幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

59話目 知識魔法

「ひぃ!」


 ああ、いやだ、ちがう、でも、そうだ、王が、あの男が私を見ていたあれは、あの目・・・は!


 奴隷を見る目だった!


 そうだ、奴隷だった時、いつもあんな目で見られていたんだ! 私を解放するつもりなんかこれっぽっちも無いんだ! あの男も、私を眠らせて、使う・・つもりなんだ! 私は、私は! 奴隷に戻っていたんだ!


「やだ……!」


 嫌、嫌、いや! 奴隷になるのは嫌! いつから? 私はいつから奴隷に戻っていたの? たった今さっき? この国に来たとき? それとももっと前から?


「逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……!」


 このままここにいたら本当に奴隷に戻っちゃう。ここから逃げ出さなきゃ私は、私は!


 大丈夫、もう一か月も経ったんだもの、皆だってきっと無事に逃げ出せているはず。私が今逃げても皆に迷惑は掛からないはず。部屋に置いてある荷物なんて邪魔なだけ。杖が無いから転移は出来ないけど、それでも逃げるくらいなら簡単にできる。


 部屋の外にいる監視の人を眠らせて、荷物一つ持たずに私は窓を破り外へと飛び出した。ただただ遠くへ逃げるために空を飛び続けたつもりだったけど、皆が無事であることを確かめたいと無意識に思っていたのか、気付けばあの村があった森にたどり着いていた。


 私は地面に降り立つと誘われるように森の中へ、村の方へと向かいます。でも一歩一歩踏みしめる毎に嫌な予感が強まっていきます。このまま進めば後悔するような、もう戻れなくなってしまうような、そんな予感がひしひしと強まっていきます。


 「……っ!」


 でも、今歩くことを止めてしまえばもう動けなくなりそうだからか、他に行く場所が無いからか、強まる一方の予感を無視して歩み続け、そしてとうとう村の入口へとたどり着いてしまいました。そこには予感とは裏腹にただの廃村しか無く、何故これ程に強い予感があったのかが分かりません。


 なのに、なのになのになのに。ここには何もないはずなのに、予感は外れているはずなのに、それでもむしろ予感は強まり、恐怖と言っても差し支えないものになっています。体が震え、その原因は分からず、足はここから動こうとしません。


「何が……、あったの……」


 知りたい。知らなきゃ。


 思考の全てがその思いに支配され、それを切っ掛けにとある魔法が、師匠の魔法と比べて自分の魔法が未熟だったこと、師匠に迷惑ばかりかけていることに焦った私がかつて暴発させた魔法が、知識魔法が発動しました。


 皮肉なことに、多くの人の命を奪うために多くの魔法を使い続けたことで、この魔法が使える程に魔力は増えてしまっていたようです。体から魔力が抜け落ち、魔法は正しく発動し、この村で何があったのかを私に伝え、そして…………。






「ああああああああああああああああああああああ!!」


 見たくない! 知りたくない! やめて!


 魔法を止めるために、過去を拒絶するために、そんな思いと共にあらん限りに叫ぶけれど、そのどちらも叶わない。魔法を止めることも、過去を拒絶することも、私には出来なかった。




 私がこの村を出てすぐに、この村は王国に襲われていました。でも、その数は私たちの予想をはるかに超えていて、とても村一つを攻めるためのものとは思えません。


 村人全てが魔法を使えるという特異性を、私たちは甘く見過ぎていたのです。ただ飾るためのものとしてではなく、戦いに使える力、戦略資源として、私たちは見られていたのです。そしてその結果が私の頭に流れ込み……。




『一人残らずエルフ共を捕まえろ!』
『抵抗する奴は手足を切り飛ばしても構わん!』


『くそ! 魔法を使っても全然倒せないじゃないか!』
『あの女のせいで!』


 それは、村に残った人たちが捕まっていく光景。皆を誘導するためにと残ったお父さんとお母さんも捕まる姿がそこにはありました。


『他の奴らはどこへ逃げた! 言え!』
『そ、それは……』


 それは、捕まった人たちが保身のために、逃げた人たちを売る光景。私が念のためにと教えた逃げ道を、兵士たちが歩いて行きました。


『ここにいるエルフが特別なのか、この土地で産まれたエルフが特別なのか、まあ存分に試してやるさ』
『いやあああああ!!』


 それは、兵士たちに使われる女のひと達の光景。私を産んだということからか、お母さんが一番激しく使われ、そして一番最初に動かなくなりました。


『くそ! お前の娘さえいなけりゃ俺たちはこんな目には会わなかったのに!』


 それは、男たちのいら立ちのはけ口としてお父さんが殴られ、蹴られる光景。皆を守るために利き手を失っていたお父さんは、いつしかぼろきれのようになり冷たくなっていきました。


『ちっ、死んでいく奴が多いな。仕方ない、場所を移すぞ』


 それは、皆がどこかへと連れていかれる光景。連れていかれる皆の瞳は一様に同じ言葉を語っています。


『こんな村にさえ来なければ』
『あいつさえ居なければ』
『お前のせいで』
『お前のせいで!』


 これはもう過ぎ去った過去なのに、彼らが私を見ているはずがないのに、それなのに、彼らの瞳は私を見てそう語っていました。


「私の、せいなの……?」


 私の力が足りなかったのがいけなかったの? 皆を助けたいって思ったのがいけなかったの? 私がいたから、お父さんもお母さんも死んじゃったの? 私の、せいなの? 私は、どうすればいいの?


――――チャリ


 その時、私の耳元から、音が聞こえます。ずっと身に着けていたから、返すのを忘れていた耳飾り。師匠が、私のことを思って、誓いの証として、私にくれた耳飾り。私の、幸せな思い出。


「う、あぁ……」


 あの場所での思い出が、次々と思い出されます。楽しかった思い出。辛かった思い出。喧嘩した思い出。その全てが、素敵な思い出で、一つの思い出を想う度に十の涙が零れて。


 師匠に会いたい。師匠の声が聞きたい。師匠の笑顔が見たい。あの場所に、帰りたい。


 魔力を使い果たしたためか、気力を使い果たしたためか、体に力が入らないけれど私はふらふらと立ち上がり、魔の森を目指して歩き始める。どの場所からでも魔の森には行くことが出来るのが、とても有りがたかった。魔の森にさえつくことが出来るならば、あの家に戻ることが出来るならば、他に何もいらない。


 寝ることも忘れ、食べることも忘れ、休むことも忘れ、私は突き動かされるように歩き続け、ようやくの思いで魔の森に辿り着きました。


「帰って、来た……」


 シャルがそう呟くと、彼女はその場で気を失ってしまう。体力も魔力も使い果たして久しく、魔の森の広さも魔の森の危険さも忘れ、リョウがいる家がまだまだ遠いことも忘れて、安心感を覚えてしまったためだ。


 リョウにとっては、リョウに守られていた彼女にとってはこの森は庭も同然であったが、そうでなければこの森に入ることは自殺を意味するほどに危険な森である。そして今の彼女は力を使い果たし、リョウの庇護の元を離れた状態であり…………。




――ギィー! ギャッギャッギャ! ギギー!

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