幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

32話目 金が欲しくて恩人を売る奴ら

 その日王都にて異例の布告がなされた。


『魔物の森にて捕獲作戦を行う。報酬は参加者全員に前渡しで金貨一枚、成功の暁には追加で三枚の金貨を渡す。但し対象を無闇に害したり殺害した場合は死罪とする』


 本来冒険者に依頼を行う場合には冒険者ギルドを通す必要があるにも拘わらず、ギルドを通すどころか一切の根回しすらなくこの布告は行われた。


 これに対して冒険者ギルド側は説明を求めたが、『『依頼』ではなく『布告』であるため冒険者ギルドの仲介は不要也』と詭弁を弄して一切取り合わなかった。


 多くの冒険者はこの王国の暴挙、及び異常に高い報酬を疑ったが金貨一枚あれば一か月は遊んで暮らせるため、かなりの数の冒険者がこの作戦に参加することを決めた。


 その割を食ったのは冒険者ギルドだ。


 こういった依頼を冒険者ギルドを通すことにしているのは、作戦の難易度等を考慮し、死ぬ可能性の高い冒険者等を参加させなかったり、魔物が発生したなどの緊急事態に備えてある程度質の高い冒険者を一定数フリーにしておくなどの措置を取るためなのだが、王国側はとにかく人手があるに越したことはない、とばかりに誰もかれもを参加させたのだ。


 そのため現在冒険者ギルドにはほとんど人手が残っておらず、仮にどこかで魔物が発生した場合には対処するのが非常に困難な状態となってしまった。


 無論そういった事情を考慮して不参加を決めた良識のある冒険者たちも少数だが存在し、デイビス達三人も本来ならば参加しなかったのだが……。




「まさか勅命が来るとはな」


 自分達とは縁が無い、立派な軍馬の横を歩きながらデイビスは誰にも聞こえないよう、そっと小声で零した。


 布告がなされるよりも早く、早朝からデイビス達の根城を王国軍が訪ねてきて必ず作戦に参加すべしと勅命を言い渡したのだ。男の正確な姿を確認したのがデイビス達であるため、捕獲の際に確かめさせるために王国側は三人を確保したのだ。


 三人はこれ以上この件に関わりたくなかったのだが、勅命を無視するということは出来ずこの作戦に参加せざるを得なくなり、今回参加する冒険者の中では一番重要な役目ということもあり、守りの固い将軍のすぐそばに配置されたのだ。


 もうしばらくもすれば、またあの村に着くのか。


 恩人を裏切ることへの罪悪感と嫉妬の対象が堕ちる瞬間を見れることへの微かな期待がデイビスの胸中に渦巻いていた。




「これより数刻後、魔物の森にて捕獲作戦を行う! 報酬は前渡しで金貨一枚! 成功した暁には追加で金貨三枚だ! 詳細を知りたいものは所定の場所にてその旨を伝えよ!」


 くだんの村に到着するなり王国軍は声高々に布告を行う。このような村に国軍が派遣されることなど本来はあり得ないため、在住する多くの人間が何事かと村の入口へと集まっており、王国軍はそれらに向けて通達を行い作戦の参加を促したのだ。


 普通の住人らは自分達には関係が無いとばかりに普段の生活に戻るか野次馬となってその場に残り、多くの冒険者は作戦の詳細を聞くなり参加の意思を表明した。


 そのほとんどが今回の捕獲対象である男に助けられたであるだろうに、参加することに戸惑いがほとんど見られないことにデイビスは辟易としたが、自分たちも同じ穴の狢であると気付いてしまい、彼らに何かを言うでもなく皮肉気な笑みを浮かべるだけにとどめた。


 やがて定刻となり森の前には多くの人間が集まった。冒険者たちは多くの人間に囲まれている安心感からか魔物の森に入る事への緊張は見られず、割の良い仕事で手に入る金貨をどう使うか思いを馳せている。


 そして国軍の中でも一際立派な装備をした男が一団の前へと躍り出ると魔物の森に向けて大声を放つ。




「この森に住まう男に告げる! これより四半刻後に貴様を捕獲すべく森に軍と冒険者を放つ! それまでに名乗り出れば悪いようにせぬと確約しよう! しかしそうでない時は反逆の意志ありとして身の安全は保障できぬ! それでは返答を待つ!」


 森の前でこのように叫んだところで男に聞こえるはずもない。ただのポーズとしての通達であり、後で男が何かを言ってきても『事前に通達はしていた』と言うためだけのものである。もし仮に名乗り出たとしても約束を守る気など将軍にはさらさらなく、それ以外の人間もそれはわかっていた。


 当然男が森から出てくることなど彼らは一切期待していなかったが、通達を行ってから四半刻が経ち将軍が森への突入を命じようとしたその時、森から一人の男がゆっくりと歩み出てきた。

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