幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
58話目 褒美
言われるがままに魔法を放ち、人の命を奪い、心にもない賞賛の声をかけられ、そんな日々が早くも一か月が過ぎようとしています。
村を離れて王国の首都へ到着するや否や、私は帝国との戦争の最前線に送られました。初めて命を奪った時はあれ程に激しく心を乱され、体が震えたというのに、今ではほとんど何も感じません。
人の命を奪うことに慣れてしまったからなのか、命令されるままに魔法を放つことが単なる作業に思えるからなのか、私は自分で思う程他人のことを想うことの出来る人物では無かったのか、何も考えられないのか、何も考えたくないのか。
王国に連れてこられてすぐの頃はまだしっかりと自意識を保っていたように思いますが、最近では時間の感覚すら曖昧となり、果たして本当にまだ一月しか経過していないのかも定かではありません。
ただただ日々が過ぎてゆき、戦争とすら言えないような蹂躙を行い続け、相手の兵士が私の姿を見つけるだけで逃げ出すようになり、先のことを考えることも出来ず、私は何故こんなことをしているのかと自分に問いかけ、答えが出ないまま一日が終わる。逃げ出すことを何度も考えましたが、村の人たちの捜索が厳しくなることを恐れて踏み切れずにいます。
そして朝が訪れ、また一日を過ごさなければならないことを憂鬱に思い、すぐにでも来るであろう出撃の命令を待ちますが、どうやら今日は出撃の命令は無いようです。
「王がお呼びだ。すぐに用意をしろ」
代わりにこの国の王との謁見を命じられました。ここに連れてこられた時に一度会ったきりですが、会いたいと思えるような人では無かったので私の気分は少しも上向きません。適当に選んだ服に着替えた後、護衛を兼ねた監視役の人に連れられて玉座の間に到着します。
そこには多くの人がいました。恐らくは貴族の人たちでしょうか、ごてごてとした洋服に身を包み、でっぷりとしたお腹を抱えた人たちばかりで早くもここから退散したくなります。ですがそうするわけにも行かないので、初めてここに連れてこられた時と同じ場所で立ち止まり、何か言われるのを待ちます。
そして王は口を開いたのですが、恐ろしい程に話が長いです。如何にして私の存在を見つけ、その才を見出し、捕らえたのか。私がどのような魔法を用いてどれ程の戦果を挙げたのか。王が他の貴族たちに自慢するためか、かなりの脚色が施されており、王がまるでどこかの英雄のようにも聞こえます。
早くこの自慢話を終わらせて部屋に戻らせて欲しいと思いながら耐えていると、長かった話もようやく終わり、私に褒美を与えるという話に移りました。
ああ、そのために私をここに呼んだんだ。
褒美というのならば、この国から解放してもらう以上の事はありません。先程話したくらいに私が活躍したのであれば、最早私がいなくても帝国との戦争に勝つことは出来るでしょう。褒美として何を望むのか聞かれると思い、この国から解放される瞬間を待っている私にかけられた言葉は全く予想外のものでした。
「褒美としてそなたを我が妻として迎えることとする!」
このひとはなにをいっているのだろうか。
周囲にいた人たちはこの話を好ましく思っているのか嬉し気な声を上げていますが、私にとっては呪いの言葉にしか聞こえません。
「嫌です!」
頭の芯がカッと熱くなり、立場も忘れて叫び声を上げました。そして一瞬、水を打ったように場が静まったかと思うと私を叱責する声が飛び交います。
「無礼者め!」
「望外の報酬に何を言うか!」
「卑しいエルフのくせに、身の程を弁えよ!」
口々から発せられる罵声は止むことが無いと思われましたが、王がすっと右手を上げると再び場は静まり返ります。
「成程、余の妻になるのは不服と申すか。では一体何を褒美として望んでいる」
貴族たちの様子とは打って変わり、王の様子はひどく落ち着いたものでした。
「私をこの国から解放してください。私を、放っておいてください」
恐らく叶える気は無いでしょうが、それでも言わずにはいられませんでした。私の言葉を聞いた王はしばらく考えた素振りを見せてから返事をします。
「よかろう。しかし、そなたを解放するにも多少の準備がいる。とはいえそれ程時間もいらぬであろう。最後に食事でも楽しむがよい」
そしてあっけない程簡単に私の願いは聞き届けられ、その場は解散となりました。気付けば時間はお昼になっていて、朝食も貰えずにつれてこられた私のお腹が空腹を訴えてきます。部屋に戻ると既に昼食が用意されており、王の言葉に従うわけではありませんが、それらに手を伸ばそうとしたその時……。
「っ!」
私の首飾りが、師匠がくれた首飾りが急に熱を発したため、思わず後ろに飛びのいてしまいます。一体なぜ、と疑問に思う間も無く首飾りからある言葉が伝わり、全身に怖気が走りました。
『睡眠薬』
村を離れて王国の首都へ到着するや否や、私は帝国との戦争の最前線に送られました。初めて命を奪った時はあれ程に激しく心を乱され、体が震えたというのに、今ではほとんど何も感じません。
人の命を奪うことに慣れてしまったからなのか、命令されるままに魔法を放つことが単なる作業に思えるからなのか、私は自分で思う程他人のことを想うことの出来る人物では無かったのか、何も考えられないのか、何も考えたくないのか。
王国に連れてこられてすぐの頃はまだしっかりと自意識を保っていたように思いますが、最近では時間の感覚すら曖昧となり、果たして本当にまだ一月しか経過していないのかも定かではありません。
ただただ日々が過ぎてゆき、戦争とすら言えないような蹂躙を行い続け、相手の兵士が私の姿を見つけるだけで逃げ出すようになり、先のことを考えることも出来ず、私は何故こんなことをしているのかと自分に問いかけ、答えが出ないまま一日が終わる。逃げ出すことを何度も考えましたが、村の人たちの捜索が厳しくなることを恐れて踏み切れずにいます。
そして朝が訪れ、また一日を過ごさなければならないことを憂鬱に思い、すぐにでも来るであろう出撃の命令を待ちますが、どうやら今日は出撃の命令は無いようです。
「王がお呼びだ。すぐに用意をしろ」
代わりにこの国の王との謁見を命じられました。ここに連れてこられた時に一度会ったきりですが、会いたいと思えるような人では無かったので私の気分は少しも上向きません。適当に選んだ服に着替えた後、護衛を兼ねた監視役の人に連れられて玉座の間に到着します。
そこには多くの人がいました。恐らくは貴族の人たちでしょうか、ごてごてとした洋服に身を包み、でっぷりとしたお腹を抱えた人たちばかりで早くもここから退散したくなります。ですがそうするわけにも行かないので、初めてここに連れてこられた時と同じ場所で立ち止まり、何か言われるのを待ちます。
そして王は口を開いたのですが、恐ろしい程に話が長いです。如何にして私の存在を見つけ、その才を見出し、捕らえたのか。私がどのような魔法を用いてどれ程の戦果を挙げたのか。王が他の貴族たちに自慢するためか、かなりの脚色が施されており、王がまるでどこかの英雄のようにも聞こえます。
早くこの自慢話を終わらせて部屋に戻らせて欲しいと思いながら耐えていると、長かった話もようやく終わり、私に褒美を与えるという話に移りました。
ああ、そのために私をここに呼んだんだ。
褒美というのならば、この国から解放してもらう以上の事はありません。先程話したくらいに私が活躍したのであれば、最早私がいなくても帝国との戦争に勝つことは出来るでしょう。褒美として何を望むのか聞かれると思い、この国から解放される瞬間を待っている私にかけられた言葉は全く予想外のものでした。
「褒美としてそなたを我が妻として迎えることとする!」
このひとはなにをいっているのだろうか。
周囲にいた人たちはこの話を好ましく思っているのか嬉し気な声を上げていますが、私にとっては呪いの言葉にしか聞こえません。
「嫌です!」
頭の芯がカッと熱くなり、立場も忘れて叫び声を上げました。そして一瞬、水を打ったように場が静まったかと思うと私を叱責する声が飛び交います。
「無礼者め!」
「望外の報酬に何を言うか!」
「卑しいエルフのくせに、身の程を弁えよ!」
口々から発せられる罵声は止むことが無いと思われましたが、王がすっと右手を上げると再び場は静まり返ります。
「成程、余の妻になるのは不服と申すか。では一体何を褒美として望んでいる」
貴族たちの様子とは打って変わり、王の様子はひどく落ち着いたものでした。
「私をこの国から解放してください。私を、放っておいてください」
恐らく叶える気は無いでしょうが、それでも言わずにはいられませんでした。私の言葉を聞いた王はしばらく考えた素振りを見せてから返事をします。
「よかろう。しかし、そなたを解放するにも多少の準備がいる。とはいえそれ程時間もいらぬであろう。最後に食事でも楽しむがよい」
そしてあっけない程簡単に私の願いは聞き届けられ、その場は解散となりました。気付けば時間はお昼になっていて、朝食も貰えずにつれてこられた私のお腹が空腹を訴えてきます。部屋に戻ると既に昼食が用意されており、王の言葉に従うわけではありませんが、それらに手を伸ばそうとしたその時……。
「っ!」
私の首飾りが、師匠がくれた首飾りが急に熱を発したため、思わず後ろに飛びのいてしまいます。一体なぜ、と疑問に思う間も無く首飾りからある言葉が伝わり、全身に怖気が走りました。
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