真の狙いは時間稼ぎか? さっきは感知することが出来なかったが、もしやどこかに伏兵がいて何か仕掛けてくるのでは……。
「お前さんの面を拝みに来たんだよ。伝説の『魔の森の魔法使い』とやらのな」
しかしまたしても、ボロスの口から出た言葉は予想外のもので、俺は構えたまま固まってしまう。そしてボロスは『じゃあな』と言うと右手をこちらに向けてひらひらとさせながら今度こそ帰って行ってしまった。
ボロス達の姿が完全に見えなくなって、シャルは徐に立ち上がると『晩ご飯の準備、してくるね』と言って台所へと向かってしまい、俺は一人取り残される。しばらくそのままでいたが、やがて椅子にすとんと座り、ぼそりと呻いた。
「何だったんだ、あいつ……」
いきなり来て、よくわからないまま帰って行ったボロスに対する、偽らざる本音がそれであった。
どれだけ俺が王国に攻め入りたくても、じゃあそれで帝国が丸々得をするというのもそれはそれでむかつく。
「それで、見返りは何だ?」
極力居丈高にそう聞くが、考えていることを見透かされているのではないかと内心ヒヤヒヤして仕様が無い。ボロスはと言えば相変わらず不敵に笑っているばかりで、何を考えているのかちっともわからない。もうプライドとか投げ捨てて魔法で心を読むべきだろうか。
「そうだな、世界が動く様を見せてやる、ってのはどうだ」
「言っている意味が分からないんだが」
意味の分からないことを言い出してきたため、反射的に『はあ?』と言いそうになるのをぐっと抑えて意味のある言葉を言うことに成功する。なんだよもー、こいつ絶対頭おかしいってー。俺もう帰りたいよー。
ボロスはすぐさまには答えようとせず、少し間を取ってから一言ぽつりと呟いた。
「お前、この世界に飽きてるだろ」
一言そう言われて、ぞくりと背筋が寒くなる。
「千年間全く変わらねーこの世界に、人間に、飽き飽きしてんだろ?」
ただの当てずっぽうではなく、確信のある声音でそう言い出すボロスに俺は何も言い返せない。事実、俺はこの世界に飽きているのだから。百年毎にやってくる貴族らはいつも似たような奴ばかりで、世界の営みは変わり映えが無く、違いなんてわかりゃしない。
最近でこそシャルと一緒に生活をすることで生活に彩りが出来たが、それは結局森の中で完結している。俺の中の『世界』にシャルが加わったというだけで、世界に飽きていることに変わりないのだ。
「だから俺が、この世界を変えようというわけだ。元々そのつもりだったんだが、お前について調べる内に余計にそう思ったぜ。この千年間どれだけ世界が変わってないのか、まざまざと見せつけられたんだからな。ああそうだ、この千年でここに来た連中が報告した『魔の森の魔法使い』の容姿が変わらない、いや、変わらなさすぎることからお前が千年生きてるって推測したんだが、合ってるか?」
最後に言われた言葉で俺はハッとする。あまりにも当然のように俺が千年間生きていること前提で話しているので気付かなかったが、こいつらそこまで調べてたのかよ。
「ああ、合っている」
別に隠すことではないので、ボロス側の情報収集能力に驚愕しつつ、ボロスの言葉に混乱しつつだが、一応答える。正直、言っていることが突拍子も無さすぎる。それなのに『こいつなら本当にできるのではないか』と思わされてしまっているところもあり、強く興味を引かれてしまっているのも事実だ。
まず自分が考えるべきことは何なのか、混乱のあまりそれすらもよくわからなくなって頭を抱えたくなる。えーっと、俺が判断しなきゃいけないのはボロス達に協力して王国を攻撃するかどうかで、こいつらにいいように利用されないために対策は考えなきゃいけない訳で、あっちが出してきた報酬は世界を変えてみせるって約束で、俺が世界に飽きているのは事実で、あーーうーーーあーー。
「すまんが、考える時間をくれ」
うん、やっぱいきなりこんなこと言われてもすぐに判断するとか無理ですわ。俺優柔不断だもん。むしろこの場ですぐに答えようとするのは間違いだな。うん、そうだ、だって一国を滅ぼすか滅ぼさないかなんて即決で決めていいような問題じゃないもん。
「まあそうだろうな。今日はひとまずこれで帰らせてもらうとしようか」
ごねることも無く、ボロスはそう言って立ち上がると後ろに控えていた騎士たちを連れて、来た道を引き返していく。俺とシャルは座ったままそれを見送るが、そのまま帰るのかと思いきやボロスは『ああ』と言って立ち止まりこちらに振り返った。
「実はお前がこの提案を受けようが受けまいがどっちでもよくてな」
そこまでボロスが言った時、俺は即座に立ち上がって身構える。ボロスの真の狙いは時間稼ぎか? さっきは感知することが出来なかったが、もしやどこかに伏兵がいて何か仕掛けてくるのでは……。
「お前さんの面を拝みに来たんだよ。伝説の『魔の森の魔法使い』とやらのな」
しかしまたしても、ボロスの口から出た言葉は予想外のもので、俺は構えたまま固まってしまう。そしてボロスは『じゃあな』と言うと右手をこちらに向けてひらひらとさせながら今度こそ帰って行ってしまった。
ボロス達の姿が完全に見えなくなって、シャルは徐に立ち上がると『晩ご飯の準備、してくるね』と言って台所へと向かってしまい、俺は一人取り残される。しばらくそのままでいたが、やがて椅子にすとんと座り、ぼそりと呻いた。
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