幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

25話目 昔話

 とある開拓村からある噂が広まった。


 魔物が跳梁跋扈する魔物の森にはある男が住んでいる、と。








 人間が支配しているある王国では、先祖代々からの悲願があった。この世界のいたる場所に棲んでいる魔物たち。その魔物が生息する場所においても殊更危険な魔物の森、それを支配下に置くことだ。


 群れを作らないものの個体での戦闘能力と個体数が凄まじいキラーウルフ、巨大な群れを作り獲物をなぶり殺しにするキラーエイプ、闇から闇へ動き回り暗殺者の如く殺しまわるキラーバット。そしてそれらを支配するこの世で最強と言っても過言ではない魔物、ドラゴン。


 そのような危険な魔物が生息する魔物の森は、常にこの世界のあらゆる生物たちを脅威に晒してきたが、同時に恵みも与えてきた。


 生存競争に敗れた魔物は極稀に魔物の森から外へと出向き、近場にいる生物に甚大な被害を与える。だがその個体を倒すことが出来れば被害を優に超える利益が齎されることとなる。


 万病に効く薬の材料、強靭な肉体になれる薬の材料、英雄が使うに相応しい武具の素材、そのような物が手に入るのならば村の一つや二つが消えてしまっても問題が無いと王族らが考える程にはその利益は巨大であったため、多くの開拓村が森のすぐそばに作られ、そしてそのほとんどが消えていった。


 当然、それらの素材を手に入れることは巨万の富を得ることに等しく、一獲千金を夢見る冒険者達は無謀にも魔物の森へと魔物を狩りに行くのであった。


 魔物の森にいる魔物はそのどれもがまともに戦えば死を覚悟すべき危険な魔物であり、仮にそれらを狩るとすれば念入りな罠ととびきりの幸運が必要となる。


 それでも死地へと向かう冒険者が後を絶たないのは、富だけならず、素材を国へ献上すれば騎士の地位が約束され、その勇気と知恵が称えられ、英雄への一歩を踏み出せるからでもあった。




 そして国が何としてもこの森を支配し、それらの素材を湯水の如く使いたいと考えるのも当然であった。また、魔物の森はあまりにも広大で、あらゆる国の国境と接していることもその一因である。


 もし魔物の森を支配することが出来れば、希少な素材が山の如く手に入り、そして魔物の森を通り他の国を奇襲することが容易となるのだ。


 即ち魔物の森を支配することは世界を支配することに等しく、王国のみならず、この世界にある全ての国の悲願であると言っても差し支えなかったのだ。




 そしてそんな王国のある開拓村では最近妙なこととなっている。








 ベテランの冒険者は開拓村には訪れず、別の場所で他の仕事を行うことがほとんどだ。夢から醒め、そこそこの生活が出来ればよいとある種の妥協をした彼らからすれば魔物の森へと向かうことなど無謀以外の何物でもない。


 そして夢を見て冒険者となった若者達や、夢を捨てきれなかったベテランの冒険者は『自分こそは』と開拓村を訪れ、そしてその命を捨てていった。


 だが、最近は妙なことに冒険者たちがその命を長らえることが多くなったのだ。


 無論それまでも魔物の森から無事帰還出来た冒険者たちはそれなりにいた。曰く、幸か不幸か魔物と出くわさなかった。曰く、幸運にも魔物から逃げ出すことが出来た。曰く、直前になって恐ろしくなり引き返してきた。


 そしてそれらに混じって次のような証言が最近では聞かれるようになったのだ。曰く、ある男に助けられた、と。


 不幸にも魔物と出くわしてしまいその命を散らそうとしたその時、自分と魔物の間にある一人の男が現れて『俺が足止めしている間に逃げろ』と告げたのだという。


 恐怖で動かぬ足に活を入れ、這う這うの体でその場から逃げ出した彼らにその男の姿を覚える余裕などない。故に、その男は山のような巨体であった、その男は驚くほどに小柄であった、その男は今にも死にそうな老人であった、その男は我が子ほどの歳であった、等々様々な証言が飛び交っていた。


 しかし彼らはその男に命を助けられたと口を揃えており、そのような存在が森にいることはほとんど確証が持たれていた。そしてそれに尾ひれがつき、森には男が住んでいると噂されることとなったのだ。




 その噂を確かめるべく、とある冒険者たちがその村を訪れた。

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