幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

41話目 空の旅 by ドラ助

 俺とシャルがドラ助の背に乗るが、こいつは別に乗り物と言うわけではないので座り心地の良い場所は少ない。そのため俺が胡坐をかき、シャルが俺の膝の上に座る事となった。


 俺とシャルが背に乗ったのを確認したドラ助は、その羽を忙しなく動かし、ふわりと浮遊感を味わいながら空へと浮かんだ。おうふ、久しぶりだと結構きついっすね。おうドラ助、乗客に気を使えや。


 それより俺の方は問題なかったのだが、シャルは俺の膝の上という安定しない場所に座っているため、その体勢を崩してしまいそうになる。空から落ちるとなると流石に危ないため、俺は咄嗟にシャルのことを後ろから両手で抱きかかえることでそれを防いだ。


「あっ……」


 俺の手に驚いたのかシャルは小さく声をあげる。そしてその顔を上へと向け、俺の顔を見上げる姿勢になるとニッコリと笑った。どうやらご満悦のようです。


 いかんいかん、朝から妙なテンションになっているとはいえこうも軽々しくレディに接触するのは如何なものか。だが一度抱きかかえてから手放すというのもシャルに失礼かと思い、とりあえず誤魔化すために俺はシャルに話を振ることにした。


「あー、そういえばシャルは何か歌とか知らないのか?」
「歌ならお母さんに教えてもらったものがある!」


 ほう、それは良いことを聞いた。


「じゃあシャル、その歌を歌ってくれないか?」
「え、でもお母さんに比べたら全然下手だし……」
「いやいや俺はシャルのお母さんの事知らないし、シャルの歌が聞きたいんだよ」


 口説き文句じゃないよ? 普通に興味があるだけだよ?


 俺の言葉を聞いたシャルはキョトンとした顔をすると、その後目をキリリとさせて『ふんす』と気合いを入れて返事をした。


「わかった! それじゃあ頑張る!」






 シャルが歌ったのは自然を讃える歌。季節が廻り、命が廻り、その全てを讃える歌。ゆったりとした調子で歌われるそれは、この空の旅という普通ならば味わえない環境と合わさって非常に幻想的な雰囲気となる。


 そもそも、人間たちはエルフの歌声はどのような楽器にも勝ると評しており、それもまたエルフを狙う要因となっている。


 彼女自身は歌が下手だと思っているようだが、幼い彼女とてそれは例外ではなく、俺などとは比べ物にならない程に素晴らしい歌声で歌っている。これで下手だと評するのだから、彼女の母親は一体どれ程の声の主なのだろうか。


 俺は彼女の歌声に聞き入り、瞳を閉じてその歌声に神経を集中させる。彼女の歌は俺の視覚にさえ影響を与え、目を閉じているというのにまるで歌の舞台がすぐそこにあるように見えてしまう。


 命が散り、光が舞い、鳥たちは歌い、川はその流れを強め、地はその力強さを誇る。そして歌はとうとうクライマックスへと至り、俺はその歌にますます引き込まれ……。








 ガクン、と姿勢が崩れる。




 何が起こった!


 何者からか襲撃があったのかと考えた俺はすぐさま警戒態勢に移り、この歌を邪魔した無粋者に制裁を与えるべく周りを見渡してその姿を探す。だが見回しても、索敵魔法を用いても、気配を探ってみてもその姿は一向に見当たらない。


 おかしい。そのようなことはあり得ない。そもそもここは空中という特殊な環境であり、身を隠す場所などどこにもありはしない。


 襲撃者の姿が見えないことに焦れた俺は、万が一にもシャルに危害が加わらないために彼女を強く抱きしめながら警戒を強める。しかし俺の警戒も虚しく襲撃は再度行われたのか、またしてもガクンとドラ助が揺れる。


 くそ! 何が起こっている!










「ドラ助……」


 俺の腕の中に居るシャルがぽつり、と呟いた。


 そういえば襲撃されているのはドラ助だというのに、こいつはいつものように喚き散らすことも反撃することもしていない。


 一体どうしたのかとドラ助の頭の方を見やる。












 ヤツは










 こっくりこっくりと舟をこいで気持ちよさそうに寝ていた。












 …………。












――――スパァァァァン!


「グアアアアアアアアアアア!!」
「やかましいいいいいい!!」


 俺は空飛ぶトカゲの背中を思いっきり引っ叩き、文字通り叩き起こす。その軽快な音は周囲によく響き渡り、魔の森の中に居た鳥たちが騒いで飛び立つほどであった。


 こいつはシャルの歌を聞いて眠くなり、それに逆らうことなく寝ながら飛んでいたためにガクンガクンと揺れやがったわけだ。


 やっぱ駄目だこのポンコツ! ほんと使えねえ!


 その後何だかよくわからないことをギャーギャー喚くドラ助に対して俺は怒鳴りつけ、真面目に飛ぶように言いつけた。




「はあ」


 シャルはそんなやりとりを見ながら人知れずため息を吐くのであった。

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